【新製品レビュー】キヤノン「PowerShot SX30 IS」

〜世界最大の光学35倍ズーム機
Reported by 本誌:武石修

 キヤノンが10月上旬に発売した高倍率機「PowerShot SX30 IS」はコンパクトデジタルカメラでは世界最高の光学35倍ズームレンズを搭載したモデル。望遠端は35mm判換算で840mm相当と超望遠撮影が気軽に楽しめる一方、広角端は24mmと広いのも特徴だ。

PowerShot SX30 IS

 こうした高倍率機は各社が倍率競争を繰り広げ、年々ズームレンジが広がっている。ただし以前は広角側が30mm相当台という機種もあり、“広角よりも望遠重視”といった製品が多かった。その点、PowerShot SX30 ISは、超広角も超望遠も両方をカバーしているのが嬉しい。量販店での価格は4万6,100円前後だ。

 外観はEOS Kissシリーズを一回り小さくしたようなデザインで、一眼レフカメラ風。EOS Kiss X4はキットの標準ズームレンズを含んだ撮影時重量が730gあるのに対して、PowerShot SX30 ISは同601gと軽量。

 撮像素子は1/2.3型有効1,410万画素CCD。手ブレ補正はレンズシフト式。レンズの明るさはF2.7-5.8。最短撮影距離は広角端のマクロモードでレンズ前0cm、望遠端は1.4mだ。

 液晶モニターは約23万ドットの2.7型バリアングル式。改めて述べるまでもないが、ローアングルやハイアングルでの撮影には非常に便利だ。三脚に付けて撮影する際も威力を発揮する。また、本機は約20.2万ドットのEVFも装備している。液晶モニターもだが、画素数が46万ドット程度あるとさらに見やすくなるだろう。

バリアングル式の液晶モニターを搭載

 シャッター速度優先AE、絞り優先AE、マニュアル露出、MFなど凝った撮影に対応するための一通りの機能は備えている。ただ、RAWでの記録ができないのは残念だ。「PowerShot G12」はRAWで記録できるので、こちらも対応を期待したい。

グリップ部分は手に馴染みやすく持ちやすい一眼レフカメラに似たモードダイヤルを装備。PowerShot上級機モデルらしくカスタムモード(設定を記録できる)も2つ装備
背面にはホイールを備える。このホイールにはクリックが無いので、慣れるまでは戸惑うかもしれないEVFは20.2万ドットで視度調節機構付き。画素数はもっと欲しい
ホットシューはEOS用ストロボを使用可能ホットシューには樹脂製のカバーが付いている
内蔵ストロボは手動ポップアップ式本体上部左側にストロボ設定のボタンを装備。長押しすると調光補正などができる

 ズームの動作速度は思ったより速く、広角端から望遠端まで一気に移動できる印象だ。本機のズーム速度は、ズームレバーの角度によって可変になる。ズームレバーを一杯まで押して最も速い速度にすると、広角端から望遠端まで3秒程度で移動できる。

 

 さて、超望遠で撮影していると、狙っている被写体を見失うことが良くある。その場合ズームを広角に戻せば良いのだが、広角になるまで一定時間レバーをたおしたままにするのも面倒だ。本機には「フレーミングアシストボタン」という便利な機能があり、このボタンを押している間はズームが広角に自動で移動、見失った被写体を素早くフレームに戻して見つけやすくしてくれる。親指で押しやすい位置にあるのも便利。ズームが戻る度合いが3段階から選択できるのもよい。

フレーミングアシストボタンで、どれくらい広角側に戻すかを小、中、大の3段階から選択できる。望遠撮影時に大変便利な機能

 望遠端の状態からフレーミングアシストボタンを押して視野を拡大したところを動画にした。表示範囲が小、中、大の順で出てくる。

 

 なお、オプションのフィルターアダプター「FA-DC67A」を使用すれば、67mm径のフィルターが使用可能だ。

HDMI端子も搭載
SDXCメモリーカードにも対応するバッテリーは「PowerShot G12」などと共通の「NB-7L」

望遠端840mm相当は面白い

 35倍というズームを考えると歪曲収差は少なく良好。色収差に関しては、広角端の画像周辺部でやや目立つ印象だ。広角端時の像の流れもあるにはあるがさほど目くじらを立てるほどではないように思う。

広角24mm相当からの35倍ズームレンズを搭載鏡胴には35mm判換算焦点距離の目盛が付いている
広角端時望遠端時

 高感度に関しては1/2.3型で1,400万画素の極小画素のためか、驚くほど画質が良いというわけではない。ISO400からノイズが目立ち始め、ISO800ではディテールの喪失が大きくなる。最高感度のISO1600では色とコントラストが低下し、カラーノイズも発生する。ISO1600は非常用と考えたい。画質を重視するなら、できるだけ低感度での撮影を心がけたい。なおシャッター速度が遅くて三脚を使用する場合はコンパクトカメラ用ではなく、一眼レフカメラにも対応したものでないと、望遠側でブレを抑えるのは難しい。

