Canon EFレンズ 写真家インタビュー

驚くほどコンパクトで軽量、それでいて妥協のない高画質

風景写真:貫井勇志 with EF400mm F4 DO IS II USM

遠くから撮るものという固定概念のある東京タワー。思い切って近づき、日常風景として大胆に切り取った。被写界深度を深くし、スペースコロニーのようなデザインと陰影のパターンを強調した。
キヤノン EOS 5Ds R / EF400mm F4 DO IS II USM / 400mm / マニュアル露出(F10、1/5秒) / ISO 100

その先を感じさせる空を排除することで、息が詰まるような都会の姿を表現した。シャープな描写が都会の冷たさや厳しさを感じさせている
キヤノン EOS 5Ds R / EF400mm F4 DO IS II USM / 400mm / マニュアル露出(F8、1/6秒) / ISO 2000

プロカメラマンから絶大な信頼を寄せられるキヤノンのEFレンズ。この「Canon EFレンズ 写真家インタビュー」では、EFレンズを使いこなすプロ写真家に、その魅力を聞く連載です。

今回は、壮大な風景写真や映像作品で知られる貫井勇志さん。EFレンズで得られる写真の世界と、お気に入りの「EF400mm F4 DO IS II USM」について語ってもらいました。

作品・キャプション:貫井勇志
聞き手:青木宏行
人物写真:加藤丈博

EF400mm F4 DO IS II USM

--スチルだけでなく映像作家としても活躍されている貫井さんですが、写真を始めたきっかけは何だったのでしょう。

高校時代は野球部にいて甲子園を目指していたのですが、3年生のときに「そういえば、野球部の写真って全然ないね。誰か撮ってくれないかな」という話が部員から出てきました。当時は写真もカメラもまったくわかっていませんでしたが、知り合いに写真好きの叔父がいたので、その叔父から機材を借りて、使いかたも即席で教えてもらいました。実際に試合風景を撮ったら、これが校内で好評だったんですね。

その後、写真を見た学校の先生に呼び出されて「卒業アルバムの写真を撮ってみないか」と頼まれました。もちろん写真部員をはじめ、撮影要員は足りていたはずなのですが……。また叔父にカメラを借りるのもどうかと思ったので、思い切ってキヤノンのNew F-1を買いました。

それでクラスメイトの日常や野球部の練習風景など撮っていたのですが、ファインダーを通して学生生活を見ていると「この瞬間は、これっきりなんだ」と気付きました。自分が撮った写真を、これから何年、何十年か先に本人や彼らの子どもたちが見て、思いを馳せるのかもしれない。そう考えたら、とてもかけがえのないものを残しているんだ、と感動したのです。それまでは体育教師になろうと受験勉強をしていましたが、一転して写真をやっていく気になりました。

貫井勇志(ぬくい・ゆうじ)1964年生まれ。東京都出身。東京綜合写真専門学校を経たのち単身渡米し、ロサンゼルスを拠点に米国ファッション誌、スポーツ誌などに作品を提供。独創的な世界観が高く評価され、フォトグラファーとして幅広いジャンルで活躍する。帰国後、スチルとムービーを分け隔てなく手がける映像作家として活動を開始。2007年、株式会社CINEMAFORCE(シネマフォース)を設立、代表を務める。

--なぜ先生は卒業アルバムを撮ってくれと頼んだのでしょう。普通は生徒には頼みませんよね。

野球の写真を見た先生方の間で「貫井はなんでこんなにいい写真が撮れるんだ?」という話になったみたいです。技術的には稚拙だったと思いますが、被写体が友人や後輩なので、それぞれの打ったり投げたりするタイミングを熟知していたことがよかったのかもしれません。いずれにしても、その先生の言葉がなかったら、写真の道に進むことはなかったでしょう。

--米国でキャリアをスタートし、帰国後に映像作家としての活動を始めていらっしゃいますが、映像を始めたのはどういうきっかけだったのでしょうか?

渡米する前に、横浜の東京綜合写真専門学校に入学しました。講義の内容は当時の私にとって難しい内容でしたが、最終的にプリントでは「どこに出しても問題ない」と、一番いい評価をいただけるところまでは上達しました。

ただ、2年目が終わるころにはもうやりきった感覚になり、退学してしまいました。もともと「自分の写真は世界ではどう思われるのか、世界で聞いてみたい」と思うことがたびたびあり、それを機にいろいろな人種が生活するアメリカに渡ることを決めました。

アメリカでは、ホストファミリーの家から自転車で40分くらいのところにある大学で英語の語学授業を受けていて、通学途中によく写真を撮っていました。そうして撮り貯めた写真を使い、大学の教室でスライド上映会を実施したところ、後日名刺を持った大人が私のところにやってきました。彼が言っていることはざっくりとしかわかりませんでしたが、とりあえず「イエス」と答えていたら、いつの間にか写真の仕事をすることになりまして(笑)。

仕事の幅を広げていく中で、ILMやデジタルドメイン、ソニーピクチャーズといった映像制作会社とつながりができ、そこで「キミの写真が動いたらすごくないか?」と言われたのが映像の世界に入るきっかけでしたね。

他の望遠レンズでは得られない、フットワークの軽さと画質の両立

--なんともドラマチックな展開ですね。そんな貫井さんは、機材を選ぶ際に何を重視されるのでしょうか?

