iPadの“写真的機能”をチェックする

Reported by 小山安博

カメラと組み合わせて使うiPad。隣にあるオリンパス・ペンE-P1と比べてみれば、画面の大きさが分かる

 アップルのタブレット端末「iPad」が売れに売れている。発売後80日間で、世界中で300万台を売り上げたiPadは、9.7型の大型液晶ディスプレイにiPhoneと同様のタッチパネルを使った快適な操作性も人気だ。

 iPadの特徴は、その9.7型大型液晶ディスプレイだ。ノートPC向けだとちょっと中途半端なサイズだが、10型程度の液晶を搭載したノートPCはあり、それに比べるとキーボードや可動部が少ないため、より薄型サイズを実現。無線LAN搭載モデルで680g、3G+無線LAN搭載モデルで730gと、決して軽いとはいえないが、それでも1,024×768ピクセル・132ppiの高輝度・高解像度液晶ディスプレイを気軽に持ち歩けるのがメリットだ。

 これだけの画面を持ち歩けるのだから、デジタルカメラで撮影した画像のビューワーとしても使ってみたい。今回は、iPadがデジカメアクセサリーとしてどれだけ使えるのかをチェックしてみよう。


iTunesやアプリを使って簡単に画像が閲覧できる

 前述の通り、iPadの液晶は9.7型1,024×768ピクセルのXGA液晶パネルを搭載する。昨今はやりの16:9のワイド液晶ディスプレイではなく、パソコン用で昔からある4:3のアスペクト比となっている。液晶の駆動方式はIPS方式。パソコン用ディスプレイでは主に上位機種に使われている方式で、もともとは日立製作所が作り上げた技術だ。

 IPS方式は、上下左右いずれの方向から画面を見ても色がほとんど変わらず、視野角の広さや発色の良さに定評のある技術だ。プロ向けの液晶ディスプレイはたいていはこのIPS方式が採用されており、iPadでは(日立の技術をライセンスされた)LG Displayの液晶を使っているようだ。

 さて、実際にiPadの液晶ディスプレイを見ると、確かに上下左右、ほとんど真横から見ても画像が確認できるほど視野角は広く、色味の変化も少ない。最大輝度まで上げるとまぶしいほど明るくなり、発色も鮮やかで見栄えのする液晶ディスプレイとなっており、写真の閲覧に向いていそうだ。

 写真の拡大や縮小も快適で、ピントや構図の確認には非常に良い。色味は実際よりも鮮やかなようで、デジタルカメラの色をこれだけで判断するのは難しそうだが、もともとパソコン用ディスプレイのようにキャリブレーションができるわけではないし、そこまで求めて作られている製品ではないだろう。許容できるレベルだと思う。

横から見たところ。視野角は広く、色の変化も最小限だ

 少し残念だったのは、sRGBで撮影した画像とAdobe RGBで撮影した画像では、Adobe RGBの方が色あせてしまうという点。ICCプロファイルを付与しても変化がないので、どうやらiPhone OS(iOS)はカラープロファイルに対応していないようだ。

sRGB(左)とAdobe RGBの画像を表示したところ。いずれも、カラーチャートをカメラで撮影し、そのRAW画像をそれぞれの色空間で出力したものを取り込んでいる。カメラでsRGBとAdobe RGBのJPEG画像も撮影して取り込んでみたが、やはり同様の傾向だった

 iPadには標準で「写真」アプリが含まれており、ここから画像を閲覧できる。画像を保存する方法としては、PC/MacのiTunesで取り込むやり方がある。iTunesでは、指定フォルダの画像をiPadと同期することができ、「写真」タブから同期したいフォルダを選択すればいい。

写真アプリを起動したところ。「写真」タブには保存されている画像がすべて一覧表示される。これは横表示だが、縦持ちで見ることもできる。そのまま上部の「スライドショー」にタッチすると、画像全部をスライドショー表示する画像をタップして選択すると単独表示になる。下部にはサムネイル表示があり、ここから画像を選択できる
画像をダブルタップして拡大表示したところ。もう一度ダブルタップすると全体表示に戻るさらに拡大したいときは、2本の指を開くピンチイン操作でここまで拡大できる。ただ、最大まで拡大すると実画像サイズより大きい表示で画像が荒れるので、この一歩手前くらいで止めると、100%表示になるようだ

