インタビュー

「OLYMPUS OM-D E-M1」の進化に迫る

“フォーサーズレンズの実力を引き出しプロの要求に応える”

 オリンパスが10月に発売したミラーレスカメラ「OLYMPUS OM-D E-M1」は、同社ミラーレスカメラのフラッグシップ機としてフォーサーズとマイクロフォーサーズを統合したというカメラだ。強化された機能などについてオリンパスの開発陣に話を聞いた。

お話を伺ったメンバー。(前列左から)オリンパス 研究開発センター 映像技術開発本部 映像システム開発4部 2グループ グループリーダーの豊田哲也氏(画像処理を担当)、オリンパスイメージング 開発本部 商品開発1部 1グループ グループリーダーの城田英二氏(カメラの企画を担当)、オリンパスイメージング 開発本部 システム開発部 部長の鈴木隆氏(撮像素子、ユーザーインターフェースを担当)。(後列左から)オリンパスイメージング 開発本部 商品開発2部 3グループ グループリーダーの高瀬正美氏(ボディのメカ、操作系を担当)、オリンパス 研究開発センター 映像技術開発本部 映像システム開発3部 2グループ グループリーダーの金田一剛史氏(AFを担当)、オリンパスイメージング 開発本部 光学開発部 2グループ グループリーダーの島崎泰成氏(レンズのメカを担当)。

――まず、「OLYMPUS OM-D E-M1」の企画意図を教えてください。

城田:“オリンパスとしてのフラッグシップ機”というところから始まりました。「E-5」を出した後に、どういうカメラをフラッグシップにするかの検討を始めました。そこで出した結論は、どんな環境下でも持ち歩けて、最高の画質を提供できるということ。これをフラッグシップ機のコンセプトとしました。それを推し進めた結果、最終的にE-M1という形にたどり着きました。

OLYMPUS OM-D E-M1

――ターゲットユーザーは?

城田:まずプロですね。フォーサーズの時からスーパーハイグレードとハイグレードというレンズはプロの方からかなり評価を頂いていました。E-M1によってレンズの実力をさらに引き出すという意味で、もっと良い画質を求めるハイアマチュアも含めたユーザーをターゲットにしています。

――ライバル機はどの辺りでしょうか?

城田:ミラーレスと一眼レフの両方の市場を視野に入れています。価格帯も踏まえて、APS-Cセンサーの上級機が競合になると見ています。画質には自信を持っており、ボケなどの違いはあると思いますが、高画質という意味では35mmフルサイズ機もライバルとしての視野に入っています。

鈴木:かつて、プロが使うフィルムフォーマットが中判から35mmに変わったということがありました。同じようにフルサイズからマイクロフォーサーズという流れも目指しています。マイクロフォーサーズはレンズも小型化でき、機動性を含めたトータルのバランスにメリットがあると考えています。

――今回、E-M1でフォーサーズとマイクロフォーサーズを統合したわけですが、どのような経緯があったのでしょうか? 両規格の新ボディをそれぞれ出すという方向もあったと思います。

城田:フォーサーズのタイプで行くのか、マイクロフォーサーズのタイプで行くのか並行して検討してきました。会社としても両方やりたいという意思はありましたが、リソースを分散させるより、マイクロフォーサーズ方式に技術を集約させて進歩させた方が今後の可能性があると判断したのです。

統合機としてマイクロフォーサーズを採用した。

 その中で重視したのは、フォーサーズレンズの実力を引き出してプロの要求に応えること。これを確実にやらなければなりません。課題はファインダーとAFでした。OVF(光学ファインダー)の良さというのは我々も十分理解しており、今までその魅力を伝えてきたわけですが、OVFは大型化しようとすればカメラが大きくなってしまう問題を抱えていました。

 しかし、EVFなら高倍率化してもそれほどボディは大型化しないわけです。さらにEVFに使用される液晶パネルの進歩もあってOVFに近いものができるのではないかという目処も付いていました。「OLYMPUS OM-D E-M5」を出したときに、OVFユーザーにもファインダーの新しい形としてEVFを使って頂き評価を得ていました。そこで、EVFに可能性があると判断しました。

 一方でAFという課題もありました。フォーサーズタイプで行くならボディはそのままで良いのですが、マイクロフォーサーズのボディではAFをコントラストAFでやらなければなりません。しかし、フォーサーズボディと同様の実力を引き出すためには、新たなAF技術が必要でした。そのため我々は、像面位相差AFの開発を並行して進めていました。そこで最終的に「E-5」同等のAF性能が引き出せるという目論見ができた結果、マイクロフォーサーズに統合という結論に達したのです。

(参考)E-5(2010年発売)

――統合はいつぐらいに決まったのでしょうか?

城田:開発を進めていた像面位相差AFなどに関して、2013年に入るくらいにやっと「これで行ける」という確信が持てまして、そこで統合を決断しました。

――E-5の後継モデルとして「E-7」(仮称)というフォーサーズ機を開発していたとのことですが、どのくらいまで進んでいたのでしょうか?

城田:カメラとして設計はしていて、モックアップを作り「こういったカメラになるね」といった検討を進めていました。画像処理はE-M1と共通なので、メカをどうするかといった検討をしていました。ただ、実際に試作する段階までは至っていません。

「E-7」(仮称)のイメージ

――仮にE-7が登場していれば、どういった新機能が積まれていたのでしょうか?

城田:画像処理はE-M1と同じものになっていたでしょう。防塵防滴に関してもE-M1と同じレベルになっていたと思います。

――E-M1発表以降の市場の反応はいかがでしたか?

城田:思った以上に好意的に受け取ってもらえたというのが率直なところですね。Photo Festa(体験イベント)では私も説明員をしましたが、触って頂いたお客様からは「思っていたよりいいね」という声と、EVFを覗いて「これだったら使えるね」という意見がありました。また、皆さんフォーサーズのレンズでAFを確認されていましたが、「ありだな」という声を多く聞きました。我々としてE-5のユーザーに納得してもらえると思っていたポイントは、来場者の皆様にも同じく感じてもらえたと思っています。

カメラの企画を担当した城田英二氏。

画質を犠牲にすることなく必要なAF画素を確保

――今回の撮像素子の進化を教えてください。

鈴木:オリンパスとしての最高画質を達成するということで、高感度ノイズや色乗りを改善していますが、像面位相差AFを搭載しながら最高の画質を両立させたことが一番大きなポイントです。

撮像素子は光学ローパスフィルターレスの有効1,628万画素Live MOSセンサー。

――では、その像面位相差AF「DUAL FAST AF」について説明をお願いします。

金田一:フォーサーズとマイクロフォーサーズの統合における大きな課題は、フォーサーズレンズ使用時の合焦速度を高速化すること、これを像面位相差AFでなんとしても解決したいと考えました。そこでDUAL FAST AFでは、像面位相差AFによる一発合焦を実現しました。

 像面位相差AFで粗くAFをして、最後の追い込みをコントラストAFでやる方式もありますが、我々は像面位相差AFのみでの合焦にこだわり、AF精度が確保できるAF画素を撮像素子に埋め込むことを決めました。

 開発で苦労したのは、AF精度と画質を両立させるAF画素の配置方法です。AF精度だけを追求してAF画素ばかりにしたり、従来の位相差AFセンサーのようにラインセンサー状に配置してしまうと今度は画像処理が成り立ちません。そこで、多くのAF画素を離散的に配置する工夫をしました。

AFを担当した金田一剛史氏。

――AF画素自体は撮像には使えないとのことですから、画像処理による補完が必要になるわけですね。

豊田:そうですね。きちんと画質を担保するための補完処理が一番難しかったです。ライブビュー機なので、EVFや液晶モニターに表示するために常に高速で処理を行なわなければなりません。その技術を確立するのが大変でした。

――そうしますとAFの担当としてはAF画素が欲しい、一方画像処理の担当としてはAF画素が多くては絵作りに困る、という具合にせめぎ合いになりませんか?

豊田:よく聞かれる質問なのですが、せめぎ合って喧嘩をしているというわけではありません。まず、多くのレンズでバシッと合わせられるAF性能は譲れません。ですから画像処理担当としてはきっちりと処理しきりますから「AF画素はいくらでも来い」(笑)ということでやらせてもらいました。画質に遠慮してAF画素を決めたということはないですね。

 当初に思っていた以上のレベルに到達しましたし、リアルタイムで処理できる演算時間は決まっていますので、その中で如何に綺麗な絵を出すかということも技術で解決していきました。AF性能に妥協せず、かつ画質的にもまったく問題ない技術を開発できたと思っています。

――例えば暗い場所でのDUAL FAST AFの性能はどうでしょうか?

鈴木:AF性能は被写体にもよって異なるので一概には言えませんが、E-5と同等と言えます。またAF精度も全く問題ありません。

撮像素子とユーザーインターフェースを担当した鈴木隆氏。

――マイクロフォーサーズレンズ使用時のコントラストAFの性能も向上しているのですか?

鈴木:そうですね。特に新しい「M.ZUIKO DIGITAL 12-40mm F2.8 PRO」とE-M1の組み合わせでは、世界最速クラスのAFを実現しています。

 また、E-M1でマイクロフォーサーズレンズを使った場合、コンティニュアスAFの時はコントラストAFと位相差AFを両方使っているんですね。これによって動く被写体への追従性を改善しています。連写もAF追従で最高6.5コマ/秒を実現しました。バッファメモリも増やしまして、E-M5が9コマ/秒でRAW 20コマまでだったのが、E-M1では10コマ/秒でRAW 41枚連写できるようになっています。

 加えて、EVFのレスポンス改善などと併せて動く被写体を連写で追いかけるという使い勝手の部分において、お客様に十分お使い頂けるレベルになったと思います。

――なるほど。ではその際に像面位相差AFオンリーではだめなのでしょうか?

金田一:それはAFの検出エリアが関係しています。マイクロフォーサーズレンズで動体を追いかけている場合は、基本的には像面位相差AFなのですが、被写体が画面の端の方に行ってしまった場合にはコントラストに切り替えて引き続き追従する仕組みになっています。

――他にもAFで苦労したところはありますか?

金田一:フォーサーズとマイクロフォーサーズのレンズを数えてみると、他社製も含めて60本以上あります。つまり、統合機であるE-M1は最もレンズ資産の多いミラーレスカメラといえるのです。今回は他社様のレンズも含めてAF性能が十分発揮できるように、レンズ側のデータもいろいろ協力をいただきながら作りました。新しいレンズのみならず、発売初期のレンズでも位相差AF用に新たに作成したデータを利用してAF性能を発揮させています。

 これらすべてのレンズでAF性能を確認することはもちろん、フォーサーズレンズではテレコンバーターやエクステンションチューブとの組み合わせも含めたデータを作らなければなりませんでした。組み合わせが沢山あるので非常に苦労した点ですね。

小絞りボケを1段分改善

――続いてE-M1から搭載された新画像処理の「ファインディテールII」についてお聞きしたいと思います。

豊田:もともと「ファインディテール処理」という技術をE-5の時に導入しました。これはレンズから撮像素子、さらにバックエンドの画像処理まで含めてトータルで解像力を落とさない仕組みを目指した技術でした。我々はレンズの解像力に自信を持っています。その解像力をどうストレートに表現するかを考えた結果、生まれた技術といえます。ポイントになるのは光学ローパスフィルターで、従来考慮されていなかったローパスフィルターの特性を含めたトータルの画質設計を行なったのがファインディテール処理でした。

 統合機になったことで、フォーサーズのレンズも多く使われると思います。フォーサーズの非常に切れのいいレンズも含めて画質をさらに綺麗にしたかった。そこで今回は、レンズに応じてシャープネスを最適化する技術を盛り込みました。これがファインディテールIIになります。

 具体的には、シャープネスをコントロールするためのデータをレンズに搭載しておき、そのデータに応じてシャープネス処理を行なうようにしています。シャープネスの強弱を単に1つの軸でコントロールしているわけではなく、例えばより高い空間周波数の領域を持ち上げるといった周波数に応じたコントロールまで含めての最適化を行なっています。

 また今回、小絞りによる回折ボケもファインディテールIIの処理で補正できるようになりました。ショットごとに最適な画像処理を施せるのが大きな進化のポイントと言えますね。

メイン基板

――ファインディテールIIで使用される「レンズに搭載したデータ」とはどのようなものですか。

豊田:レンズごとにあらかじめ計測したデータです。レンズ設計部門と画像処理部門が協力してすべてのレンズのデータを計測しました。すでにお客様がお持ちのレンズに関しては、レンズにデータが入っていませんのでボディ側にデータを収めています。処理の際には焦点距離や絞り値といった撮影データも活用します。

――ファインディテールIIによる小絞りボケの改善はどのくらいの効果があるのでしょうか。パンフォーカスを得たい場合には、回折ボケを気にせずに絞り込めるというものなのでしょうか?

