気になるデジカメ長期リアルタイムレポート

PENTAX K-5 IIs【第2回】

ライブ撮影で発揮する静粛性とTAvモードの威力

 ペンタックスのK-5系はおそらく現在市場にあるデジタル一眼レフカメラの中でトップクラスの静粛性をもつカメラの1つだ。他社のプロ用デジタル一眼レフカメラには静粛性を優先した「サイレントモード」が備えられている。K-5にそれがないのは何故かと言えば、標準モードの動作音がすでにライバルのサイレントモード並みに静かだからだ。

私がライブステージ撮影に臨むときの基本セット。縦位置グリップ「D-BG4」付きのK-5 IIs2台に、DA 17-70mm F4 AL [IF] SDM、DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM。それに単焦点のDA Limitedが4本。単焦点に替えて魚眼ズームやDA 12-24mm F4 ED AL [IF]が入ることもある。気軽な撮影の時はボディ1台とDA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR一本で済ませることもある。

 そんなアホなと思う方のために逸話を1つ紹介しよう。昨年の夏、横浜の老舗ライブハウスに演奏を聴きに行った際、先代のK-5を構えて写真を撮ったときのことだ。一眼レフはそれなりに大きなシャッター音がするものなので、背後にこちらを注視する人の気配がした時には咎められるものと覚悟した。しかし、実際には制止されることもなく100を越えるショットをものにした。

 終演後、後ろから見ていたオーナーの方に「いま撮ってたよね?」話しかけられたので「はい。うるさくして申し訳ありません」とお詫びしたところ「いやいや! 全然問題なかったよ」「一眼を構えたやつがいるんで聞き耳を立ててたんだけど、いつまでもシャッター音がしなくて。でもときどき液晶が点いてるから、え!? これで撮ってるんだと思ってびっくりしたんだけど、それなんてカメラ?」と訊ねられた。

 K-5系ボディの抜きん出た静粛性にはいくつかの理由がちゃんとある。まず挙げられるのは防塵防滴構造であること。すべての作動部分がシールされており音漏れの原因になる隙間がない。次に動作部品の質量が小さいこと。APS-Cサイズのミラーおよびシャッターは軽く、フルサイズ機のそれに較べ、そもそもの動作音が小さい。ダイカストボディとマグネシウム合金カバーによる剛性の高いボディも貢献している。同じ防塵防滴仕様であってもプラスチック外装のK-30はシャッター音が大きく、演奏中にシャッターを切る気には到底ならない。

 最後に挙げるとしたら、ペンタックスがこのボディと主要メカニズムをK-7の頃から使い続けているという単純な事実がある。K-7に搭載された当初はこのメカも今ほど静かなものではなかったが、製造を通じて得られたノウハウをフィードバックして細部に改良を加え、後にK-5に引き継いでもなお熟成を続けてきたことが、スペックには現れない完成度に結びついたのだろう。

 暗所高感度性能もなかなかのもので、主観では先代のK-5よりも向上した印象を受ける。理由を付けるとすればローパスレスの恩恵で標準のシャープ処理が弱いもので済み、結果として高感度ノイズがあまり強調されないため、そのように感じるのではないかと考えている。

 その実力は実写作例を見て頂きたいが、ISO1600ではノイズは見えるものの荒れた感じやトーンの崩れはまったくなく、弦の1本1本がシャープに解像しているばかりか弦そのものの質感までありありと感じられる。楽器に詳しいヒトならばおよそどのような弦が張ってあるかも読み取ることができそうだ。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
  • 作例はノイズリダクションはメーカー初期設定のまま、シャドウ補正は「弱」で撮影しています。
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約7.9MB / 4,928×3,264 / 1/80秒 / F5 / 0EV / ISO1600 / マニュアル / WB:色温度指定 / 250mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約8.4MB / 4,928×3,264 / 1/50秒 / F5 / 0EV / ISO2000 / マニュアル露出 / WB:色温度指定 / 250mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約8.4MB / 4,928×3,264 / 1/80秒 / F5 / 0EV / ISO1600 / マニュアル露出 / WB:色温度指定 / 220mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約8.9MB / 4,928×3,264 / 1/100秒 / F5 / -1.3EV / ISO4000 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 108mm

