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インタビュー:キヤノンに聞く「EOS-1D X」のハイエンド戦略

〜10年越しに実現。1Dと1Dsの2ライン統合

 キヤノンが2012年3月下旬に発売するプロ向けデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D X」は、これまでの「EOS-1D」シリーズと「EOS-1Ds」シリーズを統合した新ラインとなるモデルだ。今回は、これら2ライン統合の理由や機能の進化点を開発者に聞いた。

今回話を伺ったメンバー。右から吉開俊二氏(商品企画を担当)、大嶋慎太郎氏(開発全体のとりまとめを担当)、田中昇氏(デザインおよび操作系を担当)

 話を伺ったのは、キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 カメラ事業部 課長の吉開俊二氏(商品企画を担当)、同イメージコミュニケーション事業本部 カメラ開発センター 室長の大嶋慎太郎氏(開発全体のとりまとめを担当)、同総合デザインセンター室長の田中昇氏(デザインおよび操作系を担当)。

EOS-1D X。2012年3月下旬発売。店頭予想価格は65万円前後の見込み

悲願だった35mmフルサイズの高速機

――なぜ今回、EOS-1D系とEOS-1Ds系を統合したのでしょうか?

吉開:今回、何が何でも統合しようと始まったわけではありません。10年前にEOS-1Dシリーズを発表したときから、高画質の土台となる35mmフルサイズと連写性能を両立したいという思いで始めています。しかし、これまで技術的な壁があり両方を達成することが難しかった。

 そうした中、プロセグメントをカバーしていく上で結果的に2つのラインを提供してきたのが事実です。それが今回、ようやく35mmフルサイズで高速連写を達成することができるようになったという意味で統合した形です。35mmフルサイズで高速連写というのは、市場でも望まれていました。従来からやりたかったことが、10年目にしてできたということです。

EOS-1D Mark IV(2009年12月発売) EOS-1Ds Mark III(2007年11月発売)

――EOS-1D Xは、EOS-1Ds Mark IIIから見ると画素数が減っています。さらなる高画素のカメラも必要ではないのでしょうか?

吉開:発表後も高画素のカメラを求める声はたくさんありました。もちろんそうした声が来ることは初めからわかっており、メーカーとして要望は認識しています。ただ、現時点で明確な計画をお話しできる段階にはありませんが、当然研究はしています。最終的には市場からの要望を見極めて、キヤノンとしてどういったカメラを出すべきなのかを今後考えて行くことになると思います。

――例えば中判デジタルカメラの市場に参入することは考えていますか?

吉開:実際に弊社では35mmフルサイズよりも高画質なCMOSセンサーも出していますし、可能性という意味では研究はしています。同時にマーケットも研究しています。ただ、すぐにそうした市場に参入する計画はありません。

――EOS-1D Xの発表が今(10月18日)になった理由を教えてください。発売(2012年3月末)まで半年近くあります。

吉開:2012年8月にロンドン五輪が行なわれますが、プロカメラマンへの情報提供を考えると従来のように発売の1カ月前に発表したのではあまりにも大会の直前になってしまうというのが理由の1つです。それからスポーツや報道分野では弊社とニコンさんですから、キヤノンを使っているプロユーザーにはイレギュラーではありますがこのタイミングで発表するのがベストと考えました。

 もう1つは、EOS-1Ds Mark IIIが生産を終了していまして、いくつかの国ではそのアナウンスもしています。そうしますとお客様からも後継機の問い合わせがあるので、それに対する情報提供という意味もあります。

――東日本大震災の影響はありましたか?

吉開:実は、もう少し早い発売を目指していたのが事実です。全てが震災の影響というわけではありませんが、少なからず影響はありました。ロンドン五輪が8月なのに対して3月末の発売は、ちょっと直前過ぎたと思っています。

――型番の“X”は何を意味しているのでしょうか?

