竹之内祐幸写真展「SEASONS」

――写真展リアルタイムレポート

作品を撮る感覚はフィルムの方が楽しいが、今回、大きく伸ばしてデジタルのクオリティの高さに驚いたという
(c)竹之内祐幸

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 この会場には、竹之内さんの日常がちりばめられている。友だちや恋人、誰かの部屋、家の近くの風景… スナップショットで切り取られたイメージのようだが、ただそれだけではない何かが漂う。「どこか虚構のような」と言葉にすると、するりと逃げてしまう何か。その不思議な感じが、観る者の感情へ静かに揺さぶりをかけてくるのだ。

 会期は2010年2月12日~3月6日。開場時間は12時~19時。日曜休廊。会場のフォイル・ギャラリーは東京都千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビル201。問い合わせは03-5835-2285。

持ち込みナイトの参加者で、フォイル・ギャラリーで写真による個展を開くのは竹之内さんが初めてだ竹之内さんの使用カメラはコンタックスのT3とRXⅡ、645、シグマDP1、ニコンD2X

身の回りのものを常に撮り続けている

 竹之内さんは小学生の頃から、写真を撮るのが好きだったという。身近な風景や、友だちなどで、今もそのスタンスは全く変わらない。

「その頃は、上手に写真を撮って、家族を驚かせたり、褒められるのが嬉しかった」

 今もカメラはいつも持ち歩き、何かあると撮る。

「自分が落ち着く瞬間を探す。モノでも人でも、どこから見たら美しいか、良い表情に映るか。撮らない時でも考えていますね」

 会場に、真っ暗な中に小さな光がいくつも灯ったイメージがある。一見、星空を撮った写真のようだが、モチーフは花火だという。

 単純に花火が好きで、最初はセオリー通りに三脚を使って長時間露光で撮り始めた。見ていると、大きな花火が燃え尽きる時、白い小さな光になって落ちていく。

「それを短いシャッタースピードで撮ると、星のように見える。すぐに、そちらのほうが面白くなった」

(c)竹之内祐幸

日常と非日常が等価に存在する

 この個展のきっかけになったのは、フォイル・ギャラリーが定期的に行っている「持ち込みナイト」に竹之内さんが参加したことだ。主宰者の竹井正和さんが、希望者のポートフォリオを見て、参加者全員でディスカッションをするイベントだ。

「知人に出版社に作品を持ち込めと言われていたけど、知らない会社にいきなり電話できない(笑)。そんな時に、このイベントを偶然、ウェブサイトで知った。これならイベントだから電話できるって思いました」

 それが2009年1月末だ。そして、ギャラリースタッフの鮫島さんは、持ち込みナイトで竹之内さんの作品を見た最初の印象をこう説明した。

「ポートフォリオには、ポートレートや風景、そして携帯で撮った作品が並んでいて、彼の作品には独特の視点がある気がしました。また、彼の作品をずっと見ていく中で、格好が派手で個性的に見える人々も、街の公園などの日常の風景も同じように優しく、美しくて、竹之内さんにはすべてが等しく映っていることが伝わってきたのです」

プリント制作はエプサイトのプライベートラボで行った
(c)竹之内祐幸

 竹之内さんの友人に、パーティーでドラァグクイーンに扮する女性がいる。彼の写真が気に入って、いつの間にか被写体の一人になったのだ。

 山形へ一緒に撮影旅行に行った時、竹之内さんは宿泊先へ戻る途中で、印象的な坂道を見つけた。疲れていたので一度は素通りしたが、どうしても気になって明け方に撮影しに戻ったという。

「彼女は女性らしさとか、女性性をあざ笑うようなテーマでパフォーマンスをしています。それで敢えて女性性の象徴であるハイヒールを履き、ハンドバッグを手に、手袋をしてもらって、ヌードでその坂道を歩いてもらいました」

 展示した作品は、そんな彼女が夜明けの街に向かって行くイメージであり、選んだ作品の彼女は後ろ姿だ。

「実は彼女は化粧品で身体に『YES! FUTURE』というメッセージを描いていました。そのメイクをするのにトータル2時間半かかるのですが、ほとんどこの作品では見えていませんね」

(c)竹之内祐幸

個展を組む中で見えてきた自分のリアル

 持ち込みナイトから数ヵ月後に、個展の話が決まり、それから何回も、竹井さんと竹之内さんは個展をどうまとめていくか、作品のやり取りを重ねた。そこで竹井さんは、具体的な指示などは一切しなかったという。ただそのやり取りを通して、「自分が素直な気持ちで、自分の作品に向き合っていない部分を見抜かれている気がした」と竹之内さんは言う。

 その端的な1枚が砂浜に男たちがいる作品だ。

「ゲイのパーティーなんですが、大学の卒業制作に提出した写真で、その図録にはすごく小さく載せられました。なぜこんな写真を撮ったのかと、非難めいたことを言った友人もいて、自分の中では封印していた写真の1枚でした」

 それが竹井さんの言葉で、自らの中に知らず知らず作り出していた他者の眼の存在に気づき、それを取り払って、自分の作品を見直せるようになったのだ。

「作品に悪いことをしたな、と思いました。今は、自分で良いと思ったことを信じています。ドラァグクイーンにしても、センセーショナルな見方をする人が多いけど、僕にとっては美しく、愛しく見える。それが自分にとってのリアルなんです」

 世界の形は、一人一人の中に異なって存在する。ここは、その事実と、そのことがもたらす何かが受け止められる空間だ。

デジタルカメラで撮影中、その時、気に入らないカットを消していくと、無難な写真ばかりしか残らない
(c)竹之内祐幸


(いちいやすのぶ)1963年東京生まれ。4月某日、4回目になるギャラリーツアーを開催。老若男女の写真ファンと写真展を巡り、作品を鑑賞しつつ作家さんやキュレーターさんのお話を聞く会です。始めた頃、見慣れぬアート系の作品に戸惑っていた参加者も、今は自分の鑑賞眼をもって空間を楽しむようになりました。その進歩の程は驚嘆すべきものがあります。写真展めぐりの前には東京フォト散歩をご覧ください。開催情報もお気軽にどうぞ。

2010/2/19 10:00