インタビュー

メーカーインタビュー2013:ソニー編

ソニースピリット全開。驚きを与える商品作りを

 昨年秋のフォトキナ以降、ソニーは驚くほどマニアックな製品を連発してきた。それ以前に1インチセンサー搭載のサイバーショットDSC-RX100が世界中で幅広い層に支持されていたが、次いで投入されたサイバーショットDSC-RX1は約25万円の単焦点フルサイズセンサーカメラという、かなり極端な位置付けの製品だった。

 その後もローパスレスモデルのサイバーショットDSC-RX1Rを追加したり、“一眼レフ未満、コンパクト以上”というミラーレスのステレオタイプな概念を打ち破るα7シリーズを投入。“プレミアム”をキーワードに、カメラだけでなく多様な分野にわたり、今年のソニーはブランドイメージを強化する製品を世に出してきた。

 そうしたソニーのカメラ事業に対する取り組みについて、今年1年を振り返るところから話を伺おうと思ったが、一通りのインタビューの流れについて話をすると、ソニーのデジタルイメージング事業本部 第2事業部 槙公雄事業部長は、スマートフォンとデジタルカメラとの関係について自ら話しはじめた。

ソニー デジタルイメージング事業本部 第2事業部 槙公雄事業部長

ソニー成長期の雰囲気が開発部門に戻った

 今年ではなく昨年のことですが、明らかになったのは(台数ベースでの)デジタルカメラ市場の成長が止まり、むしろ縮小したということです。“スマートフォンで充分だから”と分析する声も良く聞かれます。

−−とはいえ、あまりの急変ですよね。出荷数の急変が顕在化したのは今年前半ですが、その背景ではどんなことがあったのでしょう。

 そこにはいくつかの(偶然に重なった)要素があります。2011年3月の地震で日本のカメラメーカーは傷つきました。そこから立ち直ろうとする矢先、今度はタイの水害がカメラ産業を襲いました。このあたりで自社の工場、協力会社を含めた生産・開発体制が思うように動いていなかった期間が各社とも大なり小なり長く続いたと推察します。

 その間はカメラの開発・進化の速度も遅くなりますし、生産面でもプラスにはなりません。結果として一昨年までは、少しずつカメラ市場が変化してきていることを完璧には捉え切れていなかったと言えます。これは業界全体がそうでした。

 そして、やっと商品を作り込み、進化させ、全力で量産できる体制が整い、市場にどんどん送り込んでみたら、なかなか商品が動かない。業界全体が機能不全になっていた時期が長かったこともあり、やっと開発・生産の能力を回復してみるとすっかり市場の雰囲気は市場の雰囲気は変わっていた。それを実感したのは昨年5〜6月になってのことだったのではないでしょうか。

 結果として昨年末は、どのメーカー、カテゴリーといった区別なく、大量のデジタルカメラの在庫が積み上がりました。生産出荷台数が激減したのは、(需要が減っただけでなく)在庫調整という要素も大きかった。ではここにどう対応するか? ということで、業界全体が示し合わせたわけではなく、高付加価値路線にギアを変えていったということです。

−−“スマートフォン”というキーワードが出てきましたが、ソニーはスマートフォンのXperiaブランドにGレンズのブランドを搭載し、センサーサイズを大きくしたり、映像処理を最適化するなどデジタルカメラの技術をスマートフォンへ、本格的に導入しはじめました。では、Xperiaでソニーの要素技術を体験した消費者をソニー製カメラへと誘導するシナリオは考えられているのでしょうか?

