特別企画
デジタル時代の“新ディスタゴン”現る!!
新ツァイスレンズ「Distagon T* 1.4/35 ZM」をライカMとα7 IIで試す
Reported by 赤城耕一(2015/5/29 07:00)
ディスタゴンT* 1.4/35 ZMは、コシナとカールツァイスのコラボレートによるツァイスZM(Mマウント互換)レンズシリーズでは久しぶりの新製品となる注目の大口径広角レンズである。
ZMレンズシリーズは当初、同社のツァイス イコンやライカMシリーズをはじめとするMマウントレンジファインダーカメラのために開発された。とくに広角系レンズでは、一眼レフ用のそれと異なり、ミラーの駆動距離を考慮する必要ないため、バックフォーカスに余裕がうまれ、設計の自由度が増すことが大きな特徴となっており、このため多くの広角レンズ系では対称型設計を基本としたレンズに与えられる名称「ビオゴン」名が主に冠された。
ビオゴンはツァイスの名設計者ルードヴィッヒ・ベルテレによる発明で、もはやこの名称は神格化されているほどだ。
なぜ“ディスタゴン”なのか?
本レンズの名称はこの“ビオゴン”ではなく、“ディスタゴン”T* 1.4/35 ZMとなっていることにまず注目してみたい。
「ディスタゴン」の名称はディスタンス(距離)とゴン(角度)を組み合わせたもので、主にハッセルVシステムやヤシカ・コンタックスなど一眼レフ用のレトロフォーカス(逆望遠)タイプの広角レンズ名に冠されており、ツァイスの設計者、エルハルト・グラッツェル博士が最初に開発したものだ。
初期のレトロフォーカスタイプのレンズは、大口径化には有利で、周辺光量も比較的豊富だが、ディストーションが残存しやすく、とくに大口径レンズでは至近距離においての周辺部の性能低下の懸念が指摘されたこともある。
このため各社とも工夫をこらし、今では光学設計の進化に伴い新硝材の採用や非球面レンズが容易に使えるようになったこと、フローティングシステム(遠近距離収差補正)機能の採用によって、これらのリスクは解消されている。
したがって、本レンズは旧来の概念にとらわれることなく、デジタルレンジファインダー機とミラーレス機のために新たに設計された、新時代の“ディスタゴン”という解釈をもってみたほうがよいだろう。
レンズ構成は7群10枚と贅沢なもので、非球面レンズとフローティングシステムが採用され、撮影距離や絞りによらず、行き届いた収差補正が行われていることが特徴である。外観はZMシリーズ広角レンズとしては大きめで全長も長めだ。重量は381g。
MFレンズならではの高い品位
シルバーとブラック仕上げがそれぞれ用意され、モノとしての存在感が重視されているのがいい。小型化を追求するよりも光学性能を重視した考え方で設計されているのがいかにもツァイスらしい思想だが、カメラに装着した時のバランスがよく、撮影時には重さを感じさせない。
第1面の凹レンズの存在も個性的で、引き込まれるような艶があるのがいい。絞りのクリック感や、フォーカスリングのロータリーフィーリングもMFレンズならではの品位がある。
レンズの鏡胴が長くなるとレンジファインダーカメラでは、ファインダーの右下のケラれの心配が出てくるが、手元にあるM型ライカ数種とツァイス イコンに装着してみたところ、ファインダー右下が少しケラれる程度で、実用上はほぼ問題のない程度だ。
専用のフードにもスリットが入っているため視認性も問題ない。もっとも最新のライカM-P(Typ240)やM(Typ240)では、EVFやライブビューが使用できるので、厳密なフレーミングを行いたい場合やケラれが気になるときはこちらを利用すればより確実になる。
余裕のあるシャープな描写力
実際の描写性能をみると、像は開放から非常にシャープネスが高く、繊細な描写をすることがわかる。合焦点のソリッドな再現、コントラストの高さには驚かされるほど。画像の平坦性もよく、チカラのあるレンズという印象を受ける。
開放時の周辺光量落ちも軽微で、このあたりにディスタゴンとしての特徴を感じさせる。ただ、あまりにも高性能なため、ポートレートなど軟らかめの写真を得たいという場合はカメラ側のコントラストやシャープネスなどパラメーターをやや弱めに設定したほうがよい場合も出てくるかもしれないが、これはレンズのチカラに余裕があるからこそできる技でもある。
絞りによる性能変化は、ほとんど感じないので、絞りは光量調整と被写界深度のコントロールのためのみに存在すると断言してよい。歪曲収差はほぼ0に等しく、建築物での撮影にも不自然さを感じさせない。
大口径レンズということでボケ味も評価要素になるが、標準、望遠系のレンズと異なり、前後ボケは小さくなるが、非球面レンズを搭載した広角レンズにありがちな巻き込んだようなクセはなく良好である。コーティングは最新のT*。逆光時の性能低下も小さい。
是非使いたい「クローズフォーカスアダプター」
今回は使用カメラにライカM(Typ240)とソニーα7 IIを選択した。
前者は正攻法のレンジファインダーで使用してみたが、速写性がよく、街のスナップや風景にも重宝した。レンジファインダーによるピント合わせの精度も問題ないが、より確実性を上げるため、至近距離、かつ絞りを開き気味に設定した撮影の場合のみEVFやライブビューを使い、拡大表示を併用することによってフォーカスを厳密に追い込んでみた。撮影方法をフレキシブルに選択することができ、合理的に結果を追求することができるのが最近のライカ撮影術というものであろう。
後者ではコシナのマウントアダプター「VM-Eクローズフォーカスアダプター」を併用して使用したが、アダプター側のフォーカスリングのロータリーフィーリングも完璧な仕上がりで、この種のアダプターの中では突出した操作性だ。
ほぼ純正のEマウントMFレンズと変わらない使用感が得られたことに驚かされた。また、0.7mという最短撮影距離よる制約がなくなり、実質的には0.4m程度まで寄れる。このため簡易的なクローズアップ撮影も可能になるので、撮影領域はさらに拡大する。
またα7 IIの大きな特徴であるボディ内手ブレ補正も使用できるので、微量光下の撮影ではたいへん重宝する。α7 II装着時には忘れないようにカメラに焦点距離を設定したい。
3本の35mmレンズが揃った
ツァイスZMシリーズの35mmレンズは本レンズのほかにビオゴンT* 2.8/35mm ZM、ビオゴンT* 2/35mm ZMがラインアップされている。この2本のレンズには「ビオゴン」名が冠され、対称型設計をさらに発展させたもので、硝材には異常分散ガラスは使われているものの、非球面レンズは採用されていない。
球面レンズでも対称型とすることでディストーションに対する補正に優れていること、レンズの味わいを残しつつ高性能化に成功している。
ここに今回ディスタゴンT* 1.4/35 ZMが加わったことで、ZMシリーズは“35mmの目”を3種持つに至った。撮影目的や予算に応じて選択することができるほか、それぞれの微妙な描写の違いを楽しんでみるのも面白いだろう。
コシナ・ツァイスのZMレンズシリーズはもはやライカをはじめとするMマウント互換のレンジファインダーカメラのためだけにあるのではなく、各種ミラーレス機の登場によって、ユニバーサルマウントとしての性格を持ちつつあるわけだ。
協力:株式会社コシナ
モデル:紗々