キヤノン「270EX」

バウンスに対応した小型ストロボ

270EX

 カメラの内蔵ストロボでは光量が不足する場合に便利なのが、クリップオンストロボだ。クリップオンストロボを使用することで、被写体との距離が離れていても内蔵ストロボより光が届くようになる。そして、クリップオンストロボを使った撮影テクニックの一つ“バウンス撮影”が利用できる。バウンス撮影は、光を天井などに反射させることで、光を拡散させて自然に写す方法だ。

 しかし、バウンス撮影に対応したクリップオンストロボはある程度高価な上、サイズも大きいものが多く、初心者やファミリーユーザーはなかなか手を出しづらいきらいがあった。そんな折り、キヤノンから登場したのがバウンス対応の小型クリップオンストロボ「270EX」だ。価格は1万6,800円と低価格。量販店でポイントを加味すれば、実質1万円台前半となる。

 大きさは実測で、9×3.7×65cm(最も長い部分×厚さ×幅)というコンパクトさ。重量も、バッテリーを含んで実測191gほどだ。手動だが、ズーム機能を搭載したのもトピックだ。通常の状態ではガイドナンバー22で、35mm判換算で28mmの画角をカバーしている。同50mm以上の画角で使用する場合は発光部を引き出すことで、ガイドナンバーを27に引き上げることができる。

シュー部分には金属を採用。前モデルはプラスチックだったロックは、脱落防止ピンで行なう
電源は単3電池×2本ズーム位置に引き出したところ
ヒンジ部分に、バウンスの角度が記載されている

 クリップオンストロボといっても、使い方は難しくない。キヤノンのデジタルカメラで採用している自動調光方式「E-TTL II」と「E-TTL」に対応しているため、基本的には、カメラに装着して電源を入れるだけで準備ができる。本体を見てみると、操作ボタンは電源スイッチとストロボ固定用スイッチの2つだけ。調光補正などの操作はカメラ側で行なう仕組みだ。

 270EXは、同社のデジタル一眼レフカメラ「EOS Kiss X3」と同時に発表したように、エントリークラスのデジタル一眼レフカメラで、気軽にストロボの光量アップを図りたいユーザーをメインターゲットにしているのだろう。だが、「EOS 5D Mark II」のように内蔵ストロボが無いカメラのユーザーにとっても、気になる存在だろう。また、ホットシューを備えたキヤノン製コンパクトデジタルカメラユーザーも、バウンスができる純正ストロボとして見逃せない。

 というわけで、今回はEOS 5D Mark IIとコンパクトデジタルカメラの「PowerShot G10」に装着して実際に試してみた。

EOS 5D Mark IIの場合

 EOS 5D Mark IIは、各社の現行ミドルクラスデジタル一眼レフカメラの中にあって、唯一内蔵ストロボを備えていないカメラだ。高感度画質は確かにすばらしいものの、ストロボがあれば便利なシーンもあるだろう。ストロボを使うかどうかわからなくても、カメラバッグに小型ストロボが1つ入っていると、何かと安心だ。その点かさばらない270EXは携帯性もよくおすすめできる。

EOS 5D Mark IIに取付けたところ。以下装着レンズはEF 28-300mm F3.5-5.6 L IS USM背面
標準時ズームしたところ
60度にしたところ75度にしたところ
90度にしたところ90度の状態で前面から見たところ

 カメラの撮影モードを、[全自動]、[クリエイティブ全自動]、[プログラムAE]にセットした場合は、カメラ任せの全自動撮影となる。[シャッター速度優先]では、自動的に決まった絞り値に対して、適切な光量になるよう自動発光する。

 また、[絞り優先AE]では、絞り値に応じて適切な明るさで発光してくれる。この場合、シャッター速度は長秒露光による適正露出で、いわゆるスローシンクロができるようになっている。そのため、暗いシーンではシャッター速度が数秒に及ぶので三脚の使用は必須だ。手持ちで撮影したい場合は、カメラのカスタムファンクションで[Avモード時のストロボ調光速度]を、[1/200-1/60秒自動]か[1/200秒固定]にしておくと良い。