豊田:あまりぐっと絞ってしまうと回折ボケは出てしまいますね。改善効果の目安は約1段分と考えて頂けますか。つまり、ファインディテールIIを使用しないで撮影したF8の回折ボケとファインディテールIIを使用したF11の回折ボケが近い画質になるということです。各ユーザーが回折ボケの面から許容できるこれまでのF値に対して、さらに1段絞り込めるわけです。従って、F22まで絞り込んでもボケません、といった技術ではありません。

――ファインディテールIIにおいて回折ボケを改善するには、どのような処理を行なっているのでしょうか。

豊田:もちろん単純なシャープネスを掛けているだけではありませんが、アルゴリズムといった部分はお話しできません。ただ、回折現象によって劣化する周波数がどの辺なのかということを検討しながら開発してきました。見栄えの話もありますので、計算値のほかに、絞った画像が絞っていない画像と見比べて同じ印象に見えるように主観的な特性も含めてパラメーターを追い込んでいます。

画像処理を担当した豊田哲也氏。

――ファインディテールIIの処理が適用されるのはJPEG画像だけでしょうか。

豊田:はい。RAW画像には適用されません。ただ、カメラ付属の現像ソフトで現像すればカメラと同等の効果が適用されます。

――ファインディテールIIは、ユーザーがON/OFFすることはできるのでしょうか?

豊田:そうした設定はできません。どちらかと言えばレンズの良さや絞ったときの深度の深さといったものはしっかり尊重してスポイルしないレベルで補正を掛けていますので、ON/OFFの機能はあえて入れていないということです。

 どのレンズで撮っても同じような絵にしてしまう処理ではないんですね。絞りに関しても同じで、絞ったときに回折ボケが出て被写界深度も深くなった絵を全く絞らなかったときと同じ絵に無理やり復元するといった話ではありません。また、処理をすることでノイズがすごく増えてしまうといった副作用もありません。安心してどのレンズでもお使い頂けます。

――ファインディテールIIはすべてのフォーサーズ、マイクロフォーサーズレンズに対応しているのですか?

豊田:オリンパス製のレンズはすべて対応しています。それから今回、倍率色収差に関してもフォーサーズ、マイクロフォーサーズのAF対応レンズで自動補正が可能になりました。ファインディテールIIと合わせて、同じレンズでも見違える解像力を実感して頂けると思います。

――センサーが光学ローパスフィルターレスになりましたが、モアレや偽色の心配はありませんか?

豊田:モアレに対する対処はE-M5以前から仕込んでいますが、もはやローパスフィルターを取ることのメリットのほうが、ずっと大きくなったということです。E-M5ではローパスフィルターを外してはいませんが、ローパスの効果としてはかなり弱いものになっていましたので、今回外したと言っても急激に絵が変わるということはないと考えています。

――高感度ノイズも低減しているとのことですが、どのような理由からでしょうか?

豊田:まず、撮像素子そのもののS/Nをよくしたことです。実際には撮像素子だけでなく、電子基盤のレイアウトから根本的に見直したことで、画像処理をする前のRAWデータの質を向上させています。その上で画像処理エンジン「TruePic VII」のアルゴリズムの改良によって、高感度で問題になる暗部の色乗りや黒の締まりを大きく改善しています。E-5に対する画質改善は、トータルで1段分と考えています。

――撮像素子のサプライヤーはどこでしょうか。

豊田:非公開とさせて頂いています。

「EVFっぽさ」を無くしたい

――EVFの進化について教えてください。

豊田:今回は大きなファインダーを目指し、OVFのプロ機に匹敵するファインダーの広さを持ったことが1つ。加えて、見えの面でEVFっぽいところをなるべく減らそうということで、今回「キャッツアイコントロール」という機能を搭載しています。例えば暗いところで目が暗さに慣れているときにEVFを覗くと思いの外明るく感じてしまったり、天気の良い屋外では逆にEVFが暗く感じます。これは目が変化したのであってEVFの明るさは一定です。そこでEVFの明るさを目の慣れに追従させて、どこで見ても違和感が無いようにしました。

35mm判換算で約0.74倍となるEVFを搭載した。

 それからEVFに表示する映像のタイムラグですが、E-M1はオリンパスで最も短くしています。E-M5が35m秒なのに対して、E-M1は29m秒となっています。EVFのタイムラグは見えの違和感に繋がりますから少しでも短くなるよう努力いたしました。

――E-M1のEVFは約236万ドットで、既存の外付けEVF「VF-4」と同じ数値ですが、両者は同じものなのでしょうか?

豊田:液晶パネルなどは同じものですが、やはり表示タイムラグを低減しています。VF-4をE-P5に装着した状態でのタイムラグは32m秒です。画づくりも少し見直していて、VF-4よりもナチュラルに見えるようにしています。EVFや液晶モニターは実物よりも少し鮮やかな設定になっていることがよくあります。その方がパッと見たときに綺麗に見えますから。しかし、撮影画像をパソコンで見たときに「あれっ!?」と思うことになります。そうした閲覧環境も考慮したセッティングにしたということです。さらに、実際の被写体とEVFの色に違和感が無いようにしつつ、EVFと背面モニターの絵作りに違和感が無いよう総合的にチューニングしました。

――しかしながら、どうしてもOVFが使いたいという方も中にはいらっしゃると思います。

城田:我々としてもそうしたお客様がいらっしゃることは知っていますし、OVFでしか体験できない部分もあるのは承知しています。しかしE-M1を検討していく中でOVFを好まれるお客様にも使って頂ける、これだったら使ってみようと思ってもらえるものができたと考えています。ぜひ一度触って頂いて、良さや可能性を感じて頂きたいですね。

豊田:例えば今回、撮像時に明るい画像と暗い画像を交互に撮影し、それをリアルタイムに合成したHDRイメージをライブビューとしてEVFに表示するという世界初の技術を使った「HDRモード」を搭載しました。これまで、OVFでは見えているのにEVFでは見えていない、というシーンがあったと思います。EVFで明るい窓を背景にした人物に明るさを合わせれば、背景は飛んでしまいますね。こうしたEVFっぽいところを無くしていこうという開発の中で生まれたものです。ですから、あえてボディ上面にHDRボタンとして出してアピールしています。

ボディの上面にHDRモードのボタンを設けた。

パーツメーカーと協力して実現した耐寒性能

――ボディで新しくなった部分はどこでしょうか。

高瀬:フラッグシップ機でありマイクロフォーサーズに統合するので、それぞれの特徴を活かさなければなりません。システムとして小型な点は特にE-M5を出したときに好評を頂いたところでした。一方で操作感といった部分は少し使いにくいという声もありました。そこで、操作性も良く小型でありながらフラッグシップ機としての信頼性も確保するために、剛性や防塵防滴性能もE-5以上にしようと取り組みました。

ボディのメカと操作系を担当した高瀬正美氏。

 外装にはマグネシウムダイキャストを4部品使っています。上、前、下、後カバーです。E-M5は後カバーのみプラスチックでしたから、E-M1はE-5と同じくぐるりとマグネシウムで囲んだ構造になりました。

マグネシウム外装を採用。

 操作面ではボタン類をすべて見直しました。E-5相当の大きさで操作しやすくしています。さらにダイヤルは2ダイヤル方式の「2×2ダイヤルコントロール」も採用しています。

2×2ダイヤルコントロールは、背面のレバーの切り替えで、上面のダイヤルの機能を変更できる操作系。

――防塵防滴性能はE-5を上まわるということなのですね。

高瀬:はい。E-5以上のレベルを目指しました。防塵防滴の試験では、E-5の時よりも水の量を増やして確認するなどしています。

――E-M5と外観で異なるのはグリップ部分ですね。

高瀬:統合機ですからフォーサーズレンズを装着してもホールドしやすいグリップをゼロから検討しました。グリップは大きければいいというものではなく、今回は「持ったときに引っかかりがある」という部分を持ちやすさと捉えて設計しました。右手でグリップに指を掛けて提げているときに持ちやすくなっています。

