キヤノンEOS Kiss X4【第5回】

高輝度側・階調優先について考えてみました

Reported by 北村智史


今回使ったレンズはEF-S 60mm F2.8 Macro USM、EF 24mm F2.8、8-16mm F4.5-5.6 DC HSMの3本

 EOS Kiss X4には「高輝度側・階調優先」という機能がある。感度の下限がISO200になってしまうけれど、その代わりにハイライト側のダイナミックレンジが拡張されて白トビが少なくなる。

 この機能、ちょっと不思議なところがあって、オンオフで撮り比べたRAW画像をPhotoshop Lightroom(バージョンは3.2のリリース候補版。以下、Lightroom)に取り込んだのを見ると、なぜかほとんど違いがない。ヒストグラムには差があるから同じなわけではないはずだが、見た目にはほとんど変わらないのである。

 なので、効果があるのはJPEGだけで、RAWには影響しない機能なのだろう。そう思っていた。

 ところが、純正RAW現像ソフトのDigital Photo Professional(バージョンは3.8.1)だとどうなるのかなと思って見てみたら、オンオフの切り替えがない。ヘルプで検索しても見当たらない。できないならできないって書いておいてくれればいいのに、たいていはできないことは書いてない。だから、本当にできないのかどうかを調べるのに手間がかかる。

 昔は使用説明書を端から端まで読み返して、それでようやく「ない」と書くことができた(時間がないときは関係のありそうなページを拾い読みして「ないらしい」と書いてた)。今はヘルプや使用説明書のPDFで検索して見当たらなければ「ない」と思ってまず間違いない。それでもやっぱり「ない」と言い切るのはどうかなって思えるケースも多かったりする。


「高輝度側・階調優先」の画面。オンにするのがいいか、オフがいいのか、悩んでいた機能である

 それはさておき、Lightroomでオンオフの差がないからRAWには影響しないと思っていたのに、Digital Photo Professionalにはオンオフの切り替えがない。なんでだろう。

 ホワイトバランスとかコントラストとかシャープネスとかはRAWデータを変化させないから(パラメーターとしてくっついているだけ)、現像時に好きなように調整できる。Lightroomでオンオフの差がないならRAWには変化がない。つまり、違いは現像時のパラメーターだけのはずだから、オンオフの切り替えができてもおかしくはない。なのに、それがない。

 で、Digital Photo Professionalの画面をよく見ると、高輝度側・階調優先のオンとオフとで「RAWツールパレット」のダイナミックレンジの表示に違いがある。ヒストグラムの形は同じように見えるが、再現域の位置関係が違っているのだ。

 高輝度側・階調優先オフで撮ったのは左端(こっちが低輝度側)からはじまって、右(こっちが高輝度側)はプラス4.0あたりで止まっている。それに対して、オンで撮ったのは左はマイナス10.0あがりから、右はプラス4.0より右側(つまり、より高輝度側)に広がっている。トータルでの左右幅は同じで、スタートポイントが違う。そんなふうに見える。

 なんかよくわからない。ひょっとすると、RAWの中に純正ソフトだけが使える秘密のデータが隠されているのかもしれない。アップルのAperture(バージョンは3.0.3)で見ると、オンとオフの違いがよけいによくわからなくなる。

 なにしろ、高輝度側・階調優先をオンにしたほうが明るい画面になるのである。入れ違ってるわけじゃない。何度も確認した。オンで撮ったRAWのほうが、Aperture上では明るく再現される。ハイライト部だけでなく、画面全体に、である。もちろん、白トビの範囲も広い。もう、ワケわかりません状態である。

 見た目だけの問題かもしれないので、ちょっといじってみる。「ブースト」を「0」に下げて「露出」を「マイナス1EV」、「ハイライト」を「100」に設定。これだけいじればハイライト部の階調が普通は出てくる……はず。なのに、オンで撮ったほうが再現が悪い。白トビの範囲も広い。

 今度はLightroomでもやってみた。「白トビ軽減」をめいっぱいの「100」にしてみたところ、オンとオフとで違いが出た。オフでは白トビに近い状態になっていたハイライトの階調が、オンではしっかり見えている。同じRAWなのに、Apertureで見ると高輝度域の階調データがなくて、Lightroomではそれが引き出せる。この違いはいったいなに、って感じである。

