「E-P1」にオリンパスXA専用ストロボを装着する


外部ストロボにもこだわりたくなるE-P1

オリンパス「XA」の専用ストロボ「A11」を、E-P1に装着できるように改造してみた(上)。XA(下)は、PENシリーズの生みの親でもある米谷美久さんによる設計で、今回の改造は自分なりのオマージュなのだ

「オリンパス・ペンE-P1はイマドキのデジタルカメラには珍しく内蔵ストロボを装備していない、かなり思い切った仕様である。もっとも、E-P1は手ブレ補正機能を内蔵し、極小サイズCCDを採用したコンパクトデジタルカメラより高感度撮影に強いから、ストロボの必要性はさほど高くないとも言える。

 第一、暗いからと言って安易にストロボを焚いて撮影すると、いかにも素人っぽい写真になってしまう。内蔵ストロボは万人が必要とするわけではなく、これを省きその分ボディを小型でスリムに設計するのは、合理的な判断だと言える。この判断は、同じような理由で「ストロボ用ホットシュー」をオプション部品とした、かつてのオリンパス「OM-1」および「OM-2」シリーズに通じるところがあるかもしれない。

 E-P1には別売の外部ストロボとして「FL-14」が用意されている。E-P1本体とコーディネイトされたレトロ調のデザインで、コンパクトなストロボである。しかし、個人的にFL-14のレトロ調デザインはどうも中途半端で、特にプラスティック製のシュー取り付け基部に違和感があるように思う。それに“高さが抑えられてコンパクト”と言う以外に、取り立てて特徴も無いところも面白くない。もちろん機能的には問題ないのだろうが、“もう一つ工夫”が欲しいような気がするのだ。

 ぼくが“たかがストロボ”に対しそんなふうに思ってしまうのは、フィルム時代のオリンパスのイメージを引きずっているためだろう。周知の通り、フィルム時代のオリンパスのカメラは、先ごろ亡くなられた名設計者、米谷美久さんの手によるものが多い。そしてぼくは、御多分に漏れず米谷美久さんのファンであり、その影響を強く受けている。

FL-14は、E-P1のデザインにマッチした薄型ストロボ。だがE-P1の先鋭的なコンセプトに対し、FL-14はオーソドックスすぎて面白みがない。もちろん機能的には問題ないのだが……

 米谷美久さんの設計したカメラシステムは、ストロボにもさまざまなアイデアが注ぎ込まれている。その中で特にユニークなのが、1979年にXAと共に発売された専用ストロボのA11である。XAは、丸みを帯びたプラスティックボディーにレンズバリアを装備したスタイルで、発売当初は斬新だった。現在のコンパクトデジカメは、レンズキャップもカメラケースも要らず、ポケットにそのまま入れることができるのが普通だが、そのようなカメラの元祖となったのがXAなのである。

 XAは当時としては小型化を優先するため、ストロボは内蔵していない。そのかわり、カメラ側面にドッキングするタイプの専用ストロボA11が用意されていた。A11はXAにドッキングさせると、まるでストロボ内蔵カメラのようなスタイルに変身してカッコイイ。

 だからぼくとしては、E-P1の外付けストロボも、XAのような“横付け式”にしたほうがスマートではないか? と思ってしまうのだ。もちろんXAのシンクロソケットは特殊な形状をしており、A11も当然のことながらE-P1に装着することはできない。

 しかし、ためしにEP-1の横にA11をくっつけて並べてみると、これがなかなか似合っている気がする。そうなると、A11をなんとかE-P1に装着できないか、考えたくなってしまう。実はぼくはA11を3台も持っているので、そのうちの一台をダメモトで改造してみるのもいいかもしれない。この改造は、果たして米谷美久さんへの“オマージュ”になるのだろうか……?

