スペシャルインタビュー:フォトグラファー山田敦士氏

Reported by
(c)山田敦士

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 ファッション、広告などの分野で活躍し、2006年に富士フォトサロン新人賞を受賞。写真集「LOVE! LIFE! LIVE!」を発売するほか、海外のギャラリーでの作品発表や、実験的な写真プロジェクト「フォトグラファーズ・サミット」を主催する写真家、山田敦士氏にお話をうかがう機会を得た。ここでは山田氏へのインタビューを掲載する。

写真の知識はほぼ独学

山田敦士氏

――写真を始めたきっかけについて

「最初は写真を始めるつもりもなく、オーストラリアへ旅に出ていた時、友達に借りたカメラを使ったことがあったんですが、その時は何が面白いのかまったく良さがわかりませんでした」

「帰国後、すぐにMacを買いました。当初は広告デザイナーになりたかったのですが、前の職場の上司が雑誌を作っていると聞いて遊びに行ったとき、手伝ってみないか、という話になり、手伝い始めました。当時、創刊したばかりの雑誌ということもあって、印刷代も払えないくらい赤字でしたよ。手伝っているうちに、クライアントへの営業や取材への同行もするようになりました」

「取材やインタビューに同行する中で、人手が足りないからという理由で、当時1万円くらいで中古のカメラを買い、撮影をするようになりました。それが写真を撮り始めたきっかけといえばきっかけですね」

「フォトグラファーは『誰々に師事』という経歴の人が多いですが、僕の場合、写真に関しては誰も教えてくれなかったので、基礎的な知識はほぼ独学で身に付けました。当時はリバーサルで撮影していたし、情報もあまりなくて覚えるのが大変でしたが、雑誌の仕事でいろんな現場に行けて、フィルムを会社の経費で使えたのはいい経験でした。自分の好きなことができた雑誌だったので、誌面には夜のスナップやライブを撮った写真のページを勝手に作ったりもしていましたよ」

「今でもそうですが、写真は現場に行かないとどういう状況なのかわからないところがあって、天候や機材のコンディションなど、予定通りにいかないことは何かしら必ず起こります。体感的というか、場の空気が写真に写ったりするし、同じ機材を使っても色々な写真が撮れてしまうというところが面白いというのがあって、そこからはまっていったというのが大きいと思います」

テーマは「いま生きること、その一瞬の輝き」を撮り続けること

――夜の街の魅力とは

「僕のスタートとして、自分が本当に撮りたいものは何かと考えたとき、自分が普段遊んでいる場所とか、そこに集まってくる人々を通して何かを見たかったというのがありました。夜の街には『今日は何か楽しいことが起こるかもしれない』というような、ドキドキ感があると思うんです」

「僕はもともと人と接するのがあまり得意なタイプではなかったけど、写真を撮るようになってから少しずつ変わりました。カメラを持っていれば何かしら話はできるし、ハードコアのライブを撮ろうと思ったら、まわりは全身にタトゥー(入れ墨)のある人たちばかりだったりするけど、こちらから飛び込んでいけば、実際は超いい人たちなんです。写真は僕にとって、もともとコミュニケーションのひとつのきっかけだったのかもしれません」

「クラブやライブハウス、レイヴというのは、アンダーグラウンドなイメージもあると思うけど、実際そこに集まっている人達は何かを共感したいとか、共有したいという想いがあって集まっているので、コミュニティとしては閉鎖的ではないんです。ある時、自分が壁を作っていることに気付いて、どんな世界でも自分から飛び込んでいけば、受け入れてもらえるということに気付きました」

(c)山田敦士

――写真集「LOVE! LIFE! LIVE!」について

「約1年間、自分が撮りたいものを撮り溜めて、まとめたものです。もともとはクラブやライブハウスなど、自分の好きな世界から撮り始めたのですが、次第に、場所には限定せずに撮っていくようになりました。当時は東京に出てきて3年目くらいの時期で、明るくきれいな『空気感』を感じる写真が主流だったけど、そういう流行とは関係なく、真逆をいきたかった。猥雑なものの中に美しいものがあるというか、本質的なもの、混沌としたものに真実がある。人生の楽しさや生きることの素晴らしさを、写真を通して伝えかったんです」

「10年くらい写真をやっていると、技術的には上手く撮れるようになってしまう。だからあえて構図をはずしたり、ノーファインダーで撮影したり、技術的要素や決定的瞬間をいかにはずして撮るか、という模索をしていたんですが、結局は被写体の魅力そのものや、その瞬間に巡り会えることが大事なんですね。日常には、本当にたくさんのドラマがあると思います」

