写真とAI
デジタルコンテンツの「栄養成分」となる来歴情報。画像にコンテンツクレデンシャルを付与するWebアプリで出来ることとは?
2025年5月21日 07:00
アドビが4月に発表した「Adobe Content Authenticity」は、写真などのコンテンツを作ったのは誰で、どのように制作されたかといった来歴を示す「コンテンツクレデンシャル」(Content Credentials)を付与、検証するためのツールだ。
これまでは、PhotoshopやLightroomといったAdobeのツールで出力する際に付与するか、対応カメラで撮影する際に付与することはできたが、Adobe Content Authenticityでは、Webサイトにアップロードした画像に対してコンテンツクレデンシャルを付与することができるようになる。
すでに概要については過去の記事でお伝えしているが、アドビがさらに詳細を解説したので、その情報をお届けする。
アドビなどが開発したデジタルコンテンツの「栄養成分」
アドビが2024年に実施した調査によれば、クリエイターが感じている懸念点として、他社に作品を盗まれるなどコントロールができない生成AIの学習に同意なく使われる、などといったものがあるという。
別の調査でも、クリエイターの半数以上が生成AIによる同意のないトレーニングへの利用に懸念を抱いており、91%が自分の作品に来歴を示す情報を付与することを希望していた。反面、生成AIが役に立つという声も9割を超え、クリエイターにとっては期待と不安の両面があるようだった。
こうした調査から、アドビは、物理媒体の署名と同じように自分の作品に署名する新しい方法が必要とされていると判断。こうした背景もあって、アドビなどが主体となって設立されたのが「C2PA」と「CAI」という2つの団体だ。
C2PAは、デジタルコンテンツの来歴情報を署名付きで追加する仕様を策定している。いつ、誰が、どのように作成したかといった情報が安全に記録されるような仕様として開発されている。
CAI(Content Authenticity Initiative)は、C2PAの仕様に準拠したコンテンツ認証情報(コンテンツクレデンシャル)を開発する団体で、オープンソースとして公開している。
こちらはすでに4,500社以上という多くのメンバーが加入しており、キヤノン、ニコン、富士フイルム、パナソニック、ライカといったカメラメーカー(ソニーはC2PAに加入している)や、NHK、日経新聞社、読売新聞社といった日本のメディア企業も参加している。
スマートフォンメーカーの参画は少ないが、QualcommやArmが加入しているほか、SamsungのGalaxy S25シリーズがCAIに対応し、端末で生成したAI画像に対してコンテンツクレデンシャルが付与されるようになっている。今後アップデートで、カメラでの撮影時にもコンテンツクレデンシャルを付与できるようになるそうだ。
そのコンテンツクレデンシャルだが、アドビでは「デジタルコンテンツの栄養成分のようなもの」と表現。コンテンツの成分として誰が、いつ、どのように作成したかを書き込むことでコンテンツの所有者や作成者を示すことができる。
現在は、アドビのソフトであるPhotoshopやLightroom、生成AIツールのFireflyで付与できるようになっている。アドビ製品以外の対応製品は多くはないが、その代わりにアドビが提供しているのがAdobe Content Authenticityだ。
ブラウザでも来歴情報を確認できるAdobe Content Authenticity
現在はパブリックベータのWebアプリとして公開されており無償でコンテンツクレデンシャルを付与できるようになっている。必要なのは無料で作成できるAdobe IDのみ。来歴情報のうち、作成者として自分のSNSアカウントが設定できるほか、生成AIへのトレーニングを拒否する「Do Not Train」情報が設定できる。
アドビ製品のように、どのソフトでどのように編集したか、といった情報の付加はできないが、最大50個まで、一括して付加することができるというのが特徴となっている。
PhotoshopやLightroom、Fireflyの場合は、書き出し時に「Contents Credentials」を選んでアカウントや「編集とアクティビティ」を設定できる。編集とアクティビティは、Photoshopでの編集履歴や生成AIの利用など、操作内容が記録されるので、例えばAIを使っていないかどうかを示す、といった用途にも利用できる。
こうしてコンテンツクレデンシャルを付与したデジタルコンテンツをWebサイトにアップロードすると、対応サイトであれば画像に「cr」マークが表示され、クリックすることで来歴情報を確認できる。さらに「検査」ボタンを押せば詳細を確認可能。
対応サイト以外でも、ダウンロードした画像をCAIの検査サイトにアップロードすることで、コンテンツクレデンシャルを確認することができる。このコンテンツクレデンシャルの検査は、Adobe Content Authenticityのサイト上でも可能だ。
加えてAdobe Content Authenticityでは、Chromeの拡張機能も公開しており、非対応のサイトであっても、ブラウザの拡張機能からコンテンツクレデンシャルのチェックが可能になる。
サイト上や拡張機能を使ったチェックでは、コンテンツクレデンシャルが画像内に発見できない場合でも、「一致候補を検索」「Search for possible matches」機能を利用すると、アップロードされたコンテンツクレデンシャルを元に一致する画像を探し出してくれる。
アップロード時に画像のタグ情報などを全て削除するSNSプラットフォームなどでは、コンテンツクレデンシャルの情報も削除されてしまうため、そうした画像でも検査できるようにしたのが、このSearch for possible matchesだ。
単にコンテンツクレデンシャルが削除された画像だけでなく、コンテンツクレデンシャルが付与された画像をキャプチャしたといった場合にも検査で見つけ出せる。画像をクロップして保存し直してコンテンツクレデンシャルが消えた画像でも、元画像が2/3程度残っていれば探し出せる場合が多いという。
勝手にプリントアウトしてポスターとして張り出した、といった物理メディアの場合でも、そのポスターを写真に撮って検査するとコンテンツクレデンシャルが確認できる。
コンテンツクレデンシャルの広がりには、様々な事業者のサポートが重要になる。カメラメーカーは一部のカメラにとどまっているが、順次拡大の予定。スマートフォンカメラは現時点で不明だが、Qualcommのサポートによって広がる可能性はある。
課題はSNS事業者で、現時点ではLinkedInが対応し、「間もなくコンテンツクレデンシャルが表示されるように取り組みをしている」(アドビ)という。GoogleはYouTubeで対応を始めているし、FacebookやInstagramなどのMetaも対応を表明。TikTokも同様だという。Xでは、アップロードしたコンテンツクレデンシャル付きの画像をアドビの拡張機能で検査することは可能だ。
また、Do Not Trainのようなトレーニングを拒否する設定はあくまでお願いレベルだが、アドビではグローバルで各国との協議を行い、法規制などの検討も進めていく。
アドビは、Adobe Content Authenticityの機能をさらに拡充するとともに、事業者や政府関係者などとも連携することで、信頼できるデジタルコンテンツの実現を目指していきたい考えだ。