ニュース
「ニコン フォトコンテスト」審査員によるフォトシンポジウムが開催
世界の写真表現を語る。写真新時代は「創造的な時代の始まり」
(2013/6/21 14:52)
6月11日、12日、ニコン フォトコンテストの最終審査会のため、世界から17人のフォトグラファー、キュレーター、フォトフェスティバルディレクターらが東京に集まった。この出会いをより実り多いものにしようと、今回、初めて試みられたのがシンポジウム「Global Voice; Photography in the 21st Century」だ。
審査委員長を務めた写真家・映像作家のクリス・レーニエ氏が、6名のゲストスピーカーを選んだ。彼らは南アジア、西アフリカ、アラブなどの写真表現や、写真の状況を語り、それらは国際的に活動するフォトグラファーたちにとっても、未知の情報であり、また共有する問題の発見にもつながった。ニコン フォトコンテストにおいては初めての催しであったが、第一線で活躍する者同士、一歩踏み込んだ議論が交わされていた。
シンポジウムは14日と15日の2日間にわたり行なわれたが、その初日の模様を紹介する。
ニコンフォトコンテストは1969年以来、国やプロ、アマといった垣根も取り払い、フォトグラファーたちの交流を深める場として機能してきた。さらに、第34回を迎える今回コンテストより名称を変え、カテゴリーに動画を加えるなど刷新している。世界言語である写真を通して、人々にインスピレーションを与えること、そのようなフォトグラファーを認め合い、向上心溢れるコミュニティを育むことを新たに、ミッションとして掲げた。写真を志す人たちの刺激的な交流こそが、写真文化を深め、表現者たちに新たなインスピレーションを与える。そう、ニコンは考えているからだ。
レーニエ氏は「1日で3億のデータがあらゆるメディアに送られている時代、世界でどのようなトレンドが生まれているかに興味がある」と開会に際し、話した。彼が選んだゲストスピーカーは西欧諸国という文化圏にいる人々であるが、かつ母国のみならず、いくつもの国を横断して活動している。
まず登壇したシャヒダル・アラム氏はダッカ生まれ。写真家だけでなく、国際的な写真フェスティバル「CHOBI MELA」(チョビメラ)を立ち上げるなど、その活動は多岐にわたる。その彼が今回提示したテーマは「ザ・マジョリティ・ワールド」だ。
現在、限られた国が世界の重要な決定をしているが、その国の人口は地球の約13%に過ぎない。そんな彼らはかつてバングラデシュなどの国を第三世界、発展途上国と呼び、今も貧困、飢餓などのイメージで捉えようとする。
「メディアがそのイメージを求めるから、海外のフォトグラファーはそれに応じた撮影を行なう。南米、アフリカでも同じ問題を抱えているだろう。だから私は現地のフォトグラファーが母国の物語を発信していくべきだと思う」
その後、彼の眼にとまった各国のフォトグラファーの写真をスクリーンに写しながら、写真論を語った。
「現実は一面的なものではなく、予想もしなかった意味を潜ませている。国境を越えて、共通の言語として表現できるのが写真だと思う」
ある村で写真展を開いた時、女の子が興味を示し、山羊を引っ張って写真を見に来た。
「山羊を写した1枚に気づき、家の山羊を連れてきたらしい。山羊は彼女が思うほど、関心はなかったみたいだけどね。写真にはそういうポテンシャルがある。共有できる幅の広さは、ほかのアートにはない」
ヘスター・カイザー氏はアラブ諸国の写真家に注目し、国内外に新しい才能を紹介し続けている。この日はアムステルダムのオフィスから参加した。
彼女もまず指摘する。
「メディアには載らないが、アラブ人たちもサーフィンを楽しみ、ブレイクダンスに興じます」
レバンノンに生まれ育ち、1984年にアメリアに移住したアメリカ人写真家、ラニア・マター氏は自ら若い時代を過ごした二つの地域、アメリカとレバノン、パレスチナなど中東を舞台に、10代の少女の部屋を撮影した。
「全く違う文化を持つ国に生きていても、同じ事を悩んでいる。部屋が彼女たちのアイコンになっている」
タマラ・アブドゥルハーディ氏はアラブ男性の上半身を撮影したシリーズ「Picture an Arab man」を制作した。
「衣服を取ることで、宗教色を取り除き、男性の美、純粋に人として捉えようとしています」
これはアラブ人というステレオタイプの概念を崩す試みでもある。
この地域でも、都市化と伝統が衝突し、人前ではベールを被ることを義務付けられた女性たちにも変化が起きている。その予兆、確実な時代の流れをフォトグラファーたちは感じ、記録し、表現している。
西アフリカからライブ中継で参加したニー・オボダイ氏は1988年から写真家としての活動を始めた。彼が写真に込めるメッセージは、常識という思い込みへの疑義だ。
「トラウマは眼に見えない形である。人々の意識は高まっていることも事実。その中で写真を共有し、世界の人に見てもらう。それが私たちフォトグラファーができることだと思う」
クリス・ライリー氏はマーケティング戦略プランナーとしてアップル、ナイキ、マイクロソフトなどのビジネスに関わった。iPhone、iPad、iMovie、iPhotoなどだ。
「写真を撮る行為が大きく変わり、写真家が自信を失いつつある。Instagramのユーザーは今、3秒に1人増えているといわれている」
それは創造的な時代の始まりであり、個々が情報を発信できる新しいメディアに希望を感じるとも指摘する。
そうした新しい写真の時代のビジョンは、どこで生み出されるのか。多様な文化、価値観が交錯する国際的な対話の場は、写真表現で今後、ますます重要になっていくだろう。