「こういうスナップを写真集として出すのは、肖像権の問題などもあって今の時代難しいんですが、あえて僕らがやらないといけないと思うんです。その思いに共感していただける版元さんに出会えたので、写真集として出版することができました」

――現在取り組んでいるテーマについて

「僕の写真のテーマは『いま生きること、その一瞬の輝き』を撮り続けること。写真家として、作品を発表していくことが活動の中心です。プロの作品には、いわゆるお仕事ブックというものもあって、どういう写真を撮れば仕事がくるかをテーマにすることもできる。でも本当の意味での写真家の仕事は、一枚の写真で人に感動を伝えられるかどうかだと思う。いまって、人と人の関係性が希薄になっている時代だけど、僕は真正面から被写体に向き合っていきたい。仕事でも作品でも、時代やドキュメンタリー性を感じる、自分しか撮れない写真を撮ることを、一番大切にしています」

「現在進行中の作品『Infinity Girls』は、来月、フランスのギャラリーでの展示が決まったのですが、女の子にスタイリングやヘアメイクをして、ファッションとポートレートの中間のような、ファンキーな写真を撮っています。日本の女の子は、元気でかわいい。そこに興味があって。写真を通して、いまを楽しんで生き生きとしている、被写体の魅力とか、時代性が透けて見えるようなものにしたいと考えています。今の日本のカタログ的なファッションフォトグラフィーが面白いかどうかということはよく議論されていますが、既存の枠を超えた面白い写真を撮りたいという気持ちはつねにあります。まとまった作品は2冊目の写真集として、来年までには出せればと思っています」

(c)山田敦士

90年代は「写真が“モノ”だった」時代

――使用機材について

「独特のスナップ感覚が自分の個性のひとつだと思うので、フィルムカメラは、最近では35mmがメインです。交換レンズも含め、機材は時間を経ていくうちにほどよい感じの質感になっていくのが気に入っていて、古い機材をあえて使っています。仕事ではEOS-1N、個人的な作品ではA-1を使いますね。デジタルカメラはEOS 5Dや5D MarkII、広告の撮影ではHasselbradを使うこともあります」

「最近、デジタルカメラを使っていて思うのは、たとえばピントに関しても、失敗が少なくなる方向に向かっているので、わざとピントを外して撮るといった使い方は難しくなっている。逆にデジタルになって良かったと思う部分は、作業効率が飛躍的に上がったところ。広告撮影の現場では、その場で確認ができるのもメリットですし、データ管理やクオリティの修正を細かく写真家がコントロールできる意味は大きいですね」

「僕が写真を始めた90年代という時代は、プリント=写真だったということもありますが、写真が血の通った『モノ』だった時代だと思います。写真家の事務所には、壁にモノクロの写真がびっしり貼ってあって、フィルムがぶら下がっていたり、酸っぱいにおいがしたり、そんな中で写真を見ていて、手に取るとずっしりとした重みがあって、僕がなぜ写真を始めたかということのきっかけは、本当はもっとドクドクしたものだった気がするんです」

「でも、じつはいまでも写真の本質的な部分はまったく変わっていなくて、デジタル化によってカメラを使う人の裾野が爆発的に広がり、写真は簡単に撮れちゃうと思われてるところがありますけど、実際は違う。とくにデジタルは、これが正解というものがなく、クオリティは写真家自身に委ねられるだけに難しい。今後は、いろいろなものが淘汰されていくと思います。もちろん、入口が広くて、奥が深いところが写真の面白さでもありますけどね」

「デジタルでやるからには、デジタルでできることを追求していきたい」

 山田氏は仕事や作品作りのワークフローで、PhotoshopやLightroomを使用しているという。実際にどのような流れで作業を行なっているのか、たずねてみた。

――PhotoshopやLightroomを使ったワークフローについて

 「仕事にもよりますが、撮影をした後、まず低解像度のデータをクライアントに渡して使う写真を決め、RAWから納品画像を作っていくというのが大まかな流れなので、LightroomとPhotoshopを組み合わせた作業が、スタンダードになっています。たとえばファッションのロケでは、日中いろんな場所を回って撮りますし、デジタルカメラでは特にワンシーンあたりの枚数が増える傾向にあります。そうして撮影したデータを一度にJPEG変換したり、ある程度仕上がりのイメージに近い調整を施して書き出していく。ある程度の高いクオリティラインにあるデータを一度に処理するという点において、Lightroomの能力はとても高いと感じています。ネガフィルムで撮影した写真も、スキャンしてすべてデジタルで管理しています」