 [マニュアル露出]時のシャッター速度は、最大シンクロ速度(EOS 5D Mark IIは1/200秒)~30秒(バルブも可)。なお、270EXはハイスピードシンクロにも対応しているため、最大シンクロ速度以上での発光が可能だ。例えば、明るいレンズで絞りを開けて撮影するポートレートなどで高速シャッターが使える。もちろん先幕/後幕シンクロの切替えもできる。

 調光はTTLによる自動調光のほかに、マニュアルでの発光量調整も可能。マニュアル発光では、フル発光~1/64まで設定でき、細かな絵作りが楽しめる。

ストロボの設定は[外部ストロボ制御]メニューから行なう[外部ストロボ制御]メニュー
[ストロボ機能設定]メニュースクロールしたところ
E-TTL IIに設定している場合、測光方式を選択できる調光補正の画面
発光モードは、マニュアル発光にも対応マニュアル発光にした場合の[ストロボ機能設定]メニュー
発光量はフル発光~1/64に設定可能。1/128まで表示されているが、1/64より左側には動かないE-TTL II、マニュアル発光ともハイスピードシンクロにも対応している
絞り優先モード時のシャッター速度は、カスタムファンクションから設定できる。[自動]の場合、暗いと長秒露出になる

 作例にある通り、直射とバウンス撮影の違いは一目瞭然だ。カメラの内蔵ストロボやバウンスできない前モデルの「220EX」も、今回の直射の作例とほぼ同じ感じに写ってしまう。一方バウンスしたものは、光がよく回っており、なかなか自然な仕上がりになっている。

 今回のバウンスの作例は、被写体との距離が近いために発光部を90度に引き上げているが、被写体との距離が離れている場合は、角度を斜めにしたほうがいい場合がある。270EXは、発光部を60度と75度にもセットできるので便利だ。

 ところで現行のEOSシリーズは、暗所でAF動作を助けるAF補助光を内蔵ストロボの間欠発光によって行なっている。そのため、EOS-1DシリーズやEOS 5D Mark IIなど内蔵ストロボを持たない機種ではAF補助光が利用できない(これらの機種には、なぜかAF補助のランプ類も付いていない)。

 そういうわけで、EOS-1DシリーズやEOS 5D Mark IIではクリップオンストロボをAF補助光として利用するシステムになっている。270EXは、間欠発光によりAF補助光を照射できる。つまり、普段ストロボを使わないユーザーでも、270EXをAF補助光のために利用する手もあるということだ。

 AF補助光としてのみ使用したい場合、[階部ストロボ制御]-[ストロボ機能設定]メニューの[ストロボの発光]を[しない]に設定することで、AF補助光は光るが本発光はしないという動作が可能だ。AF補助光の有効距離は約4mとなっている。なお、純正ストロボの580EX II、430EX II、220EXは、前面の赤い部分からAF補助光を照射する仕組みになっている。220EXはAF補助光の有効距離0.7~5mで270EXを1mほど上回る。ちなみに、フラッグシップストロボの580EX IIは有効距離が0.6~10mあり、流石プロ向けといったところだ。

PowerShot G10の場合

 PowerShot G10で使用する場合も、基本的な操作はEOS 5D Mark IIと同様だ。プログラムAE、絞り優先AE、シャッター速度優先AEではオート発光と、マニュアル発光が可能。マニュアル露出ではマニュアル発光のみとなる。マニュアル発光は、フル発光~1/64の間で選択できる。

PowerShot G10に装着したところ背面

 シャッター速度優先AEやマニュアル露出での最高シャッター速度は1/250秒。だが、PowerShot G10でもハイスピードシンクロができるため、1/250秒以上でのシンクロが可能。PowerShot G10の最高シャッター速度は絞り値によって異なるが、F5.6以上に絞ると1/4,000秒が切れる。なお、内蔵ストロボと同時に発光させることはできない。

