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レンズマウント物語(第1話):たかが穴、されど穴……

〜連載開始に当たって
Reported by 豊田堅二

 ノンレフレックスカメラ(ミラーレスカメラ)の登場によって、レンズ交換がより一般的になってきた。これらレンズ交換可能なカメラには、必ずレンズマウントという“穴”があり、そこにレンズを装着するようになっている。ノンレフレックスカメラの新機種登場によって新たなレンズマウントも続々登場している。

 ところが、このレンズマウントというものが、なかなかのくせ者なのだ。カメラボディと交換レンズとが別の製品となり、その接点となるので“互換性”というものが問題になる。どのボディにどのレンズを装着して使えるかということだ。ユーザーにとってはレンズマウントが変わってしまうとそれまで買い貯めた交換レンズが使えなくなってしまうので、新製品が出てもレンズマウントは変えてほしくない。

 しかし、技術の進歩に従ってレンズマウントに対する要求仕様はどんどん変化する。新しい機能にそれまでのレンズマウントでは対応が難しいことが往々にしてあるのだ。メーカーとしてはなんとか工夫して、従来のレンズマウントで新機能を実現するように努力するのだが、それにも限界がある。対応しきれなくなるとレンズマウントを変更するのだが、この変更のタイミングと旧マウントへの配慮のしかたがまた難しい。

 この辺の読みを誤ってユーザー離れを起こし、その屋台骨を危うくしてしまったメーカー、互換性を重んじるあまりレンズマウントをなかなか変更できず、苦労を重ねているメーカーなど、さまざまなドラマが生まれている。まさに”たかが穴、されど穴”。カメラボディに開けられた穴に過ぎないのに、扱い方によってはメーカーの命運を左右しかねない存在なのである。

 この連載ではかくも恐ろしい存在であるレンズマウントについて、さまざまなメーカーやカメラに関するエピソード、さらにはマウントアダプターの話など、思いつくままに綴ってみたい。

レンズマウントの機能

 さて、具体的な話に入る前にレンズマウントの機能についておさらいしておこう。

 まず機能の第1は、カメラボディと交換レンズとを着脱可能に接続することである。その際にレンズと撮像面との距離、また光軸と画面中心の位置合わせも重要な要素だ。

 そしてもう1つ、レンズとボディとの間で情報やエネルギーをやり取りするという大きな役割がある。パソコンなどで言えばUSBだとかHDMIなどの“インターフェース”と同じことだ。上に述べたような互換性の問題だとかマウント変更のドラマは、主としてこの機能に関連して起こってくる。

レンズマウントにおける情報伝達

 この機能に関しては追々解説して行くが、ここでは少しだけ触れておこう。初期のレンズ交換カメラでは必要なかったものだ。例えばライカC型ではボディにはフォーカルプレンシャッターとフィルム巻上げ機構、そしてファインダーがあり、レンズには焦点調節機構(ヘリコイド)と絞りがあって、これらはそれぞれ独立しており、互いになんら連動していない。従ってレンズマウントは第1の機能、つまり結合と位置決めの機能さえあればよかったのである。

 ライカがII型になって連動距離計が内蔵され、レンズの焦点調節機構の動きをボディ側の距離計に伝える必要が生じた。これはマウント内部にコロの付いたレバーを設け、ヘリコイドによるレンズの前後の動きを拾っている。恐らくこれがレンズマウントにおける情報伝達の最初のものであろう。

ライカの距離計連動コロ:レンズマウントを介して情報のやりとりをするようになった最初のものは、おそらく連動距離計のためのフォーカシング情報だろう。矢印で示したコロでフォーカシングによるレンズの前後の動きを検出し、ボディ上部の距離計に伝える。

 一眼レフカメラになると、まず自動絞りの関連で情報伝達の必要が生じた。ファインダーで観察しているときは常にレンズの絞りを開放に維持し、撮影の瞬間だけ設定された絞り値に絞り込む機構である。絞りはレンズ側にあるので、ボディ側にあるミラー機構やシャッターの動きと絞りの動きとが連携しなくてはならないのである。さらに露出計がカメラボディに内蔵されるようになって設定された絞り値の情報をやりとりしたり、AFが入るとそれに関する情報など、技術の発展に従ってどんどんレンズマウントを介して交換される情報が増えてきたのは、すでに述べた通りだ。

