ミニレポート
D FA MACRO 100mmF2.8購入記
(PENTAX K-3)
Reported by 大高隆(2015/2/26 07:00)
smc PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8 WRは、発売からずいぶん経った、いわゆる“枯れた”レンズだが、このレンズはDAシリーズではなく、35mmフルサイズ撮像素子をカバーするイメージサークルを持つ「D FA」シリーズのレンズである。つまり、CP+2015で公開されたフルフレームDSLR(フルサイズ一眼レフカメラ)にも対応する。長い間ずっと気にしていたこのレンズを、昨年末にとうとう購入した。
私はパーソナルワークとして、夜の街で群衆を撮っている。その仕事では、70mmか100mmくらいの中望遠レンズを使う事に決めている。今までは、主にズームレンズを使っていた。しかし、構成枚数が多いズームレンズは、わずかながら透過する光量が少なく、コントラストもやや落ちるため、同じF2.8でも単焦点レンズより遅いシャッターを切らないと印象の弱い写り方になってしまう。そんな経験から、明るい単焦点の中望遠レンズが欲しいと思っていた。
PENTAXの単焦点中望遠というと、他にはHD PENTAX-DA 70mmF2.4 Limitedがある。しかし、DA Limitedは開放付近の柔らかさを持ち味にするレンズで、私の求める特性とは少し違う。K-3の性能を活用するためにはやはりDA以降の純正レンズが有利だ。すると、DA 70mmを除く選択肢は、このD FA MACRO 100mmF2.8 WRということになる。
まず主なスペックを確認しておこう。このレンズは等倍までの接写ができる中望遠マクロレンズだ。焦点距離は100mmで、APS-Cでは、35mmフルサイズ換算153mm相当の画角になる。レンズ構成は8群9枚で、開放絞りはF2.8、最小絞りはF32であり、8枚羽根の絞りは円形絞りを取り入れ、開放からF5.6までの範囲で開口部の形状をほぼ円形に保ち、被写体の前後のハイライトに立つ玉ボケを、美しい形に表現できる。
シングルAFモードで合焦後にMFにシームレスに移行できるクイックシフトフォーカス機構を備える。前玉に施された汚れをはじくSPコーティングや、簡易防滴構造(WR仕様)など、アウトドアのネイチャーフォトへの適性も備えている。
AF駆動はボディ内モーターシステムで、AF作動時には駆動音をともなう。マクロレンズ故に繰り出しは大きく、AFターゲットを外してしまうと、やや騒々しいことは否めない。しかし、レンズ内モーターを採用すれば大型化は避けられないので、これはこれでよいと私は思う。
最近の中望遠マクロはインナーフォーカスが多いが、このレンズは、レンズの後玉を固定し、それ以外の全群が繰り出される方式をとる。いわゆるフローティングフォーカスの一種だが、PENTAXはこれをFREEシステム(後群分離型フォーカシング=Fixed Rear Element Extension)と呼び、大口径中望遠レンズやマクロレンズに伝統的に採用している。
FREEシステムはインナーフォーカスに較べて少々フォーカシングが重くなるが、収差変動が少なく、シャープネスもさることながら、至近距離から遠景に至るまでボケ味の変化が少ないことを特徴とする。また、露出倍数の計算が単純に行えるため、TTLオート以外の露出計を使ったライティングにも対応し易い。
購入時に付属するものは、レンズキャップ、マウントキャップ、ソフトケース、レンズフードの4点だ。フードは逆付けするとレンズがほとんど隠れてしまうほどの深さがある。材質はプラスチックだが、内面の反射防止塗装もしっかりしており、安っぽい感じはない。
このフードは迷光のカットという本来の目的以上に、大きく繰り出される光学系を保護するという目的が強いようだ。カタログで見るとフードが長過ぎると感じるかもしれないが、その目的を理解すれば納得できるだろう。装着用のバヨネットはレンズ先端ではなくフォーカスリング側にあり、レンズを繰り出してもフードを含めた全長に変化はない。
このフードの装着バヨネットは4枚爪で、小さな回転角で装着できるのは便利だが、逆にいえば少々外れ易い。フード逆付の状態でカメラに脱着すると、ついついフードを掴んで扱ってしまいがちだが、そこでフードが外れるとレンズが落下する危険がある。レンズの着脱時にはフードを順方向(使用状態)あるいは外した状態で扱い、カメラからレンズを外した後にフードを逆付けするように習慣づけるといいだろう。
◇ ◇
言うまでもなく、中望遠マクロには中望遠レンズとマクロレンズの2つの性格がある。
まず、マクロレンズとしてこのレンズの描写を見ると、シャープネス、コントラストともに申し分なく、ボケも前後ともに嫌味のない素直なものだ。
次に、中望遠レンズとして見る。大口径中望遠のスタンダードである変形ガウスタイプと較べると、遠景から中景を狙う時のボケが少々うるさく感じるときがある。大きな破綻を生むほどではないが、開放にしても大ボケにならない遠景では、背景の整理に少し気を使わなければならない。
指摘できるのはそれくらいのもので、控え目に言っても素晴らしい性能だ。
開放F2.8から解像力は充分に高く、わずかに残された球面収差から生まれるフワッとした柔らかさが、シャープに描写されたディテールを包み込む。この特性は女性ポートレートにも好都合だ。
絞っていくと、F4で既に甘さは消え、口径食によるボケの乱れも無視できるレベルになる。
F5.6以上に絞れば、全面均質なマクロレンズらしいシャープネスを発揮する。それでいてボケも硬くない。F2.8からF5.6のあいだのどの絞りを使うのか、あるいはもっと絞るのかを適切に選ぶ事が、このレンズの使いこなしのポイントだ。
作例の最後に掲げた白いクルマの写真では、全反射の太陽が車体にいくつも映り込み、強いハイライトを作っている。さすがにその部分のディテールは飛んでしまっているが、シャドウ部に現れるフレアはごく軽く、smcコーティングでも充分な内面反射防止ができている事がわかる。
◇ ◇
私がこのレンズの購入を躊躇していたのは、DA LimitedシリーズのレンズがsmcコーティングからHDコーティングにリニューアルされたのを見て、いずれこのレンズも切り替わるのではないかと考えていたからだ。
しかし、聞くところによれば、HDコーティングにすれば必ず性能が上がるというわけではないらしい。そうすると、このレンズがHDに切り替わるとは限らず、仮にそうなったとしてもずいぶん先の事だろう。そう考えてテスト機材をお借りしたところ、充分な性能が出ている事がわかったので、改めて購入したというわけだ。
実のところ、このレンズを使う上での現状の最大の問題は、APS-Cのカメラにつけると画角が狭すぎて使いづらいという点だ。今回作例を撮るためにこのレンズ1本だけで街を撮ってみた時に、それを痛切に感じた。フルフレーム撮像素子を持つカメラと組み合わせれば、もっと使いやすい画角になる。
開発発表の通りなら、今年の暮れまでにはPENTAXのフルフレームデジタル一眼レフカメラが姿を現しているはずだ。それを楽しみにしながら、この素晴らしいレンズを使って行きたいと思う。