「E-P1のパンケーキレンズをワイド化する」


裏技過ぎる“グリップ無し仕様”のE-P1

革張りに加え、グリップを取り外す改造を施したE-P1。個人的にはレトロ調というより、“本来のカメラデザイン”に戻したつもり。ボディを握った感触がとにかく“カメラらしい”のである

 遅ればせながら、オリンパス「E-P1」のパンケーキレンズキットを買ってしまった。しかし、ぼくのE-P1はどこかが違う……そう、賢明なる読者にはすぐおわかりの通り、ぼくのE-P1は“革貼り仕様”なのである。そしてさらに良く見ると、ぼくのE-P1は“グリップ無し仕様”である。

 もちろん、このスペシャル仕様は市販品ではなく、ぼくの改造である。

 いや、実は皆さんにお詫びしなければならないのだが、この改造方法を当初「切り貼りデジカメ実験室」で紹介しようと思っていたのだ。ところが、実際に作業をしてみると“裏技中の裏技”になってしまい、残念ながら公共のメディアで公開できる内容ではなくなってしまった。

 革貼りの作業は、近代インターナショナルのカメラ用貼り革「ビニックスレザー(ライカタイプ2)」を使ったので、何も特別な裏技ではない。ただ、普通の人がE-P1の貼り革用型紙を起こすのは大変なので、この方法はあまりお勧めはできないのは確かだ。しかし、ネットで検索するとE-P1専用の革貼りキットも売られており、これを使えば完璧な“革貼りE-P1”ができるはずだ。

取り外したE-P1のグリップパーツ。しかしこの作業工程はあまりに裏技過ぎてキケンであり、残念ながら公開することはできない

 一方、E-P1のグリップを外すには、まずはカメラの外装パーツを取り外す必要がある。しかし、E-P1の外装パーツの外し方は、ぼくの能力ではどうしても解明できなかったのだ。E-P1ボディのネジを全て外してみたのだが、それでも外装パーツは完全に外れない。そこで、“裏技中の裏技”を使ってやっとグリップを外したのだが、この方法はカメラを壊しかねないので公開は差し控えようと思う。

 しかし、このグリップ無し仕様のE-P1をオリンパスの方に見せたところ、かなりいい反応があったので、そのうちメーカー純正の“スペシャル仕様”として発売されるかもしれない(念のためだが、あくまで希望的観測である)。


誰でも試せる、パンケーキレンズ+ワイコンの組み合わせ

 そこで今回は、誰でも簡単に試せる小ネタとして、パンケーキ17mmレンズとワイコンの組み合わせを紹介しようと思う。これは、以前の記事「E-420+パンケーキレンズを準標準レンズにする」の続きのようなものである。このときは、「ZUIKO DIGITAL 25mm F2.8」にリコーのコンパクトデジタルカメラ用ワイコンを組み合わせ、ライカ判換算40mmクラスの準標準レンズにして使う実験をした。

 「M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8」に同じワイコンを装着すれば、ライカ判換算28mm相当クラスの単焦点広角レンズになる。もちろん、E-P1と同時発売のズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6」があるから、普通に考えればわざわざワイコンを使う必要はないだろう。しかしそんなことを言ったら、そもそもパンケーキ17mmレンズだって同じように不要なのだ。

 だが、カメラやレンズは趣味性の高い嗜好品でもあるのだ。35mm相当の単焦点レンズでの撮影は、ズームレンズでの撮影にない楽しさがある。また、35mm相当と28mm相当の単焦点レンズでは、その楽しさが微妙に異なり、そういう微妙なところにこだわるのが“マニアの楽しみ”なのである。

 また、マイクロフォーサーズシステムは、マウントアダプターを使用して多種多様なレンズを装着することができるが、“広角”として使えるレンズはごく限られてしまう。よく知られるように、フォーサーズおよびマイクロフォーサーズの画面サイズは、ライカ判フルサイズの1/4の面積なので、元のレンズの画角が焦点距離2倍換算に狭まってしまうのだ。だからワイコンとの組み合わせて、35mm相当のパンケーキレンズがさらにワイド化し、AFもAEも完全作動するとなれば、その利用価値はけっこう高いはずだ。

