気になるデジカメ長期リアルタイムレポート
PENTAX K-30【第5回】
~帰って来たウルトラズーム「DA 18-270mm」を試す
Reported by 大高隆(2013/1/15 00:00)
広角から超望遠域までを1本でカバーする超高倍率ズームは、レンズ交換を避けることができるため、砂埃の多い環境で行動する山行やフィールドワーク、あるいは旅行などに持って行くレンズとしての需要が高い。
ペンタックスにはかつて「DA 18-250mm F3.5-6.3 ED」というレンズがあったが既に生産終了しており、このクラスのレンズを純正ラインナップに欠く状態が続いていた。そこに登場した新しい「DA 18-270mm F3.5-6.3 ED SDM」は、WR仕様でこそないものの防塵防滴の「PENTAX K-30」とのコンビでの活躍が期待される注目の1本。今回、デモ機材をお借りできたので、その実力の一端を探ってみた。
公式データによれば、サイズは75.8×89mm(最大径×長さ)、重量453g。先代のDA 18-250mmズームとの比較では、最大径が1mm、長さが4mm大きく、重さが2g軽くなっているものの、実質的には同サイズと言って構わない。
高倍率ズームらしく、鏡筒は2段構えで伸びる。広角端18mm時が一番コンパクトで、望遠端270mmまでズームすると全長は約2倍になる。鏡筒が自重で伸びてしまうのを防ぐロック機構があるが、テスト期間中を通じ、自然に伸びてしまうようなことは起こらず、あまり神経質になる必要はないようだった。ただし、伸びた状態で強い力を受けると弱いのでカメラバッグへの出し入れの時に引っ掛けないように、収納時にはロックする習慣をつけたほうが良いだろう。
AF駆動には超音波モーター(SDM)を採用し、動作音は先代に比べ格段に静かになった。しかしフォーカス駆動は決して速い方ではなく、「DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM」のような飛びモノに対する高速追従は期待できない。とはいえ、レンズの性格としては必要充分だろう。
クイックシフトフォーカス(QSF)には非対応で、MFを行なう時にはマウント近くにあるスイッチで切換える。フォーカスリングの回転角がかなり狭く、本来はあまりMF向きのレンズとはいえないはずだが、フォーカスリングの操作力は適切で、存外にMFのフィーリングはよかった。
「QSF非対応の超音波モーター内蔵レンズで切替スイッチ付」という同様のスペックを持つシグマ「8-16mm F4.5-5.6 DC HSM」ではフルタイムマニュアルが可能だが、DA 18-270mmのプレスリリースにはフルタイムマニュアルの可否は明記されておらず、実機で試してみたところ、やはり切替操作が必要だった。MFへの切替はレンズ側のスイッチで行ない、AF-S/AF-Cの変更はボディ側で行なう。ちょっと煩雑だけれども、他社のカメラではこれが当たり前で、QSFがいかに優秀かと思い知らされる点ではある。
※作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
※縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・画角変化
焦点距離18~270mmは、35mmフルサイズ換算でいうと広角27.5mmから超望遠414mmまでをカバーし、ズーム倍率は15倍に達する。ズーミングに伴う焦点移動はほとんど感じられない。
※共通設定:PENTAX K-30 / DA 18-270mm F3.5-6.3 ED SDM / 4,928×3,264 / F11 / -0.3EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:太陽光
・ディストーション
ディストーションは広角端のみタル型で、35mmから望遠側ではほぼ一貫して糸巻き型というちょっと珍しい傾向で、もっとも歪みが少なくなるのは24mmの辺りになる。いわゆる陣笠型ではあるが、かなりよく補正されており、直線が多い被写体以外ではあまり気にならない。野外風景撮影ならばまったく問題ないだろう。
※共通設定:PENTAX K-30 / DA 18-270mm F3.5-6.3 ED SDM / 4,928×3,264 / 1/250秒 / F11 / 0EV / シャッター&絞り優先 / WB:オート
このレンズのスペックの中で特徴的なのは「円形絞り」の採用だろう。絞りの開口部は羽の枚数に応じた多角形になるのが普通で、開放絞りを除き、例えば6枚ならば六角形というように背景のボケの中にその形が現れる。自然なボケを得るためには絞り羽根を8枚、9枚、12枚と増やして円形に近づけるのが古くからの手法だったが、一眼レフ用レンズは自動絞りの都合で、むやみに枚数を多くできない。そこで絞り羽根の形状を工夫し、ある程度まで絞り込んでもほぼ円形を保つようにしたものを円形絞りという。
このレンズの場合、開放から1.5段まで円形を保つとされるが、ズーミングで開放F値が変動するために「1.5段」に相当するF値も変動する。カメラに表示される値では、広角端18mmの開放値がF3.5、24mm辺りでF4、35mmでF4.5、50mmを過ぎる辺りでF5.6、150mm辺りでF6.3となる。ボケ味が問題になる55mmから85mm辺り(フルサイズ換算85~135mm)の中望遠域では、開放がF5.6なので、F9まで円形絞りの効果が得られることになる。作例では、53mmと105mmの2つの焦点距離で開放から1段ステップで絞り込んでボケの様子を見た。
※共通設定:PENTAX K-30 / DA 18-270mm F3.5-6.3 ED SDM / 4,928×3,264 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:太陽光
・53mm
・105mm
絞り羽を8枚や9枚ではなく7枚に押さえたことから、小絞りまで絞り込んでも開口部の形が崩れないのも美点として挙げられる。絞り穴の形が崩れると夜景撮影時に点光源の回りの光芒が乱れ見苦しくなるが、このレンズの場合は整った軽い光芒として現れる。イルミネーションを撮った作例では最小絞りまで絞り込んでいるが、点光源や背景のボケは非常にすっきりしている。
ここでもうひとつ現れている特長は光芒が極めて軽いことだ。光芒の長さは回折の強さに比例し、絞り開口部の形状の角が立っているほど強く現れる。光芒が軽微であるということは、つまり回折によるシャープネスの低下が通常の6枚羽根よりも軽いことを意味する。円形絞り採用は、ボケの改善だけではなく回折の低減にも貢献するわけだ。
※共通設定:PENTAX K-30 / DA 18-270mm F3.5-6.3 ED SDM / 3,264×4,928 / -2EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:オート / 58mm
スペックの上では先代DA 18-250mmとほとんど変わらない印象の新DA 18-270mmだが、実際に撮影してみると、絞りの改良による画質の向上が随所に感じられる。円形絞りということで開放近くのボケに目を向けられがちだが、絞り込んだ時の性能も評価したいところ。
例えばDA 18-250mmからの買い替えを考える価値があるかといえば、ズームロックがほぼ不要であることと、改良された絞りに価値を見出せるかで決まるだろう。新規のユーザーに勧められるかと問われれば、換算400mm相当をカバーするクラスの高倍率ズームを必要とするユーザーにとっては充分にバリューフォーマネーであると答える。ただ、換算200mm相当までの望遠画角で間に合うならば、WR仕様でフルタイムMFも可能であり、より安価な「DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR」を勧める。