ミニレポート
HD DA 20-40mm Limitedは“ズームできる標準レンズ”である
(PENTAX K-3)
Reported by 大高隆(2015/5/22 11:31)
HD DA 20-40mm F2.8-4ED Limited DC WR は、DA Limitedシリーズ初のズームレンズであり、同シリーズ初のWR(簡易防滴)仕様のレンズでもある。20-40mmの焦点距離をカバーし、ズーム比は2倍、換算画角はフルフレームの30.5-61.5mmに相当する。
現在、一眼レフ用レンズの市場はズーム比3倍を超えるレンズがあたりまえになり、5倍以上の高倍率ズームが隆盛を極める一方、高画質を求めるユーザーは単焦点レンズ中心のシステムを組むようになっている。そんな状況の中、PENTAXがあえて投入した2倍標準ズームとは、果たしてどういうレンズなのだろうか。
最初に光学的なスペックについて振り返っておこう。このレンズの光学系は8群9枚で構成される。鏡筒にアルミ削り出しの部品を多用しながら283gの軽量に仕上がっているのも、そのシンプルな設計の賜物だろう。
前群2枚目の非球面レンズで球面収差と非点収差を抑制し、前群最後尾のEDガラスと後群最後尾の異常分散ガラスという2種類の異なる特殊ガラスレンズを組合わせて用い、色収差を効果的に補正している。こと色収差に関しては、広角から望遠まで全てのレンジで、ほとんど指摘できないほどだ。
開放F値はズーミングによってF2.8~F4の範囲で変動する。最小絞りもF22~F32の範囲で同様だ。中間のF値も変動しているはずだが、ボディ側から補正制御されるので、ユーザーがそれと意識することはない
ズーミングやフォーカシングによる全長の変化はわずかであり、バランスに影響を与えない。最もコンパクトになるのは焦点距離30mm辺りだが、特に意識する必要はないだろう。撮影中の取り回しも軽快でとても使いやすい。
このレンズの描写を一言で表せば「しっかりした描写」と形容できる。絞り開放から解像力は充分で、細部まで良く解像する。開放では少しフワッとした感じが出ることもあるが、これはLimitedシリーズに共通の味付けであり、むしろ好ましいものだ。
開放F値が変動するので単純に「F○○まで絞れば」とは言い難いが、焦点距離に関わらず1絞り絞れば甘さは消え、2絞り絞ってやればとてもシャープになる。
軽く絞った時の立体感の表現と自然なボケも魅力の1つだ。口径食は開放でもあまり目立たないが、円形絞りの恩恵によってきれいな玉ボケが保てるので、少し絞ったほうが、より整ったボケを見せてくれる。
欠点というほどでもないが、開放に近い絞りでは玉ボケの輪郭が強めに写る。また、10mほどの距離にある風景を開放で撮ると、諸収差が絡み合って周辺の玉ボケが崩れ、小鳥が飛ぶような形に表現されてしまうことがあった。
また、2枚目の作例に見られる桜の枝のように連続したハイライトを開放で撮ると、玉ボケの輪郭が重なって二線ボケのように見えてしまう。
(厳密な意味の二線ボケとは違うが)これもまた玉ボケに明るい輪郭ができるタイプのレンズに共通の問題で、F8程度まで絞ってやれば、こうした不自然さは回避できる。
もっとも、いずれの問題も大きく拡大して初めてわかることであり、写真として鑑賞する分には気にならないはずだ。レンズテストでもない限り、遠景を開放絞りで撮る必然性など、まずないのだから。
また、近距離の被写体は開放から自然なボケになるので、この点であまり神経質になる必要も無いだろう。
◇ ◇
ここで冒頭の疑問に戻ろう。標準から広角にかけてのレンジに、40mm、35mmマクロ、21mmという3本のDA Limitedレンズが既にありながら、あえて20-40mmズームを加えた意味とは何か。その問いについて考える時、このレンズがWR仕様であることが1つのヒントになるだろう。
PENTAX一眼レフの多くは防塵防滴仕様であり、“高い耐候性”はPENTAXのブランドイメージである。しかし一方で、別の角度からブランドイメージを支えているDA Limitedレンズは防滴仕様ではなく、悪天候に対応できないという矛盾があった。
防滴・防塵仕様のレンズとしてはDA★シリーズがあるが、DA Limitedシリーズとは描写性が異なるので、PENTAXのブランドイメージを完成するためには、耐候性が高いDA Limitedレンズが欲しい。
そして、それは単焦点レンズになってしまっては意味がない。撮影中にレンズ交換が必要になるようでは、カメラとレンズが防滴であろうと、システムとしては破綻するからだ。
つまり、真にPENTAXにふさわしい標準レンズとしてDA Limitedを新設計するならば、耐候性が高く、日常的なスナップに必要な焦点域をカバーする小型のズームレンズとしてまとめるべきということになる。そう考えた末の着地点が、この「WR仕様・2倍標準ズーム」というスペックなのだろう。
