新製品レビュー
ソニーサイバーショットRX100 III
持つ人を選ばない高画質コンパクトカメラ
Reported by 大浦タケシ(2014/6/19 08:00)
ソニーサイバーショットRXシリーズのなかでもっとも広く人気を集めているのが、末っ子RX100シリーズであることに異論の余地はない。コンパクトなボディに1インチセンサーとカールツァイスの明るいズームレンズを内蔵し、コントロールリングをはじめとする扱いやすく快適な操作性はユーザーを選ぶことがない。
高価で徹底して描写を追求した単焦点レンズを搭載する長男のRX1/RX1Rや、大柄なレンズ一体型高倍率ズーム機である次男RX10とは一線を画し、RXシリーズのなかで最も親しみやすく受け入れられやすいカメラだといえる。
そのRX100シリーズがこの度RX100 III(サイバーショットDSC-RX100M3)にリニューアル。従来モデルRX100 IIとの違いを比較しながら、その魅力を探ってみたい。
RX100 IIIのトピックは大きく2つ。新搭載のEVFと広角側にシフトしたズームレンズだ。
ポップアップ式EVFを内蔵
EVFはポップアップ式を採用。ボディ左手側面にあるボタンを押し下げるようにスライドさせるとトップカバーからポンと飛び出す。オールドカメラファンなら、戦前に発売されたハンザキヤノンの光学ファインダーを思い起こす人も少なくないだろう。コンパクトデジタルカメラにEVFを搭載しようとすると、従来の方法では軍艦部を嵩上げするか、そうでなければEVFを別体とする必要があるので、なかなか巧みなアイディアだ。
EVFのセットアップには、さらにもうワンアクション必要で、アイピースをカメラ後方へ引き出さなければならない。些か面倒であるが、コンパクトなボディに収めるためには致し方ないところといえる。
アイピースの光学系にはカールツァイスの誇るT*コーティングが施されているほか、視度調整機能も備わる本格派。さらにアイセンサーも備え、液晶モニターとの切り換えに手間を必要としない。切り換えのレスポンスはよく、ストレスを感じるようなこともない。
EVFのスペックは0.39型144万ドット。さすがに先代RX100 II用の外付けEVF「FDA-EV1MK」(0.5型235万ドット)と比較すると表示は見劣りしてしまうものの、通常使うには十分な見え具合である。特にファインダーに接眼して写真を撮ることに慣れたデジタルユーザー(多くの場合一眼レフユーザーになるかと思う)にとって、EVFの存在は何かとありがたく感じられるはずだ。
さらにEVFのポップアップと収納の操作は、カメラの電源ON/OFFも兼ねている。トップカバーには独立したON/OFFボタンも備えるが、EVFを使う機会の多いユーザーはこちらの操作による起動方法が便利に思えることだろう。なお、EVFの搭載で内蔵ストロボは光軸とほぼ重なる位置に移動するとともに、RX100 IIで搭載されていたマルチインターフェースシューは廃止されている。
より明るく、広角寄りになったレンズ
レンズは35mm判換算で24-70mm相当の画角を持ち、開放値はF1.8-2.8。もちろんカールツァイスで、バリオ・ゾナーの名を冠する。28-100mm相当でF1.8-4.9としている従来モデルとくらべ、テレ端の画角は物足りなさを感じなくもないが、ワイド端の画角やテレ端の開放値を考えるとこちらのほうが実用的といってよい。もっとも撮影後トリミングによって画像を切り出せるが、より広い画角にすることは不可能なので、RX100 IIIのほうが何かと使いやすいはずだ。
さらにNDフィルターを内蔵しているところもRX100シリーズとしては目新しい部分。絞り値にして3段分の減光効果を持ち、よりスローシャッターでの撮影を楽しみたいときや、明るいシーンでも絞りを開きボケを活かした撮影を行うときなど重宝する。設定はON/OFFのほか、自動的にNDフィルターの使用を選択するオートも備わっている。
