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高度化する出張撮影サービスの現在…新生児の姿を写真で残す「ニューボーンフォト」の撮影現場を見せてもらった

あらいこうじ氏による今回の出張撮影でのニューボーンフォト作品

街の写真館が減っていると聞く。その要因として、デジタルカメラやスマートフォンの普及の影響に加えて、コロナ禍で卒業式・結婚式といった行事の減少などが響いたようだ。

家族・親族、友人・知人、その誰もがカメラマンになれる昨今。店舗で写真を撮るというのは、料金の面を含め少々ハードルが高いのかもしれない。

減っていくサービスがあれば、増えているサービスもある。フォトグラファーと撮影希望者(依頼者)をマッチングするサービスがそれだ。

撮影ジャンルは、七五三やお宮参り、成人式といった家族写真のほか、友人や恋人同士などにも広がっているという。

撮影を頼む人がいればそれを撮る人もいるわけで、そこに専業のカメラマンはもちろん、プロ目指す人や副業を考えてアマチュアが携わる余地もある。

そうしたカメラマンをマッチングさせるサービスの1つが、今回取材した出張撮影サービス「OurPhoto」になる。写真を撮ってほしい個人と写真を撮りたいフォトグラファーをつなげるサービスだ。

難易度の高い依頼も運営元がフォロー

ということで、「OurPhoto」の出張撮影のうち、「ニューボーンフォト」の撮影現場にお邪魔してきた。

新生児期の赤ちゃんを撮影する「ニューボーンフォト」は、通常の家族写真よりも神経を使う業務だ。被写体は、ちょっとしたことで体調の悪化や事故につながる赤ちゃん。もちろん、こちらの指示を聞き入れてはくれない。ずっと寝ていてくれれば楽だけど、途中で起きてしまうこともある。泣きぐずってしまうのも、生後間もない赤ちゃんの日常だ。そんな日常に、フォトグラファーが入り込むのだから、気を使わないわけがない。

それもあり「OurPhoto」では撮影者向けに、「安全に赤ちゃんを撮影するニューボーンフォト講座」というプログラムを用意している。

講座では、赤ちゃんの安全を守るために大切な基本事項を専門家(助産師・ベビー・キッズフォト専門家)が監修しているそうで、「新生児の身体のつくりと危険な姿勢」や「出産直後であるママの医学的/生物学的な状態」という2点を踏まえて、衛生面や赤ちゃんの扱い、依頼者への配慮など、教えているそうだ。

失敗が許されない1度の機会。写真に集中するためにも、こうした講座が重要なのだろう。

人気フォトグラファーも本業は会社員

取材させてもらったフォトグラファーは、「OurPhoto」に登録して約4年のあらいこうじ氏。本業は会社員(グラフィックデザイナー)で、本業での撮影業務も多少は行っているそう。

あらいこうじ氏

「OurPhoto」への登録については、フォト業界向けのイベント「PHOTO NEXT 2019」で、「出張撮影サービス」のプロモーションを見たこと。

そこで実施していた「OurPhoto」の初心者向けセミナーに参加して、自分にもできそうと思ったのが登録の切っ掛けだそうだ。

「OurPhoto」が行っている「OurPhoto AWARD」で、2023年の優秀作品「ニューボーンフォト」部門1位を受賞したこともある同氏。ニューボンフォトの撮影時に気を付けていることを聞くと、とにかく「安全な撮影」であるという。

家族含め誰も怪我や体調不良にならないように、そして出張撮影におけるモラルやマナーを守り周りに迷惑をかけないことに気を付けているそうだ。

いまのところ大きなトラブルもなく撮影できているが、依頼者から「おむつを外した裸の赤ちゃんを、パパとママが抱いている」というシチュエーションの希望があった際、赤ちゃんがおしっこをしてしまい床と依頼者(父親)が汚れてしまったことがあったそうだ。それ以来、同じような撮影を希望する人には、事前に濡れる可能性がある旨を案内しているという。