ワイコンの装着方法

 今回使用したワイコンは、「E-420+パンケーキレンズを準標準レンズにする」で使用したのと同じ、リコーのコンパクトデジタルカメラ用のワイコンである。ぼくがリコーのユーザーだということもあるが、しかしリコー製のワイコンは他社製品に比べるとコンパクトで使い勝手が良い。

 もちろんどのメーカー製かに限らず、各自手持ちのワイコンを試す価値はあるだろう。ここではぼくが持っている3種類のワイコンを、M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8に装着する方法を紹介しよう。

M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8(左上)と、リコー製ワイコンを並べてみた。DW-6(0.79倍、右上)、DW-4(0.8倍、左下)、GW-1(0.75倍、右下)DW-4とGW-1は取り付けネジ径37mmなので、同じ37mmネジ径を持つM.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8に簡単に装着できそうである。しかしM.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8はパンケーキレンズのためか、フィルターのねじ込み部が浅く、ワイコンを完全に装着することはできない。そこで、37mm径のフィルターのガラスを抜いた枠パーツを、まずレンズにねじ込む。こうすると、ワイコンをレンズにしっかり装着することができる
DW-6は取り付けネジ径43mmなので、37mm→43mmのステップアップリングを介して、レンズに装着する光学ファインダーは、35mm相当の画角に対応したE-P1パンケーキレンズキットに付属の「VF-1」(左)に代えて、28mm相当の画角に対応したGR DIGITAL用「GV-1」を装着することにした。GV-2はVF-1に比べると非常にコンパクトなのも特徴だ。

テスト撮影

 テスト撮影は、遠景の描写と歪曲収差が同時チェックできる「金網チャート」で行なった。カメラは三脚に固定し、絞り優先AEで撮影している。ピントは、マニュアルで遠景に合わせている。またE-P1は電子式水準器を内蔵していて、この機能はとても便利に使える。各ワイコンごとに、F2.8(開放)、F8、F22(最小絞り)の画像を掲載する。

※作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。

※共通設定:E-P1 / M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8 / 4,032×3,024 / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート

●M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8+リコーDW-4(0.8倍):合成焦点距離13.6mm(ライカ判換算27.2mm相当)

ワイコンDW-4は非常にコンパクトなので、M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8に装着しても「パンケーキ二段重ね」といったボリュームに収まる。GR DIGIRAL用の光学ファインダーGV-2も、なかなかさまになっている

 リコーのワイコン「DW-4」は、同社のデジカメ「Caplio GX8」や、防水デジカメ「G600」などと共用可能だ。ワイコンとしては非常にコンパクトで、純正カメラとの組み合わせではなかなかの高画質だ。「E-420+パンケーキレンズを準標準レンズにする」で、ZUKO DIGITAL 25mm F2.8との組み合わせたところ、開放から高画質が得られた。

 M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8との組み合わせでは、意外なことにあまりいい結果が得られなかった。絞り開放では画面中心部はシャープなものの、画面周辺が大きくボケてしまう。この欠点は絞り込むごとに軽減するが、完全には直らない。最小絞りでは画面は均質化するが、回折現象で全体がボケてしまう。歪曲収差は樽型だが、それほどひどくは無いと思う。

 開放時の独特の描写を生かして、E-P1のアートフィルターと組み合わせると、面白い効果が得られるかもしれない。


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●M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8+リコー「GW-1」(0.75倍):合成焦点距離12.75mm(ライカ判換算25.5mm相当)

GR DIGITAL用のGW-1はDW-4より少し大型で、ラッパ型の形状をしている。M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8に装着すると、初期のレトロフォーカスレンズのような外観がなかなかカッコイイ

 リコーの「GR DIGITAL」と「GR DIGITAL II」に共用のワイコン。ZUIKO DIGITAL 25mm F2.8との組み合わせでは、なかなかの高画質だったが絞り開放での描写はDW-4よりも劣っていた。

 M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8との組み合わせでは、これも意外だがDW-4の組み合わせよりはかなりいい感じだ。画面周辺の描写は絞り開放でボケ気味だが、DW-4の組み合わせよりはかなりマシである。この欠点は絞り込むごとに軽減し、F8で実用的な画質になると思う。画面中心部は文句無くシャープだが、F22に絞ると急に眠い画質になる。


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●M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8+リコー「DW-6」(0.79倍):合成距離13.43.75mm(ライカ判換算26.86mm相当)