吉開:まず統合機ということで「Crossover」のXですね。また今回は“1D”という名前を残していまして、従来のEOS-1Dからさらに進化して際だった商品ということで「Xtream」の意味も持たせました。それから、銀塩一眼レフカメラの「F-1」から数えてちょうど10世代目になるので10を表すXの意味もあります。銀塩の「EOS-1V」までが5世代、デジタルになってからは1Dと1Dsを同じ世代とカウントして5世代あり、合わせて10世代ということです。ただ、機種名の読みとしては「エックス」になります。

現行EOS最大の画素ピッチで超高感度に対応

――撮像素子の特徴を教えてください。

大嶋:有効約1,810万画素の35mmフルサイズセンサーです。画素ピッチは6.95μmで、現行のEOSでは最も広くなっています。

EOS-1D Xに搭載した新型センサー

――EOS-1D Xでは、なぜこの画素数にしたのでしょうか?

大嶋:コマ速と画素数のバランスを考慮して決めています。スタジオ用途を意識していないわけではありませんが、メインターゲットはスポーツや報道系と考えておりコマ速を重視しました。コマ速は、EOS-1D Mark IVの10コマ/秒を超える12コマ/秒を実現できました。

――EOS-1Ds Mark IIIから画素数が約300万画素減っていますが画質を比べるとどうでしょうか?

大嶋:ノイズ面から見るとEOS-1Ds Mark IIIの最高常用感度がISO1600なのに対して、EOS-1D Xは同ISO51200ですから比較にならないほどです。また画素ピッチが大きいので、色の再現性も良くなっています。センサー自体の性能向上のみならず、画像処理システムも強化されています。トータルの画質としてはEOS-1D Mark IV、EOS-1Ds Mark IIIのどちらと比べても上回っており満足してもらえると思います。

――今回APS-Hセンサーではなく、35mmフルサイズセンサーを採用しました。

吉開:長玉を使っていた方からは、APS-Hがよかったという声も聞かれます。ただ、一方で35mmフルサイズをという要望も強かったんですね。すると、今まで1.3倍の望遠になるベネフィットをどうするのかという質問も当然あるでしょう。それに対しては、新エクステンダーとの組み合わせを提案しています。例えばEOS-1D Mark IVはクロス測距点がF2.8対応が主でしたが、EOS-1D XではF4レンズでのクロス測距対応に力をいれ、精度もEOS-1D Mark IVのF2.8対応並みにしています。

 EOS-1D Mark IVに「EF 400mm F2.8 L IS USM」(旧モデル)を装着したものと、EOS-1D Xに「EF 400mm F2.8 L IS II USM」(新モデル)および「EXTENDER EF 1.4X III」を装着したものを比較したところ、エクステンダーを着けても非常に画質がいいんですね。なおかつ、AFセンサーはF4対応なのでは全く問題ありません。レンズの新製品計画もありますし、キヤノンとしてはレンズ共々のシステムでカバーできると考えています。

大嶋:APS-Hサイズは、広角では画角が狭くなります。その意味でEOS-1D XはEFレンズの本来の性能を引き出せるので、本来の姿に戻ったとも言えます。

吉開:記者会見など被写体との距離が近い場合に、EOS-1D Mark IVは1.3倍のベネフィットが逆にデメリットになっていたという声も聞いています。広角系のレンズは今後どんどん良くしていくつもりなので望遠、広角ともにきちんと対応できると思っています。

吉開俊二氏(商品企画を担当)。「おかげさまで発表してからは、ポジティブな反響を頂いています。この反響が確信的なものになるよう引き続き新たな情報を提供していきたいと思います」

――キヤノンとしてAPS-Hサイズの撮像素子を今後採用することはないのでしょうか?

吉開:さまざまな可能性を検討して行かなければならないので将来に渡って全く採用しないとはいえませんが、現状では終了することになります。

――では、APS-Cサイズのセンサーを搭載したEOS-1Dの要望はありますか?

吉開:当初から高画質という点でセンサーサイズの大きさにはこだわっており、高速性能を追求していく中でこれまではAPS-Hサイズのセンサーを選んできました。1.6倍というベネフィットはありますが、非常に高い画質に対する要求を持っているプロの方へのカメラということを考えると、可能性は否定しませんが、今のところキヤノンの選択肢としてはありません。

――今回は35mmフルサイズのセンサーでありながら、ギャップレスのマイクロレンズを採用しました。

大嶋:APS-Cサイズでは既にギャップレスを採用していますが、35mmフルサイズセンサーでは今回が初めてになります。35mmフルサイズセンサーはセルの面積が大きいため、精度を出した上でのギャップレス化にハードルがあったのです。今回、要素技術の進化で実現でき採用に至りました。これにより、光の無駄な取りこぼしが無くなり、集光効率が高まりました。

全感度域で耐ノイズ性能は2段アップ

――新画像処理エンジン「DIGIC 5+」はどういったものですか?

