写真を巡る、今日の読書
第87回:スティーブン・ショアが牽引したニューカラー表現を写真集で辿る
2025年6月11日 07:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
ニューカラーの原点
スティーブン・ショア(Stephen Shore 1947-)の写真作品は、どこかで1度はご覧になったことがあると思います。幼少期から写真にのめり込み、10代でニューヨーク近代美術館に作品を売り込んでエドワード・スタイケンに認められるなど、早くからその才能を発揮し、1970年代からは大判カメラによるカラー写真表現を行うことで、いわゆる「ニューカラー」と呼ばれる流れを牽引した写真家の1人として知られています。
『American Surfaces』や『Uncommon Places』は、学生当時の私も熱心に眺めていましたし、その影響は非常に多くの写真家に広がっていたと思います。現在も、都市風景やロードムービー的な手法でのカラー写真を志す写真家にとっては、はじめに参考にする写真集の1つではないでしょうか。
この連載でも、Apertureから再版された『Stephen Shore: Uncommon Places: The Complete Works』は以前ご紹介しました。教育者としても積極的に活動したショアの写真論/写真教育の一部は、『写真の本質』(PHAIDON)でも読むことができます。いわば、写真を志す全ての人が1度は触れるべき基礎教養としての写真家とも言えるでしょう。
そんなわけで、今日は、現在手に入れることができるショアの写真集のなかからいくつかを紹介してみたいと思います。
『WINSLOW ARIZONA』Stephen Shore(アマナ/2014年)
1冊目は、『WINSLOW ARIZONA』。ダグ・エイケンによってキューレーションされた「Station to Station」プロジェクトのために撮影された写真がまとめられた1冊です。実際の発表は、南カリフォルニアの砂漠に囲まれた小さな町のドライブインシアターで上映される形で行われています。
1972年の『 American Surfaces』の撮影で訪れた町を再訪する試みであり、ショアは本作品をデジタルカメラによって1日で撮り下ろしています。長年使い続けた8x10の大型カメラで培われた視点も興味深いですが、短い撮影期間でのシークエンスの描き方も参考になるのではないでしょうか。
上映時には、ノイズロックデュオのNo AgeとBECKが演奏を行ったということで、彼らの音楽を聴きながら本写真集を眺めるというのも面白い体験になるかもしれません。
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『Factory』Stephen Shore(著)、Lynne Tillman(寄稿)(Phaidon Press/2016年)
2冊目は、『Factory』。10代の後半に出入りしていた、アンディ・ウォーホルのファクトリーで捉えた日常や人物が収められています。若き日のショアの視点もそうですが、ウォーホルが先導したファクトリーの当時を内側で記録した点でも非常に興味深く、美術史的価値の高い写真集でもあります。
収録されている写真も、主にモノクロが使われており、70年代以降のカラー表現へ至る以前の表現が垣間見られます。『The Velvet Years: Warhol’s Factory 1965-67』などいくつかのタイトルで関連内容は出版されていますので、本書の他にも探すことができるでしょう。
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『Transparencies: Small Camera Works 1971-1979』 Stephen Shore(MACK/2020年)
最後は、『Transparencies: Small Camera Works 1971-1979』。1970年代、ショアはカラー写真表現による新たなアプローチを探りながら大型カメラによる撮影を続けていましたが、その旅の間、35mmの小型カメラでも撮影が行われていました。本書は後年になって発見されたそれらの写真をまとめ、刊行された写真集です。
大型カメラで厳密に撮影された写真群に比べ、本作に収められた写真はいかにもスナップショットといった趣きで、傾いた画面や広がりのある構図など、より直感的なショアの視点が感じられるようです。現在では販売されていない、コダクロームという外式のポジフィルムによる深く鮮やかな色彩も印象的です。
35mmの2:3という矩形は大型カメラの比率に比べて横長になり、フレームの外を感じさせ、奥行きや動きが強調されることも良くわかります。