ミニレポート
多機能すぎるモノクロプロファイルコントロールを極める
(OLYMPUS PEN-F)
Reported by 礒村浩一(2016/5/18 07:00)
オリンパスのミラーレスカメラ「OLYMPUS PEN-F」は、かつてオリンパスが発売していたハーフサイズの一眼レフフィルムカメラ「ペンF」をモチーフとして作られたデジタルカメラだ。見た目のクラシカルなデザインとともに、現在オリンパスのミラーレスカメラのなかでは最も解像度の高い約2,030万画素を持つ高画質なカメラである。
PEN-Fは最新のミラーレスカメラであると同時に、写真をかつてフィルムで撮影していた頃のような色やトーンに近づけることができる「プロファイルコントロール」という機能を持ったユニークなカメラでもある。
前回のミニレポートでは、写真の色相や彩度を自在に調整できる「カラープロファイルコントロール」についてレポートした。そこで今回は、より本格的なモノクロ写真を創り出すことができる「モノクロプロファイルコントロール」について検証する。
モノクロプロファイルはPEN-Fで新たに採用されたクリエイティブダイヤルインターフェイスを操作して設定する。クリエイティブダイヤルを「MONO」に合わせ、EVFもしくは背面モニター画面に表示されたレーダーチャートでカラーフィルター効果を確認しながらフロント/リアダイヤルを回し設定する。
本来のモノクロ写真はカラー画像から色を抜いただけのような均一的な階調のものではなく、フィルムの種類や現像方法、プリントの際の印画紙や焼き付け方法などによって階調に偏りが生じる。しかしその偏りこそがモノクロ写真の表現力のひとつとなるのである。この偏りをデジタルカメラでも意図的に再現できるようにと考えられたのがモノクロプロファイルコントロールである。
モノクロ写真におけるカラーフィルターの効果
モノクロ写真撮影において使用するカラーフィルターは、カラー写真のように色を付けるために使用するのではない。
「色」というものは被写体に当たって反射してくる光が、どの波長帯に収まっているかで決まる。簡単に言えば、赤い光(長い波長)を反射するものは赤い色に、青い光(短い波長)を反射するものは青く見えるのだ。
銀塩のモノクロ写真において、赤い色のカラーフィルターをレンズにかけて撮影すると、赤に近い色のものは明るく写り、その補色である緑に近い色のものは暗く写る。同様に、青いフィルターをかけると青に近い色のものは明るく写り、補色の黄色に近い色のものは暗く写る。
モノクロ写真ではこのフィルターの効果を活かし、色ごとの明るさを変えることで写真全体のコントラストを調整するフィルターワークが長く使われてきた。この効果をデジタルカメラでも擬似的に再現したのがモノクロプロファイルなのだ。
今回は、モノクロプロファイルの設定値の違いによる色の明るさの変化を、色の基準となるカラーチャートを撮影して見てみる。今回もカラーチャートはdatacolor社の「Spyder CHECKR」を使用する。なお、すべての設定の組みわせを掲載すると8色×3ステップ+フィルター無し+カラーで26枚の画像となってしまうため、ここでは各色最大値のレベル3のみ10枚の画像を掲載する。
カラーフィルターにより、無彩色のD、E列以外は濃度が大きく変わっている。特にフィルター色との補色の関係にある色の濃度の変化に注目すると、カラーフィルター効果を理解するのに役立つだろう。
ハイライト&シャドウコントロール
モノクロプロファイルには、カラーフィルター以外にもいくつか効果を設定できる項目がある。ハイライトとシャドウのトーンカーブを調整する「ハイライト&シャドウコントロール」と、モノクロフィルムの粒状性をシミュレートできる「粒状フィルム効果」だ。
ハイライト&シャドウコントロールは画像の中間調を挟み、ハイライト側とシャドウ側のレベルを調整できる機能だ。表示されるトーンカーブをそれぞれ-5〜+5までの11段階で調整できる。またINFOボタンを押すことで、ハイライト&シャドウを設定したままで中間トーンを上下させられる。
