インタビュー
創設者Ziv Gillat氏が語る「Eye-Fiの歴史とこれから」
(2012/12/6 00:00)
無線LAN内蔵SDカード「Eye-Fi」を手がける米Eye-Fiの共同創設者でビジネス開発部副社長のZiv Gillat氏が、初めて来日。インタビューをする機会を得たので、その内容をお届けする。今回Gillat氏には、Eye-Fi創業時の話に加え、今後の戦略を聞いた。
友人たちと始めたEye-Fi
Gillat氏は、ソフトウェアエンジニアやフォトグラファーとしても活動しており、大学卒業後は最初にアップルに就職。1997年から、7つのスタートアップ企業に入って、エンジニアやエンジニアマネージャーとして勤務してきたそうだ。そして2005年の半ば、Berend Ozceri氏(現システムアーキテクト)、Yuval Koren氏(現CEO)、Eugene Feinberg氏(現ハードウェア設計者)の3人とともにEye-Fiを立ち上げ、2006年1月1日からフルタイムの事業としてスタートしたという。
この4人は、もともと古くからの友人たちで、例えばOzceri氏とFeinberg氏は、大学から大学院、SGI、Cisco、Atherosなどの企業にいたるまで、ずっとともに過ごしており、SGI時代にKoren氏と知り合ったという。さらにKoren氏とGillat氏は、13歳の頃からの友人だということで、長年の仲間で作り上げたのがEye-Fiということになる。
写真を効率よく管理する方法を探っていた彼らは、メモリーカードに目をつけ、2006年4月にはTCP/IPを組み込んだカードの試作(α版)を完成させた。これは設計からプロトコルの実装まで、Ozceri氏が1人で組み上げたものだという。
最初期は、Ozceri氏が2日間で設計したもので、メモリにはサムスン製、無線チップにAthelos製を採用。そのほかにもアンプやアンテナを配置し、ファームウェアもOzceri氏自身が書き上げた。最初の試作品では一部設計の変更も加えられつつ、1,500ドルのコストがかかったそうだ。
9月にはβ版に到達。2007年第4四半期に製品版の販売を開始し、Amazon.comなど、米国の主要オンラインショップで発売された。当初から日本での販売も期待されていたが、これが実現するのは、現アイファイジャパンの田中大祐社長(Gillat氏はDiceと呼んでいた)との出会いによるものだったという。
田中社長は、日本での販売に際してのスペシャルパッケージとして、和紙細工のように開封できるパッケージを持ってプレゼンテーションを行ない、それがEye-Fi創業メンバーの心を捉えたそうだ。
初期のEye-Fiカードは、書き込み速度が「とても遅い」(Gillat氏)状態で、書き込み速度は1.5~2MB/s、無線LANの転送速度も6~8Mbps程度で、スピードクラスでいえば「Class 0」(同)だった(そのため、スピードクラスの記載はなかった)。しかし、順次速度を上げていったことで、Eye-Fi ProではClass 6に対応し、仕様上の速度である8MB/sを超える12MB/sを実現。さらに最新版ではClass 10の仕様の16MB/sを超える23MB/sの書き込み速度とし、無線LANの転送速度は12Mbpsまで高速化した。
Eye-Fiは、画像を同社サーバーにアップロードし、そこからPCなどに転送することができるが、2012年の1年間で3億5,000万枚の画像が転送され、現在は1日100~150万枚の画像が転送されているという。製品は米国、カナダ、欧州、豪州、ニュージーランド、日本で販売されており、10月31日には香港での販売もスタートすることが発表されている。
サービスとしてのEye-Fi
このように、Eye-Fiは、単なる無線LAN内蔵SDメモリーカードではない、というのもポイントだ。Eye-Fi自身が画像を転送して保存するサーバーを用意。さらにそれを経由して45種類の画像共有サイトなどに転送できるほか、PCにも画像を転送できるようになっている。いったんEye-Fiのサーバーにアップロードすれば、あとはサーバー側で転送してくれるので、ユーザー側が作業する必要はない。
しかも、Eye-Fiはこれを「7年前から始めている」とGillat氏は強調。FacebookやInstagramなどのクラウドサービスに対して、より早い段階からサービスを提供していた点をアピールする。Gillat氏は、当初から「(スタートアップの)小さな企業がハードウェアの販売だけで利益を生み出すのは難しい」と考えており、例えばジオタグ、Eye-Fi Viewのプレミアム会員といったサービスと連携することで、収益の拡大を図ってきたという。
さらに、スマートフォン向けにEye-Fiアプリを提供しており、それらもEye-Fiサーバーを経由して、スマートフォンで撮影した画像を転送するようになっている。ハードウェアであるカードを販売しなくても、サービスとしてのEye-Fiが可能になるわけだ。
ただ、スマートフォンが普及していく中で、相対的にEye-Fiの利用頻度が低下する可能性もある。こうした点についてGillat氏は、「日本や米国の(スマートフォンの)データプランでは、画像もたくさん転送できる」としつつ、そのほかの国では、プリペイドが主流の国もあり、スマートフォンからの画像転送が一般的でない場合も多いという。
世界中で考えれば、まだカメラ市場は成長している、とGillat氏。多くの人が、「いいカメラで写真を撮りたいと思っている」と指摘する。そのため、カメラという体裁で簡単に画像を転送できるというソリューションは必要とされている、という認識を示す。
また、Gillat氏はサムスンのAndroid搭載のスマートカメラ「Galaxy Camera」を例に、1つの端末でカメラと無線通信をカバーする方向性を示しつつ、「近い将来の発表を楽しみにして欲しい」と話す。「近い将来」がいつなのか、どういった発表なのかは明らかにされなかったが、何らかの新しい展開が計画されているようだった。
※編注:インタビュー後、同社の新事業「circ」が12月5日にβ版としてスタートした。複数の端末で写真などを同期できるクラウドサービスになっており、無制限の保存が可能だとする。