大嶋:まずDIGIC 4に対してDIGIC 5は、約6倍の高速処理が可能になります。今回“+”が付いていますが、これは通常のDIGIC 5に比べてさらに約3倍の処理能力があります。DIGIC 4とDIGIC 5+を比較すると約17倍高速になっています。これまでソフトウェア的に処理していたものを、ハードウェア処理に置き換えることで高速化を実現しています。

 しかし、単に速度が速くなっただけではありません。画像処理のアルゴリズムもどんどん新しいものを入れています。代表的なものとしてはノイズリダクションと色再現性でしょう。さらに今回は、倍率色収差の補正もDIGIC 5+で処理できるようになっています。

EOS-1D XはDIGITC 5+をデュアルで搭載する。写真はDIGIC 5+を2つ搭載したメイン基板

――拡張設定時の感度は最高ISO204800を実現しています。これほどの高感度がニーズとしてあるのでしょうか?

吉開:報道系のカメラマンは、とにかく絵を撮って帰らなければなりません。事件や事故はどういう状況で起こるかわかりません。本当に暗い場所かも知れない。そういった極限のなかで求められる数字だと考えています。そのような状況でも撮れる事の重要性はユーザーの声として届いており、それを大事にしたということです。

――EOS-1D Mark IVに比べてノイズはどの程度減っていますか?

大嶋:感度の全域で2段分減っていると考えていただいて結構です。

吉開:皆さん最高感度のISO204800という数字に目が行きがちですが、本当に使われる感度域での2段アップというところに一番注力しました。

――液晶モニターのアスペクト比が4:3から3:2になっています。

大嶋:汎用の液晶モニターは4:3のため、今までそれを使ってきました。ただ撮影画像は3:2なので4:3の液晶モニターでは表示領域をめいっぱい活かせません。今回は、撮像素子と液晶モニターのアスペクトは同じであるべきとの考えから3:2の液晶モニターを採用しました。

EOS-1D Xでは3:2の液晶モニターを採用

――EOS-1Dシリーズでは初めてとなる「多重露光機能」を搭載しました。一見、こうしたプロ向けのカメラには不必要にも思えますが?

吉開:要望としてはかなり前からありました。これは他社さんのほうが先に搭載しまして、それに対する評価の声もありましたので弊社も搭載することにしました。レタッチでもできますが、デジタルだからこそ、現場で画像を見ながらできるメリットもあると思っています。

全ての技術を投入して実現したAF追従12コマ/秒

――今回、AF追従で最高12コマ/秒の連写が可能になりましたが、どのような技術革新があったのでしょうか?

大嶋:まずセンサー、そして高速な処理ができる画像処理エンジンという部分に大きなブレイクスルーがあります。メカニカルな部分では、ミラーやシャッターの高速駆動になります。それからファームウェアの処理や新しい世代の300mm、400mmのレンズをつけた場合には絞りを3段まで絞っても12コマ/秒の追従ができるようになっています。これという1つではなく、メカ屋さん電気屋さんも、ソフト屋さんもレンズ屋さんもみんなの技術を出し合って12コマ/秒を実現しました。どれか1つ欠けても達成できませんでした。

【動画】12コマ/秒および14コマ/秒での連写

 

――その高速に動くミラーユニットはどういったものでしょうか?

