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富士フイルム「FinePix X100」の“ハイブリッドビューファインダー”に迫る

〜「こだわり抜いてオンリーワンの性能を目指す」
Reported by 小倉雄一

 富士フイルムが3月に発売したデジタルカメラ「FinePix X100」は、APS-Cサイズ相当の撮像素子や開放F2の単焦点レンズなどを搭載した高級コンパクトデジタルカメラだ。中でも、世界初となる独自のファインダーシステム「ハイブリッドビューファインダー」が大きな話題になっている。今回は、このハイブリッドビューファインダーに的を絞り、開発のエピソードなどを聞いた。(インタビュアー:小倉雄一、本文中敬称略)

左から近藤茂氏(機種の開発リーダー)、竹下幸孝氏(ファインダーの開発を担当)、河田円美氏(商品企画を担当)、宮野俊氏(ファインダーの光学設計を担当)

 話を伺ったのは、富士フイルム電子映像事業部の河田円美氏(商品企画を担当)、同R&D統括本部 電子映像商品開発センターの近藤茂氏(機種の開発リーダー)、同R&D統括本部 電子映像商品開発センターの竹下幸孝氏(ファインダーの開発を担当)、同光学デバイス事業部 技術部 光学設計グループの宮野俊氏(ファインダーの光学設計を担当)。

FinePix X100 インタビューを行なった富士フイルム大宮事業所(埼玉県さいたま市)

昔のレンジファインダーカメラを分解してLCDを入れてみた

――まずは、FinePix X100で採用したハイブリッドビューファインダーの解説をお願いします。

近藤:今回のFinePix X100のファインダーは従来の光学ファインダー(OVF)にLCDの画像を重ねるという点が新しいものです。OVFとしても使えますし、切り換えて電子ビューファインダー(EVF)としても使えます。EVFはこのクラスでは最高の144万ドットで、美しいスルー映像と再生画像が表示できます。OVFは光学設計側が相当に練って非常にいい見えを実現しています。

 さらに特徴的なのはOVFで被写体をリアルに見ながら、撮影したあと瞬時に撮影した画像を確認できるポストビューです。ユーザー設定で長く表示することもできますし、必要ない方はOFFにすることも可能です。またLCDを重ねて見ていますので、多彩な撮影情報をOVFの中に表示できるというのも大きな特徴になっています。

ハイブリッドビューファインダーでは、従来のブライトフレーム式(左)とは異なり、液晶パネルの映像を光学像に合成する

――ファインダー切り換えの発想はどこから出てきたのでしょうか。

宮野:最初はまず光学ファインダーのみの搭載を考えていて、撮影範囲を示す枠「ブライトフレーム」を表示しようとしていました。従来のカメラは採光式のブライトフレームが多かったのですが、それをLCD(液晶パネル)で表示したらどうか、というアイディアが生まれました。LCDだったらいろいろな枠や数字を表示できるね、という発想だったのですが、ドット数の多いLCDを積んだら、そのLCDでスルー映像や再生画像も表示できておもしろいね、というふうに発展していったのです。

近藤:最初からハイブリッドビューファインダーをやろうという発想があったわけではなかったのです。このFinePix X100は第1に画質。外部のWebサイトでも非常にいい評価をいただいて、頑張って開発した甲斐があったなと思うくらいのいい画質が得られています。単焦点で固定式、レンズ交換しないということによってこの画像を生み出せたと改めて我々も感じているのですが、想像以上にいいものができました。第2に光学ファインダーを付けて、より写真を撮ろうという気にさせる、昔からの写真撮影スタイルを大事にする、そう思えるいいファインダーをつけようと考えてスタートしたんですね。

 いくつか候補があって、やはり見えを良くするには昔の採光式のファインダーだろうということになりました。ただ採光式だとブライトフレームの枠を入れて光を取り込んでと大がかりな光学系になるのです。その割にあまり情報が表示されないので、情報表示の充実はテーマでした。専用の小さな液晶パネルを作って情報表示しようかといっていたのですが、そこまでやるのだったら、大きなLCDを置いたらどうか。そうすれば再生画像も表示できるし、EVFとしても使える。さらに撮ったあとすぐに見られるね、と話がどんどん膨らんで、実際に試作品を作ってみたのです。

 実は、昔のレンジファインダーカメラを分解してLCDを置いてみたんです。そしたらものすごくキレイに見えて「うわ、これだ!」と一気に製品化に拍車がかかったという感じでした。最初に見たときは、みんな感動しましたね。非常にキレイに見えたんです。

なにかオンリーワンな性能がほしかった

――昔のレンジファインダー機を分解してLCDを入れたというのはとても生々しいですね。それはいつごろの話しですか?

