「透過光」で撮ってみよう

~見慣れたものが表情を変える、鮮やかなイメージ
Reported by上原ゼンジ

 透過光を使った写真が好きだ。光が物を通過した時に現れる鮮やかな色に心惹かれる。今までにも透過光を使った撮影はいろいろしてきたのだが、今回は日光写真のイメージからスタートした「太陽画」と、紙筒の穴越しに撮影をする「のぞき見シリーズ」を紹介してみたい。

彼岸花を被写体の後ろ方向からの光で撮影した「太陽画」。レンズの前に紙筒を付けて撮影した「のぞき見シリーズ」。つまり筒の内側をわざと写し込んでいるというわけです。

 写真を撮影する場合には光が必要になるが、目に入る光には物体に当たって反射する場合と、物体の中を通過してくる場合がある。たとえば、木の葉を見上げて透かしてみると、鮮やかな萌黄色や紅葉を目にすることができる。同じ葉っぱでも陽の光を透した場合と、反射した光を見るのとでは、その鮮やかさが違う。この現象を推測するに、葉っぱがフィルターとなり、特定の波長しか透さない場合は鮮やかに映るけど、反射の場合は乱反射した他の波長の光が混じってくると彩度が低く見えるということなのだろう。

 この鮮やかな光を写真に収めたいと思って透過光で撮影したのは、たとえば落ち葉の写真。これは、ガラスの上に落ち葉を載せ、下から光を当てて撮影した。なんか普通の落ち葉の写真と違ってくっきり鮮やかに見えるのは透過光のおかげだ。簡単にやろうと思ったらライトボックスを使うとか、鏡やライトを使って下から光を当てるといいだろう。

落ち葉を透過光で撮影。ニコンD700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / マニュアル露出 / 1/250秒 / F11落ち葉を透過光で撮影。ニコンD700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / マニュアル露出 / 1/250秒 / F11
落ち葉を透過光で撮影。ニコンD700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / マニュアル露出 / 1/250秒 / F11落ち葉の写真はガラス板の下に照明を置いて撮影しているが、ライトボックスを使うのが簡単。その他家庭にある照明具や懐中電灯などでも試してみて欲しい。

デジタル日光写真はできないだろうか?

 「太陽画」というのは、日光写真をデジタルカメラで再現できないかと考えていて思いついたシリーズのこと。日光写真というのは、感光する紙の上にオブジェクトを載せ、陽の光に晒してオブジェクトの形を記録する方法。光が直接当たった部分と遮られた部分で違いが出る。オブジェクトが光を通すものであれば、ただのシルエットではなく、グラデーションの表現もすることができる。

 デジタルカメラのセンサーの上に直接オブジェクトを載せればデジタル日光写真ができるかもしれないが、それはちょっと恐ろしいし、そんなに大きなセンサーも持っていない。そこで日光写真の感光紙の位置にカメラを置き、光源とカメラの間にオブジェクトを置く方法を考えてみる。まずはカメラのレンズを上に向ける。ガラスなどの上にオブジェクトを置いて、太陽光で撮影するという方法。感光紙とカメラを入れ替えた、一番始めのデジタル日光写真のイメージ。

 それから同じような位置関係のままカメラを横にむけて撮影する方法、たとえば花を横から普通に撮る。その際に花を窓際などの明るい場所に置いて逆光で撮るというこということだ。これだったら被写体の位置や向きなども変更しやすい。また太陽光を使わない場合は、被写体の向こう側からカメラ方向に向かってライティングをすればいい。

 最後の方法としては、ガラス板などの上にオブジェクトを置き上から撮影する方法。この場合光は下から当てたいので、白い紙や鏡などをガラス板の下に斜めに置いて上向きに光を反射させる。あるいはライトを下から当てる、といった方法も可能だ。

 さて透過光で撮影したのと、反射光で撮影したのではどのような違いで生まれるのかを比較したのが下の写真。けっこう違いが出るでしょ?

