ニュース

キヤノン「あんしんメンテ プレミアム」の現場を覗いてきた

ピントや色味の不安も解消できる新メニュー

キヤノンマーケティングジャパンが7月21日に開始したレンズ交換式デジタルカメラの点検サービス「あんしんメンテ」。スタンダードとプレミアムの2コースで行われる作業を、それぞれ覗いてきた。

あんしんメンテは、基本点検と外観清掃の「スタンダード」(一律3,000円)と、カメラやレンズの精度点検も含む「プレミアム」を用意。プレミアムの料金は、カメラ本体が4,000円〜1万500円(EOS M〜EOS-1D系)、交換レンズが3,000円〜1万500円といった具合に、各機種のクラスによって変わる。

新たにわかりやすいメンテナンスコースが設定された代わりに、たとえば料金1,000円の「センサー清掃サービス」が終了するなどの変更もあった。センサー清掃を含む「あんしんメンテ スタンダード」は3,000円に設定されたので、値上げだ!と感じた方もあるかもしれない(というか、そのような反響をSNSで目にした)。

そこで、実際の作業工程を見せてもらいつつ、価格相応のサービスアップになっているのか、読者諸賢の判断材料にしてもらおうというのが今回の主旨だ。

"1人1台"で最後まで担当

修理センターの広い部屋には、作業者の机が整然と並ぶ。作業台というより、普通の会社オフィスのように各自の席があり、そこで作業をしているというイメージだ。ひとつの機材に対し、1人が分解・調整・組み立て・点検シートのコメント記入までを一貫して担当するそうだ。

作業者は20代〜30代が中心。特にあんしんメンテでは、点検シートの備考欄にメンテナンス結果に関するコメントを書く必要があるため、10年程度のキャリアを積んだメンバーが主に担当しているという。

取材当日は作業者の席がいくつか空いていた。まさに彼らは、ブラジル・リオのオリンピック会場に出かけているのだという。10億円相当のカメラ機材が用意されたと話題のCPSサービスデポで、プロカメラマンのサポートにあたっている。

3,000円の「あんしんメンテ スタンダード」工程

では早速、あんしんメンテ スタンダードの作業を見ていこう。これはキヤノンのレンズ交換式カメラボディが対象の基本点検と外観清掃のコースで、イメージセンサーの清掃もここに含まれる。このコースは各サービスセンターでも作業可能で、窓口に持ち込んだ場合は2時間程度の預かりで当日返却も可能だという。

作業はまず、預かったカメラ本体の設定をメモするところから始まる。カメラに特殊な装置を取り付けて、パソコンから設定データを取り出す仕組みがあった。多岐にわたるEOSの設定項目を漏れなく復元することで、メンテナンス上がりのカメラを受け取ったユーザーが、設定ミスや戸惑いなく使い始められるようになっている。

カメラ設定を控えるメモ

最初は操作感触のチェックを行う。ダイヤルが砂を噛んでいたり、ショックによる微妙なズレなどがあると、プロの作業者には感じ取れる程度の違和感となって現れるのだという。また、滅多にないことだというが、背面モニターや情報表示パネルに欠けなどがないかも必ずチェックする。端子類のグラつきがないかもここで確認していた。

そして外観清掃に移る。全体のホコリをブラシで落とし、ピンセットにシルボン紙を巻いて、各部の汚れを拭き取る。ホットシューの接点や取り付けバネの溝、バッテリー室内部の端子まで綺麗にする。

まず、ブラシで各部のホコリを落とす。ホコリが付いたまま画面を拭くと、傷の原因にも
ピンセットにシルボン紙を巻き付け、クリーニング液で湿らせる
ホットシューは接点のみならず、押さえバネの部分まで清掃
清掃グッズ。ブラシに巻かれたテープは、金属部分がカメラを傷つけないようにとの配慮
作業者は手首に静電気対策のバンドを着用。作業着も静電気対策がされたもの

各部の汚れがどういったトラブルに繋がるかも、作業者は熟知している。例えば外付けのバッテリーグリップは接点が剥き出しなので、そこに手が触れて汚れていると、カメラ側の端子も汚れてしまうかもしれない、という具合だ。あらゆるトラブルの原因になりそうな可能性は、こうしてプロの経験をもとに徹底的に取り除かれる。作業者は全ての動作に迷いがなく、スムーズ。作業の質とスピードを両立させるのがプロの技だ。