機械的な情報伝達:キヤノンのニューFDレンズの後部。Aは絞り情報の伝達レバー、Bは自動絞りの絞り込み情報の伝達レバー、Cはレンズの開放Fナンバーの伝達ピン。このように伝達する情報ごとにピンやレバーが必要であった。

 これらを伝えるのに、初めはピンやレバーの位置や動きを使った機械的な方法が用いられた。自動絞りならば絞りを開けるか絞るかの情報をボディからレンズに伝え、露出計の連動ならばレンズで設定した絞り値をレバーの位置でボディに伝えるというぐあいだ。それがやがて電気接点による伝達となり、さらにプロセッサ同士の通信となった。

 機械的な方法は融通がきかない。新たな情報を伝えるためにピンやレバーを新設すると、それだけで互換性が失われる。それがプロセッサ間の通信ならばボディやレンズのプログラム(ファームウェア)をバージョンアップすれば容易に新機能を使うことができる。デジタル化の恩恵は、こんなところにもあらわれているのだ。

結合方法の3種類

 第1の機能である結合と位置決めの方法としては、3種類のものがある。現在もっぱら使われているのが、バヨネットマウントだ。ボディ側の穴の内周と、レンズの後端の外周の円周上に2〜4枚の爪を設け、レンズとボディの相対回転で着脱する。「バヨネット」とは銃剣のことで、銃に銃剣を着脱するときにこの構造が用いられたらしい。

バヨネットマウント:バヨネットマウントは、爪のかみ合わせでレンズをボディに固定する。
2本爪のバヨネットマウント(左):ペンタックスオート110のレンズマウントは、このように爪は2本のみ。マウントが小さくレンズも小型なので、これで十分であった。3本爪のバヨネットマウント(中):現行のレンズマウントのほとんどのものが3本爪のバヨネットマウントとなっている。しかし、寸法や情報通信の規格などがメーカーによって異なっており、互換性はない。写真はマイクロフォーサーズのレンズマウント。4本爪のバヨネットマウント(右):レンジファインダーのライカMマウントは4本爪のバヨネットマウントである。

 これに似ているが、相対回転なしに着脱するのがスピゴットマウントだ。レンズかボディのどちらかに締め付けリングが設けられており、両者を突き合わせて締め付けリングを回転し、固着する。水道管などの接続に用いられている方法だ。水道管の場合は締め付けリングをねじで固定するのだが、レンズマウントの場合はバヨネットと同様に爪を用いる。後に述べるが、キヤノンはEOS以前の一眼レフカメラのレンズマウントに長らくこのスピゴットマウントを用いていた。締め付けリングはレンズ後端に設けられている。また、初期のペトリの一眼レフカメラや伝説の一眼レフカメラ「ズノー」もスピゴットマウントで、これらはボディ側に締め付けリングを備えたものだった。

スピゴットマウント:スピゴットマウントはレンズとボディの相対回転はなく、締め付けリングで固定する。EOS以前のキヤノンの一眼レフカメラが採用していた。

 3番目はスクリューマウント。最も単純なレンズマウントで、レンズ側におねじ、ボディ側にめねじを切ってねじ込んで固着する。レンジファインダーカメラではライカのLマウント、一眼レフカメラではM42マウントが有名だ。動画の世界でも16mmムービーのCマウント、8mmムービーのDマウントはスクリューマウントである。いずれのマウントも歴史が古い上に規格がオープンであったこともあり、世界中に非常に多くのレンズが存在している。ただ、情報の伝達機能の面では対応が難しく、そのため現在では用いられていない。

スクリューマウント:スクリューマウントはねじでレンズをボディに固定する。レンジファインダーカメラではライカLマウント、一眼レフカメラではM42マウントがこの形式である。

 さて、基礎的な知識を一通り述べたところで、次回からは具体的な話に入って行こう。







豊田堅二
(とよだけんじ)元カメラメーカー勤務。現在は日本大学写真学科、武蔵野美術大学で教鞭をとる傍ら、カメラ雑誌などにカメラのメカニズムに関する記事を書いている。著書に「デジタル一眼レフがわかる」(技術評論社)、「カメラの雑学図鑑」(日本実業出版社)など。

2012/4/18 00:00