 暗所高感度性能ではフルサイズが有利と言われているが、フルサイズ用センサーも高画素競争の果てに画素ピッチがAPS-Cセンサーに近づき、フルサイズ1,200万画素とAPS-C 1,000万画素を比較していた頃ほどの原理的な優位性はなくなっている。暗部のディテール描写には当然レンズ性能の影響も大きく、デジタル専用設計レンズを持つAPS-C機の暗所性能もそう侮れないものであることは、この作例で感じて頂けるかと思う。

 「TAvモード」もライブステージの撮影では有利な機能だ。TAvモードでは絞りとシャッタースピードをユーザーが決め、それに対して感度が自動的に変化して適正露出を得る。一般的な言い方をすればマニュアル露出と感度オートを組み合わせたものだ。

撮影に必要な操作部は表示パネルの周辺に集められ、ボタンに直接ペイントされたシンボルは暗闇の中で明確にボタンの位置を示す。シンボルの表示色が白ではなくシルバーであることも、ボタンが球面であることと相まって周辺のわずかな光を反射し、良好な視認性を与えている。

 ペンタックスがなぜ他社のような「感度オートのMモード」と呼ばず、わざわざ“TAvモード”などという言葉を作ったか。

 例えばAv、Tvというなじみ深いモードは「絞り優先オート」「シャッター速度優先オート」と称されるものだが、意味の上ではAvは「撮影者が絞りを決める」、Tvは「撮影者がシャッター速度を決める」AEモードのことだ。それに対してMモード(マニュアル露出)とは「撮影者が露光量をフィルム感度に合わせるためにシャッター速度と絞りの組み合せを操作する」というモードだ。AEではないし、厳密にはシャッター速度か絞りのどちらかは感度との兼ね合いで成り行きで決まってしまい、撮影者の自由にはならない。

 ではTAvモードとはなにかと言えば「TvもAvも撮影者が決め、それに従ってカメラが他のパラメータ(感度)を自動制御する」というAEモード。つまり「絞りとシャッター速度というのは露出をあわせるためにあるものではなく、表現要素としての撮影者の意思できっちり決めろ。露出制御はカメラに任せろ」という、ペンタックスの思想を表現した呼び名なのだと考えている。

PENTAX K-5 IIs / DA 17-70mm F4 AL [IF] SDM / 約8.2MB / 4,928×3,264 / 1/100秒 / F4 / -1.3EV / ISO2000 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 70mm
PENTAX K-5 IIs / DA 17-70mm F4 AL [IF] SDM / 約8.5MB / 4,928×3,264 / 1/100秒 / F4 / -1.3EV / ISO3200 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 70mm
PENTAX K-5 IIs / DA 17-70mm F4 AL [IF] SDM / 約7.9MB / 4,928×3,264 / 1/100秒 / F4 / -1.3EV / ISO2500 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 58mm
PENTAX K-5 IIs / DA 17-70mm F4 AL [IF] SDM / 約8MB / 4,928×3,264 / 1/100秒 / F4 / -1.3EV / ISO1600 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 53mm

 上の作例では、F4開放、適度な被写体ブレを狙ってシャッター速度を1/100秒にセット。暗めのトーンを狙って露出補正を−1.3EVにセットした。フレーミングを変えると被写体の明るさが変わるが、カメラが感度を自動制御して一定のトーンを保つ。絞りとシャッタースピードが変化しないので描写は一定で、撮影中は構図やフォーカス、シャッターチャンスといった作画要素に集中できる。これがTAvモードの威力だ。

 TAvモードの実用性は高感度性能によって決まる。実用的な画質が得られる感度範囲が狭ければその範囲に収めるように結局絞りやシャッター速度を変更しなければならないからだ。TAvモードを最初に搭載したK10Dは高感度側がISO1600でも実用に難しい画質であり、ISO100/200/400/800の4段分の輝度変化にしか対応できず、TAvのコンセプトを活かせるものではなかった。K-5 IIsではISO3200でも問題なく使え、ISO6400でのディテールの崩れを許すなら7段分の輝度変化に対応できる。これはシャッター速度の上限を1/1,000秒、下限を1/15秒と考えた場合のシャッターによる調節幅と同等であり、露出制御の手段として充分実用レベルだ。