 次は低輝度側を見てみる。露出をプラス2EV補正したので比べてみる。明るく補正すれば、シャドーの階調性が見えやすくなる。まずは、Digital Photo Professional。ピクセル等倍で比較すると、オフで撮ったほうがいい。オンで撮ったのは輝度ノイズもカラーのイブも増えていて、ディテール再現も悪くなっている。ISO200のオンよりもISO400のオフのほうがずっと清潔でクリアだ。LightroomでもApertureでも同じ傾向で、やはりシャドー部の描写は悪くなっている。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、別ウィンドウで800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

※共通データ:EF-S 60mm F2.8 Macro USM / 5,184×3,456 / 0.4秒 / F11 / ISO200 / WB:マニュアル

[高輝度側・階調優先:しない] Photo Mechanicで表示したオリジナルのJPEG画像[高輝度側・階調優先:する] Photo Mechanicで表示したオリジナルのJPEG画像
[高輝度側・階調優先:しない] オリジナルのJPEG画像[高輝度側・階調優先:する] オリジナルのJPEG画像
[高輝度側・階調優先:しない] Lightroomで表示したRAW画像[高輝度側・階調優先:する] Lightroomで表示したRAW画像
[高輝度側・階調優先:しない] Lightroomで無調整で現像したもの[高輝度側・階調優先:する] Lightroomで無調整で現像したもの
[高輝度側・階調優先:しない] DPPで表示したRAW画像[高輝度側・階調優先:する] DPPで表示したRAW画像
[高輝度側・階調優先:しない] DPPで無調整で現像したもの[高輝度側・階調優先:する] DPPで無調整で現像したもの
[高輝度側・階調優先:しない] Apertureで表示したRAW画像[高輝度側・階調優先:する] Apertureで表示したRAW画像
[高輝度側・階調優先:しない] Apertureで無調整で現像したもの[高輝度側・階調優先:する] Apertureで無調整で現像したもの
[高輝度側・階調優先:しない] Apertureで白トビを減らす調整をしたところ[高輝度側・階調優先:する] Apertureで白トビを減らす調整をしたところ
[高輝度側・階調優先:しない] Apertureで白トビを減らす調整をして現像したもの[高輝度側・階調優先:する] Apertureで白トビを減らす調整をして現像したもの
[高輝度側・階調優先:しない] Lightroomで白トビを減らす調整をしたところ[高輝度側・階調優先:する] Lightroomで白トビを減らす調整をしたところ
[高輝度側・階調優先:しない] Lightroomで白トビを減らす調整をして現像したもの[高輝度側・階調優先:する] Lightroomで白トビを減らす調整をして現像したもの
[高輝度側・階調優先:しない] DPPでプラス2EV補正したところ(部分)[高輝度側・階調優先:する] DPPでプラス2EV補正したところ(部分)
[高輝度側・階調優先:しない](ISO400)DPPでプラス2EV補正したところ(部分)[高輝度側・階調優先:しない] DPPでプラス2EV補正して現像したもの
[高輝度側・階調優先:する] DPPでプラス2EV補正して現像したもの[高輝度側・階調優先:しない] (ISO400)DPPでプラス2EV補正して現像したもの

 これらから考えられることを書いてみる。高輝度側・階調優先をオンにして撮ったRAWには、キヤノンの内緒の仕掛けが入っていると考えていい。これは不可逆的なもので、RAWデータ自体を変化させてしまうようだ(なので、Digital Photo Professionalにオンオフの切り替えがない)。もしかすると、中庸濃度グレーよりも明るい側のデータ領域を拡張して、より多くの階調を確保しているのかもしれない。

 1階から2階に上る階段の段数を増やしたような感じだ。今までの2階までは1階から12段上ったところだけれど、新しい2階はさらに階段2段分高い。Apertureは2階まで14段に増えたことを知らなくて、だから12段上ったところで2階に着いたと思ってしまう。なので、そこから上のデータにはアクセスしない。あっても気づかない。

 一方、Lightroomは1階から2階までの階調全部を読み込むだけ読み込んで、でも最初に表示するのは今までと同じ12段分だけ。パラメーターをいじって階段を曲げたり歪めたりしてやると、残りの2段分もおもてに出てくる。

 逆に、シャドー側は階調が減るか、下のほうがカットされるかしているのだろう。1階から地下1階までの階段も、今までは12段あったのに、新しい階段は10段になってしまっているわけだ。ようは、底が浅い。底が浅いのに、画像処理で深く見せている。そんなイメージかなぁ、と思う。