 あとはiTunesとiPadで同期を行なうたびに、新規画像があれば同期されていく。iPodにはあったフル解像度の写真転送のオプションはないが、PC上の画像がそのまま転送されているようだ。同期時の「写真を“(iPad名)”用に最適化中」という表示は、同期のためのデータベース構築のためで、リサイズなどは行なっていないらしい。

iTunesのiPad管理画面。好きなフォルダを選択して画像を同期できる

 また、iTunesのデバイス管理画面の「App」タブでは、「ファイル共有」機能があり、対応アプリに対してドラッグ&ドロップでファイルを転送できるので、これを使って画像を保存することもできる。この場合はそのアプリに転送されるため、写真アプリでは確認できないが、使いたいアプリがある場合に有効だろう。

任意のアプリで画像を閲覧したい場合、このAppタブのファイル共有も利用できる

 ファイルの転送にはiTunesやファイル共有機能を使うほか、サーバー機能を内蔵したファイル転送アプリを使うことも可能だ。こうしたアプリでは、自前のWebなりFTPなりのサーバーをアプリ内で起動できるので、IPアドレスを指定するなどしてそのサーバーにパソコンからアクセスすれば、ファイルのアップロードが可能になる。

 たとえば「Air Sharing HD」や「FileApp」、「Files2 HD」などのアプリがあり、これらのアプリを使えば、iTunesを経由せずにファイルを保存できる。その代わり写真アプリは経由しないが、こうしたアプリはたいてい画像閲覧機能があるので、それを使えば、写真アプリと同じようなことはできる。

 ただし、iPadは単純にマスストレージクラスとしてPCに接続されるわけではないので、WindowsのエクスプローラーやMacのFinderから直接iPad内に画像を保存することはできない。保存されている画像をPCにコピーすることは可能だが、書き込みができないわけだ。

 単純にビューワーとして考えた場合は、大量の画像を保存でき、しかもiPadらしい指を使ったフリック、ダブルタッチやピンチイン・アウトによる拡大縮小といった動作は快適のひとこと。動きは速く、画像送りや拡大・縮小に引っかかりはないので、スムーズに大量の画像を閲覧できる。

 特に9.7型の大画面、IPS液晶による視野角の広さによって、テーブルの上などにiPadを置き、複数で画像を見る場合には非常に便利だ。iPadを囲んで画像を見ているときに、反対側の人に正方向の画像を見せたい場合も、ちょっとiPadに角度を付けるだけですぐに画面が回転してくれるので、どの方向にいてもちゃんと画像が見られる。拡大すればピントチェックもできるし、構図の確認も含めて画像チェックに有効なはずだ。

 RAW画像に関しては、iTunes経由でもそのまま転送できるが、どうやらRAW画像埋め込みのサムネイル画像を表示しているようだ。RAW現像機能が入っているとは考えにくいし、まだMac OS自体が対応していないソニーNEX-5のRAW画像も表示だけはできたので、RAW画像をそのまま転送してサムネイル画像を表示しているということだろう。


カメラから直接画像を読み込む

 上記の方法はiTunesやアプリを使ってPC内の画像を転送するやり方だが、外出先で撮影したカメラの画像をその場で取り込むことも可能だ。

 使うのはアップル純正オプションの「iPad Camera Connection Kit」。Apple Storeで2,980円で販売されており、SDメモリーカードリーダーとUSB端子を備えたカメラコネクターの2つのアクセサリが同梱されている。いずれも接続方法が違うだけで、SDメモリーカードをカードをリーダーに直接挿入するか、カメラコネクターにUSBケーブルでカメラを接続する。

Camera Connection KitのSDメモリーカードリーダーをiPadに挿入したところ。カメラコネクタは別にあり、ちょっとデザイン性や使い勝手の面からは微妙な印象もあるが、便利は便利だ

 接続すると、自動的に写真アプリが起動し、カード内の画像が一覧表示される。この状態ではサムネイル表示されるだけで、拡大表示などはできない。あとは「全部読み込む」を選択するか、任意の画像にタッチして選択したあとに「読み込む」をタップし、「選択項目を読み込む」を選べば写真アプリに画像が取り込まれる。選択したカード内の画像を削除することもでき、画像取り込み後にその画像をカードから削除することも可能。

しばらく待つと、画像一覧が表示される。このサイズから拡大や縮小表示はできない。そのまま全画像を読み込む場合は「全部読み込む」を選択する画像にタッチすると選択状態になり、上のアイコンが「読み込む」に変わるそこを選択すると全画像を読み込むか、選択画像だけを読み込むかが選べる

