インタビュー

【フォトキナ】“後継機症候群”を打破 新しい時代に対応すべく――ニコン

映像事業部 マーケティング統括部第一マーケティング部長 楠本滋氏

ニコンは今回のフォトキナ前に、コンシューマ向けFXセンサー搭載カメラボディD750を発表。このところ増えていたFXセンサー搭載ボディのラインナップを強化した。

ニコン 映像事業部 マーケティング統括部第一マーケティング部長の楠本滋氏

もともと、フォトキナに合わせて製品を投入するよりも、マイペースに必要な時期に必要な製品のモデルチェンジを行ってきたニコンだが、今回は特に大人しいという印象もある。ニコン 映像事業部 マーケティング統括部第一マーケティング部長の楠本滋氏に、“Nikonの現在”について話をしていただいた。

従来機種のアップデートも継続

――今年後半にリリースした新製品……いわば、フォトキナにおける見どころに話を絞ると、D750とAF-S NIKKOR 20mm f/1.8G EDの2製品だけと、やや寂しい気もします。これは“来年に続く”ということなのでしょうか? ここ数年、“より良い後継機”の繰り返しだったのが、Dfという異分子も登場しています。ニコンのボディラインナップの再編もあり得るのでしょうか?

今年はD3300も発売させていただきました。現在、ご存知のように市場環境が大きく変化しています。社内でも“後継機症候群”と言われるような症状に自覚はあり、それを打破して時代へと追従していこうという意欲はあります。

D750
AF-S NIKKOR 20mm f/1.8G ED

――1つには高級ミラーレス機が伸び始め、その分、一眼レフカメラが出荷量を落としているということがありますよね。今年はおよそ-15%ぐらいで推移しています。そこを打ち破ろうということですか?

はい。いつまでも“今までの後継機”だけでは発展しません。しかし一方で多くのユーザーに支持して頂いている現在のボディラインナップですから、“より良い後継機”に期待してくださっている方もいらっしゃいます。適切な時期には最新技術にアップデートしたボディも用意しなければなりません。

その狭間で難しいコントロールを必要としている面はありますが、来年以降も計画通りに従来機種のアップデートは行っていきます。

一方で、少し違った角度に挑戦はしていきたいですね。“一眼レフ”に限ったことではなく、レンズ一体型のカメラにおいても新しいチャレンジはしていきたい。

通信機能強化の方向はAndroidだけでは無い

――“支持して頂いているユーザーからの期待”という意味では、DXフォーマットの上位モデルがこのところ寂しいですね。とりわけトップモデルのD300S(2009年8月発売)は久しくアップデートされていません。やや位置付けは違いますが、EOS 7Dが5年ぶりに新モデルに切り替わったことで、ニコンに対する期待も高まっているのでは?

D300S

フォトキナでは、事前の噂通りにキヤノンのEOS 7D Mark IIが発表となりましたので、D300S後継の期待が高まることは十分理解しています。比較基準になるライバルが登場したことで、機能・要望などが膨らむでしょうし、仕様に関するハードルもさらに高くなるでしょう。

杓子定規の答えになりますが、顧客の声に耳を傾けてより良い製品にするよう判断したいと思います。ライバルの投入により“ニコンも新しいモデルを!”と思っていただけるのは、カメラメーカーとしてとても幸せなことですし、個人的にも期待に応えたいという気持ちでいっぱいです。

私自身はマーケティングが主業務ですから、そうした顧客からの要望を(新製品投入というカタチで)実現するために商品化の可能性を模索するのが仕事だと考えています。

――“新しいチャレンジ”という意味では、Android搭載のCOOLPIX S800cは2年前の発売。今回話題のパナソニックLUMIX DMC-CM1よりも2年以上早かった。その後、S810cも海外では投入されましたが、市場での反応はどうでしたか?