レンズバリアを閉じたXA。この状態でバックやポケットに入れられるスタイルは、現代のコンパクトデジタルカメラの元祖だといえる。右はXA専用ストロボA11で、こちらも非常にコンパクトに設計されているレンズバリアを開き、専用ストロボA11を装着したXA。このとき、XAの絞りレバーを「Flash」の位置にセットすると、A11が電源ONになり、パイロットランプが飛び出す。また、XAの絞りはF4に固定され、光量はA11の外光オートセンサーで制御される。電源OFFはA11のパイロットランプを押し込む

―注意―

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XAシリーズ用ストロボA11をE-P1用に改造する

・A11の分解と金具との干渉部分の加工

XAとA11の接続部分を確認してみる。【1】が電源ONスイッチの連動部分。XAから押し出されたピンが、A11の電源スイッチを押し込む仕組みだ。【2】はカメラとストロボを接続するネジ部分。【3】は特殊な形状のシンクロソケットで、シンプルな2極式だ。それぞれが今回の改造ポイントになるA11を分解するとこんな感じ。現代の電子機器に比べ、電気パーツの1つ1つが大きめなのが印象的だ
A11をE-P1に接続する上で、まず気になってしまったのがこの部分。E-P1のストラップ取付金具がA11のボディの一部に干渉し、ぴったり装着できないのだそこで彫刻刀の丸刀などを使い、金具の干渉部分をこのように削ってみた。しかしこれは後に、ちょっと削りすぎであることが判明。こういう加工は最後にすべきだったと反省……

・シンクロコードの取り付け

今回の改造では、A11のシンクロソケットは使用しないので、ハンダを溶かして取り外す。しかしこのパーツはA11本体のネジ止めパーツを兼ねているので、ちょっと加工するシンクロソケットパーツは金具を取り外し、さらに余計な出っ張りを削り落とす。これで単なるネジ止め用パーツとして利用できる
これは電源ONスイッチ連動ピンのパーツだが、これもA11本体のネジ止めパーツを兼ねているので、加工して利用するこのように分解し、左端のパーツのみ使用する。このパーツの真ん中の穴には、シンクロコードを通すことにする
A11のシンクロ接点に、2芯のシンクロコードをハンダ付けする。シンクロコードには、本体のネジ止め用パーツを通す新たにハンダ付けしたシンクロコードを、上手く本体内に収めながら、各パーツをネジ止めする

・ストロボONスイッチの新設

A11の電源スイッチの改造前の状態を見てみる。電源ON連動ピンの奥に、本来のストロボスイッチがあるのがわかるA11本体で電源ONができるよう、ABS板を加工してこのようなスイッチつまみを作った
スイッチつまみを、A11本体内の電源イッチにはめ込むスイッチつまみがスライドできるよう、A11の前カバーの一部を削る。「OLYMPUS」のネームプレートも、ご覧のように一部をカットする
新設したスイッチを組み込んだところ。向かって右にスライドすると、電源ONになる。電源OFFは、従来どおりパイロットランプを押し込むこれはA11をXAシリーズカメラに固定するためのネジ部品だが、A11内部に設けたシンクロコードと干渉するため、金鋸で切断。ノブの部分のみ、穴ふさぎ用パーツとしてA11に接着する

・シンクロソケットの加工

A11と接続するシンクロソケットは、E-P1のホットシューを利用することにした。パーツの製作には、ジャンク品のオフカメラシュー(ミノルタ製)を流用するオフカメラシューのホットシューを分解するところ。経年変化でネジ止め部分が割れてしまっているが、加工してしまうので問題ない。このうち、ボディ下部パーツと、内部の電気パーツのみ使用する
ホットシューの下部パーツは、上面にアールがあったのでヤスリで削ってフラットにした。側面にはシンクロコードを通す穴を開けたホットシューに電気接点の金具を組み込み、シンクロコードをハンダ付けした
すべてのパーツを組み込み、ABS板の蓋を接着する。本当はネジ止めにしたいところだが、メンテナンスの必要も無さそうだし、面倒くさいのでABS用接着剤を使ってしまったすべてのパーツを取り付けるとこんな感じになる