近藤:このカメラを発表したときには、「2年の歳月をかけて」と申し上げたのですが、細々と2年前にFinePix X100の開発構想がスタートして、具体的に設計を始めたのが、1年半くらい前でしょうか。このハイブリッドビューファインダーが生まれて商品像が非常にハッキリしてきたのですが、それも1年半くらい前だったと思います。

光学ファインダーでの見え方 EVFでの見え方

宮野:撮影レンズも、やはりズームじゃないとダメじゃないか、いや画質重視だから固定焦点のほうがいい、というところから始まって、まだそのときはファインダーをどうするかも決まってなかったのですが、さきほど近藤が申し上げたように、LCDをミラーを通して覗くとキレイに見えると発見できたのが大きかったですね。そこからハイブリッドビューファインダーの発想が生まれ、いい撮影レンズができ上がって、だんだんこういうカタチのものにしていったのが、1年前くらいの時期でしたね。

――すごい瞬発力ですね。ハイブリッドビューファインダーの発想というか、この仕組みはまったくの新規なのですか。

近藤:我々にとってはまったく新規の構想、新規の開発設計でした。

――開発当初は、どうしてもハイブリッドビューファインダーを実現しないとこのカメラは成立しない、という切羽詰まった感じは無かったのでしょうか?

近藤:いや、けっこう切羽詰まってたと思うんですね。というのは、ある大きさで光学ファインダーを入れて情報表示も入れて、独自のオンリーワンのモノをというところがほしかったんです。宮野や商品企画の人間と何日も何日も、ああでもないこうでもないと議論しました。なにか特徴を出せるモノを搭載したいというところではけっこう長い間もがいていました。

――最初は光学式ファインダーありき、という感じだったのでしょうか。

近藤:光学式はマストだと思っていましたね。今回は最高の画質、最高のカメラにしようという思いがありました。それにふさわしいファインダーが必要だろう、後ろの液晶モニターを見て写真を撮るカメラではない、というコンセプトでスタートしました。

光学ファインダーの搭載は最初から決まっていた

竹下:ところが、「いいねこれは、やろう!」っていう人はラクなんですよ(笑)。アイディアと理想は高いのですが、そこから製品までもっていくのが僕の仕事なのでたいへんでしたね。非常に苦労しました。

前面のファインダー切り換えレバーはデザイナーのこだわり

――ファインダーの表示の切り換えをレバー式にしてありますね。

河田:デザイナーのこだわりです。今回はファインダーが特徴なので、切り換えをワンタッチでやりたいと考えました。デザイン的にも特徴的で独特なモノを入れたいとデザイナーがかなりこだわり、前から見える位置でワンタッチでできるというこのカタチに落ち着きました。

本体前面に設けた表示切り替えレバー

近藤:カメラを構えた状態でEVFとLCDを瞬時に切り換えられる。非常に操作性もいいですし。ハイブリッドビューファインダーの主張というのがこの操作部に表れていると思うんですね。

ファインダー倍率0.5倍は絶対に譲れない仕様

――光学ファインダーの性能として、特にこだわった部分は?