ストロボの機能は[内蔵ストロボ設定]メニューで行なう調光補正は、ファンクション画面からもバーグラフを見ながら行なえる
これはPowerShot G10の内蔵ストロボのを、マニュアル発光にした場合の設定画面。発光量調整が小、中、大の3段階しかない270EXを使用すると、マニュアル発光時にフル発光~1/64まで細かく設定可能になる
PowerShot G10でも、ハイスピードシンクロができる

 電源は単3電池×2本。アルカリ乾電池のほかに、ニッケル水素充電池とリチウム電池も使用できる。フル発光させてから充電完了のランプが点灯するまでの時間は、新品のアルカリ乾電池(パナソニック製)で約5.5秒、満充電のニッケル水素充電池(三洋電機製エネループ)で約3秒強だった。

 270EXは、モデリングライト機能も搭載している。約1秒間連続発光を続けることで、被写体の影の出方などを撮影前に確認できる機能だ。デジタルカメラ時代になって、撮影結果がすぐに見られるようになり、モデリングランプは必要なくなったが、フィルムカメラで使用する場合には便利だ。

作例

※サムネイルをクリックすると、横1,024ピクセルにリサイズした画像を表示します。

※すべて、F5.6、1/60、絞り優先AEで撮影しています。

・EOS 5D Mark II

270EXによる直射。背景に強い影が出ているほか、カメラの金属部分が下に反射してしまった270EXをバウンス(90度)。背景の影が消えたほか、金属の鋭い反射も軽減され立体感のある描写になった
270EXによる直射。背後の壁に出現した影や、顔の輪郭などがはっきり出すぎる部分がポートレートとしては気になる270EXをバウンス(90度)。壁の影が消えた上、光がよく回って表情も自然に写すことができた。このまま証明写真に使えそうな写りだ

・PowerShot G10

内蔵ストロボで撮影。被写体の右側に濃い影が出てしまった。カメラの反射が鋭すぎて文字が読めない270EXを直射。背後の影が下に出るので、内蔵ストロボよりは目立たないが、カメラの反射はいただけない
270EXをバウンス(90度)。コンパクトデジタルカメラで撮影したとは思えない仕上がりだ。金属の質感もよく伝わるし、“CONTAFLEX”の文字もしっかり写った。なお、画面がやや色被りしているのは、蛍光灯の影響だ。こうした場合、レタッチで補正するとよい。
内蔵ストロボで撮影。人物の右側の影が髪と同化してしまい、本来の風貌とは違った印象になってしまった270EXを直射。やはり背後の影が気になる。壁の前に立った人物を撮影することは少なくないと思うので、こうした描写は何とかしたいもの
270EXをバウンス(90度)。背後の影を消すことができるだけで、だいぶ印象が良くなる。観葉植物も自然に写った

まとめ

 小型ながらなかなか使い勝手の良いストロボ、というのが使用しての印象だ。カメラの内蔵ストロボは、光量が少ないところがウィークポイントだが、直射しかできない点ももったいない点。バウンスを利用できれば、比較的簡単にストロボで撮影したとは思えない仕上がりが期待できるからだ。

電池を含んでも200gを切る重さ持ち運び用のポーチが付属する

 上級のクリップオンストロボと比べると、後ろ方向や横方向に発光部を動かせないのは物足りないところではあるが、メーカー純正の安心感をこの値段で手に入れられるのだから十分だ。ネットオークションなどの出品用写真撮影などにも最適と思う。バウンスを活用するだけで、全く印象の異なる写真になる。

 何より、ポケットにすっぽり入ってしまうこのサイズは試用中大変にありがたかった。EOS Kissシリーズユーザーはもとより、EOS 5D Mark II、ホットシュー付きPowerShotシリーズユーザーにもぜひ試してみて欲しい。



(本誌:武石修)

2009/6/9 00:00