カンヌの“素顔”を写した写真展「ONE JUMP!」

〜マグナム・フォト所属アレックス・マヨーリ来日記者会見

アレックス・マヨーリ氏

 リコーは14日、東京・銀座のフォトギャラリー「RING CUBE」(リングキューブ)で、Alex Majoli(アレックス・マヨーリ)氏の来日記者会見を行なった。

 マヨーリ氏は、マグナム・フォトに所属するイタリア生まれの写真家。RING CUBEでは、日本で初となるマヨーリ氏の写真展「ONE JUMP!」を10月4日まで開催する。

 記者会見では最初に、13日のトークショーで評判がよかったというマヨーリ氏の主な作品をまとめたムービーを上映。15歳のころに初めて撮った写真にはじまり、ドキュメンタリー、戦争報道、コンセプチュアルな写真など、20年のキャリアは多岐にわたる。

有名人の作られた顔をはぎとる

 「ONE JUMP!」は、カンヌ映画祭の会場内に設置した小さなスタジオで280~300人を撮影。レッドカーペットの華やかさとは対照的な雰囲気の中で行なわれたという。初回の展示はカンヌの「お膝元」であるパリで行なわれ、今回は日本向けに選ばれた55点が展示されている。

 撮影のきっかけは、2007年にカンヌ映画祭とマグナム・フォトが共に60周年を迎えたこと。それを記念すべく両者の共通点を探すも、マグナム・フォトの写真家はドキュメンタリーや報道が主で、映画人のようなセレブリティや有名人を撮影することは多くない。そんな中、ライフ誌の表紙写真を100回以上撮るなど、有名人のポートレートも手がけていたのがフィリップ・ハルスマン(マグナム・フォト所属、故人)だった。

 ハルスマンは「カメラの前で作られた顔がはぎとれる」と、ポートレート撮影のラストには必ず相手のジャンプ姿を撮影していた。それを集めたものが作品「Jump」であり、マヨーリ氏の「ONE JUMP!」はハルスマンの「Jump」に対するオマージュである。

来場者の「見方を変える」演出

会場に設置されたジャンプ台

 会場のデザインや展示の構成を行なったのは写真評論家の小林美香氏。展示作品は2種類のサイズで構成されており、それらを並べることによる距離感や躍動感が見所だという。会場には実際にジャンプ台を設置し、来場者が自由にジャンプ姿の撮影を行なうことができる。実際にジャンプをすることにより「作品の見方が変わるのでは」と小林氏は話している。

 会場には来場者のジャンプ写真もいくつか展示している。中にはマヨーリ氏自身がジャンプをした写真もある。会場でジャンプ台の存在を知り、ドレスアップして出直し撮影に望んだ来場者もいたという。

 また、展示スペースの床にはカンヌ映画祭にちなんだレッドカーペット敷かれている。特別なセレモニーに臨む映画人の気持ちを想像してほしいという小林氏による演出だが、RING CUBEのリング状をした展示スペースに合わせてレッドカーペットを敷くことには苦労もあったという。

監督は「自由」

 マヨーリ氏は「撮影した中で最も印象的だった人(人柄)は?」という質問に対し、タキシードを着てレッドカーペットに向かう途中で撮影に立ち寄ったシドニー・ポラック監督と、ハルスマンの「Jump」を知っており、映画祭から帰る途中にスーツケースを持ったまま撮影に臨んだヴィム・ヴェンダース監督の両名を挙げた。ちなみに、最も好みだったジャンプは元アメリカ副大統領アル・ゴア氏によるものだという。

 特に映画監督がジャンプの撮影を気に入っていたというマヨーリ氏。俳優はどうしても表情などを作ってしまう傾向にあるが、映画監督たちは自由に楽しんでいたという。それは今回の展示作品に登場する北野武監督も同様で、撮影を通じて「(北野武監督は)自由な魂を持った方だと思った」とマヨーリ氏は話す。

「ONE JUMP!」は新しいスタイル

撮影について語るアレックス・マヨーリ氏

 「Jump」へのオマージュを捧げたマヨーリ氏だが、自身が撮りたいものはやはりドキュメンタリーで、有名人のポートレートにはあまり興味がない。最近でもグルジアの紛争を撮影し、最も興味があるのは「ニュース性のある紛争写真」だという。しかし、今回はハルスマンのおかげで普段の自分にはないスタイルの写真が撮れたと語る。ちなみに「ONE JUMP!」の展示作品は、裏側がすべて報道写真にちなんだ新聞紙になっていた。

 またマヨーリ氏は、有名人のポートレートに興味がない理由として「写真家が自己中心的と言われるのはわかっているけど、俳優や女優は写真家どころではない」と話す。マヨーリ氏自身もかつて女優と交際しており、その経験から女優との結婚は難しいことがよくわかったという。映画は普段からよく見ており、詳しいそうだ。

フィルム・デジタルのGRを所有

 ローマでの写真展オープニングに出席するべく、記者会見の翌日には日本を発つマヨーリ氏。今回の来日において特に撮影は行なわず、日本についてもよく知らないとのことだが、日本の電車やマスクを着用する人々に関心を示していたという。ちなみにマヨーリ氏は銀塩コンパクトのGRを所有し、今回の来日でGR DIGITALを手にしている。

 


アレックス・マヨーリ写真展「ONE JUMP!」

  • 会期:2009年9月2日~10月4日
  • 時間:11時~20時(最終日17時まで)
  • 会場:RING CUBEギャラリーゾーン
  • 住所:東京都中央区銀座5-7-2三愛ドリームセンター(受付9階)
  • 休館:火曜日
  • 入場料:無料

 RING CUBEは、リコーが2008年10月にオープンしたフォトギャラリー。9階には同社の新製品や歴代カメラの展示のほかにワークショップスペースを備え、8階はドーナツ状のビルをほぼ1周する形でフォトギャラリーを設置する。



(本誌:鈴木誠)

2009/9/15 16:16