最短撮影距離はワイド端がレンズ前5cm、テレ端ではレンズ前30cmとしている。従来より望遠側でも寄れるようになったのは、これまでのRX100ユーザーの待ち望んでいたところだろう。
カスタマイズ性も魅力
細かな進化点といえばC(カスタム)ボタンの新設と、180度までチルト可能となった液晶モニターがあるだろう。Cボタンには実に40種類以上の機能が割り当てられ、かつ即座に設定画面を呼び出すことができる。従来同様コントロールリングやコントロールホイールの中央/左/右ボタンにも機能を割り当てることが可能なので、より自分好みのカメラに仕立てあげられる。
液晶モニターについては、いうまでもなく自分撮りを考慮したものといえる。撮影者だってときにはいっしょに画面に写りたいと思うことがあるが、そのようなときにより広くなったワイド端の画角とともに活躍してくれそうだ。
そのほかの部分に関しては、撮像素子は従来と同じ1インチ裏面照射型“Exmor R”CMOSセンサーを採用。有効2,010万画素とする。画像処理エンジンについては新たに“BIONZ X”を搭載し、これらの合わせ技により高感度特性の向上が図られる。さらに画面を分割してそれぞれに最適な処理を行うエリア分割ノイズリダクションや質感描写を追求したディテールリプロダクション技術、回折低減処理など同社の持つ高い画像処理技術を注ぎ込む。
実際描写は、よりフォーマットの大きいデジタルカメラで撮影したものと見間違えてしまいそうだ。階調豊かであるうえ、エッジが繊細で立体的。ハイライト部、シャドー部ともよく粘る。高感度ノイズもよく抑えられており、1インチセンサーであることに不足を感じる部分は何一つないといってよい。さらに光学系が関わる描写も不満らしきものはない。諸収差に関してはよく補正され、特に画面周辺部の色のにじみなど皆無。画面中央部部分に迫る高い描写である。
加えてズーム全域で画質の変動がないもの特筆すべきところ。テレ端の焦点距離の短さをカバーするために多少トリミングを行っても、描写の“アラ”が見えるようなことはないだろう。ボケ味についても作例を見るかぎり乱れたような部分は見受けられず。積極的に浅い被写界深度で撮影に臨みたくなる。
シリーズの円熟を感じさせる1台
結論として、RX100 II/RX100の良き部分はこれまでどおりだ。まずレンズ付け根にはコントロールリングを備え、ズームや露出補正など未設定を含む10種類の機能を割り当てられる。クリック感こそないが、操作に違和感はなく使い勝手はたいへんよい。
ISO感度やホワイトバランス、ドライブモードなど撮影に直接関係する機能を12種類登録できるファンクションメニューも健在だ。機能の設定はコントロールホイールのほか、コントロールリングでも可能としている。
スマートフォンやタブレット端末との連携を可能とするWi-Fi機能も従来通り対応。専用アプリ「PlayMemories Mobile」をインストールしたデバイスへ手軽に静止画を転送できる。SNSやブログなどへのアップ、親しい仲間などの画像のシェアなど活躍することはいうまでもない。NFC機能の搭載もこれまでどおりとしており、対応するAndroidスマートフォンとのペアリングはカメラとタッチするだけである。
ボディサイズは、RX100 IIとの比較で2.7mm厚みを増しているほかは同じ。質量もRX100 IIIのほうが9g重いだけだ。ボディにはグリップや指掛けのようなものがなく、右手指先がやや心細く感じるのも従来と変わらない。
RX100シリーズはプレミアムコンパクトに分類されるカメラでありながら、写真愛好家のみならず老若男女を問わず多くの人々から広く受け入れられている。それはややもするとマニアックに傾きがちなプレミアムコンパクトのもうひとつの在り方を提案するカメラといってよい。新しいRX100 IIIも例外ではなく、加えて待望のEVFと実用的なズームレンズを搭載し、より円熟したカメラに仕上がる。ぜひ、その実力をショールームや店頭で確認してみてほしい。