粒状フィルム効果
粒状フィルム効果は、モノクロフィルムにおいて像を構成する銀の粒状性を再現したものだ。一般的に低いISO感度のフィルムは像を構成する粒のひとつひとつが細かく、高いISO感度のフィルムほど粒が大きく粗くなり現像すると粗いネガ像となる。
またモノクロフィルムを現像する際に、現像液が基準より高い温度となった場合も、粗い粒のネガ像となる。さらに増感現像という本来フィルムが持っている基準ISO感度を超えた、高いISO感度となるように現像する方法があるのだが、その増感現像を行ったネガ像も粒状性は粗くなる。
基本的には粗い粒状性のネガは、モノクロプリントを作成する際に粗い像の写真となってしまう原因となるため良くないものとされる。しかし、この粗い写真がモノクロ写真作品として、力強さを引き出す要因ともなる。それゆえにあえて粗いネガの粒状性を求める手法もあるくらいだ。
これをデジタルでも再現すべく、PEN-Fに搭載されたモノクロプロファイルには粒状フィルム効果が用意されたのである。
PEN-Fに搭載されたモノクロプロファイルの特徴は、"フィルムのモノクロらしい"粒状効果を再現している点だ。それはすなわち、Photoshopなどでカラー画像をモノクロ画像に変換し、単にノイズを乗せただけの画像にはならないということだ。
つまり、全体に均一なノイズが乗るのではなく、シャドウ部にはあまり粒子がなく、中間調からハイライトに粒子が乗るように仕組まれている。粒子の並び方が綺麗すぎる感はまだあるが、このようなところからも、メーカーのこだわりが見えてくるのが面白い。
調色
モノクロプロファイルでは調色設定も可能。モノクロ画像に対して、セピア、青、紫、緑の色を乗せることができる。ただし濃度設定はできない。モノクロプリントで調色を良くやっていた筆者からすると、濃度設定ができないのは残念に思う。
このほかここでは割愛するが、画像の周辺光量をシミュレートするシェーディング効果も用意されている。効果は画像周辺が暗くなる-1〜-5までと、画像周辺が白くなる+1〜+5までの合計10パターンが使える。
またモノクロプロファイルには、プリセットが3タイプ用意されている。まずはプリセットで変化の仕方をつかむのも良いだろう。
被写体別モノクロプロファイル効果
カラーフィルター効果でモノクロ写真の表現がどう変化するのかご覧いただいた。しかし、単なるカラーチャートのテスト撮影だけでは効果のイメージを掴みにくいことと思う。
ここからは風景と人物ポートレートにおける、モノクロプロファイルの効果をご覧いただきたい。
風景
新緑の明るい緑の葉と深い緑色の葉が混じった光景。カラー写真では色の差がはっきりとあるため、新緑の気持ち良さが良く伝わってくるが、モノクロ写真は色では判断できないので、葉の違いを明るさとコントラストで表現する必要がある。
ここでも各色最大値のレベル3のみの10枚の画像を掲載する。
この中で若い緑の葉が明るく表現できているのは、黄、緑、黄緑のカラーフィルターである。つまり葉の色と同色のカラーフィルターをかけたものが、葉の明るさを引き出すことができた。
特に黄緑フィルターは濃い緑の葉は暗めの明るさのままで表現できているため、より若い葉の明るさが引き立つ写真となっている。なお、マゼンタ、青、シアンは木の全体が暗く落ち込んでしまいまったく立体感のない写真となってしまった。これは葉の色の要素である、緑、黄の補色に位置するためだ。
青空と森
快晴の空なのでカラー写真では抜けるような青空と明るい太陽光に照らされた森の緑がくっきりと描写されている。
カラーフィルター無しの画像の空の濃度を基準として見ると、空の明るさが程よく濃くなっているのはオレンジのカラーフィルターである。これは空の色である青とシアンに、オレンジの成分である黄と赤が補色として影響することで記録される光を遮っているからだろう。
