写真を巡る、今日の読書

第108回:写真家が惹かれる、ユニークな形態と歴史を宿した「名建築」の本

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

次の被写体を探しに

冬はだいたい山を巡って雪景色を撮っていますが、桜が散り初夏が近づくと、今年はどんな場所へ行って写真を撮ろうかと考えるようになります。風景であったり、人物であったり、旅先を考える際にはさまざまなモチーフから発想を広げられます。

それぞれ好きなモチーフがあるでしょうが、私の場合は「建築」が候補の上位に入ります。ニューヨークのフラットアイアンビル、ロサンゼルスのウォルト・ディズニー・コンサートホール、スイスのゲーテアヌム、バルセロナのサグラダ・ファミリア、ドバイのブルジュ・ハリファなど、写真史の名作にも登場するような名建築は世界中に存在します。

もちろん、日本にも優れた建築が数多くあり、建築を紹介する本を眺めているだけで行きたい場所が増えていきます。今日はその中から、いくつか手に取った本をご紹介します。

『スポメニック 旧ユーゴスラヴィアの巨大建造物』ドナルド・ニービル 著(グラフィック社/2020年)

1冊目は『スポメニック 旧ユーゴスラビアの巨大建造物』で、長らく欧州や世界の建築研究の対象から外されてきた旧ユーゴスラビアのモニュメント「スポメニック(Spomenik)」を特集したものです。

第二次世界大戦の遺構であるこれらの建築物/記念碑は、世界のどこでも見たことのない特徴的な造形を多く含み、写真だけでなく建造の歴史や意味、デザイン性なども詳しく解説されており、非常に興味深い内容です。

造形的な力強さだけでなく、旧ユーゴスラビアの歴史を知る上でも読み応えがあり、手元に置いておきたい書籍であると同時に、いつかこれらのモニュメントを巡ってみたいという欲求を掻き立てるガイドでもあります。

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『新 世界の家』ベルンハルトM.シュミッド 著(パイインターナショナル/2011年)

2冊目は『新 世界の家』。世界中を旅しながら家屋を撮影し続け、発表しているベルンハルト・シュミッドの著作の1つです。

1冊を通して、欧州、アジア、アフリカ、オーストラリア、アメリカなどの各大陸を横断する風景を眺めることができ、素材やデザイン、色彩など、国や地域ごとのユニークさ、多様性が強く感じられます。建築からは形態だけでなく、そこに暮らす人々の営みや生活の息吹までが伝わってくるようで、パラパラと眺めるだけでも世界を旅するような楽しみが得られます。

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『特薦いいビル 千日前味園ビル: 別冊月刊ビル』BMC 著(大福書林/2025年)

最後は『特薦いいビル 千日前味園ビル: 別冊月刊ビル』で、長く千日前のランドマークとして親しまれた「味園ビル」の記録であり、2025年7月に惜しまれながら営業を終了したこの場所の歴史的資料としても価値ある1冊です。

ダンスホール、ディスコ、クラブ、スナック、キャバレー、浴場、ホテルなどがひしめく大阪カルチャーの集合体として愛されたその内部のユニークなデザインや装飾が、余すところなく収められています。

私自身も何度か訪れたことがあり、このビルを舞台とした映画『味園ユニバース』(山下敦弘監督作)も記憶に新しいところです。このビルの存在をよく知る方にも、初めて知る方にもぜひおすすめしたい1冊です。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。