宮野:ファインダーに対しては、「サイズをもっと小さくしろ」という要求もありました。ファインダーのサイズを小さくすると、ファインダー倍率も小さくなっていく傾向がありますが、ここは、0.5倍を下回りたくはなかったですし、これの水平の見かけ視界は約28度ですが、こちらも維持したかったのです。見かけ視界が狭くなると、ファインダーを覗いたときに“葦の髄から”という表現があるように、トンネルの先を覗いているような感じになり、それではせっかく光学ファインダーを搭載した意味がなくなってしまいます。

 サイズを小さくしてくれという要求は非常に強かったのですが、とにかくこの仕様で積んでくれ、それでもできるだけ小さくするよということで、めいっぱい小さくしたサイズがこれです。

ハイブリッドビューファインダーのユニット

近藤:光学設計の担当にお願いしたのは、ファインダーの仕様は落とさずに、ということでした。この35mm相当の焦点距離のレンズの場合、0.5倍というファインダー倍率が非常に見やすい。目を振っていろいろ探さなくても一瞬でフレーミングができる画角だったんですね。0.5倍というファインダー倍率は死守して、とにかく仕様を守ったうえで寸法を小さくして、どんなに高い材料を使ってもいいから、ヌケのいいものをと、いろいろ苦労をしてこの大きさまで詰めてもらいました。ですのでかなりいい材料が使われているんですね。

宮野:高屈折率のガラスを使っています。非球面レンズを多用して、性能を出す手法もありますが、ファインダーでは撮影者の目の位置は固定されておらず、カメラをちょっと動かすとその位置が変わるので、非球面レンズを多用すると、絵が大きく歪んでしまったりすることがあります。そのため今回は非球面レンズを使用せずに、高屈折率硝材を使って、できるだけシンプルなカタチで構成することを心がけました。覗いたときにすっきり見えるということを最優先しています。

近藤:いまのファインダーだとプラスチックの非球面レンズを使うのが一般的なのです。

竹下:3回くらい設計をやりなおしましたね。

改めて光学ファインダーのメリットを考える

――光学ファインダーのメリットはなんでしょうか?

近藤:狙いでもあったのですが、第一に被写体がリアルに見えるということですね。2番目は撮影可能枚数がほぼ倍になることです。「撮影枚数アップモード」というのですが、OVF使用時は特殊な制御をすることによって(1つのバッテリーで)通常約300枚のところを約600枚も撮れるようになります。ただそれは、必要なときだけCMOSを立ち上げる制御にしているので、若干撮影までのタイムラグは生じます。

河田:シャッターを半押ししたときのAFやAEをゼロから演算しなければいけませんので。

――内緒でこっそりスルー映像は出してないんですね。

近藤:そうなんです。そうすると省エネ効果は失われます。とにかく撮影枚数だけは延ばそうというモードですね。それから、光学ファインダーのメリットの3番目はタイムラグです。EVFだと実際に撮ろうと思ったときに過去の映像を見てるわけですから、どうしても表示に遅れがあります。OVFだとシャッターチャンスを逃さない。シャッタータイムラグは0.01秒を謳っています。OVFの画像を見ながら連写できるメリットも大きいと思います。

「OVFはタイムラグがほとんど無いのが魅力です」(近藤氏)

――LCDの存在がOVFの画質低下を招くようなことはないのでしょうか。

近藤:従来の採光式のブライトフレームを積んだファインダーは、(ハーフミラーが)だいたい50%前後の分岐なんですね。それとはほぼ同じ透過率をもっていますので、見え自体は変わらないと思っています。

竹下:ファインダー光学系にも撮影レンズと同様に独自のスーパーEBCコーティングを施していますので、ゴーストは完璧に防ぐことができていると思います。

――OVFのエリアは情報表示のために少し広めに作る必要があったのでしょうか。

近藤:表示のために特に広くはしていないです。昔からOVFのファインダーではブライトフレームの視野率は80〜90%くらいです。このFinePix X100は約90%で、光学像が見える範囲は、撮影範囲(100%)よりも広く見えます。目を近づけるほど広い範囲が見えるようになります。

宮野:それは、この逆ガリレオ式という凹凸のファインダーの特徴なんです。プリズムの前にマスクはありますが、そのマスクにはピントが合わないのでクッキリとは見えません。それでは撮影範囲がわからないので、目のピントを合わせられる位置に、撮影範囲を特定するためのフレームを入れて、スルーの絵と重ねることによって撮影範囲を特定しています。液晶モニターで見える画面が写る画面ですので、それを100%とすると、そのちょっと内側に約90%のフレームを入れているわけです。