一方、緑のカラーフィルターをかけたものはほとんど差がない。つまり空の青色成分に関わる色には、緑も補色のマゼンタも含まれていないということだ。
なお、赤のカラーフィルターをかけたものは極端に空が暗くなっている。これは空のシアン色の光ををほぼ完全に遮断してしまったことによる。まるで夜空のようだが緑の木々は日中の明かりである。とても不思議な光景となった。
女性ポートレート
晴天の屋外の明るい日差しの下で半逆光での撮影。顔全体を影の中に入れることで均一な明るさにしている。レフ板は使用していない。ホワイトバランスは太陽光にセット。
まず、青とシアンのカラーフィルターは絶対に人物、特に女性には向かないのは誰が見てもわかる。人肌の黄や赤味の光が遮られてしまい極端に強いコントラストとなってしまった。特殊な用途でない限り、これを使うのはありえない。
それ以外でいちばん肌が明るくなるのは赤のカラーフィルターだが、肌が白飛びしてしまっているのでこれもやり過ぎ。その次に肌が明るくなるオレンジのカラーフィルターが程よい感じだ。これは人肌の黄と赤の成分がともに明るくなったことによる。ただし髪の茶色も同時に明るくなってしまうので、状況に応じて赤成分の入っていない黄のカラーフィルターと使い分けるといいだろう。
緑の苔に覆われた岩かべを背景にしての人物撮影。カラーでは緑の印象が強すぎて人物が目立たないが、モノクロプロファイルにてマゼンタフィルターレベル2をかけ、さらにシェーディング補正-3で画像の周囲を暗く落とした。これにより苔の緑を極端に濃いトーンとすることができ、その前に立つ人物が浮き立つように見える強い印象のモノクロ写真として仕上げることができた。
廃墟と化し自然の草葉に覆われた煉瓦造りの遺構をモノクロプロファイルで撮影。シアンのカラーフィルターをかけたことで、風雨に晒され表面が白く浅い色になってしまっている煉瓦を、暗いトーンに落としこみ重厚感のあるモノクロ写真として仕上げた。
モノクロプロファイルを他のファイルに適用する
PEN-Fで作成したモノクロプロファイルは、前回のミニレポートでとりあげたカラープロファイルと同様、PEN-Fに付属するOLYMPUS Viewer3を介して、おなじくPEN-Fで撮影した他のRAW画像に設定をコピーすることが可能だ。
注目したいのはこのプロファイルのコピー&ペースト機能を使えば、プロファイルをすでにあててある画像(JPEG画像でも可)を配布することで、第三者でもこのプロファイルを自分の画像に適用できるということだ。以前作成したプロファイルを別の画像に適用できるし、遠隔地の知人にプロファイルを送り再現してもらうことも可能だ。
具体的な方法は、プロファイルを当てたいRAW画像をOLYMPUS Viewer3のRAW現像モードで表示し、プロファイルが含まれているサンプル画像を指定。プロファイルをコピー&ペースト後、JPEGに現像保存することでサンプル画像のプロファイルを引き継いだ画像が完成する。現像前であればペーストしたプロファイル値を変更して、好みの設定に調整することも可能だ。
まとめ
前回のカラープロファイルコントロールに続いて、今回はモノクロプロファイルコントロールについてお伝えした。できるだけ簡単にわかりやすくと心がけてみたものの、できることが多岐にわたることから、ミニレポートというには予想以上に長文となってしまった。
モノクロ写真におけるカラーフィルターの効果は、過去にモノクロフィルムで写真を撮っていた人間でさえ、理解するのが大変なものである。しかし、デジタルカメラの利点であるトライ&エラーが可能なPEN-Fのモノクロプロファイルコントロールは、モノクロ写真におけるフィルターワークを覚えるには最適な環境だといえる。あとは自分なりの使いどころを導き出しさえできれば、より深い表現を楽しめるに違いない。
モデル:夏弥