白い紙の上にホオズキを置いて、こちら側からの光(反射光)で撮影。ガラスの上にホオズキを置いて、向こう側からの光(透過光)で撮影。

 そして同じ画像をPhotoshopでモノトーンにしてみた。こうやってみると、確かに日光写真のように撮影できていることが確認できる。ホオズキが3つ並んでいるのは本物の日光写真だ。これは富士フイルムの「コピアート」という感光紙を使って実際に陽の光で像を定着させたもの。アイロンを使って熱を加えることにより、青い像が浮かび上がり定着することができる。割と簡単にできるので、興味ある方はお試しください。

透過光で撮影した写真をモノトーンにして、日光写真風に加工。同じ写真を反転させるとこんなイメージになる。明るいところは暗く、暗いところは明るく。オレンジ色のホオズキは補色の青に変わる。
コピアート紙の上にホオズキを載せ、屋外で陽の光に晒した。用紙は薄い黄色なのだが、アイロンで熱を加えると青い像が浮かび上がってくるのです。

露光をたくさん与えることにより、太陽画が完成

 今紹介したのは、デジタルカメラで日光写真風に撮影するための方法だが、同じ撮影方法でも露光を多く与える(シャッタースピードを遅くする)ことにより、イメージはまた違ってくる。

 次の写真は露光を多く与えて明るくしたものだが、今度は花が透けて見えるようになった。実は花ってこんなに透けるものなんだということが、これをやってみることによって分かった。X線で撮ってるみたいで、なかなか面白いイメージだ。

窓際で撮り、バックを飛ばしたカタバミ。なんか絵みたいですよね。ニコンD700 / コシナULTRON 40mm F2+接写リング / マニュアル露出 / 1/10秒 / F8窓際で撮影しているところ。黒い紙や黒い布を使って、透過光以外の光を遮るのがポイント。別にルールがあるわけではないので、撮ってみたい方はいろいろ工夫をしてみてください。

 こんな撮影の仕方は普通はやらないが、それは花以外の部分がすべて白く飛んでしまうからだ。通常はキラっと光るキャッチライト以外は飛ばさないようにというのがセオリーだ。しかしそのセオリーを無視して“飛ばすの上等”という自分のルールを作ってしまえば、別の表現が生まれる。これはデジタル日光写真とはまた別物になったので、私は太陽画と名付けていろんな被写体をこの手法で撮影している。

 先に紹介した透過光で撮る方法と違わないように思えるかもしれないが、透過光の場合は葉っぱなど平面的なものをガラスの上に置いて複写のようにして撮影していた。それを横から普通に撮っていることと、日光写真のイメージで撮り始めたというコンセプトの違いがある。この方法であれば屋外でも可能だし、いろいろと広がりも出てきそうだ。

 最初は被写体のバックはただ飛ばしてしまい白くしていたのだが、作品とする場合はバックに色を入れたりもしている。これは白いバックの部分だけを選択して、好きな色で塗りつぶすという方法。画像処理ソフトを使えば簡単に加工可能だ。

シラサギカヤツリソウ。バックを薄い黄色に加工。ニコンD700 / コシナULTRON 40mm F2+接写リング / マニュアル露出 / 1/30秒 / F5.6コスモス。ニコンD700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / マニュアル露出 / 1/30秒 / F5.6
パフィオペディラム。ニコンD700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / マニュアル露出 / 1/15秒 / F18チューリップっぽくないチューリップ。ニコンD700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / マニュアル露出 / 1/13秒 / F18
ダリア。これはなかなか透けなかった。ニコンD700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / マニュアル露出 / 1/4秒 / F8彼岸花。絞りを浅くしてボケの面白さを演出。ニコンD700 / コシナULTRON 40mm F2 / マニュアル露出 / 1/50秒 / F4
彼岸花。ニコンD700 / コシナULTRON 40mm F2 / マニュアル露出 / 1/50秒 / F4
ウニの一種スカシカシパン。植物以外でも透けるものであれば撮れるということ。ニコンD700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / マニュアル露出 / 1.6秒 / F11ウニの一種。これはミニシービスケットという種類らしい。新島で買ってきた。ニコンD700 / AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED / マニュアル露出 / 1/5秒 / F11

紙筒越しに写す、借景のようなイメージ

 これらの写真とはまた別に、筒の中をのぞいているようなイメージの写真が撮れないかと、ある時思いついた。たとえばトイレットペーパーの芯に目を付けてのぞくと、目の前の光景は丸く切り取られた状態になる。このようなイメージを写真にしたければ、レンズの前に筒を付ければいいだけなので、撮影も難しくない。