近藤:その90%〜100%の領域を使って情報表示を行なっています。さらに、FinePix X100は3:2の撮像素子を使っているのですが、EVFの液晶パネルは4:3の製品を使っていて、下側に情報表示が出せるようになっています。もうひとつ、ポストビューの時に撮影画像を撮った直後に出すので、出てくる画像はOVFとほぼ同じ倍率で見えるような工夫をしています。

ハーフミラーに新開発の膜を採用

――画面内表示が豊富で非常にクリアですが、実現にこぎつけるまでの困難さはどうだったのでしょうか。

竹下:とくに苦労したのは、ハーフミラーですね。覗いていただくとわかると思いますが、非常に色味が無いんですね。クリアで明るく、見たままのファインダーになっていると思います。青っぽいといったこともありません。それと、LCD側の情報を入れつつも、かつOVFのほうの見えをきれいにしたいということで、従来のものとはまったく違うハーフミラーを開発しました。うまくいかなくて、何度も作り直して、いまのところにこぎつけています。

FinePix X100では、ハーフミラーに新開発の膜を採用したプリズムを使用

近藤:過去の銀塩カメラで使っていたハーフミラーとはまったく違うものが採用されているんですね。ここには大きな技術革新があったんです。

竹下:今ここに、銀コートの最初の試作品があります。これを覗いていただくと青っぽいのがわかると思うんですね。

――製品版に比べると確かに青みがかっていますね。

竹下:光学像も十分な光がほしい、でもLCDのほうも十分な光がほしい。どちらも最高に光量ロスをなくした上で合成するために新しいコーティングを開発しています。

――それはハーフミラーそのものに?

竹下:ええ。この斜めの面に、特別な新開発の膜を採用しています。

ハーフミラーは高品位なファインダーにとって重要な技術の1つ

なぜガラスプリズムなのか

――光学系の要となるハーフミラーですが、ミラーではなくプリズムにしたというのはなぜですか?

宮野:理由はいくつかありますが、まずプリズムにしたほうがコンパクトにできます。それは空気よりもガラスの方が光線の広がりを抑えられるからで、プリズムにしたほうが同じ倍率でも小さくできます。それに、平行平面板のミラーにすると、表面と裏面の2つの反射面があるので、LCDからの像がこの2面で反射して、二重になる可能性があります。

 普通に枠(フレーム)だけの表示でしたら、ちょっとずれてもさほど問題はないのでしょうが、今回は、高画素の撮影画像を見るのですから、絵がダブるようなことは、やらないほうがいいという判断になりました。

ミラーを使うと反射面のほかにガラス表面でも反射してしまうため、像が2重になる恐れがあった(右の図)。プリズムの場合そうした問題は起きない(左の図)

――光学設計者としてはいい材料のいいモノを作りたい、という具合にお金のかかる方に行くものなのでしょうか。

竹下:実は当初、あまり高い材料を使わないで設計を進めてくれたのですが、逆にこちらから高い材料を使ってもいいからもっと小さくしてくださいとお願いしました。それで、小さくなったらもっと高い材料を使っていいから、もうちょっと性能を上げてほしいと……。とくにこだわった色にじみなどをもっと改善してほしいというやりとりをして設計を見直していきました。

近藤:色収差が少ないですね。本当にいいものができました。EVFを覗いたときにも感じるし、OVFの光学像を見たときにも感じますね。おそらくデジタルカメラのEVFをご覧になってる一般の方にとっては、なんてすっきりしたEVFなんだろうって思われるのではないでしょうか。

宮野:せっかく高画素のEVFを積んでもらうので、その見えが悪かったら申し訳ないことになってしまいます。

河田:いま市場に出ているEVFとしては、かなり性能のいいモノではないかと思っています。

ファインダーに浮かんで見えるLCDの情報表示の秘密

――ブライトフレームを初めて覗くと、かなり感動しますね。

近藤:浮いて見えるような感じですね。

――SFの世界にきたかなという感じがします。宇宙戦艦ヤマトのコックピットのような。

近藤:私も最初に見たときにそうだったのです。いままでに見たことがない映像といういう感じがして、いろいろなことができそうで、発想が非常に広がったんですけれども、今回はそのなかでも非常にシンプルなところにとどめています。

