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世界で著名なHDRソフト「Aurora HDR」最新バージョンを試す

本日発売 多彩なプリセット&編集機能を紹介

Aurora HDR 2017(以下、「Aurora HDR」と略す)は、HDR(ハイダイナミックレンジ)写真の第一人者として知られるトレイ・ラトクリフ氏とMacphun Software社のコラボレーションによって開発されたHDR編集ソフトだ。

ラトクリフ氏の手によるものをはじめ、豊富なプリセットが用意されており、簡単手軽にHDRイメージを作成できる。プリセットをベースに微調整できるほか、レイヤーを使った編集や部分的な補正も行なえる。多くのメーカーのRAW形式画像に対応しているのも強みだ。

発売は9月29日。現時点ではMac OS版(10.10.5以降)のみだが、来春にはWindows版も発売される予定。同社のウェブサイトからのダウンロード販売価格は税込1万800円となっている。

Photoshop CCやLightroom CCと連携できるプラグインも用意されている

実際の作業手順

起動すると「画像をロード」と書かれたウィンドウが開くので、そこに合成したい画像をドラッグ&ドロップする。露出違いの画像(できれば三脚で固定して撮影したもの)を使うのが基本だが、1枚だけでもいい。手もとにある画像でためしてみたところ、シグマ(SD14、SD15、sd Quattroで確認した)以外はRAWのままでも読み込めた。

起動すると、「画像をロード」ウィンドウが表示され、ここに合成したい画像をドロップする
-3EVから+3EVまで1段刻みでブラケット撮影した画像を使用した。ファイルサイズの関係でここではJPEG画像を掲載しているが、実際の作業はRAW画像で行なっている。
-3.0EV補正
-2.0EV補正
-1.0EV補正
補正なし
+1.0EV補正
+2.0EV補正
+3.0EV補正

HDR合成を行なう前に、「追加設定」をクリックして、「ゴースト軽減」と「色収差の除去」オプションをオンにしておくこと(「カラーノイズの低減」オプションは初期設定でオンになっている)。

合成前の元画像の表示。ここで「整列」オプションや「追加設定」を行なう
「追加設定」では「カラーノイズの低減」のみオンになっているが、「ゴースト軽減」と「色収差の除去」もオンにしておく。それから「HDR作成」をクリックすると合成処理が開始される

「HDR作成」をクリックするとしばらく待たされてから合成した画像が表示される。このままだとわりと普通のHDRイメージだが、「プリセット」を利用すると、さまざまな仕上がりをクリックするだけで選べる。

合成後の画面。ボートのエッジの一部にゴーストが出ているが、ここではとりあえず気にしないことにする
画面右下の「プリセット」をクリック。右端の「BASIC」をクリックするとプリセットを選択できる
「Trey Ratcliff」を選択すると、トレイ・ラトクリフ氏のプリセット(11種類ある)が表示される
「Chocolate Fixes Most Problems」を適用したところ

標準装備の9つのカテゴリーには、トレイ・ラトクリフ氏のほか、セルジュ・ラメッリ氏やキャプテン・キモ氏のプリセットも含まれている。HDR好きにはこれだけで十分楽しめるだろう。

プリセットを適用せずに、かつ無調整の状態で出力したもの
Chocolate Fixes Most Problems
Emoji for Schadenfreude
Midnight Pizza Happiness
Move, Ball
No Regrets, Well, Maybe Some
Paenut Butter Blowout
Shroomy & Gloomy
Smoothy McSmootherson
Stranger Pangs
Time to get Real
X-Rated HDR Don't Look
こちらは「Captain Kimo」プリセット。ややおとなしめの印象のものが12種類ある
少し派手目の「Serge Ramelli」プリセットは11種類。初期設定で組み込まれているプリセットだけでも十分楽しめる