正直、“ビジネス”という面で言えば利益貢献を担う製品にはなりませんでした。しかし、ニコンという会社はこんな面白いことをするのかと、これまでとは異なる方々からも注目を得たので、“ニコン”のブランディング面ではプラスになったのかなと。通信機能の搭載やスマートフォンとの競合などが当時、テーマとして上がっていた中で、ニコンはここまでやってくるのかと思っていただけました。

COOLPIX S800c

――ビジネス貢献は低いとはいえ、誤った方向ではないとの評価だと思いますが、その後、改良モデルなどの投入や他モデルへの展開などはありません。その理由は?

当時はスマートフォンの操作性や機能性、それに業界標準のアプリが使えるということでAndroidをOSとして採用したのですが、カメラの通信系機能を強化する上でAndroidが唯一の答えかというと、ここで深く考える必要があると思っています。

もちろん、通信機能を何らかのカタチで高めていくことには今後も取り組むのですが、その手段については選択肢を拡げて検討しています。

Androidスマートフォンとカメラの融合も、もちろんその検討課題の1つですが、今後はもっといろいろなアプローチからカメラへの通信機能組み込みが行われると思います。Androidをカメラに使うこと以外にもいろいろやりかたはありますので、手段は限定せず広い視野で取り組んでいきます。

――いち早くスマートフォン用基本ソフトとデジタルカメラを組合わせた製品を投入したことで、メーカーとして学んだ点などはありますか?

スマートフォンが“デジタル製品の標準”となったことで、様々なデジタル製品がスマートフォンによく似た操作性や機能を持つようになってきました。消費者は“スマホ的な使い方”に慣れているため、操作性や使いやすさなどの面で、スマートフォンユーザーが想像しやすいように作りこんでいかないと、カメラへと入ってきにくい。

マニュアルを見なくとも使いこなせるスマートフォンに慣れた人でも、すんなりと使えるカメラを作ることがこれからは大切になっていくでしょう。

――今年の年末商戦期はD750で勝負だと思いますが、小ささ、軽さ、バリアングル液晶でのフリースタイル撮影などの特徴を考えると、“D650”という名前も似合いそうですが、今後、コンシューマ向けFXセンサー搭載機は3機種展開を続けるお考えなのでしょうか?

まず製品ラインナップですが、現行製品で乗り切る方向です。D750も世界中に流通させていきますから、本格的にワールドワイドでの販売が立ち上がるのはクリスマス商戦ぐらいですね。

D750の位置付けですが、画質面ではD800と同サイズのセンサーを使った上でコンパクト。画質と可搬性を両立させる提案としてD750という名称にしました。一眼レフカメラ市場が-15%程度で推移しているという話がありましたが、その中でもFXセンサー搭載機は落ち込みの影響が少ないカテゴリです。

FXセンサーを選択する方々は、それぞれに多彩な趣味を持つ人たちが多いため、D800でもなくD600でもないバリエーションが必要だと考えて800系と600系の間にラインナップしました。

今後についてですが、今の3系列を継続的にアップデートする可能性もありますし、別のラインナップに変える可能性もあります。そこはお客様の意見に耳を傾けながら、最適なラインナップにしていきます。とはいえ、しばらくは3つのボディ系列を維持していきたいと思っています。

日本のDf人気は特別

――昨年、Dfが発表されてから1年近く経過しました。通常ラインナップの外に生まれたモデルですが、その後の展開は?

Df

Dfは根強いニコンファン向けに特化した商品ですから、長いモデルサイクルで今後も続けていきたいと考えています。すぐに次期モデルを投入することはありませんが、顧客からの反応を聞きながら、“Dfとしての正常進化”の中で続けます。

ただ地域性はあり、日本では特にウケが良いですね。欧州でもファンに好評を頂いていますが、日本のDf人気は特別です。このようなコンセプトを世界中で浸透させるには少し時間がかかると見ています。

――フラッグシップ機に関しては、D4があまり強いインパクトを残せなかった印象がありますが、D4Sでは機能面・性能面でかなり強化してきました。今年2月の投入以来の反応は?

