特別企画
「K-3 II」から読み解くPENTAXの魅力
各部にみる“PENTAXらしさ”とは
2015年8月18日 09:00
カメラファンのみならず、あまりカメラに興味のない人達に「一眼レフカメラの有名メーカーと言えばどこ?」と聞いたならば、多くの人は「Nikon」あるいは「Canon」と答えるだろう。それが現実だ。しかし、皆さんは「PENTAX」をお忘れではないか?
PENTAXというブランドネームは、1957年に旭光学が世界初の「クイックリターンミラーとペンタプリズムの両方を搭載した一眼レフ」を量産・発売したことに由来する。現存する中では最も長い歴史を持つ一眼レフブランドであり、日本では“ペンタ党”、海外では“Pentaxian”と呼ばれる熱烈なユーザーから支持されている。
ペンタ党を引きつけて止まないPENTAXの魅力とはいったいなんなのか。フラッグシップモデルであるK-3 IIを題材にとり、そこに表れたPENTAXらしさを探ってみよう。
小型で手に馴染む堅牢なボディ
古くからいわれているPENTAXの魅力の第一は、小型軽量であることだ。
基本骨格と外装の大部分がマグネシウム合金のキャスト部品で構成されたK-3 IIのボディは、剛性が高くガッシリとしており、手にすると心地よい緊張感がある。
直線基調のスタイリングは、なで肩で丸みを帯びた形が流行する中にあってむしろ異色でさえある。どことなく懐かしい「一眼レフカメラ」らしい雰囲気も持っているが、レトロ趣味に寄りかかる要素は一切ない、正統の現代的デザインだ。
持ちやすいフィンガーグルーブつきのグリップ
一般に性能の高い一眼レフは大きい。重いことは我慢するにしても、グリップの大きさが、男性の手を前提に決められており、手が小さい女性ユーザーには使いにくいことが多い。一方、エントリークラスのカメラはグリップが小さすぎて、片手でしっかりと掴むことができないものもあるが、K-3 IIはそのどちらとも違う。
K-3 IIのグリップは小型のボディに対してかなり大きめで、しっかりと持つことができる。さらに、特徴的なフィンガーグルーブがえぐられており、女性の小さな手でも握り込みやすい。重量も800gと上級機としては軽く、ホールディングは抜群だ。
フィンガーグルーブに象徴される現在のPENTAXのフォルムは、四世代前にあたるK-7から始まった。前機種のK20Dまでは角丸のなで肩ボディだったが、K-7以後は総金属製の外装を採用し、ぐっと絞り込まれた形になった。
K-7は初めて動画機能を盛り込んだPENTAXであり、それまでとはまったく違う新世代のプラットフォーム(基本構成)を与えられた。このK-7プラットフォームからK-5/K-5 II/K-5 IIsといった名作が生まれ、現在のPENTAXの基礎になった。
その跡を継いで、より近代化・高速化を狙った新世代プラットフォームを採用したのがK-3であり、K-3 IIはそれを更に熟成した最新のフラッグシップモデルだ。
視野率約100%のペンタプリズムファインダー
PENTAXは全ての現行モデルのファインダーにペンタプリズムを採用し、ファインダー視野率も約100%を確保している。
他社の場合、エントリーモデルには軽量でコストが安い「ペンタダハミラー」を使うことが多い。ペンタプリズムファインダーは、それよりも明るくてピントが見やすい。視野率が約100%ならば、正確な構図が決めやすい。この二つのスペックへのこだわりに、一眼レフメーカーとしてのPENTAXの姿勢が端的に表れている。
最上位機であるK-3 IIでは更に、ファインダー内の情報表示とファインダースクリーンの視度も極力近づけ、アイピースレンズの収差と視野の平坦性にも気が配られた。その甲斐あって、長時間の撮影でも目が疲れにくいファインダーに仕上がっている。
交換式ファインダースクリーンのマット面は、開放値の暗いズームレンズのフォーカシングと、プレビュー時のボケの再現性を両立させたナチュラルブライトマット3を採用する。
視度補正は明確なクリックのあるダイヤル式で、刻々と変化する視度に合わせてスムーズに調節できる。ファインダー倍率が0.95倍と少し控え目だが、アイポイントは22mmと充分に長く、眼鏡を掛けていても視野のケラレは問題にならないレベルだ。
フィールドカメラとしての信頼性
防塵・防滴構造
K-3 IIのボディは防塵・防滴仕様を与えられており、同じく防塵・防滴のDA*レンズ/AWレンズと組み合わせれば、過酷な環境での撮影も問題にしない。ちょっとした雨や水しぶき程度であれば、簡易防滴のWR仕様のレンズでも大丈夫だ。マイナス10度までの低温で作動する耐寒性能も併せ持ち、ウィンタースポーツのフィールドにも強い。
