交換レンズレビュー
SIGMA 24-35mm F2 DG HSM|Art
単焦点レンズに匹敵する大口径ズームレンズ
Reported by 礒村浩一(2015/8/21 11:55)
SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Artは、35mm判フルサイズセンサーに対応した焦点距離24mmから35mmをカバーする広角ズームレンズである。開放F値はF2でズームレンズとしては驚きの明るさだ。同社が展開する高品位レンズシリーズ「Artライン」に属している。
レンズ構成は特殊低分散ガラスであるSLDガラス7枚、FLDガラス1枚を含む13群18枚。これにより球面収差、軸上収差、像面歪曲などの発生を最小限に抑えたという。最少絞りはF16。9枚の絞り羽根による円形絞りを採用した。
デザインと操作性
外観デザインはシグマのArtラインシリーズに共通したものだ。マットのブラック塗装と艶のあるブラックヘアライン塗装を組み合わせており高級感がある。ズームリングおよびフォーカスリングは幅広のゴムパターンだ。
単焦点レンズ並みの太いピントリングは程よい重さの回転トルクでありMFでも操作しやすい。AF駆動には超音波モーターHSM(Hyper Sonic Motor)が採用されており高速でありながら静粛なフォーカスが可能だ。
またAF時でもフォーカスリングを回転させる事でMFに切り替えることができる新フルタイムマニュアル機構を搭載。別売りのSIGMA USB DOCKを使用することで挙動を任意に変更することもできる。
ズームは焦点距離を変えても鏡筒の長さが変わらないインナータイプ。カメラを構えて右回転で望遠側、左回転で広角側となる。
Artラインに共通したデザインの大きめなフードが付属。取り外し時の滑り止めも兼ねた細かいパターンとラバーリングが特徴的。
レンズの最大径は87.6mm、全長は122.7mm、フィルターサイズは82mm。同じくシグマの24-105mm F4 DG OS HSM | Artのサイズ感に比較的近い。ただし質量は940gとズッシリと重い。13群18枚というレンズ枚数によるものだろう。今回はキヤノンEOS 5D MarkIIIに装着して使用したが、フルサイズ機のおおきなカメラボディであってもレンズの存在感は強烈だ。
遠景の描写は?
広角端、望遠端いずれの画像においても高い解像感が画面から伝わってくることに驚く。さらに等倍まで拡大して細部を確認することで精細な解像力を持ったレンズであることが解る。また絞り込むことによる小絞りの回折現象も影響も非常に小さい。
広角端の中心部は、開放絞りから1段絞ったF2.8から解像力が高まりF4~5.6でピークに、F8ですこし輪郭にエッジが立つような描写となる。F11~16となると若干だが回折の影響を受けるがそれでも十分な解像力をキープしている。
同じく広角端の周辺部を見ると、開放F2では周辺光量落ちが若干目立つとともに少し緩さも見受けられるが、F4~F8において解像力がグンと上がる。F11~16における回折の影響も最小限だ。
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一方、望遠端の中心部は開放F2から非常に解像力が高く、そこから絞っていくとF4~5.6で解像力のピークとなる。更にF8~16と絞り込むと少しずつ回折の影響が見えてくるが、最小絞りF16でも十分な解像感を得られる。
望遠端の周辺部は、開放F2では周辺光量落ちがあるため若干解像感が下がって見えるが、木で組まれた塀なども細かく描写されている。F2.8から絞り込むと共に解像力があがり、F5.6~F8でピークに、F11~16まで絞り込んでも回折の影響は非常に少ない。
ボケ味は?
全焦点距離においてF2という明るい最小絞りとなるこのレンズは、24~35mmという広角焦点距離域であるが、使い方次第ではピントの合った前後をボカした表現も可能だ。また28cmという短い最短撮影距離を活かしてワイドマクロ撮影といった独特な撮影方法をとることも可能。
広角端
通常24mmといった広角レンズでは被写界深度は深くなりボケを活かした表現は難しくなる。しかしこのレンズはF2というズームレンズとしては特異ともいえる明るい開放絞り値を持っていることで、極端な浅い被写界深度を活かした表現も可能だ。
ただ広角であるがゆえ、背景のボケはあまり大きくはならない。すこし引きめでボケ味を味わう方が自然だろう。もちろん絞りこみ、引きの構図とすることで手前から奥までピントの合う範囲を深めた撮影もできる。個人的には奥までしっかりとピントが合ったこのレンズの描写が好みだ。
逆光耐性は?
広角端24mm、望遠端35mmのそれぞれで画面内に太陽を直接入れて撮影した。撮影条件としては非常に厳しいものだが、コントラストの低下もなく、ハレーションも最小限に抑えられており非常に高い逆光耐性を持つと言える。
作品集
傾いた太陽の光に輝く稲。強烈な逆光だがレンズの高い逆光耐性のおかげで稲の葉1枚1枚までくっきりと描写されている。強い生命力を写真で表現できる解像力だ。
ズームを35mmに合わせ最短撮影距離で撮影。F2.8まで絞ることで被写体のボケ具合を調整した。肉厚なエアプラントの質感を余すところ無く描写してくれるレンズだ。
人物を28mmで撮影。この付かず離れずの距離感が撮る者と撮られる者の絶妙な間合いとなる。F4まで絞ることで人肌や髪の質感を忠実に表現し、リアルな存在感を引き出す。
カメラを三脚に据え付け、F11まで絞り込みカフェの店内の隅々にまでピントを合わせた。驚く程に歪みが少ないレンズならではのまっすぐな描写が心地よい。
夏の夜空に輝くの天の川を15秒間の固定撮影で捉える。諸収差を最小限に抑えたレンズのおかげで、画面周辺にいたるまで星々を点として捉えることができた。銀河中心部の淡い光を捉えるためにもF2という明るさはとても有効だ。
まとめ
フルサイズ対応でありながらズーム全域でF2という、これまでにはなかった明るいズームレンズは、同じくシグマから発売されているAPS-C専用ズームレンズ18-35mm F1.8 DC HSM | Artが登場したときと同様の驚きを我々にもたらしてくれた。しかし実際に使用してみると決して単に明るいだけのレンズではないことがわかる。Artラインの単焦点レンズに匹敵するほどの高い描写力を持つズームレンズなのだ。
ともすれば自社製品との競合にさえなりかねないこのレンズをシグマが出して来たということは、ズームレンズを使用するフルサイズデジタル一眼レフカメラでのムービー撮影までも想定しているということだろう。
高画質とボケによる表現、そしてズームレンズという利便性。これらを兼ね備えた次世代のレンズの誕生である。ついにシグマが新たな戦略に踏み込んできた。そうおもわずにはいられないレンズだ。