 つまるところ、高輝度側・階調優先というのは文字どおり高輝度側の階調を優先しますよという意味で、裏を返せば、高輝度じゃない部分の階調が犠牲になっちゃってますよ、ということなのだろう。見た感じ、ハイライト側は露出で1EV分くらい階調が伸びているが、シャドーの調子は感度1EV分以上に悪くなる。プラスマイナスするとマイナスのほうが多い計算だ。

 まあ、あまり大幅な補正をしないのであれば、シャドー部の劣化が気にならない可能性も十分にある。特にDPPのユーザーはややこしいことを考えなくてもこの機能のメリットを享受できるので、オンにするメリットはあるだろう。Lightroomのユーザー(筆者もここに入る)も、「白トビ軽減」を活用することで隠れているハイライトの階調データを引き出すことができる。これもまあ悪くない話だと思う。残念なのはApertureのユーザーで、実のところは、キヤノンの内緒の仕掛けが原因なのだからアップルには非はないのだけれど、この機能をまったく活用できない。なので、オフにしておくしかないだろう。

 なんか、最初に予想していたよりややこしい機能だなぁというのが本音で、常時オンはおすすめできない感じ。どういうシーンならよくて、どういうシーンがよくないのかを、ある程度きちんと研究する必要がありそうだ。ただ、筆者はものごとを深く考えるのが苦手なので、放っておくとオフにしっぱなしになりそうな気もするが。

東京メトロ有楽町線の豊洲駅。上の部分はガラス張りになっている関係で、とてもコントラストが高い。「高輝度側・階調優先」が効くシーンだ
8-16mm F4.5-5.6DC HSM / 5,184×3,456 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 13mm
上空で途切れているのは「ゆりかもめ」の高架。勝どき方面に延伸する計画があって、だから豊洲駅から少しだけ伸ばしてあるらしい
8-16mm F4.5-5.6DC HSM / 5,184×3,456 / 1/1000秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 8mm
今までだったら白トビを避けるためにマイナス補正していたかもしれないシーンで、露出コントロールがらくちんになる感じ
EF 24mm F2.8 / 5,184×3,456 / 1/1,000秒 / F8 / 0.3EV / ISO200 / WB:オート
シグマの8-16mmはちょっと歪曲収差が気になるけど、この画角でこのサイズでこの画質でこの価格なら文句はない
8-16mm F4.5-5.6DC HSM / 5,184×3,456 / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 8mm
シルバーの船体は白トビしやすいのでマイナス補正が基本。でも、「高輝度側・階調優先」を使うと補正量が小さくてすむ
EF-S 60mm F2.8 Macro USM / 5,184×3,456 / 1/800秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / WB:太陽光
どーんと置かれている5枚羽根のスクリュー。大型船に使われていたもので、直径が6mもあるんだとか
EF 24mm F2.8 / 5,184×3,456 / 1/800秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光
めちゃ古な大型双眼鏡。雨ざらしで塗装もボロボロだし、レンズも曇ってた。でも、なんかかっこよくて20コマくらい撮った中の1コマ
EF-S 60mm F2.8 Macro USM / 5,184×3,456 / 1/1600秒 / F4 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光
東雲運河沿いのビルのウッドデッキにあるモニュメント。窓ガラスに映ったのを撮ってみた
EF 24mm F2.8 / 5,184×3,456 / 1/100秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光
普通なら空の部分は真っ白トビになるのが、少しだけどトーンが残ってくれる。壁に字が書いてなかったら撮ってませんけどね
EF 24mm F2.8 / 5,184×3,456 / 1/200秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / WB:太陽光
ベース感度がISO200になる分、暗部のノイズが少し増えるが、それが気にならないなら常時オンでもいいかなぁと思える
EF-S 60mm F2.8 Macro USM / 5,184×3,456 / 1/1250秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光
JRの越中島貨物駅。橋のフェンスの上からライブビューで。右はJR京葉線の線路。あの肉球は凸B形ってヤツでしょうか
EF-S 60mm F2.8 Macro USM / 5,184×3,456 / 1/1000秒 / F8 / -1EV / ISO200 / WB:太陽光
歩行者と自転車用の「しおかぜ橋」。フェンス越しに越中島貨物駅が見えるところ。運河を渡る「しおかぜ橋」とセットになってる
8-16mm F4.5-5.6DC HSM / 5,184×3,456 / 1/640秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 8mm


北村智史
北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら

2010/8/31 00:00