中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」
また訪ねたい海外の思い出「ジョイテツ! in the World」vol.01
2021年1月10日 09:00
新しい年がスタートしましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、またまた緊急事態宣言が発令されました。海外へ撮影に行くことは叶いませんが、今は我慢のとき。近い将来、新型コロナウイルスの蔓延が収束したときに再び訪ねたい、思い出に残る海外の撮影地を、その撮影エピソードとともにご紹介したいと思います。
1.「スイス三名山とチーズトースト」ミューレン山岳鉄道(スイス)
かわいい列車の背景にそびえるのは、スイス・ベルナーアルプスの三名山と呼ばれるアイガー、メンヒ、ユングフラウの美しい山容です。世界中でいろいろな鉄道風景を撮影してきましたが、このときばかりは息をのみながら撮影しました。例えるなら森進一と五木ひろしと北島三郎が同じステージで歌っているみたいな(笑)、それはそれはゴージャスな風景なのです。この「ミューレン山岳鉄道」は、他の鉄道と接続していない高地を走るため、起点のグリュッチアルプ駅まではロープウェイで登る必要があるという変わり種の鉄道です。
2枚窓でツートンカラーの電車は、ちょっと昔の日本のローカル私鉄に走っていたような懐かしいスタイル。というのも、高山を走るこの鉄道はほかの鉄道と接続していないため、簡単には新車にできないのです。すべてが1両編成ですが、観光シーズンは15分ヘッドで運転されているので、バンバン撮影できるのも嬉しいところ。登山客が多いため、電車には荷物を乗せるトロッコが連結されているのも、レトロでいい感じなのです。
もちろん山と列車を撮影するのもいいのですが、本当のオススメはたった一つの中間駅であるヴィンダーエッグ駅。列車の奥にある赤い屋根の建物はレストランで、名物であるチーズトーストが最高においしいのです!
パンにこれでもかとチーズがかけられたトーストの上に目玉焼き。これ以上ないくらい素朴なメニューですが、これが泣くほどおいしいんです。そう、アルプスの少女ハイジで、アルムおんじが暖炉で溶かしたチーズをのせたアレです。一口食べれば、気分はもうハイジ。さらにテラス席でスイスの民族音楽を聞きながら食べられますし、そのテラスから名山と列車を撮影することもできちゃいます。今となってはスイスのどんな絶景よりも恋しいチーズトースト。また食べに行きたいな。
2.「タイル輝くリスボンの夜」リスボン市電(ポルトガル)
白と黄色のツートンカラーのリスボン市電は、鉄道ファンでなくても一度は撮りたいと思う被写体ではないでしょうか? 写真の古いトラムが走るのは12番と28E番。リスボンの迷路のような町並みを、このかわいいトラムが走る光景はもう最高です。一番のオススメは「Cç. S. Vicente」電停付近で、狭い路地のなかを市電が走ります。まるで迷路のような狭い路地にトラムが走るこの風景は、僕がリスボン市で一番好きな風景です。
歩道に人が歩いていますが、本当にギリギリの幅しかありませんね。そうそう矢印のついた小さな看板は「コペンハーゲン・コーヒー・ラボ」というオシャレで広いカフェです。リスボンは公衆トイレがなく、とにかくトイレの場所を探すのに苦労しますが、このお店はトイレも完備しているので、撮影の拠点にぴったりなのです。
こちらもお気に入りの撮影地。ここはかなり交通量が多く、なかなか電車だけで撮影するのは難しい場所なのですが、運良く手前に車も来ず、暮れ色の空も残っていて、お気に入りの一枚になりました。石畳の急坂を、モーターを唸らせてオールドトラムが走る光景は、タイムスリップしたかのような素敵な風景でした。
そして僕が一番撮れて嬉しかった作品がこちら。リスボンはタイルの産地として有名ですが、歩道の一部もタイル貼りになっています。なんとかリスボンらしいタイルの歩道とトラムを撮りたくて試行錯誤しましたが、日中はタイルが光りすぎて存在感がなくなってしまいます。でも夜も更けて街の灯りが消えはじめると、奥にある信号の灯りを反射してタイルが幻想的に輝きだしました。僕はそのタイルにピントを合わせて、旧型の市電が来るのをじっと待ちます。何度かチャレンジしましたが、車がかぶったりしてなかなかうまく撮れません。
そして1時間ほど粘ったとき、車がない状態で12番の古いトラムが走ってきました。やっと撮れると安心した瞬間、遮るように歩道から人が飛び出しました。最悪だ〜っと思ったのですが、それが手をつないだカップルではあ〜りませんかっ! 僕は夢中でシャッターを押し、この作品が生まれました。リスボンのタイルの妖しい輝きと、情熱的な市民のシルエット。まるで映画のワンシーンのような光景を、みごとに撮ることができました。オブリガード! リスボン!