大嶋:ミラーの動作はファインダーの見え方にも影響します。12コマ/秒で連写するとブラックアウトの時間が非常に短いですから、残像的なイメージではありますが像が見えるのが特徴です。それから、ミラーが高速に動くとミラー自体が不安定な状態になります。像が歪んで見えてしまいます。今回はこのミラーの暴れを押さえることでファインダーが非常に安定して見えるようになっています。

 安定性という観点では、ファインダーの見えのみならずAFにも当てはまります。ミラーが暴れていては、ミラーを介して光を取り込む位相差AFで正確な測距ができなくなります。ですので、その安定性に対しても工夫しています。カタログ的には「クアッドアクティブミラーストッパー」と呼んでいる代表的な機構もありますが、他にもAFセンサーに光を導くためのサブミラーも今回新しくしてます。EOS-1 D Mark IVまでは「楕円ミラー」と呼ばれる湾曲したミラーを使用していました。EOS-1 D Xでは安定性、正確性の観点から平面のミラーを採用するなど改良を加えています。

吉開:それから、既にテストしていただいた方に聞きますと、従来に比べて連写時の振動の少なさも体感できたとのことでした。

大嶋:連写時の振動はブレにも繋がりますし、グリップを握っている手にも不快です。クアッドアクティブミラーストッパーもそうですが、ショックを軽減して振動を抑える技術を他にも取り込んでいます。

大嶋慎太郎氏(開発全体のとりまとめを担当)。「12コマ/秒の連写は、シャッターを切った瞬間に次元の違いがわかってもらえると思います」

AE情報をAF機構にフィードバックしてAF精度を向上

――AFポイントが61点ですが、多い方が良いという声が多いのでしょうか?

吉開:具体的に測距点数自体を増やしてほしいという声があったというよりも、トータルでAF性能を上げて欲しいという声がありますね。我々もその部分は常にやってきたわけですが、「さらにその上を」という要望は、日本のみならずアメリカやヨーロッパのプロからも頂いていました。今回、35mmフルサイズのカメラを作る中できっちり対応した結果、61点の測距点を持つことになったということです。

 EOS-1D Mark IVではクロス測距点がF2.8対応で39点でした。それがEOS-1D Xでは、F4まで対応して最大41点(レンズによって異なる)。さらに、F5.6対応測距点も最大21点(同)に対応しているということですね。AF性能はEOS-1D Xの大きなセールスポイントの1つになっています。

EOS-1D XのAFポイント 新開発のAFセンサー

――AEに関しては、「EOS iSA System」というものを採用しました。

大嶋:AEセンサーも今回大きく進歩しました。フォーカシングスクリーン上に写っている絵をAEセンサーで測光するのは従来と同じですが、EOS-1D Xでは、AEセンサーとして新たに約10万画素のRGBセンサーを採用しています。言わばデジタルカメラでフォーカシングスクリーンを撮影しているイメージですね。単に光の分布を見るだけではなく、人物の顔や被写体の色など特徴的なものを認識することによって、そこに対してよりAEの精度を上げることができます。

 加えてAEの情報はAFに対しても使われています。被写体の色をAFにフィードバックし、測距精度の向上に役立ててています。今まではどちらかといえばAEとAFは別のシステムという考え方でしたが、今回はそれをくっつけましょうということでやっています。

 AEの処理を行うためだけにDIGIC 4を搭載しました。DIGIC 4は今までのデジタルカメラではメインの画像処理エンジンとして数千万画素の処理をしていたのですから、AEセンサーの10万画素というのは正直なところかなり贅沢なことといえますね。EOS-1D XのDIGIC 4は画像処理ではなく画像認識を行っています。

吉開:AEの被写体認識力をさらに高めるには、ここまでやらないと求められるものに対応できません。

10万画素のAEセンサー AE用にDIGIC 4を搭載する

“ゴミを掃く”イメージの新ゴミ除去機構

――ローパスフィルターに変更はありますか?

大嶋:ローパスフィルターの基本構成は従来機種からほとんど変わっていません。ほぼ同じと考えて頂いて良いです。ゴミを付着しにくくするためのフッ素コーティングも施しています。

――ローパスフィルター自体を無くすことは難しいのでしょうか?