GXシリーズ用のDW-6はGW-1よりさらに大型だが、E-P1ボディが薄型なのでトータルでさほどかさばらない印象だ

 リコーGX100とGX200の共用ワイコン。ZUKO DIGITAL 25mm F2.8との組み合わせのテストは行なっていない。リコーのほかのワイコンに比べると大柄なので、“小型短焦点レンズの切り貼り”のコンセプトから外れてしまうと判断したのだ。

 M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8との組み合わせでの描写は、やはり周辺描写が甘い。DW-4との組み合わせよりはマシだが、GW-1の組み合わせよりは劣る結果となった。歪曲収差は、DW-4やGW-1と同レベルに抑えられている。


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●M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8(単体)

E-P1パンケーキレンズキット本来の姿。とは言え、E-P1自体が改造してあるのだが(笑)。M.ZUIKO DIGITAL 17㎜ F2.8は、電源ONでレンズが4mmほど突出する。収納時に少しでも薄型を実現しようとする、こだわりの沈胴式レンズなのだ。

 レンズ単体で高画質なのは当たり前だが、絞り開放でも画面中心から周辺部に渡りシャープな描写である。しかし絞りF11以下に絞ると回折現象で画面全体でシャープネスが失われてしまう。歪曲収差はごく軽微な樽型だが、ソフト補正されているそうだ。当然のことながら、画角はワイコン無しの状態より狭くなる。


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まとめとEP-1の使用感

ワイコンやファインダーが共有できる、E-P1パンケーキレンズキットとGR DIGITAL IIのシステムを並べてみた。ともに拡張性が高いので、このような“遊び”が楽しめるのだ

 実は、ぼくは当初E-P1を買うのはパスしようと考えていた。マイクロフォーサーズシステムには非常に期待しているのだが、正直E-P1はぼくの感覚ではデザインがイマイチで、EVFやストロボが内蔵されていない点などの不満がある。しかし思い返すと、そんなカメラの不満点を切り貼り(ブリコラージュ)の手法で解消し、自分なりの提案をするのがこの連載の趣旨なのだ。

 そこでまず“グリップを取り外し革貼りする”改造を前提にE-P1を購入したのだ。この改造は個人的にはレトロ調というより、“本来のカメラデザイン”に戻したつもりである。この改造を施したE-P1はボディを握った感触がとにかくカメラらしいのであり、撮影が楽しくなってしまう。ただぼくはデジカメに対し、一律に高級感を求めているわけではない。例えば、チープな質感のボディにハイテクがギッチリ詰まった感じのシグマ「DP1」と「DP2」も、別の意味で非常にカッコイイと思う。デジタルカメラのデザインコンセプトは多様であるべきで、そのほうが楽しいはずだ。

 しかし、この改造は前述したように公開不能の裏技中の裏技になってしまった。それでパンケーキレンズ+ワイコンの組み合わせを試してみたのだが、この「合成広角レンズ」はE-P1ともマッチし、快調な撮影を楽しむことができた。いろいろ不満はあるけれど、E-P1はとにかくシャッター音が軽快で、撮影が楽しくなるカメラであることは確かだ。

 インターフェイスについては、Eシリーズとは異なる位置と、独特の形状の2つのダイヤルの操作性はなかなかいいと思う。また、OKボタンの一押しで、画面上下にWBやISO感度などの各種設定が表示され、操作可能になる点も分かりやすくて良い。

 ただ、モードダイヤルにリコーの「マイセッティング」に相当する登録モードが無いのは、非常に不便である。いくら各種設定が操作しやすくても、デジカメは項目が多いので戻し忘れも起きやすくなる。この設定の戻し忘れを防ぐには、各種設定の「登録モード」がもっとも有効だと思うのだが、どういうわけかオリンパスはその機能を積極的に搭載しようとしないのだ。とりあえず自分なりの設定としてFnボタンに「AF/MF切り替え」機能を登録し、十字キーに「測距点変更」機能を登録してみた。

 しかしE-P1はまだ使い始めたばかりで、これがどんなカメラなのかはまだちゃんと把握できずにいる。E-P1自体がこれまでのデジカメのカテゴリーに収まらないのはもちろんだが、E-P1の登場でこれまでのカメラのカテゴリーの境界線そのものが揺らいでしまった。例えば従来なら“一眼レフ”はレンズ交換可能なシステムカメラの代名詞だったが、E-P1はレフの無い“デジタル一眼”である。