――やりすぎてはだめなのでしょうか。

近藤:写真を撮る、というところに専念してもらえる最低限の情報にとどめました。

OVF時の表示例。ヒストグラム 電子水準器
フォーカス距離指標 フレーミングガイド

――ピントが合わないときに、画面の右下にメッセージが出ますよね、“AF不可!”みたいな。ちょっとシビれますね。

近藤:あれから発想すると、CGでおもしろいことができそうです、AR(拡張現実)とか、いま盛んにいわれているようなモノの構成はなんでもできそうな気がしてきます。

――セカイカメラとか……。

近藤:ええ、そういうのもできるのですがそこまでは発展させなかった、あえてカメラの性格を大事にしてもらうようにしています。ただ、発展性は感じましたね。

――ところで、撮影シーンによってブライトフレームの明るさを調整していますね。

宮野:採光式のブライトフレームは、まわりが暗くなってしまうと外から光を取り込めないので、フレームが見えなくなってしまいますが、ハイブリッドビューファインダーなら、暗いところでもLCDを光らせればいいのだから、暗いところには強いよね、と思っていたのですが……。

竹下:従来の採光式のよくできてるところは、当然まわりの光を取り込むので、暗いところに行けば枠も暗くなるし、明るいところに出せば枠も明るくなって、当たり前ですが、自然と枠の明るさが被写体に応じてついてくるんですね。今回はLCDを使っていますので明るさはカメラ側でコントロールしてやらないといけないんですが、LCDの明るさというのは暗くするのも明るくするのも、どうしても調整できる幅が狭いんです。

 ただそれは技術側の都合なので、ユーザーには暗いシーンでも明るいシーンでもきちんと見えるようにしなければならない。そのあたりの課題をクリアするためにも、ハーフミラーは新しくしなければいけなかったのです。

「LCDの明るさに関する問題は、今回試してみてわかった大きなテーマでした」(竹下氏)

近藤:このブライトフレームの枠は、バックライトの明るさをカメラのAE情報を使ってコントロールしてるんですね。明るいところでは、バックライトもFinePix X100専用に、通常のEVFより明るくなります。輝度が上がると最後は最高にバックライトを上げていって、枠を少し黄色くするようにしてるのです。ふつうは白だけなんですが、本当に高輝度のときというのはスキー場であったり海の砂浜であったりというシーンが多いので、少し黄色をつけて見やすくする工夫をしています。逆に暗いところにいったときはバックライトに、非常に高速でON/OFFを繰り返すような変調をかけて明るさを絞っています。

――それがFinePix X100スペシャルサイトにある「PWM」(パルス幅変調)ですね。

竹下:ようするにバックライトをどんどん暗くしていくんですけど、そのままでは暗くできる限界があるので、人間の目には感じないくらいの速さでつけたり消したりするのです。そうすることで実際の明るさを落としているというのがPWMですね。それがまさに、いちばんはじめに試作して、「いいなこれは」と周りが言っているんだけれど、いろいろフィールドテストを重ねてみると課題がみえてくるという部分でした。そこからが僕の仕事ですね。

一瞬で切替えられるファインダー表示

――EVFとOVFの切り換え時間はどれくらいですか? 一瞬で切り替わりますね。

竹下:0.1秒くらいです。

――おそらくOVFだけで使おうというユーザーもきっと5%くらいはいますよね。

近藤:もっといらっしゃるかもしれないですね。そういう方には、ポストビューをやめる設定にしていただければ、もうそのまま銀塩のカメラの感覚でずっと撮影し続けられます。

――ところで、ファインダーの遮光シャッターが下から出てくるのはなぜでしょうか。

竹下:一番の理由は小型化です。ストロークが短く取れますし。カメラを小型化するなかで、どうしてもこういったあとから追加する機構はあまり入れる余裕がありません。最後に余ったところになんとか収める感じで、押し込んだという所です。

OVF時は光学像を取り込むため遮光シャッターは開いている(左)。一方、EVF時には光学像が入り込むのを防ぐために遮光シャッターを閉じる(右)
OVF時 EVF時
遮光シャッター動作の様子