オプションのバッテリーグリップD-BG5を使えば、低温に強い単三型リチウム電池や、eneloop proのような高容量のニッケル水素電池など、目的にあった電源を選べるようになる。
GPS機能を内蔵
従来のPENTAXには GPSユニットO-GPS1が用意されていたが、持ち忘れたりバッグの中で迷子になったりして、肝心な時に使えないことがままあった。K-3 IIはGPSが内蔵されたので、いつでも確実にGPS機能を利用できる。
GPS機能の意味がピンとこない方も多いはずなので、今回の作例はGPSタグを残したまま掲載することにした。拡大画像をダウンロードすれば位置情報を利用できるので、参考にしてもらえればと思う。
PENTAXには、GPSで測定した撮影地の緯度・経度とカメラの方向から計算した天体の軌道を撮像素子シフトで追尾し、星雲のような暗い天体も明るく撮影できる「アストロトレーサー」という機能があるが、K-3 IIならば、これもカメラ単体で使うことができる。
この種の撮影は本来、丈夫な架台と赤道儀という特別な機材が必要で、よほどの天文マニアでもなければチャレンジすることはなかった。K-3 IIならば記念写真用の三脚に載せるだけで、旅先で満天の星空を写真に収めることだってできるのだ。
一眼レフとして比類ない静粛性
水や砂塵の侵入を防ぐシールと剛性の高いボディは、メカの作動音が漏れることも防ぐ。APS-C素子にあわせたサイズの内部機構は軽く小さいので、K-3 IIは一眼レフとしては際立って、シャッター音が静かだ。
防塵・防滴仕様から副次的に生まれたメリットだが、静かに撮れる一眼レフとしても、K-3 IIは注目に値するだろう。
柔軟にカスタマイズできる操作系
Raw/Fxボタン
Raw/Fxボタンは、少し特殊なファンクションボタンだ。カメラのエプロン部左側の、レンズを支える左手の親指で押す位置にある。
撮影者からは見えないが、ファインダーを覗いたまま操作できるので、とっさに呼び出したい機能を割り当てると都合がいい。
K-3 II(ファームウェアVer.1.0.0)で、このボタンに割当可能な機能は、
- ワンタッチRaw+
- 露出ブラケット
- 光学プレビュー
- デジタルプレビュー
- Shake Reduction
- 表示パネルの照明
という6種類だ。私はこのうちのデジタルプレビューを割り当てている。
電子ダイヤルとボタンのカスタマイズ
2つの電子ダイヤルやボタンの機能も、ユーザーが好みに合わせてカスタマイズできる。
絞り優先AEあるいはシャッター優先AEモードでは、前か後のダイヤルでパラメーターをコントロールし、もう一つのダイヤルはフリーになる。そこに露出補正を割り当てれば、露出補正ボタンを押さずにダイヤルだけで露出補正のダイレクト操作が可能になる。
ハイパープログラムとハイパーマニュアル
ハイパープログラムモードとは、状況への即応を意図するPENTAX独自のAEモードだ。
基本はプログラムAEで、明るさの変化に対して絞りとシャッター速度が共に変化して追従する。この点ではまさにプログラムAEだ。
ここからが違う。この状態から絞り値を操作すると、その絞りを維持する絞り優先AEとしてふるまい、次にシャッター速度を操作すると今度は、そのシャッター速度を維持するシャッター速度優先AEになる。
つまり、モードダイヤルの切替えなしにシャッター速度あるいは絞りのダイヤル操作だけで、カメラ任せのプログラムAEから、撮影意図に則した絞り優先AE/シャッター優先AEに移行できるのだ。シャッターチャンスに集中しながらよりクリエイティブな撮影を可能にするAEモードだ。
もう一つPENTAX独自の露出モードとして有名なのが、ハイパーマニュアルだ。
マニュアル露出では、TTL露出計の指示を参考にユーザーが絞りとシャッター速度を決定するので、撮影者の意思で表現をコントロールしやすい。その反面、突然の光線状態の変化に弱いという欠点がある。
PENTAXのマニュアル露出システムは、グリーンボタンを押すと適正露出値に一瞬でセットされる。ワンプッシュで標準適正露出が得られるので、光線状態の変化に即応できる。これがハイパーマニュアルだ。
マニュアル露出の創造性に加えてAEの使いやすさも兼ね備えた露出モードなのだ。
この外、TAvモードやSvモードというPENTAX独自の露出モードもあるが、とても書ききれないのでここでは割愛する。
PENTAXの操作系を言葉で説明することは難しいが、ユーザーの好みにあわせて設定できるダイヤル/ボタンと状況への即応を意図した独特な露出機能は、いったん手なずけてしまえば撮影者の強い見方になってくれるはずだ。
インターフェイスを“写真の言葉”で考える
デジタルプレビュー
「デジタルプレビュー」とは、一言でいうと「試し撮り」機能だ。実行すると設定に従って撮影が行われるが、画像はSDカードには書込まれず、背面スクリーンに表示される。