 しかし言葉の意味に忠実に従うなら、背面液晶にライブビューが表示されるコンパクトデジカメはみな“デジタル一眼”ということになってしまう。コンパクトデジカメはパララックスが無く、視野率100%で、ホワイトバランスまでもがリアルタイムで見られる文字通りのデジタル一眼なのである。そうなると、本来の一眼レフのファインダーは“光学一眼”とするとスッキリするように思うが、“デジタル光学一眼”などと表記するとどうも分かりにくいかもしれない。

 またE-P1とコンパクトデジカメの違いは、レンズ交換式という以上に、撮像素子サイズの違いのほうが際立っているように思う。コンパクトデジカメの“極小サイズ撮像素子”はデジタルならではのフォーマットなのに対し、フォーサーズ以上の大きさの撮像素子は、フィルムのフォーマットを引きずっている(フォーサーズは110フィルム相当、APS-Cサイズや35mmフルサイズは言うまでもない……)。そこで、これらを“フィルムサイズデジカメ”というカテゴリーにまとめれば、E-P1や、DP2や、D3Xなどを同じカテゴリーにまとめることができ、個人的にはスッキリする。でも、このカテゴリー分けに全ての人が納得してくれることはないだろう。

 結局、人間の技術は人々が思わぬ方向に進歩し、それに“言葉”が追い付いていないのが現状なのだ。そういう時代だからこそ、ユーザーの切り貼り(ブリコラージュ)的思考も、より活きてくるのではないかと思う。



作例

 上記のテストの結果、実用に耐えうるのはGR DIGITAL用ワイコンGW-1との組み合わせのみであることが判明した。この場合、絞りF8で最も良い描写が得られるようなので、絞り優先F8に固定して撮影するのがいいだろう。

 ということで、この「E-P1広角セット」を携えて、西武新宿線上石神井駅付近を探索してみた。ぼくの街中での撮影は、ある明確な意図のもとに行なっている。それは、街に存在するあらゆる事物から、本来提示された意図とは異なる“意味のズレ”を発見することで、それがぼくの美術家としての“創造”になるのだ。

※サムネイルをクリックすると、長辺1,024ピクセルにリサイズした画像を表示します。

このまま“作品”として展示されてもおかしくないようなオブジェ。繊細な作りの上部分と、どっしりとした土台のアンバランス感も良い元は写真屋さんの看板だったのかもしれないが、そういう詮索だけに終始するのは野暮である。それより、路地にたたずむオブジェの唐突感を味わうのが、粋な楽しみ方だと言える
道路工事で欠けてしまった「止まれ」の一部が、書き足されている。乱雑なようでいて、ほんのちょっとだけ残った「止」のオリジナル部分が生かされており、非常なこだわりを感じる「ま」のツギハギは、フランケンシュタインの怪物のようである
ブリキにペンキで書かれた注意書き。「嚴禁」が旧字なのがポイント裏は住人に対する御願ひが書かれていた。実に味わい深い“書道”である
実に堂々とした「張紙厳禁」の立て札。こちらの「厳禁」は新字であるしかし元あった建物と共に塀も取り壊され、厳禁するまでも無く張り紙スペースは少なくなってしまっている
先ほどと同じ作者と思われる「張紙厳禁」の立て札を発見。「行キ止マリ」の作者も同じだろうか?よく見ると、黄色のペンキの下に「オートバイ」や「自転車」などの文字がうっすら透けている。元は違うメッセージの立て札だったのを、書き直したのだ。まさに重層的なマチエールだと言える
祠のわきに、選挙ポスターがずらりと並ぶ。しかし手前の立て札の横を見ると……細いスキマから方目が覗いて怖すぎる……。誰なのか不明だが、選挙ポスターが1枚丸められて、立て札の隙間に突っ込んであったのだ

告知

 神奈川県立近代美術館 鎌倉では、糸崎公朗氏による「組み立てフォトモ 神奈川県立近代美術館 鎌倉」などが入った「わくわくゆったりセット」を、8月30日まで18歳以下の来場者を対象に配布しています。詳細と引換券のダウンロードはWebサイト参照ねがいます

住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-53 鶴岡八幡宮境内
入館料:高校生100円、小中学生無料



糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://www.itozaki.com/

2009/8/4 00:00