「Lightroomは、Photoshopで調整するのに比べて、暗室でやっていた覆い焼きとか焼き込みに近い、よりアナログな感覚で直感的に作業できるのが良い。Lightroom(明るい部屋)っていうのは良い名前を付けたなって思いますね」

「僕がフィルムで撮るときは、フィルムの特性に応じたものを撮ります。でも、デジタルでやるからには、デジタルでできることを追求していきたいとも思っているんです」

――今後のPhotoshopとLightroomに望むこと

「資格があるわけではないので、100人いたら100通りの使い方がありますからなんともいえないんですが、はじめから修正の余地がないほど撮る人もいるし、僕のように後から作り込むタイプの人もいる。ただ、Lightroomが出てきてから、Photoshopがフォトグラファーのところに帰ってきたという感じはします。RAWデータが出てきて、デジタルカメラが一般に普及して、いろんな人がPhotoshopを使うようになり、Lightroomで直感的な操作ができるようになって、暗室の代わりに使えるようになってきたと思います。Photoshopを使って良い作品を作る人がもっとたくさん出てくるといいですね。作り手として結果的に道具に振り回されるのではなくて、使いこなして良い作品を作るところまで落としこめることが大切だと思います」

「動画の映像感覚はスチルカメラと通じるものがあるので、やってみると面白いです」

――動画の撮影・編集への取り組みについて

「10年後には動画も静止画もなく、いろいろなものがボーダーレスになっている可能性があります。(動画を)本格的にやるやらないは別にして、今のデジタルスチルカメラで何ができるかということを知っておかないと、時代の変化に対応できなくなってしまうかもしれません」

「ただ、僕自身がベースにしているのは写真なので、一瞬をどうやって表現するかといった観点から、僕たちフォトグラファーが映像を撮ったとき、どういうものができるか、といった視点で撮影するというところに興味があります。表現としての可能性を感じていますね」

「いずれ簡単な撮影は動画の切り出しに置き換わってしまうという話もあって、すでに欧米では、そういう動きもあると聞きます」

「動画の映像感覚はスチルカメラと通じるものがあるので、やってみると面白いです。動画編集は1枚の写真をきちんと仕上げるタイプの人は作業が似ている気がするので、どちらかといえばデザインに近い要素を含んでいると思います」

「実際に仕事として使ってみると、やはりワークフロー上、動画の知識が必要になってくるので、新しいものを拒否するのではなく、自分のツールとして使えるようになればいいのではないかと思っています」

「写真をカジュアルに、イベントとして見てもらう。それは時代に即した見せ方のひとつなのかもしれません」

――主催イベント「フォトグラファーズ・サミット」について

「写真家が自主的に集まり、自分たちで発信するイベントというのが今までなかったので、はじめました。たとえば街で写真家の名前を知ってますか? と尋ねたとしても、回答として出てくるのは一握りだと思います。『素晴らしい作品を撮っている人が世の中にはいっぱいいる』というのをカジュアルにイベントとして見てもらう、それは時代に即した見せ方のひとつなのかもしれません。すそ野を広げていった先に、写真にもっと興味を持ってくれる人がひとりでも多く増えてほしい、と思っています」

「イベントでの写真の見せ方は全部デジタル化しています。ネガをスキャンしたものでも、Photoshopでピクセルをリサイズして表示しています。作品の横に作家がいて、喋って、スライドショーで映像を見せるというLIVE感覚も今の時代かな、と感じるところはあるので、新しい見せ方として面白いんじゃないかと思っています。10年後にあんなイベントがあったね、というものになれば、という想いを込めてやっています」 

 山田敦士氏の今後の活動方針としては、2009年中は仕事と並行してイベントをこなしつつ、作品発表も含めた写真家としての活動も本格化させていくという。

 なお、次回のフォトグラファーズ・サミットは、2009年10月1日に開催。開場時間は19時(入場開始は19時30分)。入場料は2,000円(1ドリンク付き)。会場はイベントスペース「スーパーデラックス」。会場住所は東京都港区西麻布3-1-25 B1F。入場は300名限定。予約はWEBサイトにて受付中。



2009/9/14 21:18