・カメラ取り付け部の加工

A11はブラケットを利用してE-P1に装着することにした。このブラケットはハクバのスレーブストロボに付属していたものだまず、ブラケットのゴムを外す
A11はボディパーツに穴あけ加工するため、いったんバラバラに分解するブラケットとA11ボディパーツのそれぞれに、ネジ止め用の穴を3カ所ずつ開ける。ブラケットは1mm径ドリルで穴を開け、A11は0.7mm径ドリルで穴を開ける。金属とは異なりプラスティック素材の場合は、ネジ切り加工をしなくともプラスティック用ネジをねじ込むことができる
ブラケットのカメラ取り付け部には1mm厚のゴム板を貼る。またA11取り付け部には1mm厚のABS板を貼る。さらにその反対面に、0.7mm厚の塩ビ板を貼るブラケットにA11をネジ止めして完成。ホットシューのシンクロソケットパーツは、ヤスリで整形しスプレーで塗装し仕上げた
E-P1には底部の三脚ネジ穴を利用して取り付ける。A11には単3電池1本をセットするシンクロソケットは、E-P1のホットシューに差し込む。新設した電源スイッチをONにすると、パイロットランプが飛び出して点灯する。A11は外光オートストロボなので、E-P1の露出モードはMモードで固定し、写りを見ながら絞りで微調整するといいだろう
改造したA11を装着したE-P1を手にしてみる。正直、シンクロソケットとブラケットが余計だが、そこに目をつぶれば、なかなかスリムで一体感もある。ちなみにぼくのE-P1はグリップを外し皮貼りする改造を施している背面から見るとこんな感じ。A11の背面は、AXの裏蓋開閉の干渉を避けるために隙間があり、そのスペースを利用してシンクロコードを通している
改造したA11を、ためしにリコー「GR DIGITAL III」に装着してみたところ、これがピッタリだった。GR DIGITAL IIIは、ある意味XAの血を濃く受け継いでいるといえるから、当然かもしれない。ただし、GR RIGITAL IIIはストロボを内蔵しているから、A11を装着する必然性はない(笑)

作例

 ぼくは、まず写真のコンセプトを決めてから、それに必要な撮影機材をブリコラージュすることが多い。しかし今回は“E-P1に相応しいかっこいいストロボ”ということでA11を改造し、何を撮るのかは決めていなかった。ぼくがストロボを使うのは、昆虫などのマクロ撮影が主なので、この機材で何を撮るのかちょっと迷ってしまった。そこでとりあえず、実家付近の長野市の夜間の街を、「EP-1+A11」片手に歩いてみた。

 街中の夜間撮影といえば、長時間露光でその場の光を生かした撮影をする写真家は、何人か知られている。しかしカメラに装着したストロボのベタッとした光も、肉眼の印象と違って独特の味わいがある。今回はちょっと試しただけだが、この撮影方を極めれば、一味違った面白い作品群ができるかもしれない。

 E-P1の設定は露出をMモードにし、A11の外光オートの結果を見ながら、絞りやISO感度を微調整した。暗がりなのでAFは作動せず、AF補助光もないのでMFで撮影した。しかし今回使用した17mm F2.8パンケーキレンズには距離目盛がなく、スナップの定石である目測撮影ができない。そこで液晶モニターを「LVブーストON」に設定し、これによって街中の暗がりでなんとかピント合わせ可能になった。

※サムネイルをクリックすると、長辺1,024ピクセルにリサイズした画像を表示します。

トタンの錆が印象的な小屋。ストロボのベタッとした光が、かえって錆模様を立体的に浮かび上がらせているように思える小学校のそばにあった石碑だが、ストロボの不自然な光が返って不気味でカッコよく撮れたように思う。特に植物の質感が独特だ
これはもうやっていないお店の看板。奥行きのない被写体だが、ストロボの真正面からの照明でさらに平面的に写り、独特の印象を与えるこのような被写体は、昼間撮影するとモルタルのざらついた地肌が美しく描写されるものだ。しかしストロボで撮影すると、全く印象が違うのでちょっと驚いた。被写体の立体情報が失われ、色彩情報だけが取り出されたような感じだ
何かの看板のフレームだけが残ったものだろうか。肉眼で見た印象通りくっきりと描写され、周囲の不定形な植物との対比が面白い。左端の古びた電柱の反射板もやけに光っているとある板金屋さんの植木だが、何だかカッコよく撮れたように思う。ぼくは“遠近法”に興味があるのだが、ストロボ光で撮ると妙に遠近感が惑わされ、その裏切られた感がカッコいいのかもしれない



糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://www.itozaki.com/

2009/9/3 11:57