プリセットを適用した画像をさらに微調整することも可能だ。

画像編集中の画面。右側にさまざまなツールのパネルがあり、下側にプリセットが表示される

正直なところ、「画像構造」だったり「画像輝度」「グロー」などという名称の項目を見てもまるっきりピンとこないのだが、いろいろいじってみれば、いわゆる「HDR」らしさを強めたければ「HDRルック」や「HDR画像構造」の「量」、「HDR詳細」の「量」を多くすればいい、というのはつかめてくると思う。

ほかの「コントラスト」だったり「ハイライト」「シャドー」などは、多くのRAW現像ソフトと同じ機能で操作方法も違いはない。RAW現像の経験のある人なら基本的な使い方を習得するのはむずかしくないと思う。

おもしろいのは、各パレットの右上にあるオレンジ色の点アイコンで、これをクリックするとそのパレットの効果を一時的に非表示にできる。調整前後の比較が容易に行なえて便利だと思う。また、その左側の円を描く2つの矢印アイコンをクリックすると、そのパレットの調整内容を一括でリセットできる。

HDRを意識せずに撮った夜景。2枚だけで露出差も1段ちょっとしかないが、HDR効果はちゃんとえられる。ただし、画質面では枚数が多いほうが有利になるだろう。
+0.3EV補正
-1.0EV補正
2枚の画像をHDR合成した状態。歪曲収差の自動補正はないので、画面に写る範囲が元画像とは異なっている(マイクロフォーサーズやソニーの一部レンズで歪曲収差が残った状態となる)
「Architecture」の「Architecture Bright」プリセットを選択した状態。こんなふうに、簡単にいろいろなHDR効果をためせるのでいじっていて楽しい
無調整で出力したもの
「Architecture Bright」プリセットを適用したもの

ゴースト軽減機能

まずは、画像を読み込む際のオプションから。

先ほどは有無を言わさずにオンにした「ゴースト軽減」は、画像内の動いている部分(人やくるま、雲、風に揺れる樹々の枝葉やたなびく旗など)が幾重にも重なって写ることを防止する機能で、多くの場合はオンにしておかないとへんてこな仕上がりになる。

下の写真を読み込んだ。
-3.0EV補正
-2.0EV補正
-1.0EV補正
補正なし
+1.0EV補正
+2.0EV補正
+3.0EV補正
「ゴースト軽減」をオフのままにしておくと……
動いている部分(人やくるま、雲)が重なった状態となる
野外で撮ると、なにかしら動くものは入り込むので、基本的に「ゴースト軽減」をオンにしておくのがおすすめだ
「ゴースト軽減」をオンにして合成したもの。「参照画像」に指定した画像をベースに動くものを消す処理を行なうようだ
ピクセル等倍で見ると、雲の部分に少しノイズが出ていて、灰色っぽくなっている
この現象に効果があるのが「超スムーズ」で、これを「40」ぐらいに設定すると、ザラツキが軽減できる
「HDRノイズ除去」パネルの右上のオレンジ色の点アイコンをクリックすると、設定値は残したままで効果をオフにできる。調整前後の違いを見比べやすい

「色収差の除去」もレンズの色収差やフリンジなどを自動的に補正してくれるので、オンにしておくのがおすすめだ。手持ちで撮ったときのフレーミングのズレが問題になる場合は「整列」をチェックしておく。

PLフィルターを使ったような効果も

ちょっとおもしろいのが最新バージョンに搭載された「偏光フィルタ」で、文字どおり、PLフィルターを使ったかのように青空を濃く鮮やかにできる。操作はもちろんスライダーを動かすだけの簡単なもので、効果も高く、エッジ部分も自然に仕上がってくれる。風景や建築物、街の景観などにはぴったりだ。

新機能の「偏光フィルタ」。空の色を濃く深くしてくれる。建物のエッジ部分が不自然になっていないのがいいところ
無調整で出力したもの
「HDRノイズ除去」を適用(設定値は「+40」)した画像
さらに「偏光フィルタ」を適用(設定値は「+50」)した画像

レイヤーも使用可能

レイヤーが使えるのも便利なところ。細かいところを説明しはじめるとキリがないからやらないが、たとえば、調整レイヤーに「グラディエント・マスク」や「放射状グラディエント・マスク」(Lightroomの「段階フィルター」や「円形フィルター」に相当する)、ブラシツールを組み合わせて、部分的な補正を行なうなどの作業が行なえる。