 今回Wi-Fi機能を内蔵していますが、外装がすべて金属だと電波が届かないので、グリップ部分にアンテナを入れてここだけは一部樹脂カバーとしています。

グリップは、このように提げて持ったときの指掛かりに配慮した。
グリップの一部はWi-Fiの電波のために樹脂製とした。

――モードダイヤルの回転ロックが有り/無しで切り替えられるようになりましたね。

高瀬:EM-1の開発が始まる前からプロの方の声を聞いて、操作感などを調査しました。以前の機種でダイヤルロックを備えた機種もありましたが、どういうロックが良いのかという議論はありました。例えば、E-5はボタンを押しながら回すタイプ、E-M5はロック機構無しでした。

モードダイヤル中央を押すことで、回転ロックを切り替えられる。
ちなみにE-M5(右)のモードダイヤルにロック機構は無かった。

 モードダイヤルは、知らないうちにまわってしまっては困りますし、使いたいときにはすぐに回したいわけです。そこで今回、一発で回転のロックと解除ができる方式を採用しました。ダイヤルの下にあるロック切り変えレバーも防塵防滴にしなければならないので機構が複雑になり苦労しましたが、試用して頂いたプロの方には使いやすいと好評でした。

――E-M1では-10度までの耐寒性能を謳っています。オリンパスでは初めてでしょうか?

鈴木:ボディとしては初めてですが、実はレンズに関してはフォーサーズの最初のモデルからマイクロフォーサーズに至るまですでに対応しています。当初から-10度対応のシステムを作ろうということでやっていました。ただ、レンズに比べてボディは耐低温を保証するのが難しい部品があったのと電気部品の数も多くてなかなか対応ができませんでしたが、今回実現できました。

 普通、電気部品は0度までしか動作を保証していないんですね。ですから、部品メーカーさんに耐低温の試験をお願いして-10度での動作を保証してもらっています。加えて、我々が作るカメラとしての部分もきちんと動作しなければなりません。特に機構部分は低温で動きが鈍くなりやすいので、きちんと性能を出すことにも腐心しました。

――よく、低温ではグリスが固くなると聞きますが、E-M1では特別なグリスなどを使用しているのでしょうか?

高瀬:E-5など以前のモデルで使っていたグリスも実は-10度以下でも問題が無いことを確認しているので、特に新しいものを使ってるわけではありません。

ファインダー部分はE-M5(左)よりもシャープな造形にしたという。

外装にもこだわった新レンズ

――今回、E-M1と併せて大口径標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」をリリースしました。

島崎:まずこのサイズの中に広角から望遠までのズームを入れたことです。普通はもう少し大きくなりがちなのですが、性能を維持しつつできるだけ小型・軽量を実現できるよう頑張りました。プロカメラマンが使うことも想定し、強度や安定性も重視せねばなりませんが、従来の技術を活かしながら細かい工夫でコンパクトさも実現しています。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROを装着したところ。

 性能面では高いMTF値が確保できていまして、中心から周辺までクリアな解像感が得られると思います。フォーサーズレンズの「ZUIKO DIGITAL ED 12-60mm F2.8-4 SWD」は好評なレンズでしたが、それよりも周辺のMTF値は高くなっています。ズーム全域で20cmまで寄れて、35mm判換算で0.6倍の接写ができるのも特徴です。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROのMTFグラフ(左)とカットモデル(右、ボディはE-M1)。

 12-40mm F2.8 PROは新しく設けたPROシリーズになりますから、写りだけではなくデザインやフィーリングもかなり力を入れて作り込んでいます。フォーカスリングで言えば、回したときに手に馴染むというか、しっくりくるという部分を求める方に納得してもらえるようにフィーリングを追求しました。

 フォーカスリングには「マニュアルフォーカスクラッチ機構」を取り入れまして、AFからMFに瞬時に切り替えられるようになっています。この切り替えの感触もこだわりました。それからデザインですね。特に金属外装にこだわっているので、そのツヤなどの光り方まで追い込みました。

城田:フォーサーズのレンズはフォーカスリングなどがゴムになっていますが、長く使っていると白っぽくなることがあります。そういうこともあり、今回は金属リングに挑戦しました。使い勝手を落とすわけにはいかないので、手に吸い付くようなローレットのパターンが実現可能なのかを検討し、「これなら雨に濡れても持てる」ということも確認して採用に至りました。