書き込み待ちがないので素早くピントや露出がチェックでき、Eyefiのような高速とは言い難いカードを使う場合にメリットが大きい。そして当たり前だが、試し撮りを何十回繰り返してもカードの容量を圧迫しない。
フィルム時代のプロカメラマンが仕事に中判カメラを多用した理由の一つは「ポラロイドで試し撮りができる」ことだった。デジタルカメラの「撮影結果をすぐ再生できる」という性質は、ポラロイドに近いメリットがあるが、デジタルプレビューは「あらかじめ結果を見る」に特化した機能だともいえる。
ミレッド刻みのホワイトバランス設定
デジタルカメラのホワイトバランス設定は、色温度をケルビン単位で表現し、例えば100ケルビンといったステップで扱う。PENTAXも基本は同じだが、これをミレッド単位で扱うように設定することができる。
ミレッドというのは光源の色温度の偏りによる写真的色調の変化を表す尺度で、レンズ用の色温度補正フィルターの強さの表現に使われている。例えば「LBA2」や「W2」などの温調フィルターの「2」は、色温度を2デカミレッド(20ミレッド)下げて、ウォームトーンにすることを表す。
色温度をミレッド刻みで操作できるPENTAXなら、フィルム時代の色調整フィルターワークに馴染んだユーザーが、フィルターを選ぶ感覚で色味をコントロールすることが可能なのだ。
雰囲気を残すAWB・光景を強調するCTE
デジタルカメラはオートホワイトバランス(AWB)の正確さ、偏った光源の下で撮影した写真でいかにノーマルな色を再現するかを競ってきた。しかし、例えば白熱灯やキャンドルライトなどは、赤味の偏りを残した方が雰囲気のある写真になる。最近はAWBの利かせ方を調整できるカメラも増えて来たが、そのアイデアをいち早く取り入れたのはPENTAXだった。
もう一つ、PENTAXにはAWBを拡張したホワイトバランスとしてCTEがある。CTE(Color Temperature Enhancement = 色温度強調)は、通常のAWBがノーマルな色再現を目指すのとは逆に、色温度の偏りや画面構成要素の中のキーカラーを強調して、写真の印象を強めようというコンセプトのホワイトバランス設定だ。
海岸に佇む三人の足元を写したショットでは、背景の青をキーカラーとしてホワイトバランスがブルーにシフトした結果、画面全体にブルーのトーンがかぶり、空の色を強調しながら画面にまとまりを生んでいる。夕日に照らされたピンクのカバーを写したショットでは赤い夕日とピンク色が強調され、画面の印象を強めている。
強調したい色がある時に、同系色の弱いフィルターを(CCフィルター)をかけて強調するのは、古典的なカラー写真の技法の一つだ。CTEはそれをデジタルカメラで再現した機能だと言ってもいいだろう。
「高画質とは?」を考えるPENTAX
ローパスレス構造
APS-Cのセンサーの画素数の限界はおよそ1,600万画素で、それ以上の高画素を求めるならフルサイズセンサーのほうが有利というのが定説で、それ自体は正しい。しかし、PENTAXはAPS-Cの制約の中で高画質を追求する道を選んだ。
画素数のハンデを克服するため、PENTAXは手始めに光学ローパスフィルターレス構造の撮像素子を導入した。K-5 IIsに搭載された有効1,623万画素のローパスレス撮像素子の鮮鋭な画質は評判を呼び、ローパスレスブームともいえる現象を巻き起こした。
ローパスセレクター
PENTAXは更に改良を加える。ローパスレス撮像素子に続く大きなブレイクスルーになったのが、ローパスセレクターだ。
ローパスセレクターは、撮像素子を1ピクセル以下の半径で円を描くようにずらしながら撮影を行なうことで、ローパスフィルター同様のわずかな散乱を作り出し、モアレを抑えるシステムだ。機械的に作動させるので効果の強さを変えることができる。
ローパスセレクターの価値は、その効果そのものよりもむしろ、モアレ除去の要素を画像処理から排除して純粋に画質を追求できることにある。K-3 IIで撮影した写真は、K-5 IIsにあったわずかなデジタル臭さとも無縁の自然な写真になっている。
PRIME IIIイメージプロセッサー
K-3 IIに積まれる有効2,435万画素のローパスレスCMOSセンサーは素晴らしい鮮鋭性を持っているが、それを活かしながらPENTAX伝統の画作りを支えるのは、PRIME IIIイメージプロセッサーだ。
K-3 IIで撮った写真は色がクリアでありながら、赤や緑などの原色が飽和しにくく、滑らかなトーンを表現する。回折補正機能も組込まれ、F16まで絞り込んでも回折ボケは実用レベルに抑えられている。
リアル・レゾリューション・システム