下の画像を読み込んだ。
-3.0EV補正
-2.0EV補正
-1.0EV補正
補正なし
+1.0EV補正
+2.0EV補正
+3.0EV補正
これはプリセットを使わずに調整してみた。画面中央のエントランス部分が少し暗くなりすぎたので、レイヤーを使ってこの部分だけ補正してみる
「レイヤー」の「+」をクリックして「調整レイヤー」を選択する
ブラシツールをクリック。サイズなどは自由に選べる
補正したい部分だけをブラシで塗る
「シャドー」を「+57」に、「黒レベル」を「+50」に設定したところ
レイヤーによる部分補正を行なわない段階で出力したもの
部分補正を行なったもの。暗くて見えづらかった部分のディテールが引き出せた
下の画像を読み込んだ。
-3.0EV補正
-2.0EV補正
-1.0EV補正
補正なし
+1.0EV補正
+2.0EV補正
+3.0EV補正
これもプリセットを使わずに調整したもの。画面左上の空の青さが強いのが気になる
「調整レイヤー」を作成して「放射状グラディエント・マスク」を選択。位置と形を変化させたところ
「色調彩度輝度」パネルで、「ブルー」の「彩度」「-64」に、「輝度」を「-14」に下げた
レイヤーによる部分補正を行なわない段階で出力したもの
部分補正を行なったもの。気になっていた部分の青みがおとなしくなった

画像の部分補正や色調調整にも対応

最新バージョンに追加された「トップ&ボトム調整」で、空の部分だけ明るさを変えられる。

1枚のRAW画像からHDR画像に仕上げてみる
複数画像を合成するのと比べると、暗部の調子を持ち上げるときなどにノイズが浮きやすくなるので、大きな補正は避けるのが無難
新機能の「トップ&ボトム調整」を使うと、画面の上下を個別に補正できる。ただし、「調整レイヤー」と「グラディエント・マスク」の組み合わせのほうがつぶしは利くのでケースバイケースで使いわけるのがよさそうだ
「シフト」で境界線の位置、「ブレンド」で効果のおよぶ範囲、「回転」で境界線の角度を変えられる。ここでは空の部分だけ少し暗く、コントラストを高めにして、青を強調している
「トップ&ボトム調整」を使わずに出力したもの
空だけを少し暗めにして、より印象的に仕上げたもの

また「色調彩度輝度」では「レッド」「イエロー」「グリーン」「シアン」「ブルー」「バイオレット」の6色を個別に「色調(色相)」「彩度」「輝度」を微調整できるようにもなっている。

下の画像を読み込んだ。
-3.0EV補正
-2.0EV補正
-1.0EV補正
補正なし
+1.0EV補正
+2.0EV補正
+3.0EV補正
無調整の状態
「色調彩度輝度」で「イエロー」の「色調(色相)」を「-76」に、「グリーン」の「色調」を「-42」に変えて、黄葉っぽく仕上げてみた
無調整のまま出力したもの
「色調彩度輝度」を操作して仕上げたもの

まとめ

多くの一眼レフカメラやミラーレスカメラのRAW画像がそのまま読めて、操作もわかりやすい。画像の読み込み(合成)には時間はかかるものの、読み込んでしまえば動作は比較的軽快でストレスは少ない。

さまざまなプリセットを見ているだけでも楽しいが、それらをヒントにしてオリジナリティーのある作品に仕上げるおもしろさも味わえる。

イロモノというイメージを持っている人はまだまだ多そうなHDRだが、このAurora HDRの共同開発者でもあるトレイ・ラトクリフ氏をはじめ、素晴らしい作品を発表している作家は少なくない。チャレンジしてみる価値は十分にあると思う。

まずは、同社のサイトから体験版をダウンロードして使ってみるところからはじめてみてはいかがだろうか。

北村智史

北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら