デジカメ Watch


お年寄りが撮りたいものは?

 最近、還暦に達した両親に良く尋ねられるのが、「どんなデジカメを買ったらいいのか」という質問だ。某社のインクジェット複合機を購入してからというもの、デジタルカメラへの興味が一気に進んだ模様だ。

 よくあるのが、突然「量販店の××が○○円だったが、買った方がいいのか?」という電話。しかも××の部分が往々にして存在しない型名だったりと、内容が混迷を極めている。面倒なのでとりあえず「店員に聞けば?」と答えることにしているが、最近は開き直って「とにかく気に入ったものを早く買ってもらうのが一番」と考えるようになった。そこで、「還暦の両親が満足するデジカメとは何か?」を、何人かのお年寄りへのリサーチを交えながら考えてみた。

 まず、デジタルカメラを使う目的。これは圧倒的に団体旅行での記念撮影だという。ここで「広角28mm」というキーワードが浮かぶが、撮った写真を見せてもらうと「人物+メジャーな風景」、「人物+記念碑」というパターンが多い。こうしたケースでは人物に近づかないと大きく写せないので、往々にして28mmよりも35mmや50mmの方が撮りやすい。一応両親に焦点距離と画角の関係を説明したものの、理解してもらえたとは思えない。現在使っている38mm相当スタートの3倍ズームレンズ機で不自由を感じていないらしいので、あえて28mmを薦めることはないだろう。

 また、広角と並ぶ昨今のキーワード「手ブレ補正」や「高感度」についても、さほど魅力を感じない様子だ。具体的には、「そもそも室内では撮らない」、「撮ったとしてもストロボが自動的に光るのでOK」というリサーチ結果が出たためだ。ただし「ブレ」という言葉は知っているという。CM効果のおかげだろう。結果、「ないよりはあった方が良い」とのなげやりな回答を得た。一方、顔検出機能を説明すると、それなりに興味を示した。


「カメラには詳しくない」とにかく簡単に撮れるものを!

 もっとも根源的なニーズは、「押すだけで普通に写る」ことだという。いつも使っていない機能が、変なタイミングで起動するのが怖いとのこと。これについては、各社が搭載する初心者向けのモードがぴったりきそうだ。また、老眼が進む父親としては、液晶モニターの大きさと明るさが重要とのこと。現在ラインナップが増えている3型液晶搭載モデルで決まりだろう。画面が大きくなると、相対的にメニューのフォントが大きくなるのもうれしいポイントだろう。

 さらに「充電したくない」という無茶苦茶な要望もあった。確かに、レンズ付きフィルムの気軽さと比べればさもありなん、といったところ。どの充電器を持って行けば良いのか悩む上、旅先で充電するのを忘れがちだという。ただし、1日あたり20枚程度しか撮らないそうなので、最近の製品なら、フル充電しておけば充電器を持参する必要はないはず。と説明したら、「充電するのを忘れて持って行く」と反論された。もはや打つ手はない。ならば単3電池対応モデルを与え、アルカリ電池を持たせるのがベターに思う。もし電池がなくなっても、アルカリ電池なら売店で購入できる。

 初心者向けモード、3型液晶モニター、単3電池対応……どうやらこれらを兼ね備えて、さらに購入しやすい価格の製品が良いようだ。今回はとりいそぎ、各社のラインナップから代表的な機種をピックアップしてみた。価格を重視し、あえて型落ちを狙う手もあるが、今回は長く使ってもらいたいので、現行製品から選んでみることにした。


●オリンパス

 「μ」と「CAMEDIA」の2本立てでラインナップするオリンパス。中でも今回のセレクトでは、初心者を意識した「CAMEDIA FE」系が魅力的だ。しかも新製品の「CAMEDIA FE-290」は、23.4万画素の3型液晶モニターを装備。「取説不要」をアピールする「かいけつナビ」も面白く、メニュー画面から「逆光で撮影したい」や「光源にあった自然な色にしたい」などの項目を選ぶと、目的に応じたカメラの設定を自動で行なう仕組み。ただし両親が「被写体」、「逆光」、「光源」といった専門用語を、旅先でとっさに理解するとは思えないが……。μシリーズと違い、手ブレ補正や顔検出機能がないものの、今回の選択基準ではあまり気にならないだろう。


CAMEDIA FE-290

 28mmからの光学4倍ズームレンズや、3型液晶モニターという豪華な装備もポイントながら、1ボタン1機能というFE系のシンプルさを踏襲するところが良い。AUTOモードがダイヤルに配置され、一目で「AUTO以外になっている」のがわかる。残念なのは単3電池ではなく、専用リチウムイオン充電池であること。CIPA規格準拠の撮影枚数も約170枚(平均)と少なめだ。FE系の秋冬モデルはすべてリチウムイオン充電池になってしまい、両親にとって薦めづらいものがある。


関連記事
オリンパス、3倍ズーム搭載1,200万画素機「FE-300」など(2007/08/23)

●カシオ

 量販店で初心者に人気のカシオだが、意外にも今回の条件に近い機種は少ない。あえて挙げるなら、2.8型液晶モニターを搭載する新製品「EXILIM CARD EX-S880」だろうか。しかし店頭予想価格は4万円と高価だし、今回のウリである「YouTube撮影モード」も宝の持ち腐れになりそう。液晶モニターが大きく明るいだけにもったいない。手ブレ補正がないのもマイナスだ。なお、カシオ機はモードメモリで撮影時の設定を細かく記憶できるので、あらかじめセットしておき、後は「メニューを触らせない」という方法もとれる。


EXILIM CARD EX-S880

EXILIM ZOOM EX-Z77
 EX-S880の代わりに、同じく新製品の「EXILIM ZOOM EX-Z77」を検討してみた。というのも前モデルの「EXILIM ZOOM EX-Z75」に続き、メニュー表示と機能を大胆に絞り込んだ「easyモード」があるからだ。起動するには撮影メニューをたどる必要があるので、そもそもに両親にそこまで行き着けるのか、という心配は残る。が、たった4項目しか設定できない(そのうち1つはeasyモードのON/OFF)というシンプルさが、安心感を与えてくれそうだ。


【お詫びと訂正】記事初出時、EX-Z77に「手ブレ補正と顔検出がない」との表記がありましたが、本着には顔検出機能が搭載されております。また、光学式手ブレ補正はないものの、高感度タイプの手ブレ防止機能が装備されています。お詫びして訂正させていただきます。


関連記事
カシオ、動画機能を強化した薄型コンパクト「EX-S880」(2007/08/28)
カシオ、2.6型ワイド液晶搭載の薄型エントリーモデル「EXILIM ZOOM EX-Z75」(2007/01/30)

●キヤノン

 キヤノンのコンパクトデジタルカメラといえば、IXY DIGITALとPowerShot。そのうち、3型液晶モニターを搭載するのが、「PowerShot G9」と「IXY DIGITAL 90」だ。初心者の両親に、フルマニュアルなマニアック機であるPowerShot G9を薦めるのは気がひける。その点、IXY DIGITAL 90なら、3万円前後でスタイリッシュ、さらにモードスイッチをカメラアイコンに合わせるだけでオートモードになるなど、3型液晶モニター以外にも薦められるポイントが多い。ただし、単3電池ではない。


IXY DIGITAL 90

 PowerShotでは、単3電池が使える「PowerShot A720 IS」や「PowerShot A570 IS」なども有力候補だ。比較的実勢価格が安いPowerShot Aシリーズだが、この秋からは中核モデルに手ブレ補正と顔検出機能搭載モデルが大幅に増えたこともあり、魅力が大幅に増した。本体サイズを問わない場合、IXY DIGITALと同じ機能でボタンやダイヤルが大きいこともあり、初心者には有力な選択肢になるだろう。また、本機に限らずキヤノン製品は、本体に「イージーダイレクトボタン」を備える。「基本的に自宅で全部プリントする」という家庭には、使いやすい製品となるに違いない。


PowerShot A720 IS

PowerShot A570 IS

関連記事
キヤノン、3型液晶モニター搭載の薄型モデル「IXY DIGITAL 90」(2007/02/22)
キヤノン、手ブレ補正付き6倍ズーム搭載の低価格モデル「PowerShot A720 IS」(2007/08/20)
キヤノン、4倍ズームと手ブレ補正の「PowerShot A570 IS」(2007/02/22)

●ソニー

 現行ラインナップでは、3型液晶モニターを搭載する「サイバーショットDSC-T100」が候補。光学5倍ズーム、手ブレ補正、高速な顔検出と魅力的な基本スペックながら、実勢3万6,000円前後は少々敷居が高い。一方、CIPA規格準拠で340枚撮れるのは○。出かける前の充電を怠らなければ、旅行中は充電なしで十分まかなえるだろう。オートモードへのダイレクトボタンはないが、電源ON/OFFがレンズカバーの開閉に連動するのは初心者にうれしい配慮だ。


サイバーショットDSC-T100

 はっきりしたエントリー向けシリーズを持たないサイバーショットだが、親しみやすい雰囲気を持つDSC-Wシリーズが該当しそうだ。1,200万画素の「DSC-W200」は別格だが、720万画素のDSC-W80をはじめ、DSC-W50、DSC-W35も現行機種。中でもDSC-W80は実勢2万6,000円前後と、手ブレ補正と顔検出を搭載するモデルとしてはコストパフォーマンスが高い。DSC-T100と同じく単3電池ではないのは残念だが、こちらもスタミナ340枚なので、一般的な選択肢としては、大きな不満はないだろう。


サイバーショットDSC-W80

関連記事
ソニー、5倍ズームになった3型液晶搭載「サイバーショット DSC-T100」(2007/02/28)
ソニー、光学手ブレ補正が付いた「サイバーショット DSC-W80」(2007/02/28)

●ニコン

 最新機種の「COOLPIX L15」が強力な候補になり得る。何といっても単3電池駆動。さらに電源ONですぐ撮影できるという「らくらくオート撮影」を搭載する。また、弱いといわれた顔検出機能を強化した上で、COOLPIX L14から引き続き手ブレ補正機構を搭載。液晶モニターは3型には届かないものの、2.8型と大きめなのもうれしい。それでいて店頭予想価格は2万5,000円前後だ。


COOLPIX L15 COOLPIX L14

 同じく単3電池駆動の「COOLPIX L14」も良い選択だろう。COOLPIX L15と同様、らくらくオート撮影を装備。さらにCIPA規格準拠の撮影枚数が、アルカリ電池で約440枚と群を抜く。店頭予想価格2万円前後と廉価のなのも見逃せない。液晶モニターが2.4型なのが悔やまれる。


関連記事
ニコン、手ブレ補正搭載機や電池寿命最長のエントリーモデル(2007/08/30)

●パナソニック

 何といっても秋モデルから搭載する「おまかせiA」が魅力的。明るさ、距離、顔検出、動きを認識して、「顔」、「顔&夜景認識」、「風景認識」、「動き認識」、「接写認識」という5つのシーンを自動で判別するもの。初心者にとって強力なアシスト機能といえる。搭載機のすべてがダイヤル操作だけで、おまかせiAを選択できる。

 おまかせiAを搭載する機種のうち、お薦めなのが「LUMIX DMC-FX55」だろう。3型液晶モニターを搭載しながら、奥行き22.8mmと、2.5型搭載機なみに薄いボディも特徴だ。その代わり単3電池ではなくてリチウムイオン充電池になる。今回のセレクトではあまり関係ないが、広角28mmからのレンズを採用するのはポイントが高い。


LUMIX DMC-FX55

 忘れてはならないのが、3型液晶モニターで10倍ズームの「LUMIX DMC-TZ3」だ。何といっても「きみまろズーム」である。ずばり中高年をターゲットとした広告展開が話題を呼んだ。おまかせiAはないものの、前身である「かんたんモード」は搭載。ダイヤルをハートマークにあわせるという、簡単かつ確実な選択方法を採用する。


LUMIX DMC-TZ3

 単3電池モデルでは、「LUMIX DMC-LZ7」と「LUMIX DMC-LS75」から選択できる。どちらもダイヤル式のかんたんモードを装備。また、パナソニックのデジタルカメラは、電源ON/OFFがスライドスイッチなのが好感が持てる。わかりやすい上、移動時に不用意に動くことがなく、操作もボタン長押しより確実だ。


LUMIX DMC-LZ7

LUMIX DMC-LS75

関連記事
パナソニック、同社初の顔認識を採用した「LUMIX DMC-FX33」(2007/07/24)
パナソニック、28mmからの10倍ズームモデル「LUMIX DMC-TZ3」(2007/01/31)
パナソニック、6倍ズームの乾電池対応機「LUMIX DMC-LZ7」(2007/01/31)
パナソニック、手ブレ補正搭載の低価格モデル「LUMIX DMC-LS75」(2007/01/31)

●富士フイルム

 お薦めは単3電池対応の「FinePix A900」。1/1.6型有効903万画素のスーパーCCDハニカム、光学4倍ズームレンズというスペックながら、実売2万円強という低価格がうれしい。その代わり手ブレ補正も顔検出もない。しかし、モードダイヤルによるオートモードの選択や、シンプルなメニューが初心者に使いやすいだろう。液晶モニターは2.5型だ。


FinePix A900

 最新機種では、2.7型液晶モニターを採用する「FinePix Z100fd」に注目したい。人気ラインの新モデルだが、価格も4万円前後と高め。バッテリーもリチウムイオン充電池でCIPA規格だと撮影可能枚数が約150枚と心もとない。ただし、レンズカバーを開くだけで起動する操作性や、この大きさで5倍ズームレンズを備えることに拍手したい。


FinePix Z100fd

関連記事
富士フイルム、光学4倍ズームの900万画素機「FinePix A900」(2007/06/05)
富士フイルム、5倍ズーム搭載の薄型機「FinePix Z100fd」(2007/07/26)

●ペンタックス

 代々、初心者向けモードとして「グリーンモード」を搭載するペンタックスのOptioシリーズ。グリーンボタン一発でオートになる操作性も秀逸だ。また、現行の全機種が搭載する「オートピクチャ―モード」はカメラが自動的にシーンモードを選ぶという、これも多いに初心者受けしそうな機能といえる。

 単3電池搭載モデルは「Opito E40」。今世代から顔認識AF&AEに対応し、よりイージーな撮影が可能になった。実勢2万円前後のエントリークラスながら、有効810万画素と格落ち感が少ないのも特徴だ。ただし液晶モニタ―は2.4型と小さめ。


Opito E40

 ペンタックスの3型液晶モデルとしては、タッチパネル式の「Optio T30」を挙げておこう。こちらも現行機種から顔認識AF&AEが可能になっている。グリーンモードも搭載。実勢価格は3万5,000円と、ちょっと高めだ。


Optio T30

関連記事
ペンタックス、顔検出機能が付いたエントリー機「Optio E40」(2007/07/12)
ペンタックス、3型タッチパネル液晶の「Optio T30」(2007/01/23)

●リコー

 単3電池、3型液晶モニタ―とも一般向け現行機種に存在しないリコー。ただし、「Caplio R7」は、「Caplio R6」に引き続き2.7型液晶モニターを採用する。今回からメニューが整理されてとてもわかりやすくなった。任意の機能を割り当てられる「ADJ.ボタン」など、操作面で玄人受けする印象のCaplioだが、オートモードは上面のスライドスイッチで設定するタイプ。28mmからの7.1倍ズームに加え、手ブレ補正、高感度、顔検出とトレンドを全て抑えるだけに、価格は4万7,000円前後と少々敷居が高い。


Caplio R7

関連記事
リコー、光学7.1倍ズームを搭載した薄型機「Caplio R7」(2007/08/28)

まとめ

 こうしてみると、今さらながら単3電池駆動のモデルが減ったことに驚く。ただし、エントリークラスにはしっかり残しているメーカーが多いのでひと安心だ。その代わり、価格面からか3型液晶モニター搭載機がこのクラスにはない。どちらをとるか、悩むところだ。実際使ってみて、3型液晶モニターは実に気持ちよい。ただし、2.5型より明るさが不足しているケースが多く見られ、まだまだ進化の途中であることも感じる。

 また各社とも「オートモード」をはじめとする、初心者向けモードをいかに重視しているかが改めて確認できた。忘れがちだが、「押すだけで普通に写る」という機能は、最大にして永遠のニーズ。手ブレ補正や顔検出もその流れに沿うかたちで進化した結果なので、予算があれば必須機能として重視した方が良いだろう。3型液晶モニターを含め、すべてのエントリークラスが、これらの恩恵を受けられるようになる日も近いと思う。




本誌:折本 幸治

2007/09/03 15:01
デジカメ Watch ホームページ
・記事の情報は執筆時または掲載時のものであり、現状では異なる可能性があります。
・記事の内容につき、個別にご回答することはいたしかねます。
・記事、写真、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。

Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.