 取り込んだ画像は、写真アプリの「イベント」タブでは撮影日時ごとに分類されて取り込まれる。取り込み時には画像に手は加えられず、そのまま取り込まれているようで、RAW画像もそのまま取り込まれ、iTunes経由と同様にサムネイル画像が表示されるようだ。RAW+JPEGで撮影した場合、両方とも取り込まれ、表示にはRAW画像のサムネイルが使われるようだ。iPad内にはRAWとJPEGが両方取り込まれており、iPadをパソコンに接続すると、両方の画像が確認できるので、安心して使える。

取り込まれた画像は、イベントタブに日付で分類されるいったん取り込まれた画像は緑のチェックマークが付き、「全部読み込む」の選択時に除外できる(再読込も可能)。RAW+JPEGで撮影した画像の場合は「RAW+JPEG」と表示され、1枚の画像に見えるが、きちんとRAWとJPEGの2枚が読み込まれる

 Camera Connection Kitは単機能で使い方は簡単(というか単純)なので、撮影の合間に素早く取り込み、確認するという用途には向いているだろう。とはいえ、いちいち画像を選択するのはストレスなので、「全部読み込む」を活用すると良さそうだ。iPadに読み込んだ段階でカード内の画像を削除しておけば、画像はiPadの大画面で確認しつつ、カードの容量も開放されて、残り容量を気にせずに撮影できる。自宅に戻ったら、iPadをPCに接続して画像を吸い上げればいい。

 ただし筆者のiPadでは、画像を取り込む際に写真アプリが強制終了する場合があり、これが気に掛かった部分。再起動直後に画像を取り込んだ場合は全画像が読み込めたので、恐らくはメモリ不足が影響したのだろう。

 強制終了した場合、再度写真アプリを起動して読み込めばいいのだが、読み込み直すとなぜか「イベント」タブの日付が重複して、同じ日付のアルバムが複数できてしまう。画像の一覧表示をすれば実用的な問題はないのだが、見栄えや検索性は良くない。いったんこうなると写真アプリでは修正できないので不便な印象だ。また、画像読み込み中はほかの操作ができないのも難点。

 iPadでは、動画の読み込みも対応している。テストしたところ、AVCHD(ソニー・NEX-5のMTSファイル)はインポート画面にも表示されなかった。AVI、MOV、MP4といったファイルは、iPadのスペックの再生対応能力次第だが、再生できなくても読み込みだけはできるようだ。

再生できる動画とできない動画(右のMOV)はサムネイルで区別できる

 iPadが対応しているのは、公式情報ではH.264が720p/30fps、MP4は640×480/30fps、Motion JPEGは720p/30fps、といったスペック。音声フォーマットが非対応でも再生できないようで、保存して再生できるかどうかは、そのカメラの動画撮影機能によるようだ。とりあえず、再生できなくても取り込みはできるのでどうにかなるが、AVCHDだけは取り込みすらできないのは気になった部分だ。

取り込んだ動画の再生画面。上下のサムネイル表示は消すことができる。動画の簡易編集機能もあり、動画のトリミングが可能だ(右)

 ちなみに、ソニーNEX-5のJPEG画像186枚(1画像当たりのファイル容量は3〜4MB程度)の全画像読み込みは5分程度で終了した。カードはEye-Fiの「Eye-Fi Pro X2 8GB」だ。この読み込みスピードが実用的かどうかは使い方次第だろう。


iPadを活用するアプリ

 iPadは、画像の確認やみんなでの閲覧といったフォトビューワーとしての機能や、画像を取り込んで保存するフォトストレージとしての機能は十分実用的だが、アプリを追加することで画像をさまざまに活用できる。ここではいくつか紹介しよう(価格は試用時のもの)。

・GoodReader for iPad(115円、期間限定)
 さまざまなファイルフォーマットに対応したビューワーソフトだが、JPEG画像やRAW画像の表示にも対応し、フル解像度の画像取り込みもできる。写真アプリに画像を転送したり、DropboxやGoogleドキュメントなどのWebサービスにファイルを転送できるので、画像のアップロードにも利用できる。

ファイルビューワーのGoodReaderではさまざまなファイルが閲覧でき、Webサイトからの画像ダウンロード機能も備えている

・Photogene for iPad(450円)