置きピンも楽に

――LCDによるこうした距離指標と被写界深度表示はめずらしいですね。

近藤:今回、OVFを使って快適に撮影していただくというテーマのひとつに、置きピンがあります。被写体の距離がある程度わかってる、高感度が使える、絞りは絞り込める、というときは、MFで、ユーザーが撮影距離を合わせて、絞りで被写界深度を合わせて、これくらいの範囲はボケないと。そうやって撮影していただけると。そのときは瞬時に撮れます。そういう快適性を訴求するために、これらの表示を採用しました。

水色のバーの上の赤線がピントを合わせた距離。白い範囲が被写界深度を表しており、距離や絞り値で表示が変る

――ちなみに、動画撮影時のファインダーはどうなるのでしょう。

河田:動画撮影時はEVFになります。やはりOVFでは実際に撮影イメージがわからないので、動画のときはEVFに自動的に切り替わります。

MFでの操作性は?

――MFの使い勝手はどうでしょうか。

河田:2つありまして、1つは画面の距離指標を見てピント合わせをしていただく方法。もう1つは指定したエリアを拡大してピント合わせをライブビューで見るやり方があります。MF時はOVFでも親指のところのボタン(コマンドレバーの中央)を押すと、拡大表示するようになっていますので、このときだけEVFに切り替わります。5倍の拡大率で出していますので、それを見ながらピントリングを回していただくことになります。

近藤:それから、OVFで被写体をとらえてコマンドレバーの中央を押すとEVFに切り替わりますが、ピントリングを回さずに、その下のボタン(AFL/AEL)を押してください。それがワンプッシュAFなんです。ピントが合ったらピントリングを回して微調整することもできます。再度親指のところのボタンを押すとOVFに切り替わります。OVFでピント確認しながら撮影するのに快適な方法です。

コストは度外視して開発!?

――これだけ凝ったファインダーなので、コストも相当にかかっていると考えてよいでしょうか。

近藤:今までになく、高価なものになりました。事業部長(同社取締役常務執行役員電子映像事業部長の樋口武氏)からは、「まずはお金のことは考えなくてもいいから最高のモノを作れ」との指示もあり、価値のあるところ、必要なところにはコストをかけさせてもらいました。

「“お金のことは考えなくていい”なんて、ふだんは言ってもらえないですから」(宮野氏)

近藤:ファインダーだけではなく、外装の軍艦部や操作部もそうですし、レンズもそうです。ありとあらゆるところに、今までに使ったことがない材料だとか加工などをたくさん使わせていただきました。それで非常に質感もいいし、写りもいいし、ファインダーの見えもいいし、素晴らしいカメラができたと思っています。

竹下:まずは自分たちが欲しい性能のモノを設計してくださいと。それができたら、性能を落とさないで無駄を省くのはどうすればいいかというのを考えていく感じです。従来の考え方をまず一新するというか、どうしても「そうはいってもね……」となるのですが、どうしてもやっぱり設計者に遠慮が出てくるので、いや、もっと高い材料を使ってもいいからと何回も言って、本当に高い材料を使って、いいモノを作ってもらっているという状況はありましたね。

専用フードも金属製。ファインダーの視界を遮らないようにスリットを設けた。このスリットにはAF補助光を通す機能もある

――開発のいちばん最初に、少しコストが高くてもいいカメラ、長く使えるいいカメラを作ろうという発想がそもそもあったということですね。

河田:それが大きいですね、やはり。弊社でのカメラの開発としては、前例のない考え方ですね。市場に出す価格があって、コストがあって、だいたいこういう性能の製品、というのが普通だと思うのですが。

FinePix X100は、これまでとは違ったアプローチで開発を進めたという

――愛着のあるカメラを作る、という部分もあったのでしょうか。

近藤:ええ、そういう長く愛せるカメラを作ろう、作りたいという思いがあふれていましたね。

――竹下さんにあえて伺うのですが、開発で一番大変だったところはどこでしたか。

竹下:いちばんは妥協を許してもらえないことですね。こういう言い方をすると非常に語弊があるんですけれど、ほかのコンパクトデジタルカメラだと、性能とコストとスケジュールと合わせて、折り合いをつけることがあるんです。しかし、このFinePix X100はなにも許してもらえなかった。「こういう問題があるんですけど」っていうと、「うん、直して」っていう、ひとことそれだけなんですね。そういう点がいくつもあるので……。