 この部屋にいるみなさんは私も含め、子どもの頃にひとり1台のカメラが持てるようになるなんて想像していなかったはずです。当時は“一家に一台は買いたい”製品だったんです。ところが今、ひとりが数台のカメラを何らかの形で持っています。その中のひとつがスマートフォンです。

 さらにスマートフォンをきっかけに写真を撮影するようになった方々は、通信を通じて写真を楽しんでいます。キレイな風景、面白い場面、美味しそうな料理など、さまざまな写真がSNSで共有される。その中でちょっとイイ感じの写真をアップロードすると、まわりが褒めてくれる。今の社会の中で褒めてもらえることって、実はそんなにないですよね。写真を通じて自信を持てるようになりますし、好きにもなれる。だから、もっと愉快な写真、キレイな写真、素敵な写真を撮りたくなる。

(ソニーがXperiaに本気で本格的なカメラを組み込むのは)スマートフォンで写真をもっと楽しめるようになってほしいからです。単体のカメラを間口にしている限り、写真人口の増加には限界があります。スマートフォンの年間10億台に迫る出荷台数は、そのブレークスルーになる可能性がある。でもスマートフォンにも限界があります。フォームファクター(本体の構造・形状・基本レイアウトなど)を考えた時、スマートフォンに搭載できるカメラの性能や機能は限界がありますし、撮影スタイル的にも”写真が撮りやすい“製品にはなりにくく”写真機としての限界”があります。

 互いに近付いていますが、それぞれに限界があるため、スマートフォンとカメラの世界はうまく繋がるだろうと考えています。

 スマートフォンとの連動とも関連しますが、レンズスタイルカメラのサイバーショットQXシリーズも市場に投入しました。まだ生まれたばかりの製品ですが、スマートフォンとカメラの間を取り持つ製品になるとともに、単体カメラとスマートフォンの連動に関して様々なノウハウを得ることもできます。

スマートフォンに取り付けることで、スマートフォンのカメラの様に使えるサイバーショットDSC-QX100。有効2,020万画素の1型センサーを搭載する。下位モデルに1/2.3型センサー搭載の「サイバーショットDSC-QX10」も

−− 今後はスマートフォンが生まれて初めてのカメラで、カメラの用途と言えば通信回線を経由した写真共有、写真を通じたコミュニケーションが写真を撮影するモチベーションとして一番強いものになりますよね。今後のカメラの姿は変わっていくとお考えですか?

 もともとソニーは、自分たちの技術力を製品の中に詰め込む、技術と製品ありきの会社でした。昔はそこで独自性を出せれば良かった。しかし今の顧客ニーズは多様です。ひとつの素晴らしい製品だけで、あらゆる領域をカバーするのは難しくなっています。今のソニーは市場をよく見ながら、顧客がどんな製品を欲しているのかを見極めて製品を作っています。メーカーの提案に対して顧客に合わせてもらうのではなく、顧客のライフスタイルに合う製品を目の前に差し出すイメージです。

 もともと、デジタルカメラはパソコンに映像を入力するための周辺機器として始まっています。カシオのQV-10やリコーのDC-1もそうですが、さらに前のフロッピーディスクに写真を記録するソニーのMavicaもパソコンを対象としたものでした。しかし今、もっとも個人に近い位置にあるコンピュータはパソコンではなくスマートフォンですよね。普及型デジタルカメラ市場の変調というのは、いわばパソコン周辺機器としてのデジタルカメラの必要性が減り、もっとも身近なコンピュータであるスマートフォン自身がカメラを持っていることになります。

 しかし、こうした軸とは別のカメラもある。それが作品としての写真を残す趣味のデジタルカメラだと思います。趣味性の高いカメラを作り、それがさまざまな製品とシームレスにつながっていくこと。NFCで連動をスムースにすることもそうした取り組みのひとつです。ただし、カメラ自身が大きく変化するという話ではありません。

 カメラはカメラです。α7なら“コンパクトなフルサイズセンサー搭載のレンズ交換式カメラ”を追求する。その上でNFCやWi-Fi、PlayMemories Onlineなどの仕掛けでつながっていくという世界観です。

−−エレクトロニクス製品全体がシームレスに連動する環境を作りながら、一方で“カメラ製品”としては趣味としての写真、カメラを突き詰めるということですね。昨今、ソニーはマニアックというと語弊がありますが、ちょっと極端な製品が多いですよね。初代のRX100に驚いていたら、35mmフルサイズのRX1が出てもっと驚かされましたし、Eマウントのフルサイズ対応もそうですね。

