写真を巡る、今日の読書
第104回:技術習得からの解放――表現の根本にせまる指南書
2026年2月18日 07:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
技術習得からの解放
前回に引き続き、写真教本に目を向けてみたいと思います。現在発売されている様々な書籍と、もう少し以前、たとえば私が学生だった2000年前後くらいの本を比べてみると、ずいぶんその内容に変化があることがわかります。
たとえば、2000年前後というとデジタル写真の黎明期にあたり、まだフィルムカメラが全盛だった時代です。その頃の写真教本を読むと、露出やピント、構図、暗室技術などの技術解説を主とするものが多く見られます。
一方現在は、技術というより考え方やアイデア、視点を重視したものが多くあるようです。実際、デジタルカメラの進化によって撮影者がフレーミングを決めてシャッターを押しさえすればほとんど完璧に撮影できるようになっていますから、フィルム時代のようなシビアな撮影技術を習得する必要がなくなったとも言えます。技術習得から解放されたことで、表現そのものの根本、発想の方法やコミュニケーションの仕方、ストーリーテリングのセオリーといったものに注目されてきているのだと思います。
『人見知りでも女の子を撮りたい!』青山裕企 著(雷鳥社/2019年)
今日紹介する1冊目は、『人見知りでも女の子を撮りたい!』です。著者は数多くのグラビア写真集でも知られる青山祐企です。青山は他にも多くの写真教本を出版していますが、本書は写真撮影時のコミュニケーション術に焦点を当てた1冊です。
女性の写真は撮りたいものの、「女の子を前にすると言葉が出ない」「ポーズの指定がうまくできない」「もっと会話できるようにしたい」といった、青山自身が写真を始めた頃に感じていた悩みに答えるものです。実際、どうすれば緊張をほぐせるか、うまく指示が出せるかといったことを、実際の写真を掲載しつつ解説しています。
私自身、いまだに撮影時の被写体とのコミュニケーションに悩むようなことはありますので、他のカメラマンがどうしているのかは非常に興味深いものでした。異性を撮るだけでなく、同性や家族、子供など多くの人物写真にも当てはめられる撮影術だと思います。
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『写真からドラマを生み出すにはどう撮るのか? 写真家の視線』高橋伸哉 著(インプレス/2020年)
2冊目は、『写真からドラマを生み出すにはどう撮るのか? 写真家の視線』です。鑑賞者を惹きつける写真のひとつに、物語性の高い写真があります。1枚の静止画であるにもかかわらず、前後のストーリーが想像されたり、豊かな感情やその場の空気感を表現したりするような写真です。本書は、そのような情景ポートレートやシネマチックな写真を得意とする髙橋伸哉によってまとめられた1冊です。
序章で著者は「写真家は監督であれ」と言います。「監督・脚本・演技が上手くいっている写真は、フィクションであることを感じさせず、ノンフィクションとして人の心に届く」という言葉が、本書全体を貫くコンセプトであると言えるでしょう。その考え方に基づいて、どのように舞台を設定し、色や光を使うのかが丁寧に解説されています。掲載されている写真そのものが参考になるため、そのヴィジュアルをアイデアとして視覚的に吸収できる本でもあります。
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『写真がもっと好きになる。改訂版』菅原一剛 著(インプレス/2023年)
最後は、『写真がもっと好きになる。』です。長く第一線で活躍し続ける写真家・菅原一剛による、「ほぼ日刊イトイ新聞」で連載された内容がまとめられた1冊で、2008年に刊行された書籍の改訂版となります。
「写真とは何か?」という普遍的な問いに触れつつ、レンズを通したものの見方や、表現に必要な最低限の写真技術、光の使い方が穏やかな語り口で綴られています。
エッセイ集のように読むことができるため、机の傍らに置いて休憩がてら少しずつ読み進めるといった読書にもおすすめです。読んでいると、「写真がある毎日っていいなあ」という感覚を改めて感じられるようで、タイトル通り、写真がもっと好きになる1冊だと思います。