レンズに関しては、ある意味素直じゃないほうが好きですね。言葉で説明するのは難しいのですが、味のある描写をするレンズが好きです。ガラスを通して見た景色というものが写真のおもしろさだと思うので、仮に肉眼とまったく一緒に見える究極的なレンズがあったとしても、私は面白くないと思います。いわゆるクセ玉が好み、ということになるんでしょうか。そういう意味では、オールドレンズなども好きです。

--今回使用していただいているEF400mm F4 DO IS II USMですが、使ってみた印象はいかがでしょう?

400mmはもっと大きいイメージがあったのですが、コンパクトかつ比較的軽量で使いやすかったです。いまのデジタルカメラは高感度に強いので絞りも気にせずに設定できますから、明るくても持ち運ぶのに躊躇してしまうような大きさや重さだと、私は持ち出さなくなってしまいます。でも、そんな超望遠レンズを気軽に持ち歩けるというのは大きな武器になりますね。近寄れない状況では望遠レンズがないとお手上げですから(笑)

しかも画質に妥協がない。望遠撮影の大抵の用途は、これ1本あれば事足りるのではないでしょうか。以前からよくいわれるDOレンズの描写特性についてですが、ほぼ無限遠を絞って撮っていることもあり、いまのところ気になったことはありません。

--UDレンズを採用したこのレンズは、従来のモデルに比べ、大幅なフレアの抑制や高い解像感を実現しています。また、フレアやゴーストの低減に効果的な特殊コーティングSWCも施されています。実際に撮影に使用され、このあたりのメリットは感じられましたか?

個人的な感想としては、確かにフレアやゴーストは出ないという印象です。東京タワーの撮影でも点光源がたくさんありましたが、そういったものは確認できませんでした。

海での撮影も逆光でかなり海がギラギラしていましたが、しっかりした写りで感心しましたね。解像度も高くて周辺部までしっかりシャープに写りますし、どんな状況でもちゃんと写ってくれる安心感の高いレンズだと思います。これでこのコンパクトさはすごいことですよ。

三分割の画面構成。ランダムな文様の海面と人工物が作り出す垂直線を対称的に表現。圧縮効果を陰影で生かしてフォルムを強調した
キヤノン EOS 5Ds R / EF400mm F4 DO IS II USM / 400mm / マニュアル露出(F10、1/320秒) / ISO 100

--手ブレ補正機構(IS)の効果は感じられますか?

今回掲載している作例は三脚を使いましたが、手持ちでも使えるコンパクトなレンズですから、基本的に手ブレ補正はオンにしておきたいですね。実際の使用では、特にブレを意識することなく撮れましたので、恩恵は受けていると思います。フットワークよく撮り歩くのであれば、このレンズは頼もしい味方になるはずです。

--AF性能はいかがでしたでしょうか?

ピントはマニュアルフォーカスで合わせることがほとんどですが、AFについては特に気になる点はなく、いい意味で普通に使えるレベルだと思います。がんばらなくてもキッチリ合うといいますか(笑)。マニュアルフォーカスがメインの私でもホールドする方に集中したいときはAFを活用しますので、安心して任せられるのは助かりますね。

--防塵防滴構造で、汚れの付着しやすい前玉と後玉にフッ素コーティングが施されていますが、メリットは感じられますか? またメンテナンスなどで気をつけていることがあれば教えてください。

風景撮影では防塵防滴は非常に重宝します。高性能なレンズなのに雨の日に安心して使えないのは、やはり残念ですから。汚れ防止のコーティングについても、大きなレンズだけに助かりますね。

手入れについては、ブロワーでホコリを飛ばしたあとにスプレー式の速乾性クリーナーをかけてクロスで拭いています。拭き傷を付けたくないので、あまりグルグル回さずに表面をスッとなでる程度ですね。

また、撮影中に移動するときは三脚から外して持ち歩くようにしています。付けっぱなしでかついだりすると三脚座やマウント部分に負荷がかかってしまうので。もちろん十分な強度はあると思いますが、それをずっとやっているとミクロン単位でもガタが出てしまう可能性は否定できませんから。

写真の原点を楽しめる望遠撮影の世界

--400mmという超望遠域のレンズは、なかなか踏み出せない人も多いと思うのですが、これから手にしてみたいという人に向けて、このレンズで見ることのできる新しい世界がどのようなものか、ぜひ教えてください。

超望遠レンズならではのフレーミングのおもしろさ、自分の感性で風景を切り取ることを意識できるところが、このレンズの醍醐味じゃないでしょうか。

肉眼では遠くだけを抜き出して見るということはないでしょうけど、“ファインダーをのぞいて見た景色にワクワクする”というのは写真の原点といいますか、ピンポイントで狙い撃ちするような感覚は400mmならではの世界ですので、ぜひ一度体験してみてほしいですね。

当然ですが、画角は狭いしブレにも気を遣います。でも、自分の技術力の向上とともに、新しい写真の楽しみかたに気づかせてくれるのではないかと思います。

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「デジタルカメラマガジン」では、本連載との連動企画「Canon EF LENS 写真家7人のSEVEN SENSES」が掲載れています。貫井さんをはじめ、EFレンズを知り尽くした写真家によるレンズテクニックと作品が収録されていますので、ぜひご一読を!

青木宏行

元出版社勤務。現在はたまにライター業に携わりながら自由な生活を謳歌している。写真は10年ほど前から始め、30台以上のカメラとレンズを所有。2013年より横木安良夫氏が主宰するアマチュア写真家グループ"AYPC(Alao Yokogi Photo Club)"に参加。