 以前に雑誌で人間の視覚を再現するような写真を研究している人の記事を見たことがある。普通写真と言えば四角くフレーミングされるのが当たり前だが、その写真は四角形ではない変な形で周囲も少しボケていた。人間の見える範囲というのは真四角ではないし、周囲は少しずつボケていく。そういう人間の視覚に忠実な写真を撮ろうという研究だったということだ。

 発想として凄くユニークだとは思ったものの、写真自体はあまり面白いものではなかったので、真似をしたりすることはなかった。今回丸く視界が切り取られる写真を思いついた時に思い出したのが、その雑誌で見た写真のことだった。まあ、人間の視野を再現しようという試みではないが、強制的に視界が狭められた写真がどのような印象を与えるものなのか? という興味もあって筒を使った「のぞき見写真」を試してみることにした。

 筒をレンズに取り付けるのは得意だ。宙玉レンズや万華鏡カメラの試作のために紙製のものや金属製のもの、直径の異なる筒をたくさん持っている。そして今回使ったのは直径80mmの紙筒。ネットで検索する場合は「紙管 80mm」で検索すればいろいろヒットする。レンズにステップアップリングで取り付けるのは「宙玉レンズ」と同じ方法だ。

レンズの前に紙筒を付けた状態。カッコ悪いと思う人は黒い紙を巻くなりして、普通のレンズフードのフリをしてください(笑)紙筒を後ろから見たところ。ステップアップリングをテープで留めただけ。軽いのでこれでも全然問題なし。

 撮影は太陽画と同じように露出オーバーでバックが飛んでしまうように行なう。たとえば花を写すと明るい背景は完全に飛んでしまうが、周囲には筒の内側が写りこんでいるので、周囲には丸いフレームはできるという仕組みだ。つまり後からバックに加工を施したりする必要もない。最初は今まで同様切り抜き写真のようなものをイメージしていたが、バックにもチラチラとボケたものが写りこんでいると面白いようだ。

 撮影はまだ梅の花を一回撮りに行っただけだが、ちょっと手応えありの感じだ。露出オーバーを前提としたハイキーな画面と、丸いフレームが独特のイメージとなっている。なんか京都の庭園で丸い窓越しに撮影したようでもある。最初の発想はトイレットペーパーの芯だったけど、やってみたら窓越しに見る小宇宙の写真となった。京都の借景や小宇宙のイメージで撮影すれば、さらに広がりが出てきそうだ。「のぞき見シリーズ」じゃなくて、もう少しいいネーミングをしなきゃいけないな。工作的には紙筒を付けるだけという気軽なものなので、面白いと思った人はぜひお試しを!

梅の花。なんか和風でいいですね。最初に撮ったのが梅で良かった! ニコンD700 / コシナ カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/500秒 / F5.6梅の花。感度を上げて(ISO800)シャッタースピードを早くして手持ちで撮影。 ニコンD700 / コシナ カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/125秒 / F5.6
梅の花。 ニコンD700 / コシナ カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/80秒 / F5.6梅の花。 ニコンD700 / コシナ カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/320秒 / F5.6
梅の花。 ニコンD700 / コシナ カールツァイス ディスタゴン T* 2.8/25 / マニュアル露出 / 1/160秒 / F5.6

・作例写真はすべてRAWで撮影し、Photoshop Camera RAWを使って色調整。Web用にリサイズの後、適宜アンシャープマスク処理を施しています。

告知

・宙玉レンズで桜を撮りましょう!

 桜の季節になりました。ぜひ宙玉レンズで「桜玉」を撮影してみてください。ポイントは空の青さと桜のピンクをうまく構成することです。

・海月たゆとう

 ホームページに水族館で撮影したクラゲの写真をアップしました。ストロボは使わず水槽の照明だけで撮影。







(うえはらぜんじ)実験写真家。レンズを自作したり、さまざまな写真技法を試しながら、写真の可能性を追求している。著作に「Circular Cosmos―まあるい宇宙」(桜花出版)、「写真がもっと楽しくなる デジタル一眼レフ フィルター撮影の教科書」(共著、インプレスジャパン)、「こんな撮り方もあったんだ! アイディア写真術」(インプレスジャパン)、「写真の色補正・加工に強くなる レタッチ&カラーマネージメント知っておきたい97の知識と技」(技術評論社)などがある。
上原ゼンジ写真実験室

2012/4/4 00:00