3.「パパウィーちゃんの平原で」ヤンゴン・ピィ線(ミャンマー)
ここはミャンマーを代表する都市ヤンゴンの郊外に広がる平原。牛が憩う牧歌的な風景のなかをのんびりと走ってきたのは、ヤンゴン・ピィ線の客車列車です。さすがにミャンマーの撮影ポイントはちんぷんかんぷんなので、Google マップでアタリをつけ、航空写真に切り替えながら車が入れる道を探してたどり着きました。日本で培った撮影地探しの勘は、世界でも通用しますね。
ミャンマーの長距離列車は、大雑把な時刻表はあるものの時間通りに列車が来たことはほとんどありません。でも地元の人たちがもうすぐ来るというので待っていると、本当に列車が走ってきました。ユラユラと脱線しそうなほど揺れながら走る列車が見えたときは感動したなぁ。何もない平原の風景と列車を撮ろうかと思いましたが、ちょっと単調すぎる気がしたので、牛がつながれた1本の木をメインに列車を撮影してみました。いい場所なので、もう1本列車を待つことにします。
いつ来るかわからない列車を待っている間、僕はずっと踏切を狙っていました。日本の田舎の踏切は何時間待っても人なんてほとんど通らないけど、この踏切はまぁ人が来るわ来るわで大興奮。学校帰りの子どもたちが、次々と踏切を渡ります。活気のある田舎の風景を目の当たりにして、昔の日本もきっとこんな感じだったんだろうなぁなんて思ってしまいました。こちらが手を振ると、笑顔で手を振り返してくれる子もいます。そんなやりとりに心が癒されていきます。
牛追いのお兄さんたちは、小一時間線路に座ってぼーっとしたあと、ゆっくりと線路を散歩。時間の流れが、驚くほどゆっくりしている気がします。あわただしい自分の日常生活を振り返って、「もう少しのんびり生きてもいいのかな?」な〜んて、柄にもなく思っちゃいました。
僕がずっと列車を待っていると、もの珍しさに子どもたちが集まってきます。日本人はもちろん、外国人に会うのもはじめてだという子どもたち。ミャンマーではあまりみかけない太ったオッサンに、立派なカメラを見て、子どもたちは興味津々。言葉は通じないけど、僕も子どもたちと一緒に遊んで大笑い。今となっては密に感じてしまうふれあいですが、こんな時間が忘れられなくて、僕はまた旅に出るのかもしれません。そして、鉄道の線路は子どもたちの最高の遊び場。歌ったり踊ったりしながら、楽しく過ごします。
中でもたくさん歌をうたい、楽しそうに踊ってくれたのがパパウィーちゃん。男の子みたいに見えるけど、女の子です。シラミが大流行していて、髪の毛を丸刈りにされちゃったそうです。裸足で線路を歩いている後ろからカメラを低くしてついていくと、なぜか大笑い。無垢な笑顔に、こちらも笑顔になってしまいます。
そのまま歩きながら、ファインダーを覗かずに撮影したのがこのカット。お世辞にも裕福とはいえない子どもたちですが、その元気あふれる純真無垢な背中には、素敵な羽が生えているように見えました。鉄道だけでなく、人とのふれあいが最高に楽しかったミャンマー。コロナが収束したら、またここを訪ねて、大きくなったパパウィーちゃんと再会したいな。