着替えもフォトグラファーが行っていた。手慣れた様子だ

ちなみに、あらい氏は今回で266回目の撮影。メインの仕事がある中、登録して約4年(コロナ禍で業務ができなかった時期を含む)であることを考えると、さすが「OurPhoto」での人気フォトグラファーといえる。

手際の良さと細やかなコミュニケーション

取材時のカメラボディはソニーの「α9」、交換レンズに「SIGMA 50mm F1.4 DG HSM|Art」を使用していた。ニューボーンフォトは、この組み合わせで対応しているという。念のため、ズームレンズのタムロン「28-75mm F/2.8 DiIII RXD」も用意したとのこと。

撮影前の挨拶時には、赤ちゃんの両親におくるみの色や帽子を選んでもらい、その間に撮影場所を確保。小道具として、出産日や名前が入れられるプレートを用意していく。

利用者に選んでもらっていたおくるみと帽子
自然光が入る窓際にセットを用意
小道具たち

このプレート、事前の打ち合わせ(OurPhotoのチャット機能を利用)で確認してもらい、本番に持ち込むそうだ。こうすることで、写真の取り間違いなどを防いでいるそうだ。希望者に喜んでもらいつつ、小道具としても活用する。持ち運ぶ道具に限りがあるからこそのノウハウだろう。

フォトグラファーによって、明るめ基調・暗めの基調の得意・不得意(好み)があるそうだが、事前に作例などで雰囲気をつかんでおくことが重要だという。

あらい氏の場合は、背景となるシートを2種類用意することで、ポップ・シックの両方の意向に対応する。また、なるべく窓際でセットを組み、自然光を取り入れて撮影するという。複雑な光源を組まないのは、依頼者がスマートフォンなどで撮影に加わっても、キレイに撮れるようにという配慮だそう。

撮影準備も手慣れた様子

赤ちゃんの両親、それぞれとコミュニケーションをとりつつ、テキパキと進む撮影。

常にコミュニケーションを取りながら撮影

途中で、赤ちゃんのためにエアコンの温度や風向きの指示などをしつつ、衣装替え、小道具の交換を実施する。場慣れというか、撮影ルーティンを確立しているからこその動きだ。依頼者に写真をみせつつ、反応を見ながら撮影を続ける。

撮影時間はおよそ1時間。衣装、背景、カゴ・ベッドなどを組み合わせてテンポよく進んでいた。

「出張撮影をプレゼントする」という文化も

ちなみに今回の撮影は、出産された弟夫婦への出産祝いとして、お姉さんからのプレゼントされたものとのこと。「OurPhoto」では、依頼者だけでなく、撮影を贈る「OurPhotoギフト」というサービスを行っている。

赤ちゃんだけでなく、両親入りのカットも撮影

撮影依頼者であるお姉さんに話を聞いてみると、よくあるスタジオ撮影も良いなと思ったそうだが、義妹は産後1週間ということもあり、外に出る元気がないかなと判断。自宅に呼ぶスタイルということで、「ニューボーンフォト」&「エリア」で検索したところ、「OurPhoto」がヒット。今回の依頼につながった。

今回の撮影では、被写体となる赤ちゃん、その両親、両親の親族が集まっていた。あらい氏や集まった皆さんの人柄もあるだろうが、終始リラックスした雰囲気の中で撮影は終了した。

フォトグラファーとして出張撮影に興味があるなら、1度マッチングサービスのサイトをのぞいてみてはいかがだろう? 興味深い知見が得られるはずだ。

飯塚直

パソコン誌&カメラ誌を中心に編集者として活動後、2008年からフリーに転向したフリーランスエディター。商業の大判プリンターから家庭用のインクジェット複合機、スキャナー、デジタルカメラなどのイメージング機器が得意。現在、1児の父。子供を撮影する望遠レンズと、高倍率コンパクトデジタルカメラの可能性を探っている。