PENTAXは更に前進する。K-5 IIsでローパスレス化し、K-3でローパスセレクターを実用化した後に手をつけたのが、ベイヤー方式の撮像素子の宿命である補間による解像損失の解消だ。
K-3 IIで搭載されたリアル・レゾリューション・システムは、撮像素子を正確に1ピクセルずつずらして4回露光して得たデータからRGBデータを演算することで、補間によるディテールの損失を回避して、撮像素子とレンズが持つ本来の解像力を発揮させるシステムだ。
三脚使用で被写体が静止していることが前提になるが、高画素数 = 高画質という常識を超越した素晴らしくシャープな写真が撮影できる。
PENTAXはライバルメーカーがフルサイズ素子に移行する中、「高画質とはどういうことか」と問うように、APS-Cサイズの素子を積んだ一眼レフを作り続けて来た。
その過程で生み出された技術があまりにも突き抜けているため、他社と比較できる部分のスペックはむしろパッとしないが、実際に撮ってみるとAPS-Cサイズ相当センサー・2,400万画素というクラスを越えて、35mmフルサイズ・3,600万画素機にも匹敵する素晴らしい画質をたたき出す。それこそ求めていた「PENTAX画質」なのだろう。
伝統のPENTAX Kマウントレンズ
PENTAX純正レンズラインナップを大別すると、DAシリーズ、D FAシリーズ、DA*シリーズ、DA limitedシリーズ、FA limitedシリーズ、FAシリーズに分けられる。
DAとFAはイメージサークルの直径の違いで、両者の比較では、DAのほうが設計が新しい。PENTAXデジタル一眼レフのフル機能が活かせるのはDA以降のレンズだ。
例外として、DA同様にフル機能を活かしながら35mmフルサイズ機に対応した大きなイメージサークルを持つD FAレンズもある。本年末の発売が予定されているフルサイズ一眼レフのために、今後はD FAレンズが増えていくだろう。
DA Limitedシリーズ
チャート評価やコンピュータシミュレーションに頼らず、実写評価によるレンズの味を第一に開発したLimitedシリーズのDAレンズ版だ。15・21・35・40・70mmの単焦点レンズと20-40mmの標準ズームがラインナップされ、PENTAXのブランドイメージを支える看板レンズでもある。
DA*シリーズ
PENTAXのデジタル一眼レフ用・高性能レンズラインとして登場したのがこのDA*シリーズだ。SDM(レンズ内蔵超音波モーター)による無音のAF作動、防塵防滴性能などが特長だ。
最近のPENTAXレンズはHD DA Limitedシリーズの印象が強く、DA*はやや地味な存在になっている。しかし、フルサイズ用の高性能レンズとして、今後はイメージサークルの大きいD FA*レンズがラインナップされるだろう。そうなれば、スターレンズは再び、HD DA Lmitedとの対極を成す高性能レンズとして注目を集めるはずだ。
よく「PENTAXはレンズメーカー製品が対応していないのでレンズの選択肢が少ない」などと言われるけれども、現在発売済みのDA/D FAレンズだけでも、12mmから450mmまでをズームレンズでカバーし、15mmから560mmまでの単焦点レンズが揃っている。
DA Limitedシリーズに象徴されるように、他社のカメラユーザーからうらやまれるような味のある高品質なレンズがあり、また、魚眼ズームレンズのように、PENTAX独自の発想による個性的なレンズもある。決して不足を感じるようなラインナップではない。
まとめ
写真とのつきあい方や写真機にかける思いは人それぞれだ。ただ、多くのユーザーにとっては、必ずしも大袈裟なプロ用一眼レフがベストとはいえないはずだ。
写真機にとって一番重要なのは、まず常に傍らにあること。写真は写真機がないと撮ることができないからだ。次に、いつも確実に動くこと。最後に、そのカメラで写された写真が、生涯価値を失わない程度に美しい仕上がりであること。
常に傍らにあるためには、小型であることがまず一つ。それから、フォーマルな場に持ち込んでも気後れすることのない、小さっぱりとしたデザインである方がいい。確実に動くこと。これは優れた耐候性がまず一つ。電池やカードメディアが調達しやすいことも大事だ。
画質において一番大事なのは、写した写真が常にまとまりのある一枚の画として映えることだ。その上で必要とあれば、ピクセル等倍で見てもカミソリのようにシャープな画が撮れるのであれば、申し分ない。
PENTAXの美点は、こういった「よい写真を撮るための要素」をバランスよく備えていることだ。K-3 IIはそうしたペンタックスらしさの結晶のような、「写真機」という言葉がふさわしい、撮る人のためのカメラだと私は思う。
制作協力:リコーイメージング株式会社