D4S

“プロ機”といっても、さまざまなジャンルの方々がいらっしゃいますが、各分野の方たちからヒアリングを行い、フィードバックを整理して確実に意見を反映するアップデートを丁寧に行いました。

その結果、(D4に対しては辛口だった方々も含め)高い評価の声を頂いています。この分野は競合がキヤノンしかいません。その中でニコンを選んでいただいているプロの方々に、我々に投資をいただいただけの価値を提供しなければなりません。

時期が来れば次世代機への切り替えのタイミングも来るでしょうが、ライバルに対して遅れを取らないのは当然として、大きく追い越す製品にしなければならない。それが使って頂いている方々へのニコンの責任の取り方だと考えています。

北米でNikon 1 V3の受注が増え始める

――ニコンにはFX、DXに加えて1型センサーのCXセンサー機(Nikon 1シリーズ)もあります。しかしデビュー以来、苦戦が続いているように見えます。CXセンサー搭載機の動向についてお話いただけますか?

“普及の兆しが見え始めている”とまでは行きませんが、Nikon 1 V3と1 NIKKOR VR 70-300mm f/4.5-5.6を発売してから、日本に限らず世界中の販売店、顧客の反応が変化しました。

1 NIKKOR VR 70-300mm f/4.5-5.6を装着したNikon 1 V3

ミラーレス機の普及が遅いと言われる北米でも、Nikon 1 V3は注文が増え始め、当初は予定していなかったプレミアムキット(パワーズームレンズに加え、電子ビューファインダーやグリップをセットにした商品)をメインで扱うようになるなど、反応は大きく変わってきています。

確かに量販を狙ったNikon 1 Jシリーズが苦戦を強いられていましたが、V3を契機に変わってきている実感があります。これは“1型センサー”の画質が大きく向上したことも影響しています。

――サイバーショットRX100シリーズ向けに採用されてきたCMOSセンサーは、昨年までソニー以外での採用例がありませんでしたからね。今年に入って1型センサー搭載のコンパクトデジタルカメラはモデル数が急に増えました。Nikon 1も商品力を高めたということですね。しかし、(他社製品が増えている)1型センサー搭載コンパクトデジタルカメラはNikon 1シリーズと競合しないでしょうか?

最初に1型というセンサーサイズに着目したのは自分たちですし、確かにコンパクト機にライバルもいますが、もういちどシッカリと商品の企画、開発、プロモーションからやっていく考えです。

ハードルは従来以上に上がってきていますが、圧倒的にコンパクトなシステムカメラを作れるフォーマットですから、今後もしっかりやっていきます。

防水のNikon 1 AW1はまだまだ進化の余地

――Nikon 1に再注目が集まった理由の1つは、70-300mmのコンパクトさが与えた衝撃もあると思います。ところが、肝心の製品が出荷されない。いつ出荷されるのでしょう?

1 NIKKOR 70-300mmは、当初の予想を大きく超える注文が来ていまして、初期注文を捌くだけの数量を、まだ作り切れていない……というのが、出荷遅れの一番大きな理由です。

日本でのニーズもそこそこあるとは想定していましたが、そこが予想以上な上うえ、他の地域もV3と一緒に売れるケースもあります。Nikon 1 V3 プレミアムキットも含めてですね。海外では入荷をお待ちいただく状況でしたが現在は解決しています。

――Nikon 1に関しては水中カメラのNikon 1 AW1もありますね。防水カメラのニーズに関してはどう評価していますか?