バッテリー室の内部を清掃。奥の端子を綺麗にしているところ
ファインダー接眼部を清掃。撮影中はつい衣服のスソで拭きたくなるが、ゴミが付いた状態で拭くと傷の原因になる
端子のひとつまで、全ての箇所をクリーニングするのがプロの仕事

続けて「簡易撮影テスト」として、簡易チャートの撮影でピントや色味をチェックする。シャッターを切った時の動作音から不具合が見つけられることもあるそうだ。シャッター音で不調を探るのは、昔ながらの機械式カメラの修理ではよく聞く話だが、最新のデジタル一眼レフカメラにも共通するとは驚きだ。

そして、ミラーボックスの内部清掃に移る。従来の「センサー清掃サービス」では、まさにイメージセンサーの表面だけを清掃(ゴミ取り)するのが目的だったが、あんしんメンテ スタンダードでは、メインミラーの清掃や、やがてセンサーに付着して写り込みそうなホコリも徹底除去される。

ゴミの有無を、まずは目視で確認
一見綺麗だが、イメージセンサーやAFセンサーに付きそうなゴミを発見
写真中央部、糸のようなホコリが見えるだろうか。これがイメージセンサーに付けば写り込むし、AFセンサーに付けばAF動作に影響するかもしれない。ピンセットで取り除く

メインミラーまわりの清掃では、ブロアーの使い方に注目した。吹く方向と強さにコツがあり、強すぎてもよくないのだそうだ。メインミラーのゴミが気になってブロアーで吹いたはいいが、飛ばしたゴミがファインダーブロックの中に入ってしまい、いよいよ取れなくなって…という話はよく聞く。苦い経験がよみがえった方は、次からプロに任せよう。

メインミラーの清掃
ブロアーの使い方にもコツがある。ユーザー自身のセルフメンテナンスでは、ブロアーをここまで差し込むのは推奨されていない。吹く方向や力加減、ノズル先端の取り回しに経験を要するからだ

イメージセンサーのゴミは、ライトボックスを撮影した白い画像を専用のパソコンソフトに読み込ませると、ゴミの位置の座標と、合計の個数が表示される。表示コントラストを高めてゴミを確認しやすくする機能もあり、見落としを防ぐ。存在からしてヒミツのメンテナンス用ソフトだが、マニアは欲しいだろう。筆者も欲しい。

ライトボックスを使って、ゴミを見つけるための画像を撮影。これを専用ソフトにかけ、センサーダストがゼロと表示されるようになったら、センサー清掃は完了だ
センサー清掃の手元。ピンセットにシルボン紙を巻き付けて拭き取っていく。手指のごとくピンセットを扱えるからこその芸当で、うかつにマネしてはいけないレベルだろう

ここまで約2時間の作業で、あんしんメンテのスタンダードは完了だ。従来のセンサー清掃だけと比べ、料金は1,000円から3,000円になったが、実際の手間は3倍どころではないように見えた。ユーザー自身では気付かないようなトラブルのタネまで取り除いてくれるのも心強い。

「あんしんメンテ プレミアム」だけの内容(カメラ本体)

ここからは、あんしんメンテ プレミアムのみの作業だ。より精密な点検のため、サービスセンターでは作業できず、預かり作業となる。納期は1週間から10日程度。

フランジバック測定〜フラッシュシンクロ検査

まずカメラボディのフランジバック測定を行う。専用の測定器にカメラボディを取り付け、レンズの取り付け面からイメージセンサーの撮像面までの距離を1/1,000mm単位で計測し、画面内の4点でいずれも規定内に収まっているかを確認する。ここに大きなズレがあると、ピント不良の原因になる。

まれなケースだそうだが、落下などの強いショックや、極端な使用でマウント部品の摩耗などがあると、出荷時の状態から誤差が出る可能性がある。この精度が基準通りと確認したうえで、あとの検査に進む。

フランジバック測定器にカメラを取り付けたところ。銀塩時代は圧板にデプスゲージを当てて深さを測っていたが、デジタルカメラではイメージセンサーに測定器具を当てられず、レーザー光での距離測定方式とした。測定器自体も、1時間に1回のペースで原器を使って校正しているという

また、同じ測定器ではシャッターの最高速が出ているかの検査と、シャッター幕の走行とシンクロ端子のタイミングが合っているか(シャッター先幕/後幕でケラレが出ないか)の確認も行う。もしこれがズレていると、ストロボ撮影時に画面内にケラレで黒い線が入ってしまう。

AEセンサーを調整

外光をカットした部屋に移動し、AE(自動露出)センサー、ホワイトバランス/カラーバランス、AF(オートフォーカス)センサーの検査・調整を行う。設置されたパソコンに機種ごとの専用調整ソフトが用意されており、カメラをUSBケーブルで接続する。

