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初の「笹本恒子写真賞」に宇井真紀子さん

アイヌの人たちの今を写真に

左から笹本恒子さん、宇井真紀子さん。

公益社団法人 日本写真家協会は、フォトジャーナリストとして活躍し、3年以上の実績のある写真家を対象にした笹本恒子写真賞を制定し、第1回の受賞者に宇井真紀子さんを選んだ。東京都写真美術館で公開する映画「笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ」の初日に合わせ、6月3日、同美術館会議室で記者発表会を開いた。

笹本恒子さんは1914年生まれで、今年103歳を迎える。日本で最初の女性報道写真家であり、1950年、約70名の会員で設立した日本写真家協会の創立メンバーの1人でもある。初代会長は木村伊兵衛。

この賞は、笹本さんから私費の寄付とともに女性写真家の活動に寄与する賞ができないかと協会に打診があり、立ち上げられた。写真関係者から推薦された16名の候補から、椎名誠、大石芳野、熊切圭介の3名で審査を行なった。受賞者には賞金30万円が贈られる。

アイヌの人たちとともに

宇井さんは1992年、アイヌの聖地だった北海道の二風谷地区を訪れ、以来、各地に住むアイヌの人たちを取材してきた。今年5月にはアイヌをテーマにしたものでは4冊目の写真集「アイヌ、100人のいま」(冬青社刊)を出版した。

同じ日本人の中で、差別され続けている民族がいることを知り、調べ始めた。写真家として活動を始めた時、幼い女児を抱えるシングルマザーでもあった。

「取材はいつも子連れでした。訪ねた家で、子どもが水をこぼした時、主である人は『そこに水を飲みたい人がいたんだね』と優しく言った」

同じ言葉、考え方はその後、出会ったアイヌの人からも聞くことになった。そうした生きる姿勢への敬意、共感が今も活動を続ける原動力なのかもしれないと宇井さんは話す。

カムイノミ(神への祈り)は、キャンプを楽しむ人びとで賑わう、多摩川河川敷で行なわれた。(1999.8.8)

取材を続ける中で、苦労した点を問われると、宇井さんは「自分がアイヌを侵略した和人であること」がずっと引け目になっていたという。

アイヌの人たちは一方的に研究対象にされてきたことで、撮られることに対して嫌悪感を持つ人がたくさんいる。最初から撮ることはせず、自分を理解してもらった上で撮影をしてきた。

「実際は温かく受け入れてくれる人が多かったのですが、自分の中で彼らとどう関われば良いか、答えが出ないままずっとやってきました」

先祖供養で供物を捧げる。供養する人の名前を唱えながら、共に分かち合うように、自分も食しながら、先祖が食べやすいように細かく切って捧げる。(2007.8.12)

アイヌ民族で、国会議員も務めた萱野茂さんという方がいた。笹本さんも北海道にアイヌの村を訪ね、彼に取材しようとしたことがあった。彼が海外から帰国する日に、笹本さんは帰京せざるを得ず、会うことはかなわなかった。

この日、宇井さんは笹本さんに写真集「アイヌ、100人のいま」を贈った。そこで写された1人には故萱野茂さんの夫人、れい子さんがいるそうだ。

宇井さんはこれまで写真集、写真展などでアイヌの今を発信してきた。が、まだまだアイヌのことを知る人が少ないことを痛感し、この写真集を発案している。

アイヌの人たちは日本全国で暮らしている。この写真集は被写体となったアイヌの人から、次に撮影する人を紹介してもらってつないでいった。当たり前にあるアイヌの今を形にしたかったからだ。

モデルとなる人に撮影場所、服装なども委ねた。会ってすぐに撮影が住むこともあれば、数日、滞在したこともある。訪ねた場所は17都道府県。

制作費は当然、自前。途中で貯金が底をついき、クラウドファンディングで資金を調達した経緯もある。

「アイヌの取材はこれからも継続します。できればこの手法で1,000人を撮りたいと思っています」

アイヌ文様の刺繍が入った着物をかけて、工芸品展示会会場の片隅で眠る女の子。(2008.4.26)

受賞作品展「アイヌ、現代の肖像」(仮称)

アイデムフォトギャラリー「シリウス」

会期:2017年12月14日(木)〜12月20日(水)
時間:10時〜18時(最終日は15時まで)
住所:東京都新宿区新宿1-4-10 アイデム本社ビル2F

宇井眞紀子写真展「アイヌ、100人のいま」

キヤノンギャラリー銀座

会期:2017年6月8日(木)〜6月14日(水)
時間:10時半〜18時半(最終日は15時まで)
休館日:日曜、祝日
住所:東京都中央区銀座3-9-7

キヤノンギャラリー大阪

会期:2017年7月13日(木)〜7月19日(水)
時間:10時〜18時(最終日は15時まで)
休館日:日曜、祝日
住所:大阪市北区中之島3-2-4 中之島フェスティバルタワー・ウエスト1階

キヤノンギャラリー札幌

会期:2017年7月27日(木)〜8月9日(水)
時間:10時〜18時
休館日:土曜、日曜 、祝日
住所:札幌市中央区北3条西4-1-1 日本生命札幌ビル 高層棟1階

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。