金田一:PROシリーズレンズはフォーサーズのスーパーハイグレードに値するものです。将来のボディで駆動スピードなどの面で対応できないようではPROシリーズを謳うことはできないと考えています。撮像素子や画像処理エンジンなどボディの進化は早いですから、フォーカスや絞りの駆動などレンズの動作が将来の足枷にならないような仕込みをすでに盛り込んでいます。今後のボディでも十分な性能を発揮できるレンズだと思っています。

――このレンズも防塵防滴ですね。

島崎:ボディと違ってレンズは動く部分が大きいわけですが、このレンズは繰り出しがありますので、その部分の防塵防滴には苦労しました。レンズを密閉してしまうと、ズーミングで空気の出入りが阻害されてしまい、動かしづらくなります。そのために空気を抜く部分があるのですが、従来はレンズの後ろにあった穴をズームリングの内側に配置して、デザインを壊さないように配慮しました。

レンズのメカを担当した島崎泰成氏。

――ボディ内手ブレ補正は5軸タイプでE-M5と同じですが、性能が向上していると聞きました。

鈴木:スペック上の数値には表れていませんが、35mm判換算で300mm相当以上の超望遠レンズを付けた際の微小な振動に対する追従性が向上しています。加えて広角レンズ使った低速シャッター時の安定性もより向上しています。手ブレ補正のハードウェアはE-M5と同じものですが、制御のアルゴリズムを見直しました。実力的にはかなりの改善になったと自負しています。

現場で色を変える新UI

――今回新たに搭載した「カラークリエイティブコントロール」とはどういった機能ですか?

鈴木:写真の色相と彩度を直感的に変えることができる機能です。弊社の若手デザイナーからもっと色を自在にコントロールしたいという話があって、EVFを活かす新たな試みとして搭載しました。EVFを見ながら「こんな風に色相が変わっていく」、「彩度もこんな風に変えられるんだ」というのがリアルタイムでライブビューに反映されます。Photo Festaで体験して頂いたお客様からも大変好評でした。

カラークリエイティブコントロールの画面。

 OVFでは、露出補正にしてもホワイトバランスにしても頭の中で考えてから、撮影してプレビューで確認していたと思います。これは、デジタルカメラ本来の恩恵を受けられなかったということです。我々はEVFを手に入れたことで、露出補正やホワイトバランスに加えて、自分の感性のままに色をコントロールして撮影するというスタイルも提案したいと思います。

――写真の色を変えるというのは、どちらかと言えばパソコンで行なっている方が多いかもしれません。現場でコントロールするのとパソコンで調整することに違いはあるのでしょうか?

鈴木:もちろん現場では撮影に専念し、色の調整は自宅でしっかりやるというお客様がいらっしゃるのも事実です。しかし、そうでない方がいらっしゃるのも我々がアートフィルターをやっていく中でわかってきました。

 アートフィルターを始めた頃にも同じ議論があり、そうした処理は後でやればいいのでは? という話が社内でもあったのです。アートフィルターを搭載したカメラ「E-30」を出してみたところ、「これだ」という自分の感覚をその場でリアルタイムに体験して撮影される方がいらっしゃるのを我々は認識したのです。ですから、こうした世界観もあるだろうということで今回搭載しました。

APS-C一眼レフ市場で勝負する

――現在のシェアと今後の目標を教えてください。

城田:ミラーレス市場では国内で30〜40%、海外では15〜20%のシェアなのでそこをまず引き上げたいと考えています。一眼レフ市場でもE-M1、E-M5と2機種揃ったOM-Dで、ユーザーもこちら側に持ってきたいと考えています。

――国内に比べると、海外ではミラーレスカメラの販売は苦戦していると聞きます。しかし、E-M5に関しては欧米ではPENシリーズよりも受け入れられているとのお話です。E-M1でさらに海外での販売に弾みが付くのでしょうか?

城田:お陰様でE-M5は海外でも好評です。小型でありながら高性能でレンズ交換式という部分で、一眼レフユーザーからかなり受け入れられています。我々としては成功していると考えています。E-M1はE-M5の上位機種として導入するわけですが、E-M5以上にユーザーからは好意的に受け止められているという感触です。この勢いを駆って一眼レフ市場に挑戦してシェアを獲得していきたいと考えています。

インタビューはオリンパス技術開発センター石川(東京都八王子市)で行なった。

(本誌:武石修/撮影:國見周作)