 AFはコントラスト式。デジタル一眼レフカメラと同様のスピードというわけにはいかず、シャッターボタンを半押ししてから合焦するまではワンテンポある。ただ、コンパクトデジタルカメラとしてみれば特に遅いという印象ではなかった。

 これまでの機種でも搭載していた「魚眼風」や「ジオラマ風」といった撮影も可能。ジオラマ風は動画も撮影できる。

静止画撮影時の画面。白の大きな枠は動画が映る範囲の目安のラインで、表示を消すことはできない。動画ボタンを押すとすぐに動画撮影が可能なのでそのために常時表示になっているのだろう

 動画は最大720p(1,280×720ピクセル、30fps)。望遠端で動くもの(今回は船)を撮影してみたが、ズームを動かしてもピントは滑らかに追従していた。今回の動画サンプルは手持ちで撮影しているが、手ブレ補正のおかげで840mm相当で撮ったとは思えないほど安定して撮影できたと思う。ステレオマイク内蔵なので、臨場感のある音を楽しめる。音と言えば、録音レベルのマニュアル設定にも対応しているのがマニアックだ。普段はオートで問題ないはずだが、ここぞというときには活用したい。

動画は最大720p(30fps)記録動画撮影中の画面。静止画の時よりも画角はやや狭まる
ファインダーの横に録画開始のボタンを備えるペンタ部の下にステレオマイクを装備する
動画時の録音レベルはオートのほか、マニュアルで設定可能。レベルメーターを見ながら事前に設定できる。ウィンドカット(風切り音低減)機能も有り

 本機は動画記録中の光学ズームに対応している。その際、ズームがゆっくりと動くことで、レンズの動作音が記録されてしまうのを軽減するようになっている。あまり速いズームだと落ち着かない動画になるので、絵作りの面からも歓迎できる。なお、ズームレバーを回す角度でズームの速度は変更可能だ。以下の動画は動画撮影中に最速でズームしたところだが、静止画時のズーム動作(子画面)に比べてゆっくりになっているのがわかる。

 

まとめ

 実際に撮影してみると、想像以上のズームレンジに驚く。840mm相当などは一眼レフカメラでも筆者は使ったことが無く、ここまで大きく写ると写真の幅も広がりそうだ。また、単に大きく写すのみでなく圧縮効果もある程度期待できるので絵作りに活かしたい。

 カメラが28のシーンから自動的に最適なシーンを選択してくれる「こだわりオート」(動画は「こだわりムービー」が利用できる)や、笑顔検出シャッターなど自動撮影機能も充実しておりカメラ初心者にもお勧めできる。一方、マニュアル撮影機能も一通り搭載しているので上級者が一眼レフカメラとともに持ち歩くのもいいかもしれない。薄型のコンパクトデジタルカメラに比べればかさばるが、たとえば旅行に1台持って行くという場合にも良さそうだ。

実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、別ウィンドウで800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

画角

広角端
PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 1/640秒 / F4 / 0EV / ISO80 / プログラムAE / WB:オート / 4.3mm
望遠端
PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 1/400秒 / F5.8 / 0EV / ISO80 / プログラムAE / WB:オート / 150.5mm
広角端
PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 1/640秒 / F4 / -0.3EV / ISO80 / プログラムAE / WB:オート / 4.3mm
望遠端
PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 1/500秒 / F5.8 / 0EV / ISO80 / プログラムAE / WB:オート / 150.5mm
望遠端。太陽をここまで大きく写すことができる
PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 1/640秒 / F8 / 0EV / ISO80 / マニュアル / WB:太陽光 / 150.5mm

歪曲収差

・広角端

※共通設定:PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 0EV / ISO80 / 絞り優先AE / WB:オート / 4.3mm

F2.7F3.2F4
F5.6F8

・望遠端

※共通設定:PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 0EV / ISO80 / 絞り優先AE / WB:オート / 150.5mm

F5.8F6.3F8

感度

※共通設定:PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / -0.7EV / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 8.8mm

ISO80ISO100ISO200
ISO400ISO800ISO1600

ミニチュア風

PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 1/250秒 / F4 / 0EV / ISO80 / シーンモード / WB:オート / 11.2mmPowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 1/200秒 / F4 / 0EV / ISO80 / シーンモード / WB:オート / 11.2mm

魚眼風

PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 1/1250秒 / F2.7 / 0EV / ISO80 / シーンモード / WB:オート / 4.3mm

マクロ

・広角端

PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 1/10秒 / F2.7 / 0EV / ISO80 / 絞り優先AE / WB:オート / 4.3mmPowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 1/8秒 / F2.7 / 0EV / ISO80 / 絞り優先AE / WB:オート / 4.3mm

・望遠端

 マクロモードではないが、望遠端で木までの最短撮影距離で撮影した。

PowerShot SX30 IS / 4,320×3,240 / 0.8秒 / F5.8 / 0EV / ISO80 / 絞り優先AE / WB:太陽光 / 150.5mm

HD動画

 

※動画作例のサムネイルをクリックすると、未編集の撮影動画をダウンロードします。再生についてのお問い合わせは受けかねます。ご了承ください。

PowerShot SX30 IS / 1,280×720ピクセル / 15MB





本誌:武石修

2010/11/18 00:00