ニュース

【CP+2025】復活のZEISS「Otus ML」、球面収差を操る「PORTRAIT HELIAR」をコシナブースでハンズオン

初お披露目の「Otus ML 1.4/50」。手に取って撮影も試せる

コシナのブースでは、同社が製造するフォクトレンダーおよびカールツァイスの交換レンズを展開。CP+2025開幕直前に発表された「ZEISS Otus ML」の注目度が高く、入場口からまっすぐにコシナブースを訪れる来場客が例年以上に多く見られた。

撮影体験コーナーを用意

久々のツァイス新レンズ「Otus ML」

Otus ML 1.4/50。ソニーE、ニコン Z、キヤノンRFマウント用を揃える

新製品が6年ぶりとなるOtusシリーズ。一眼レフカメラ用の元祖Otusシリーズは、昔ながらのツァイス的な思想を感じる「性能最優先」が身上。一時期、以降の高性能レンズが軒並み大きくて重くて高価になったのは、Otusの“功罪”と言ってもいいぐらいだろう。それほど強烈なインパクトがあった(見た目にも)。

新しいOtus ML(ML=MirrorLess)は、そうしたOtusらしい高性能を維持しつつ、やはりユーザーからの求めがあったという「コンパクトで軽量に」という声を反映。価格も40〜60万円台だった一眼レフ用に比べ、5月発売の「Otus ML 1.4/50」は約30万円。鏡筒デザインも少し直線的になった。

カメラとの通信に関しては、フォクトレンダーのミラーレスカメラ用レンズで経験を持つ同社、キヤノンRFマウント用についてはカメラ側のレンズ補正も使えるとのこと。といっても高性能レンズのため、ほぼ周辺光量を補うだけのレベルだという。

一眼レフ用のOtusは標準レンズが“55mm”で、35mm一眼レフカメラの黎明期を思い出させる設定が印象的だった。改めてその理由を聞くと、ミラーボックスを避ける一眼レフカメラ用レンズを設計する場合、50mmより少し長い焦点距離が最も高性能を追求できるのだという。Otus MLはミラーボックスのないミラーレスカメラ用なので、50mmという一般的な焦点距離が選ばれた。

参考出品の「Otus ML 1.4/85」。年内発売予定

そしてOtus MLの2本目「Otus ML 1.4/85」も展示されていた。一眼レフ用Otusの同スペック品と比べ、フィルター径が86mmから77mmに小さくなっている。こちらも絞りクリックをオフにするデクリック機構が備わり、ソニーE、ニコン Z、キヤノンRFマウント用が予告されている。

久々にツァイスの写真レンズが登場した背景には、どうやらコシナの後押しが大きかったようだ。取材当日のコシナブースには日本のカールツァイスの担当者と、ドイツ本社から訪れたツァイス社員の姿もあった。なお、同じツァイスでもBatisシリーズや双眼鏡はケンコー・トキナーのブースに展示されている。

フォクトレンダーから、球面収差を味わい尽くす新レンズなど

PORTRAIT HELIAR 75mm F1.8 E-mount(参考出品)

フォクトレンダーの参考出品レンズで目を引くのは、ソニーEマウント用の「PORTRAIT HELIAR 75mm F1.8 E-mount」。VMマウントの「HELIAR classic 75mm F1.8」の光学系をベースに、ボケ味をコントロールできる球面収差補正のコントロールリングを搭載したのが特徴。

シルバーの部分が球面収差補正のリング

きっかけは、かつてのフォクトレンダーに「UNIVERSAL-HELIAR」という大判用レンズが存在し、登場100周年を迎えたのだという。その“ユニバーサル”の意味するところが、今回のPORTRAIT HELIARと同じように球面収差の補正機構だった。UNIVERSAL-HELIARは天皇陛下の御真影を撮影したレンズとしても有名なのだとか。

本レンズの美点は、ライブビュー画面でリアルタイムに収差変動の様子を見られるところ。一眼レフカメラのマット面よりも球面収差補正の効果がわかりやすいなどのメリットから、ミラーレスカメラ用のレンズとして開発された。ベースとなったVMマウントレンズと比べると、球面収差補正のために追加で2つの群を動かす必要があり、そのための機構が鏡筒を少し太くしたのだという。

球面収差補正のリングを中央に。ベースのHELIAR classic 75mm F1.8に最も近い状態
「over」側に回しきったところ。後ボケに輪郭が見える
「under」側ではソフトフォーカスのような描写に

コシナに限らず写真レンズの設計者と会話していると、その味わいを分析するときに(球面収差が)「オーバー」か「アンダー」か、という言葉がたびたび登場する。それをそのまま操作リングに記載してしまったのが本レンズだ。アンダーコレクション(correction。補正)ではソフトフォーカス的な描写、オーバーコレクションでは後ろボケに年輪が見えるような表現になるという。開放からF2.8までの範囲が、収差を味わうのにオススメの絞り値だそうだ。

APO-LANTHAR 28mm F2 Aspherical VM(参考出品)

ライカMマウント用のVMマウントレンズ「APO-LANTHAR 28mm F2 Aspherical VM」は、フォクトレンダー史上最高性能を標榜するAPO-LANTHARシリーズに加わる新たな焦点距離。50mmと35mmが発売済みで、それらと近い描写傾向を持つという。レンズの全長は28mmが最も短い。

金属製のフードはスリットタイプではなく花型になっている。これはレンジファインダーカメラのファインダー視野をブロックしないための切り込みだそうだ。0.7mまで距離計に連動し、最短撮影距離は0.5m。フィルター径は49mm。

NOKTON 35mm F1.2 Aspherical IV VM、NOKTON 40mm F1.2 Aspherical II VM、NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM(いずれも参考出品)

VMマウントレンズの参考出品には「NOKTON 35mm F1.2 Aspherical IV VM」、「NOKTON 40mm F1.2 Aspherical II VM」、「NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM」もある。NOKTONシリーズの中でも現代的な描写傾向を持つ3本が、それぞれ最新バージョンにアップデートされた。変更点は軽量化と、先端のバヨネット部分をブラックにしたこと。

発売済みの「COLOR-SKOPAR 35mm F3.5 Aspherical」。スクリューマウント版(VLマウント)の追加を望む声もあるが、後玉が大きいため実現は難しそうとのことだった

ライター。本誌編集記者として14年勤務し独立。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究