AEセンサーの検査では、一定の光量が出る機器にカメラをセットし、パソコンを使ってAEセンサーからの情報を読み取り精度をチェックする。カメラのファインダー内に表示される露出計で合っているかというレベルではなく、AEセンサーの全点(EOS 5D Mark IIIなら63分割)で規定内の精度が出ているかを検査する。

もし規定から外れていたら、ソフト的に調整できるものは調整し、万が一AEセンサー自体が故障している場合は、修理見積もりが変更となるのでユーザーに確認の連絡がいく。

一定の光量が出る機械の前にカメラを設置し、AEセンサーの出力をパソコンから確認する

カラーバランス検査で、色味の不安解消も

カメラ愛好家の会話では、「キヤノンの色は〜」とか「この機種は色がちょっと〜」など、違和感と不安から疑心暗鬼に陥ってしまうような、デジタルカメラゆえの悩みがよく聞かれる。それを解消するのが次の工程だ。

ホワイトバランスは、よくある環境を想定した3つの色温度で検査。カラーバランスはカラーマトリックスを撮影し、パソコンの検査ソフトで基準と照合して「赤だけが強い」といった異常がないことを確認する。

色(=カメラの絵作り)は感覚的で好みも含まれるため、おそらくメーカーサポートでも苦労がある部分ではないかと思う。これに対して、きっちり生産時と同じ精度で検査して「問題ありません」と伝え、安心してもらうことが目標だそうだ。

大がかりなAFセンサー検査

ミラーボックスの中に備わるAFセンサーは、実は見落とされがちな落とし穴かもしれない。イメージセンサーのゴミと同様、ユーザー自身がどれほど扱いがよいと自認していても、ミラーボックス内にゴミは入ってしまいがちだからだ。

ゴミがAFセンサーに付着すれば、場合によってはピント精度に不都合が出る可能性もある。それがどこか1つの測距点だけに起これば、ユーザー自身が原因を特定するのは難しいだろう。ここの検査では、やはりパソコンソフトを使い、AFセンサーの出力波形を見る。そこでAFセンサー上のゴミの有無をまず確認し、それから専用のチャートを使って測距精度を確認する。

AFチェック用の自動雲台にカメラが載ったところ。写真で装着しているレンズは、実際の調整用レンズではない

その精度チェックがまた大規模で驚いた。カメラを上下左右に動く電動雲台に載せ、専用の調整用レンズを取り付ける(真鍮剥き出しのようで重く、おおよそEFレンズらしからぬ外観。フォーカス機構もない)。

AF精度は専用チャートを使って確認するのだが、チャートは1種類のAFセンサーに対し数枚を使用する(それぞれの縦線検知、横線検知、F2.8光束、F5.6光束センサーに対応するため)。チャートを切り替えながらテストを繰り返すのは、検査自体がコンピューターで自動化されているといえ、なかなかの手間に見えた。

カメラからチャートまでの距離は調整用レンズの焦点距離と完全にマッチングされており、どれか一つでも違う個体と入れ替わってしまうと、精度が出ない。また、地震があった場合なども機器の設置からやり直すことになるという。これほどの設備を見てしまうと、「どうも、たまにピントが来ないような…」という、ぼんやりとした機材買い換えの言い訳もしづらくなりそうだ。

パソコン画面でAF検査をスタートすると、自動雲台がカメラを小刻みに動かしはじめる。AFセンサーの全点を精度点検するためだ。ここでの検査は、作業者がパソコンに向かっている時間が15分ほどで、そのあと実写確認を行うのにまた時間がかかる。最後は人の目で確認するのがポイントだ。

ここまでが、カメラボディに対する「あんしんメンテ プレミアム」の工程だ。

交換レンズのメンテナンス

続いて、レンズのメンテナンス工程を見ていく。落下で鏡筒にヘコミができてしまったという「EF24-70mm F2.8L II USM」を扱う。これも、まずは外観や、リングとスイッチの操作感、絞り羽根の動作を確認する。

まずは外観や操作感を確認する

自動絞りのEFレンズでどうやって絞りの動作を見るのかと思えば、カメラのプレビューボタンを押しながら絞り値を操作すれば、任意に動かせる。たいていのレンズは鏡筒を開けずとも、前玉側から覗き込めば目視で動きを確認できるそうだ。