 それはもう、ソニーのDNAだとしか表現できません。何か新しいことをやりたい、他人とは違うものを作りたい。入社年度ごとに若い子達を集め、順番に話をしていると、みんな「世界にないものを作りたい」というんですね。そう思うからこそソニーに入って来た。そのまま放っておくと、闇雲に独りよがりな製品になってしまう。しかし、そうしたエンジニアに、今世の中の人たちはこんなものが欲しいと言っている、市場環境はこんな感じなんだと話をすると、あとは自分たちで考え、楽しみながら新しいアイディアを製品にしてしまいます。

 デジタルカメラで言えば、RXシリーズを出して以降、もっといいもの、もっと欲しいと思ってもらえるものと、“もっともっと”という気持ちが大きくなっています。エンジニア自身が楽しみながらもっと上を目指すムードは、ソニーの成長期にあった雰囲気に似てきています。

−−そうは言っても、たとえばRX1などは企画書だけ出しても、なかなか通りませんよね。元副本部長の勝本徹氏は昨秋、“エンジニアが試作を勝手に作って、これはなんだスゴイ”という話になって製品が生まれたという話をしていました。

 確かにRX1は普通に企画書だけでは通らないかもしれません。しかしエンジニアは先に、センサーと画像処理回路をつないで単焦点レンズを組み合わせ、デモ用の写真を撮影して持ってきました。写真を見たら“何をやってるんだ”なんて怒る人は皆無でした。想像する以上にスゴイ画が出て、みんな相当にビックリしていたんです。先にそうした“画質の凄さ”を体験してしまったので、RX1の商品化に疑問を持つ人は誰もいませんでした。

 もうひとつは、シャワー効果の源泉になる製品をきちんと作りたかったという面もあります。

 たとえばソニーが動画系の製品で強かったのは、映像を扱うプロの人たちがソニー製品を欠かさず使っていたから、というのも理由のひとつでした。プロがみんな使っているソニー製品なら、家庭用のビデオカメラやビデオデッキなどでも安心、信頼できる。プロで鍛えた技術を少しずつ製品に盛り込んでいくと、それも差異化要因になる。そうして普及型に至るまでのブランドイメージを得ることができました。RX1だけに限らず、お、ソニーなかなかスゴイなと思ってもらえるような製品を持つことが重要だったのです。

フルサイズ採用は最高画質のため

−− 今年1年、デジタルカメラ業界にとって、どんな年でしたか?

 ひとつにはレンズ交換式カメラの市場環境が大きく変わったと思います。一眼レフカメラの出荷台数が減った(15%程度)点がよく言われていますが、直近のデータを見ると、一眼レフにも値崩れの傾向が出始めていて、一時の底堅さに翳りが見え始めています。

 ソニーということではなく、業界全体としてそうありたいと思っているのは、コンパクトデジタルカメラでやってしまったことを繰り返してはいけないということです。

筆者注:コンパクトデジタルカメラは生産過剰と需要減少が重なって在庫が積み上がり、価格が下落した上に今年、出荷数を大幅に減らすことになった。

 業界全体が健全な状態を保ち、適正な価格で商品を流通させるためにも、作りすぎた製品を地べたに並べるようなことをやめるべきだ。そう、おそらくみんな思っていると思います。普及価格帯のコンパクトデジタルカメラはもちろん、レンズ交換式でもコンベンショナルな製品市場は縮小していますから、そこをきちんと見極めて事業を進めなければ、よい製品をきちんと出していくことができなくなります。

 一方で35mmフルサイズセンサー搭載のカメラをはじめ、高付加価値の趣味性が高いカメラは好調です。エントリークラスのカメラ用途はスマートフォンで充分。写真を撮影しなければならない記者までそう言いはじめている。また、先日のことですがニューヨークタイムスが一眼レフカメラを持っている人たちに調査をかけたところ、多くの人が今のカメラで充分だと応えたそうです。

−−すなわち、従来の進化方向だけでは消費者は新しいカメラを買ってくれない、という危機感があるということですね。今まではフィルムカメラのフィルム部分をデジタル化することに力を入れてきたわけですが、今後は違った軸が必要になってくる?