 画像の切り抜き、回転、特殊効果、フィルター、色調補正、赤目補正、リサイズ、星や四角などのシェープ追加、テキストの挿入など、各種画像補正・編集機能を搭載。複数の補正機能を組み合わせたマクロ機能も備えており、デフォルトのプリセットに加えて自分でマクロを作成することも可能なので、「オートレベル補正をしてシャープネスをかけてフレームを付ける」といった作業を保存して、ワンタッチで呼び出せる。保存時に画像のリサイズもでき、TwitterやFacebook、メールで画像を送信することも可能。

各種画像補正、編集機能を備えるPhotogeneマクロ機能を使うことで、こんな編集もワンタッチで可能

・PhotoPad by ZAGG(無料)
 切り抜きや回転、リサイズ、フィルターなどの特殊効果、簡易的な画像補正機能に加え、画像にペンで書き込んだり、同じ色の範囲を一度に別の色で塗りつぶす機能も搭載。作成した画像をメールで送信することも可能だ。

画像補正に加え、画像への書き込み機能も備えたPhotoPad

・Web Albums for iPad(350円)

 PicasaWebアルバムを閲覧するアプリ。アカウントを設定することで、標準の写真アプリのようなデザインで、Picasa上の画像を表示できる。iPadらしいダブルタップやピンチイン・アウト、フリックでの操作が可能で、快適に画像を確認できるとともに、スライドショー再生や画像のメール送信、iPadへの画像保存も可能。キャッシュを保存するため、オフラインでもアルバムの閲覧が可能。画像のアップロード機能はない。

単にPicasaWebアルバムの画像を表示するだけだが、その分シンプル

・FlickStackr(230円)
 Flickrの画像を閲覧するためのアプリ。自分のFlickrアカウントの画像に加え、公開されているFlickrの画像も閲覧できる。

 バックグラウンドで画像を読み込み、タグやExif、位置情報の閲覧も可能で、キャッシュを保存するため、通信がない状態でも画像を閲覧できる。iPad内の画像を読み込んでFlickrにアップロードすることも可能で、Camera Connection KitやiTunes経由で取り込んだ画像のアップロードもできる。

Flickr上の画像閲覧、アカウント管理など、高機能なFlickr管理アプリ

・ZCamera(230円)

 iPadはカメラを搭載しないが、iPhoneのカメラを無線で接続し、iPadのカメラとして利用するためのアプリ。同様のアプリはほかにもあり、Bluetoothや無線LANでiPhoneとiPadを接続して利用する。iPhoneのカメラに写った映像がiPadの大画面に表示され、iPadの画面をタッチすれば撮影が行なえる。

 無線LANだとやや反応が鈍いようだし、動画撮影もできないが、離れた場所にカメラを置いて、iPadで画面を見ながら撮影できる。撮影した画像はiPadにも保存でき、カメラを遠隔操作するといったイメージだ。

iPhoneのカメラをiPadに接続して利用できるZcam


 さらに、iPadで閲覧できる写真集アプリも登場してきている。たとえばApp Storeには、三好和義「楽園」写真集、高砂淳二写真集「GIFT - from the EARTH」、Wonders of Japan by Kazutoshi Yoshimura(吉村和敏)、亀山哲郎写真集、東京の魅力 - 写真集、イタリア世界遺産の旅 - 写真集などの写真集や、毎日新聞によるデジタル写真誌「photoJ.1」、Guardian News and Mediaによる報道写真誌「The Guardian Eyewitness」が配布されている。

 ほかにも、写真に写った余計なものを消すアプリや、ジオラマ風の編集ができるアプリ、パスワードでフォルダを保護できる画像管理アプリなど、豊富なアプリがある。個人的にはフリービットの「ServersMan HD」に期待しており、現時点ではまだApp Storeには公開されていないが、Eye-Fiの画像を直接iPadにワイヤレスで転送できるようになるらしい。現在もiPhone版はあり、iPadへのインストールは可能だが、筆者が試した限りはいろいろと不具合があって実用的ではなかったので、iPad版の公開を期待したい。

 いずれにしてもiPadは、大画面で美しい液晶ディスプレイと高速でストレスのない動作によって、画像の閲覧・保存に関しては快適に利用できる。プロフェッショナルな用途として完璧とはいえない部分もあるが、一般ユーザーがデジカメで撮った画像をみんなに見せたり、自分で構図やピントをチェックしたりといった用途には問題なく利用できそうだ。

 画像の保存、閲覧用にノートPCを持ち歩くなら、iPadで十分。そう感じさせるだけの機能を備えている。



小山安博
某インターネット媒体の編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、音楽プレーヤー、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、音楽プレーヤー、PC……たいてい何か新しいものを欲しがっている。

2010/7/6 00:00