感度別作例

PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約7.7MB / 4,928×3,264 / 1/60秒 / F4 / -3EV / ISO1600 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 80mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約7.3MB / 4,928×3,264 / 1/60秒 / F4.5 / -3EV / ISO2000 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 80mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約7.2MB / 4,928×3,264 / 1/60秒 / F5.6 / -3EV / ISO2500 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 80mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約8.2MB / 4,928×3,264 / 1/60秒 / F5 / -2.3EV / ISO3200 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 80mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約7.8MB / 4,928×3,264 / 1/60秒 / F7 / -3EV / ISO4000 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 80mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約8.5MB / 4,928×3,264 / 1/60秒 / F5.6 / -2.3EV / ISO5000 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 80mm
PENTAX K-5 IIs / DA★60-250mm F4 ED [IF] SDM / 約8MB / 4,928×3,264 / 1/60秒 / F9 / -2.3EV / ISO6400 / シャッター&絞り優先 / WB:色温度指定 / 80mm

 私はテスト以外の普段の撮影でTAvを使う時、感度の調整範囲をISO100からISO4000の間にセットし、「ISO1600ならだいたいこれくらい」と勘で決めた値に絞りとシャッターをセットしてフレーミングし、感度がその前後になっていればあとはカメラ任せにして撮影するというような使い方をしている。

◆     ◆     ◆

 ライブ撮影は屋外や一般室内と違う要求が多く、設定の間違いは観客や演奏者の迷惑になり、場合によっては一発退場となり撮影のチャンスを永遠に失う。つまらない設定ミスを避けるため私はライブ撮影用のセットをUSERポジションに登録し、現場に入る前に主な設定を一括で済ませられるようにしている。

設定のセットを USER4_Live_Seesionとして登録し、一括で呼び出せるようにしてある。
露出モードはTAv。ちなみにExif上ではTAvはMモード、感度は実際の制御感度が記録される。
ホワイトバランスはタングステンを基本に微調整を加えたものを記憶させてある。現場ではまずその設定でテスト撮影をし、結果を見て調整していく。
色温度をミレッド単位系で操作できるのはペンタックスの美点。前ダイヤル20ミレッド(LB2相当)後ダイヤル100ミレッド(LB10相当)ステップにカスタム設定できる。
暗い中で背面液晶がひんぱんに光るのは観客の目障りになるから、クイックビューは基本的にオフにする。
さらに背面LCDのバックライトも消灯する。INFOボタンを押すとクイックメニュー→消灯と遷移する。
右肩の表示パネル照明を「暗い」にセットする。従来はON/OFFだけだったが、K-5 IIsではほのかに点すことができる。
電子音はオフにする(普段から最小音量にセットしてあるが)。
迷惑にならないよう、LCDバックライトは一番暗くセットする(この設定は現行ファームではUSERに登録できない)。
背面LCD/表示パネル照明はレリーズ半押しで消灯するので、必要な操作を終えたら素早く消灯し、迷惑をかけないように心がける。

 「SAFOX X」により暗所性能が向上したAFは照明の暗いライブステージでも機敏に反応し、超音波モーター採用レンズなら音も気にならないので遠慮なくAFで撮影できる。MFで使う場合にもフォーカスエイドの反応が鋭敏になっているので、従来機よりもはるかに撮影しやすい。

DA*レンズならば静粛を求められる場所でもAFで撮影でき、フルタイムマニュアルも可能で操作性は申し分ない。
DA limitedをはじめとするボディ内モーターシステムのレンズはMFで使用するのがマナー。
セレクトAFにしておけばマイクスタンドや譜面台などの障害物にAFが惑わされるのを避けることができる。
MF精度を向上させるため拡大アイピースも使う。純正の「O-ME53」は拡大率は控えめだが、情報表示がケラレず使いやすい。突き出した形状のおかげで純正アイカップよりも視度調整がやりやすくなるのも隠れたメリット。

 ライブ撮影限らずシャッター音の大きいカメラが嫌われる状況は少なくない。例えば仕事でインタビューの撮影をする時にもカメラマンのシャッター音のせいで録音の肝心なところが聞き取れないというクレームもあるように聞くし、緊張感のある対談の最中にうるさくシャッターを切ったカメラマンが退場を命じられたという実例もある。静粛性とはそれくらい重要な性能だ。

 先のライブハウスオーナーの質問には、「ペンタックスのK-5という世界一静かな一眼レフカメラです。もうすぐK-5 IIsっていうのが発売されます。それはもっと静かできれいに写りますよ」と売り込んでおいたから、たぶんあのライブハウスの出入りのカメラマンはK-5 IIsを買うように強く勧められたのではないだろうか。来月またお邪魔する予定があるので、後日談を楽しみにしている。

大高隆

1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、(まぁルミックスですが)動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

http://www.optimagraphics.org/dannna_o/