 一眼レフカメラをデジタル化し、開発もがんばってコンパクト化に挑戦しましたが、レフレックスミラーが間にあると、あまりサイズが小さくなりません。取り回しの良さや、(一眼レフでは存在感がありすぎて)撮影できなかった自然な表情が撮りやすいとか、そうしたカメラの進化もあります。その中で、フルサイズセンサーの良さをどう活かすか? を今年の製品では考えました。

−−レンズ固定式、レンズ交換式ミラーレス、一眼レフと、これだけフルサイズセンサーのカメラを持っているメーカーは他にありません。やや穿ちすぎかもしれませんが、ソニーがフルサイズセンサーに積極的なのは、大型センサーを内製して調達できるからでしょうか? 情報伝達のタイミングなどは、他社供給と同じタイミングだったとしても、社内調達で垂直統合の方がコストの面で有利でしょうから、フルサイズセンサーのようなコストの高い部品を内製していることは、それだけでかなり他社に対して有利だと思えます。それとも、そうした部分なしに純粋に商品企画として、“フルサイズ”へと向かって行ったのでしょうか?

 いえ、そうした電卓勘定はまったくありませんでした。とにかく最高画質を実現するために、一番優れた画質を出せるイメージセンサーを使おうということです。スチルカメラで最高画質を顧客に提供する。そこにどう“ソニー流”を盛り込むかを考えた時、フルサイズのセンサーを可能な限り小さなボディに入れ、そこから最高の画質を引き出すことが、その答えになると考えました。

Aマウントはやめない

−−フルサイズのイメージセンサーをミラーレスカメラのα7シリーズに搭載しました。今後は、35mmフルサイズ対応のFEレンズを揃えていく必要がありますが、レンズ交換式カメラに関しては今後、Eマウントへと軸足が移っていくと考えていいのでしょうか?

ミラーレスカメラとして初めて35mmフルサイズセンサーを搭載したα7シリーズ。写真は有効約3,640万画素のローパスフィルターレスセンサーを搭載した「α7R」

 まず、Aマウントをやめることはありません。これはα7を発表した時にお話ししましたが、Aマウントの新商品もしっかりと開発をしていますから、その登場に期待して欲しいと思います。Eマウントの方がコンパクトにはできますが、それぞれの製品には異なる個性があります。

−−現在の一眼レフにおける各社のシェア状況や日本・東アジアでのミラーレスカメラの伸びなどを考えると、EマウントとAマウントではEマウント(FEレンズ含む)カメラの方が出荷比率は多いですよね? ふたつのマウントを維持していくのは負担が大きくありませんか?

 ミラーレスの比率が多いことは確かです。ただ、今年はミラーレス機の新ボディの発売が多かったという事情もあります。新製品投入サイクルの波もあるので、ソニーとしてどちらか片方が重要ということではありません。また地域ごとで事情も異なりますから市場に合わせての対応をしていきます。

 お客様にはいろいろなタイプがいらっしゃいます。これまではα7のようなプレミアムクラスのミラーレスカメラは存在しませんでしたから、ここに新しいカテゴリが形成されていくでしょう。一方でコンベンショナルな一眼レフは、前述したように売れなくなっている。では一眼レフはダメなのかというと、趣味性の高い一眼レフカメラは、しっかりと大きな存在感を示しているわけです。では、その中でソニーらしい“趣味としてのカメラ”を追求し、感動体験を与えるにはどうすべきなのか。

 一眼レフにしか出せない価値もあるため、ソニーとしては両方で新しいことにトライしていきます。

---これからCES、CP+とカメラ関連の展示会が続きますが、来年はどんなソニーをカメラファンに見せていただけますか?

 イベントに合わせて製品を作っているというわけではないのですが、今後もRXシリーズやα7など、ソニーらしいスピリットで今までなかったシーンに撮影領域を広げていく製品を力を入れていきます。“いったい、これは何なんだ?”と驚きを与える商品作りをしていくので楽しみにしておいてください。

(本田雅一)