Nikon 1 AW1

現時点では用途が限られた製品ですから、まだまだ進化させる余地はあると思います。防水性を上げたり、操作性に関して手袋をしている状況でも使いやすいなどの面です。

水中撮影に関しては、カメラをまるごとカバーで覆うという手もありますが、サイズも大きくなって使い勝手は下がります。まだまだAW1に関しては改良の余地があり、改良したモデルを投入できるとも考えています。

防水カメラに関しては、コンパクトデジタルカメラの分野では成功しています。COOLPIX S30の10m防水などがそれですが、まだまだ可能性はあると思いますので今後も開発に取り組みます。

Capture NX-Dは進化の過程にある

――これまでニコンのRAW現像ソフトは、使いこなせばワンストップで何でもできると好評でしたが、新しいCapture NX-Dは機能変更や削られた機能、使い勝手などの部分もあってCapture NX 2などのユーザーからは評判はあまり芳しないようです。

Capture NX-D

高機能なRAW現像ソフトを無償化することで、ユーザーにもっとRAW現像に馴染んでもらおうという取り組みの中で、NX-Dを新たに開発しました。β版での評判は確かに芳しくありませんでした。

しかし、今後のNikon CaptureはすべてNX-Dに集約されますので、“これから進化させていく課程”だとお考えください。これまでは、完璧なものにしてから有償パッケージとして販売するという手法を取ってきました。

 無償化という枠組みの中で、みなさんにニコンのノウハウが詰め込まれたNikon Captureの魅力を感じてもらえるよう、いろいろな工夫を今後、盛り込んでいきます。

――今後のニッコールレンズの拡充あるいはリフレッシュなどについての考え方をお聞かせください。確かに個性のあるレンズも単発では出てきていますが、大きな傘の元でというより、個性あるエンジニアの自律神経で作られている面もあるように感じるのですが。

システムカメラの中において、どのようなレンズを選択して開発するかは、とても大切な部分です。これは昔も今も変わらない部分ですね。それ故に商品企画の際に大いに議論しています。

確かに個性的なエンジニアの自律神経という部分もあるのですが、一部の顧客だけでなく、(まだレンズ遊びの愉しさに目覚めていない)潜在顧客を掘り起こせるかなどを考えて、システム全体を見ながらやっています。

ニコンの場合、FX、DX、CXと大きく3つのレンズシステムを持っていて、たくさんのレンズをコンスタントに出していますが、お客様が“そそる”と思ってくれるものでなければ買ってもらえません。その部分は今後、期待していてください。

販売が苦戦したCOOLPIX A。「リベンジしたい」

――APS-Cサイズセンサーを搭載したCOOLPIX Aシリーズに、その後の動きがなさそうですが、このフォトキナでは大型センサーのコンパクト機が注目されていますよね。この続きは出てこないのでしょうか?

COOLPIX A

実はこの商品の企画は私自身も関わっていたのですが、販売面で苦戦したこともあって現在は次へとつながっていません。しかし、今後の計画としてはぜひとも続きをやりたいと思っています。もちろん、採算性も考えなければなりませんから、どのようなレンズ、ボディの企画にするのかを考えます。

COOLPIX Aを出した頃とは(プレミアムクラスのコンパクトカメラが多数市場に投入された後なので)、コンセプトも変えなければならないと思います。

当時から画質は評価されてきましたが、カメラトータルとしてはもう一歩というところもあって、自分自身の気持ちとしてもリベンジしたい。このところの高級コンパクトデジタルカメラへの市場からの要望は強いですからね。

――コンパクトデジタルカメラの市場はスマートフォンの影響で大幅縮小していますが、とりわけ低価格製品の影響が大きいですよね。今のフルラインナップを今後も維持していくのでしょうか?

国ごとに事情は異なっていて、プレミアム系への要望が強いことは感じていますが、一方でローエンド製品が今も売れ続けている地域もあります。ラインナップとして不要かというと、現時点ではまだ必要だと考えています。それと同時にスマートフォンにやられっぱなしではなく、もっと仲良くなれるような仕掛けもしていきたいですね。

――そろそろ創立100周年ですが、記念モデルのような“仕込み”は始めてらっしゃいますか?

まだ少し先(2017年)のことですので、具体的にはまだ始めていませんが、大きな節目となる年ですから、特別なことはやりたいとは思います。ニコンのこれからを象徴するような提案をしたいと思いますので期待してください。

(本田雅一)