東京写真月間2012国内企画展:沼田早苗「町のいとなみ」/大野葉子「刻 ~とき~」(オリンパスギャラリー東京)


(c)沼田早苗

「町のいとなみ」: 沼田 早苗
私は団塊の世代で小さい時から常に消費社会の中心にいました。実家はお茶とお菓子の小売店でした。お手伝いの5人は浅草育ちで寝坊のお兄ちゃん、富山から来た春日八郎がすきなお姉ちゃん、福島から来たやさしい清子ちゃんと歌手をめざしている弘子ちゃん、アルバイトの大学生でした。妹と二人姉妹の私はお店でお客さんや商店街の人達と遊ぶのが大好きでした。はしゃぎすぎた拍子に腕をひっぱられて肩がはずれた事もあったと母が話してくれました。将来はお店を継ぐつもりでいましたが「商売はあきないと言って毎日あきずにこつこつやるのよ、早苗に出来るかしら?」と言っていた母の言う通り私には無理でした。そのせいか新しいカメラの慣らし撮りは親しみが感じられる商店街をぶらぶらしながら撮影するのが好きなのです。日々、繰りかえされる商店のいとなみに安心感をおぼえ、町かどを行き交う人達を見ていると穏やかな気分になります。テレビで福島県沿岸部の警戒地区で閉鎖された町なかを牛だけが走り回っているのを見て呆然としました。みんなでこつこつと造りあげてきた町が、一瞬にして変わってしまう悲しさを目の当たりにして言葉を失いました。よく「人はひとりでは生きて行けない」と言いますが「町は人なしでは生きて行けない」のを痛感しました。世界中がこの震災に多くの支援をしてくださいました。それは今まで日本が世界とのつながりを大切にしてきたからでしょう。これからは被災された方々が希望をつなげて、新しいいとなみが出来ることを心から願っています。

「刻 ~とき~」: 大野 葉子
昨日、今日、明日…。毎日は飛ぶように過ぎていく。子供たちは、目に見えない速さで成長していき、「もっとゆっくり、もっとゆっくり」と想う自分がいる。小さな子供は余計なことを考えない。目の前のことを体中で感じて、それに向きあい毎日を生きている。その空気感が美しい。そのピュアな魂を少しでも多く心に残して大人になっていってくれたらと思う。写真は、その一瞬一瞬を記憶に残す手伝いをしてくれる。そして、想像させてくれる。
2度と繰り返すことのない瞬間、忘れたくない幸せな情景、戻ることのできない時間、いつかは訪れる別れ。大切に想えば想うほど、突然失ってしまうことへの不安や恐怖にかられることもある。子をもつ前の自分には感じることのなかった感覚。その感覚は、こすりつけてくる満面の笑顔や、愛らしい後ろ姿、奇跡のような肌の柔らかい感触に癒される。
10年後、20年後に、今この「とき」を振り返る自分を想像するたびに、疲労や睡眠不足、忙殺される日々に追い回されながらも、それがどれだけ宝物であるかを感じずにはいられない。日々やるべきことは山ほどあるが、時にはちょっと後回し、一息ついてめまぐるしく動く、まるい手足や、つややかな表情にしばしの間みとれて時を過ごそう。そして、写真にその記憶をとどめて、子供たちに伝えていけたら…。
動画が残してくれるものは「記録」、そして写真が残してくれるものは「記憶」なのかもしれない。
(写真展情報より引用)

 公益社団法人日本写真協会による「東京写真月間2012」の企画展「心が光る瞬間」のひとつ。

  • 名称:東京写真月間2012国内企画展 沼田早苗「町のいとなみ」/大野葉子「刻 ~とき~」
  • 会場:オリンパスプラザ東京
  • 住所:東京都千代田区神田小川町1-3-1 NBF小川町ビル
  • 会期:2012年5月31日〜2012年6月6日
  • 時間:10時〜18時(最終日は15時まで)
  • 休館:日曜・祝日



(本誌:鈴木誠)

2012/5/17 00:00