吉開:高画素を求めている風景などを撮影されるお客様からは、ローパスフィルターが無いモデルの要望もあります、ただ、この機種が目指すかなり広いプロセグメントねらうモデルとしてローパスフィルターを取ったときのデメリットと有った場合のメリットを考えると、やはりまだデメリットの方が大きい。今のところ、技術的にそれを解決する迄には至っていません。バランスで考えると、このモデルに関してローパスフィルターレスという選択肢は無かったということです。

――ローパスフィルターのゴミ除去が「搬送波方式」という新方式になっています。

大嶋:従来の方式は撮像素子の前にあるカバーガラスに超音波の振動を与えて、ガラスの表面に着いたゴミを弾き飛ばす動作をしていました。それに対して今回の搬送波方式は、カバーガラスに波を起こすことによって、ゴミを横に移動させる方式です。弾き飛ばすというのは言ってみればゴミをまき散らすようなものですが、搬送波方式はゴミをまき散らかさずに掃くようなイメージでクリーニングができるのです。

 新方式はゴミの除去率も向上しています。もちろん万能とは言いませんが、従来方式では落とせなかった大きさのゴミでも払うことができます。

新方式のゴミ除去ユニット

――ファインダーは従来と同じものでしょうか?

大嶋:違いとしては、インテリジェントビューファインダーになっている点ですね。ファインダーの中に透明な液晶パネルを挟んで情報を表示するものです。今回はAFポイントが61点と、ほぼ画面全体に有るのでこの情報をわかりやすく表示するためには液晶パネルを使う必要がありました。視野率や倍率などのスペックは従来から大きな変化はありません。

――防塵防滴の性能は従来から向上しているのでしょうか?

大嶋:基本的には従来と同等になっています。

DPPに搭載される「新レンズ補正」で“画像が相当クリアになる”

――EOS-1D Xの発売に合わせて、現像ソフト「Digital Photo Professional」(DPP)が大きく進化すると聞いています。Webサイトには「新レンズ補正機能」、「HDR機能」、「画像合成機能」を追加したとありますが、詳しく教えてください。

吉開:新レンズ補正機能は、倍率色収差や歪曲収差といった従来の収差だけを補正するだけではなく、新たなステージを目指した新機能です。フルサイズになったEOS-1D Xにとってこれ以上ないタイミングでの機能追加になります。実は「新レンズ補正機能」とは仮称でまだ正式な名称がついていませんが、新しい名前で強く打ち出していこうと考えています。

 ローパスフィルターによる影響、各種レンズ収差、回折現象に対して、DPPで画像処理を同時に自動で行なうものです。原理的には今ある絵を持ち上げて良くするのではなく、元々あったはずのきれいな絵に戻すという機能です。これを実現するために、それぞれのレンズごとの異なる光学特性に最適なプログラムを行ない、DPPで画像処理を行ないます。

 得意、不得意の部分はあるので万能とは言いませんが、我々が見た開発段階のサンプルは処理後に相当クリアな画像になっていました。回折現象によってぼやけてしまった画像も相当戻すことができます。さらなる高画質を求めるお客様にとって、非常に魅力的な機能になると思います。

大嶋:画像の一部を拡大してみるとちょっとフレアっぽくもやっとしているところが、処理を行なうことでよりすっきりします。画像全体ではよりクリアになると思います。

――新レンズ補正機能をカメラ内で処理することはできないのでしょうか?

大嶋:装着しているレンズやローパスフィルターの特性などいろいろな部分の光学的パラメーターを全部集めて画像を元に戻そうというものなので、データが非常に多くまだ処理が重い状態なのです。

吉開:DPPでの処理時間に関しては、お客様をイライラさせずに済むレベルにはなんとかできると思います。画像によっても処理時間は異なってくるのですが、絵によっては少し時間がかかるという状況で、カメラの中に搭載するというところまでは行っていません。ただ、使っていただければ確実に効果を実感してもらえると思います。

――新レンズ補正機能は、EOS-1D X以外の既存のカメラでも利用できるようになるのでしょうか?

吉開:RAWデータであれば、既存のEOSでも使えます。ただ、どこまでを対応機種として含めるのかというのは検討中です。リリースの時には現行機種はカバーする予定です。今回のDPPでは、20本以上のレンズに対応したいと考えています。今後については、お客様の反応をお聞かせ頂いてから考えたいと思っています。

――DPPにHDR機能や画像合成機能を搭載した意図は何でしょうか?

大嶋:これらは本来カメラ内でできれば理想ですが、処理スピードなどの関係でまだそこまで行き着いていないところをDPPで補完しているということです。将来的にはカメラに取り込んでいくべき機能だとは思っています。

ボタンの位置を大胆に変更して操作性を向上

――EOS-1D Mark Xで変更になった操作性は何でしょうか?