 普通、「納期がもう厳しいです」、「コストが厳しいです」、「こういうところでどうしたらいいですか」と上の人間に持っていくと、いろんなジャッジが下されるんですけど……。「発売日までに直して」っていわれるだけなので、「わかりました、ではやらせてもらいます」というのがいくつもありました。それをなんとか乗り越えて。厳しかったですよね。

――つらかったけど楽しかったという感じなのですか?。

竹下:楽しくはない(笑)。いや、楽しいといえば楽しい……。目標が高かったですが、そこにみんなのベクトルが合ってたので、そういう意味ではやりやすかったですね。

「こういったカメラは一生のうちでもなかなか手がけることがないので、やりがいがありました」(竹下氏)

レンジファインダーを採用しなかった理由

――愚問かもしれませんが、レンジファインダーを採用しなかった理由を教えてください。

近藤:このFinePix X100は、広い意味では“電子式レンジファインダーカメラ”といえると思うんですね。レンジファインダーというのは距離計連動式、ファインダーで距離が合わせられます、ということだと思います。そういう広い意味ではAFも活用して距離表示もできて、拡大してピントが合わせられるという機能をこのハイブリッドビューファインダーは持っていますので、広い意味では新しい電子式のレンジファインダーということがいえるかと思うんですね。

 二重像合致というようなものを光学的に使わなかったのは、先ほど話しましたように、多彩な情報表示をするためにLCDを使ったというところにあります。

宮野:二重像合致式にするためには、軍艦部の前面に距離計の部分を抜かなきゃいけない。そうするとLCDに穴を開けて使わなくてはならなくなりますから。

イメージも考慮して日本製にこだわった

――日本製にこだわったようですが、海外で作ることは考えなかったのでしょうか。

近藤:材料や品質にもこだわったということで、日本でしか作れない部品もたくさんあります。なにより日本の技術力やものづくりの力を示すためにも日本製にしたかったですね。

――底面ではなく背面の目立つところに“MADE IN JAPAN”と書いてありますね。

河田:デザイン的なところもあるのですが、かなり海外の意見が大きいですね。日本の方は、「うーん、ここじゃなくても」というところはあるんですが、海外ではMADE IN JAPANっていうところの価値が、とくにアジアなどではすごかったりしますので、海外の意見を尊重しました。

背面の上部に“MADE IN JAPAN”とプリントした。生産は宮城県黒川郡で行なっている

これを機に高級コンパクト

――市場の反応によっては、シリーズ化などもあるのでしょうか?

河田:そうですね。今回はじめて出す製品ですので、そこに対するフィードバックを見ながら、考えていきたいと思っています。

近藤:いままでにないジャンルに富士フイルムは挑戦し始めたということで、まわりも興味津々だと思いますね。どれくらいのユーザーがこの品質と価値を理解していただき、購入していただけるかがポイントではないでしょうか。

「この機種の後継機をすぐに出すという話ではないのですが、これを皮切りに高級なコンパクト、高級カメラの市場に今後、参入していきたいと思っています」(河田氏)

――今後もズームレンズというのは無しでしょうか?

近藤:今回FinePix X100を開発して、単焦点のよさを実感したのもあるのですが、ズームの便利さはまた別の方向であると思うんですね。そういうカメラもあっていいと思います。

――中にはレンズが取れたらいいな、と思っている人もいると思います。

近藤:レンズ交換式ということですか。レンズ交換式も、商品としてはあり得ると思います。先ほどのズームと同じように、レンズ交換式の魅力もあると思います。ただ私は、このレンズ固定タイプカメラの意義は大きかったと思っています。

【編注】このインタビューは3月1日に行なった。なお、FinePix X100を生産している富士フイルムデジタルテクノ(宮城県黒川郡)は東北地方太平洋沖地震による被災のため操業を停止していたが、3月28日から出荷を再開している。






小倉雄一

2011/3/31 00:00