【新製品レビュー】エプソン「PX-5V」

~ユーザビリティーが進化した写真愛好家向けA3ノビプリンター
Reported by 吉田繁

 2011年3月に発売になったエプソンのインクジェットプリンター「PX-5V」の改良点などを見ていきたい。

PX-5V。実勢価格は8万9,980円前後

 この機種、A3ノビの高品位モデルということで「PX-5600」の後継機としての位置づけになるだろう。従って、こだわりを持った写真を趣味にしている方などがメインターゲットとなる機種だ。

収納時のサイズは616×369×228mm、使用時のサイズは616×814×424mm。重量は約15kg
側面

 大きな変革点は、なんといってもユーザビリティーの進化があげられる。インクタンクが大容量になり、多くの枚数を出力しても、すぐにインクタンクを交換しなくてはならないということはなくなった。

 さらに、マットブラックとフォトブラックの2種類のブラックインクタンクが同時に装着できるようになり、手動で用紙によって変えなくてはならなかった面倒なインクタンクの交換はなくなった。

インクタンク室(左)と同室を開けたところ(右)。インクタンクが大容量化されることにより、交換頻度が低減された。また、光沢紙とマット紙では利用するインクが違うため、以前はマットブラックとフォトブラックを手動で交換していたのだが、PX-5Vでは自動で変更してくれる

 操作パネルも2.5型カラーの液晶モニターになり、ご年配の方でも見やすく配慮されたと言っていいだろう。前面給紙などの時に、次にやる操作がこの液晶モニターに表示されるのだが、表示内容もとてもわかりやすい。

カラー化したLCD操作パネルを搭載。インクの交換などではどのインクがなくなっているかなどの表示は色でタンクを見分けられるようになっているので、操作性がとてもいい。前面給紙のトレイの操作方法、インクがなくなった時の具体的な交換インクの指示などが表示される

 A3ノビ機は室内でそれなりに場所をとるのだが、無線LAN(IEEE 802.11b/g/n)対応になったことで部屋のどこにでも移動することができ、一般家庭でも取り回しがよくなった。

写真にある有線LANポートに加えて、新たに無線LANに対応した。無線LAN対応により、どこでも移動可能だ。一般家庭で、「A3ノビ機はちょっと大きくて」と思われる方にもどこでもおくことができるため取り扱いがとてもよくなっている

耳付き和紙による新しい表現

 インクジェットプリンターの大きな特徴は、銀塩プリントと違い、選べる用紙の種類がとても多いことだ。中でも和紙のような風合いのある素材に出力できることは、インクジェットプリンターの大きなメリットだ。

 PX-5VはPX-5600と違い、耳付きの用紙でも給紙が安定的にできることが1つの売りになっている。そこで、耳付きの和紙に出力してみた。用紙はアワガミファクトリーの「びざん(手漉き)厚口」。

アワガミファクトリーの「びざん(手漉き)厚口」。ハンドメイドの和紙の風合いを残した用紙だ

 実際にやってみると給紙はとても安定感がある。何枚も出力したのだが、A3のサイズでは給紙のエラーが出たことはなかった。このような用紙は用紙の端が直線、直角になっていないため特にエラーになりやすい。これらの用紙に対応するため、給紙機構に改良が加えられたり、「斜行エラー検出」を設定でON/OFFが可能になっている。

 この用紙、インクの吸い込みを防いだり着弾の精度を上げるために、炭酸カルシウムや二酸化ケイ素などを用紙を作る段階でいれている。したがって和紙なのだが、色域がとても広い。こうした用紙に対応したことで、表現の幅がいっそう増えたと言っていいだろう。

びざん(手漉き)にプリントした作品。用紙の周囲は“耳付”になっている

 ところで、PX-5600では用紙厚のあるアート紙などは背面給紙だったのだが、この時“斜めに給紙された”というエラーメッセージがたびたび出て閉口した人も多いと思う。PX-5Vでは、この給紙の安定性が非常に増している。

 アート紙などの紙厚のあるものは、前面からの手差し給紙に変更になった。大判になればなるほど、給紙時のわずかな誤差が出力時に大きく影響するものだが、この点での精度も改良されている。このように前面から背面にそり上がるように給紙される用紙の厚さは0.7mmまで。これを越えて1.3mmまでは水平給紙になる。

前面給紙された用紙は、背面でそり上がるように上部にあがって処理される。これにより、前面給紙された用紙が、まっすぐ後ろに送られるのではないので、後部のスペースを取らない。厚さが0.7mmを越えたものだけは、ストレートに後ろに給紙され背面のスペースをとるが、0.7mmをこえるメディアはそれほど無いと言っていいと思う

十二分な色域と諧調性

 発色に関してはPX-5600から大きな変化は無いのだが、最小インクサイズが2plに変更された(PX-5600は最小3plだった)。また細かなノイズ処理などがブラッシュアップされているが、PX-5V単体でみて大きな変化ということではない。それだけ、諧調性、色再現性、粒状性、光源依存性は、高次元なレベルまで実現していると言っていいだろう。

色域、 諧調性、色再現性、粒状性、 濃度域に関しはほぼPX-5600と同じだ。完成度がとても高いと言っていい。ここでは、差が出ないとわからないので、PX-5800と色域を比べている。パープル系の色域(左下方向)が大きくなっているのが確認できる(i1プロファイラーで色域を測定し、ColorThinkで表示)
PX-5VとPX-5800でエプソン写真用紙に出力しそれぞれの色域を測定した。左からLab値が25、50、75の色域。右のグラフで白線がPX-5V、赤線がPX-5800。いずれでもほぼPX-5Vの色域が広い
インクは従来からのK3(VM)顔料インクを採用

 最小インクが2plになり、細かな粒状感が軽減されているが、前機種との差を認識することは難しい。本当に少しずつ発色に関しては進化している。3世代ほど前の機種を使っている人だと、逆に差が認識できるかもしれない。その程度の変化だ。

 今回のPX-5Vは、今までのPX-5600ユーザーからあがった要望に応えて、ユーザビリティーを大きく変化させた機種と言っていいと思う。

【2011年4月21日】記事初出時、水平給紙の紙厚を「1.5mmまで」としておりましたが、正しくは「1.3mmまで」になります。






吉田繁
(よしだしげる)1958年、東京生まれ。広告・PR 誌・雑誌など撮影をするかたわら1990年頃から巨樹を中心に世界の森を撮り続けている。デジタル機器につよく、Photoshopやプリンターなどのセミナーを毎月行っている。著書に、「地球遺産・最後の巨樹」、「地球遺産・巨樹バオバブ」(共に講談社刊)、「モノクロファインプリントマスターBOOK」(玄光社刊)がある。全国カレンダー展通産大臣賞、日本商工会議所会頭賞など連続受賞。社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。Webサイト:http://bigtree.maxs.jp/

2011/4/20 00:00