大嶋:一番の特徴は、横位置(正位置)の操作性を縦位置時でもできるだけ再現しているところです。EOS-1D Mark IVでよく言われたのが、「マルチコントローラーがなぜ縦位置用に付いていないんだ?」ということでしたので反映させました。それから、ボタン関係もサイズなどを工夫してより押しやすくしました。

 それから、サブ電子ダイヤルはよく使われる操作部材だけに耐久性が問題になってきます。従来は内部にある基板の上を金属のブラシが移動して回転を検知していましたが、どうしても摩耗やゴミの発生といった部分で弱さがありました。今回は信頼性上げるために、静電容量方式の非接触エンコーダーを採用しています。我々が今回目指したのはプロが使うカメラですので、耐久性の部分はフィーチャーしています。

 実は今回、サブ電子ダイヤルの表面に静電容量方式のタッチ式スイッチ部分を設けています。これは、動画記録中に録音レベルを調節するためのボタンになっています。サブ電子ダイヤル自体を回す発生するカチカチという操作音が記録されるのを防ぐためです。

吉開:昨今弊社はデジタル一眼レフカメラでの動画撮影分野にかなり力を入れていますし、現実に映像制作市場から評価されています。それだけに動画記録に関わる部分にも気を配っています。

サブ電子ダイヤルの右下に縦位置用のマルチコントローラーを装備した。また、液晶モニターと表示パネルの間に4つの操作ボタンを新たに配置した こちらはEOS-1D Mark IVの背面。削除やファンクションのボタンが最下部にあり、縦位置時に誤って押すことがあったという

――EOS-1D Xのデザインの変更点はどのあたりでしょうか?

田中:スタイリングだけではなくて操作系全般も含めて担当しましたが、この機種は特に操作性が重要になってきます。ユーザーの声を聞きながらそのあたりを改良していったのが一番大きいと思います。

 たとえば今回、背面の液晶モニターと表示パネルの間に再生や拡大など4つのボタンを配置しました。普通ですと表示器の間にボタンは設けないものですが、これだと誤操作もしないですし操作がしやすいんです。なおかつ、縦位置の時に指が届く位置になっています。さらに従来のようにこれらのボタンが一番下にあると、縦位置で構えたときに親指の付け根のところで意図せずにボタンを押してしまいやすかったのですが、それも無くなります。

田中昇氏(デザインおよび操作系を担当)。「操作性やデザインの完成度がかなり高くなっていますので、発売を楽しみにしていてください」

大嶋:市場における操作性や操作感といったものは、あまりデータベースとしてありませんでした。ですから、どちらかというと開発からの提案で実現しました。保守的な意見もあったのですが、我々としてはより可能性を広げて、できなかったことをできるようにしたいと思って搭載しています。世に出てから皆さんがどういう使い方をするのかを見ていきたいところです。

田中:スタイリングはEOS-1Ds Mark III、EOS-1D Mark IVと同じできたわけですが、今回中身もかなり変わることもあって新しいEOSのアイコンという部分を表現できればいいなと考えていました。

 EOSといえば曲面デザインといったところが独創的な部分だと思いますが、それをさらに進化させています。EOS-1Ds Mark III、EOS-1D Mark IVのデザインも良いのですが、見た目の剛性感が足りないなと個人的には思っていました。より固まり感のあるものにしたいと思っていました。グリップを握ったところで、本体との一体感が出るようにラインを工夫しています。EOS-1D Xでは、“Canon”ロゴの下のラインがグリップにまで回っているのがわかると思います。

グリップやマウントが本体と一体になるデザインを目指した

 それから、マウントの部分は他社さんですと単独で“マウント”という感じの造形が多いですが、それですとレンズを付けたときに華奢な感じを受けてしまいます。このあたりも感じていましたので、ボディフロントの全部でレンズを受け止めるようなイメージにしています。これがキーデザインになっています。

・検討用のデザイン画

Canonロゴの下を走るラインを強調したものも多かった

・デザイン検討用のモックアップ

こちらは比較的製品版に近いモックアップ
上カバーのみの検討用部材も

有線LANは報道関係からの要望で搭載

――今回、有線のLANコネクタを搭載したのはなぜでしょうか?