IS(手ブレ補正機構)の確認は、加振台にカメラを載せ、ライブビューでコリメーター内のターゲットを見ながら行う。レンズ規定の段数(シャッタースピード○段分、という手ブレ補正の効果表記)に相当する揺れが完全に止まることを確認できればOKだ。加振台を用いるのは、手持ちでの検査だと作業者によりばらつきが起こるためだという。

ISの動作チェック(ここだけIS付きの別レンズで見学)。シャッターボタン半押しで、コリメーター内のターゲット像がピタリと静止する

解像力チェックについては、専用のチャートを撮影して判定するそうだが、機密扱いのため見学はかなわなかった。今回検査したレンズは落下のショックを受けていたものの、この解像力チェックで性能に問題なしと判明したため、人の目による実写確認の工程に進む。

実写確認では、解像力チェックとは別の被写界深度チャートを使って、ピントのピークが正しい範囲内に収まっているかを確認する。撮影画像をパソコンソフトに読み込ませ、被写界深度内に収まっている範囲をドラッグで選択すると、ピントピークの位置が自動で割り出される。それが規定の範囲に収まっていればOKという、明確なものだ。

ピント位置を確認するチャートを撮影し、パソコンソフトに読み込ませて検査する

最後は仕上げの外観清掃となる。マウント座金の側面や、レンズキャップの内側まで抜かりない。熟練作業者の手際のよさも相まって、見ていてなんとも気持ちがいい。これでレンズのメンテナンスも完了だ。

レンズの検査は1本あたり30分程度を要し、もし問題が見つかれば調整する。今回メンテナンスのデモをしてもらったEF24-70mm F2.8L II USMは、点検シートに「前玉レンズに傷、ズームリング部に打痕がありますが、解像力に異常はありませんでした」という備考が添えられた。

あんしんメンテの点検シート。カメラ機材とともに保管して、いつでも万全の状態で使いたい

日頃のセルフメンテも推奨。不安があれば、無理せずメーカーサポートに

見学の最後に、「あんしんメンテ」のメリットや、日頃ユーザーができそうなメンテナンスについて、いくつか話を聞いた。

——あんしんメンテに出す前に、日頃どのようなセルフメンテナンスが効果的ですか?
月に1回ぐらいは、セルフチェックも兼ねてカメラを動かすのが効果的です。カメラを使うこと自体が長持ちのコツでもあります。プロがガンガン使って外観はボロボロになっているカメラも、メンテナンスしてみると内部の状態は良いことが多く、定期的に使っていること自体がメンテナンスになっていると感じられます。

また、大事な撮影の前や、長く使わなかった時、汚れた場所で使った後にセルフメンテナンスは有効です。例えばカメラを使ったままの状態で防湿庫に入れておいても、カビが生えることがあります。まず汚れを拭いて、ゴミを落としてから防湿庫に入れるのが大事です。ズームリングを操作して中の空気を入れ換えるのも効果的です。

——経年でレンズのピントズレなどが起こりますか?
撮影結果を写真として見て「ピントがズレてきた」とわかるようなレベルでは、起こらないと思います。デジタルカメラとはいえ機械なので、経年による摩耗などはゼロではありませんが、それでも写真としては問題ないレベルと言えます。

"ピントズレ"と言っても様々な原因があります。摩耗でズレが生じていることもありますし、AFセンサーの上に乗ったゴミを誤検知していて、AFセンサーの清掃で回復することもあります。そういった点では、あんしんメンテ プレミアムはより細かく検査しているので、不安があれば一度メンテナンスに出していただければと思います。

「フィルムの頃はこんなにズレなかった」という声もありますが、カメラがデジタルになってから鑑賞時の拡大率が上がり、よりシビアな世界になったことが実際の要因です。だからといって「異常なしです」と単に返却するのではなく、大丈夫であることを伝えてからお返しするのが我々の使命と考えています。

完了後にもらえる点検シートのイメージ

——始まったばかりの「あんしんメンテ」ですが、反響はどうですか?
新メニューで、成功するかどうか不安もありましたが、メンテナンスというキーワードに対してニーズが高いとわかりました。また、セルフメンテナンスに関する質問も多く寄せられました。

カメラは使っていれば汚れるものなので、キヤノンとしてはユーザー自身で行う「セルフメンテナンス」もWebサイトで推奨していますが、作業が苦手な方もいらっしゃると思うので、そういった方にも無理なく安心して使ってもらうためのサービスが「あんしんメンテ」です。あくまで"メーカーとして"やっているサービスで、キヤノンとしての品質を届ける体制を整えました。これが何よりの"あんしん"のポイントです。