もう1点。なぜ20-40mmのズーム比が採用されたのかを考えるためのポイントになるのが「パースペクティブ」(遠近感)という要素だ。
ズームにしろ単焦点にしろ、レンズの焦点距離を変えることの本質は、つまりパースペクティブを選ぶことである。20-40mmという広角側に広いレンジを持つ設定なので、ズーム比は2倍でもパースペクティブの変化は十二分に大きい。
その幅広い表現をレンズ交換なしに撮りわけられることは、単焦点標準レンズには真似のできない、このレンズならではの強みだ。
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実際に使ってみると、このレンズの近接撮影性能の高さは印象的だ。最短撮影距離はズーム全域で0.28mで、望遠端の40mmでは撮影倍率0.2倍(1/5倍)の接写が可能だ。
広角側で見てもフルフレーム用の28mm単焦点レンズに遜色ない近接能力であり、パースペクティブを強調した広角らしい表現や、踏み込みを活かしたスナップ撮影も得意だ。
0.2×というと大したことのない倍率のようだが、APS-C(18×24mm)の場合、80×120mmが画面いっぱいに写るわけで、デイリーユースには充分だろう。そして肝心の画質も優秀だ。
近接時のボケは開放から美しく、絞り込んでも硬くなり過ぎたりはしない。このレンズが DA Limitedシリーズの1本であることを印象づけられる点だ。
AFはDCモーターによるレンズ内モーターシステムを採用するが、リアフォーカスやインナーフォーカスのレンズと違い、決して速くはない。動作音は静かだが、小さなモーターで頑張って繰り出している感じが伝わってくる。
マウントはKAF3マウントを採用する。DCモーターの電源用接点を持つ一方、AFカプラーが省略されており、古いPENTAXとの組合わせではMFになる。
シャッターチャンスに即応するためには、クイックシフトフォーカスを活かして、AFターゲットを全面自動選択でザックリと合わせた上で、MFで修正した方が速い。
あるいはカメラを親指AFにセットし、MFを基本に、必要なときだけAFを使うようなスタイルも悪くない。そうした使い方が、このレンズには似合う。
鏡筒と一体デザインのねじ込み式円形フードが付属している。もっとも、このフードが無いとキャップをつけることすらできないので、フードというよりは、鏡筒の前枠が取り外せる設計というべきだろうか。
フィルターを使う場合、レンズとフードの間に55mm径のものを装着できる。ただし、C-PLなどの極端に枠が厚いフィルターはケラレが発生するので、フードとは併用できない。
このフードは短いので、斜光線をカットするという効果はほとんど期待できないが、HDコーティングと構成枚数が少ない光学系の賜物で、厳しい逆光でもゴーストの発生は認められず、シャドウ部のディテールもよく保たれていた。
性能についてお伝えすべきは以上だが。さて、それにしても、このつかみ所のない地味なスペックのレンズは、どういうシーンにふさわしいのだろうか。
私はこれを、旅に持ち出すレンズとして推薦したい。軽量で、耐候性が高く、遠景からクローズアップまでを一通り撮影できる高画質のレンズとして申し分ないからだ。
仕事としての撮影行ならば、なんでも撮れるように、数本のズームレンズで幅広いレンジをカバーするべきだ。しかし楽しみのための旅ならば、標準レンズ1本、あるいは単焦点レンズ2~3本くらいに絞って持っていく方がいい。
例えば私なら、手持ちのレンズの中からDA21mm、DA40mm、DA 35mmマクロの3本のDA Limitedをまず選ぶだろう。しかし、その3本をガチャガチャ付け替えて撮影するのも興ざめだし、3本のためにボディを3台持っていくのも無粋だ。そこで、「ズームできる標準レンズ」である、このレンズの出番というわけだ。
もちろん、旅先ではこのレンズ1本では撮れない被写体にも数多く出会うはずだ。例えば前回紹介したHD DA 16-85mmを持てば、同じように防滴だし、はるかに多くの状況に対応できる。旅の終わりには、バラエティ豊かな写真のアルバムが残るだろう。
翻って、このHD DA 20-40mmを持っていった場合はどうだろう? 今回作例に使った写真は、沖縄・京都・横浜という異なった場所を旅した写真から選んで構成している。その割にはバラバラにならず、統一感があるように見えないだろうか。
レンズ1本で撮った写真には自ずとまとまりができる。そのために選ぶ1本ならば、高倍率ズームを選ぶのはナンセンスだ。しかし、表現のための選択肢として、パースペクティブには変化を持たせたい。そして、永く残る写真にふさわしい高画質が必要で、できるだけ軽量なシステムにまとめたい。そんな贅沢な望みをかなえてくれるのがこのレンズだ。私はそう考える。