吉開:無線LANと有線LANの両方が求められているというのが理由の1つです。無線LANは万能ではなく、現場によっては使いにくい場合があります。その際に有線LANを使いたいという声があったためです。

大嶋:無線LANに比べて有線LANの方が確実性という意味では勝っています。オリンピックやワールドカップなどの国際イベントの会場だと、昨今は記者の持ち込むパソコンも含めて有線LANを使うケースが非常に増えているとのことです。動画は記録しながらは転送できませんが、ファイルの形であれば静止画と同様に無線/有線LANで転送できます。

側面に有線LAN端子を新たに備えた

――GPSユニット「GP-E1」と無線LANユニット「WFT-E6B」はオプションのユニットとして提供していますが、カメラに内蔵することはできないのでしょうか?

吉開:要望に関しては有りました。キヤノンとして、将来に向けて検討していかなければならない重要な項目だと思っています。特に通信社や新聞社からはGPSに関して強い要望があったので、今回対応していきます。

大嶋:無線LANにしてもGPSにしても国によって規制の問題が有ります。GPSを使ってはいけないという国もあります。これらのユニットをカメラに内蔵することは技術的には可能ですが、販売していく上での制約に対応した形ということです。

GPSユニット「GP-E1」(左)と無線LANユニット「WFT-E6B」(右)の装着例

動画記録に加わった「ALL-I」とはなにか?

――動画の圧縮方式に「ALL-I」が加わりましたが、どんなメリットがあるのでしょうか?

大嶋:ALL-Iは圧縮方式の1つです。1つの画像(1フレーム)の中に画像処理のデータを持っているもので、編集作業がよりやりやすいというのが大きいと思います。ALL-Iはファイルサイズが大きくなるというデメリットがありますが、編集を考えるとALL-Iが適していますね。

 もう1つのIPB方式は、複数の画像の情報から1つの画像を生成するものです。圧縮率は高いのでファイルサイズは小さくできますが、1つのフレームを切り出す作業がしづらくなるので編集作業では扱いにくいですね。

 このIPB圧縮は、従来のEOSムービーのH.264記録とは異なる方式になっています。従来は「IPP」と呼ばれる過去のIフレームとPフレームの情報を参照することで、これから撮影されるフレームを予測して差分圧縮を行う方式でした。これに対してIPBでは、前後両方向のフレーム情報を参照することで、これから撮影されるフレームを予測する方式です。IPBは、IPPと同等の画質ながらより高い圧縮率にできるのが特徴です。

 両者の画質ですが、シーンによっても異なりますが、高精細で細かい動きがある場合はALL-Iの方が適しています。逆に、動きが少ない場合はIPBのほうが適している画質になることがあります。

――今回、動画撮影時の偽色やモアレを低減しているそうですね。

大嶋:DIGIC 5+の処理能力の高さによって、こうしたものをかなり低減できました。また、撮像素子の読み出し方式なども改良していますので、撮像素子と画像処理エンジンのセットで実現したということですね。

――動画記録時のシャッター速度をフレームレート以下に設定できますか?

大嶋:設定できません。

――今回フルHDの60p記録には対応していませんが、搭載が難しい理由は何でしょうか?

大嶋:システム上の理由からですが、詳細は申し上げられません。

――動画記録をRAWや広いダイナミックレンジで撮影できるLog形式に対応して欲しいという要望は有りますか?

吉開:映画などの映像制作現場から要望はあります。ただ、将来の製品計画についてはお答えできません。

――タイムコード記録が可能になりましたが、「レックラン」と「フリーラン」のモードの違いは何でしょうか?

大嶋:レックランは、動画撮影している間だけタイムコードのカウントが進みます。主に1台のカメラで撮影した動画を編集ソフトのタイムラインに並べて編集するときに使われます。

 フリーランは、動画撮影していないときもカウントが進むモードです。EOS-1D Xの「スタート時間の設定」メニューで設定した時間を起点として、いつ撮影したかを確認することができます。また、複数のカメラを使用して撮影するときに、カメラ間で時刻あわせをしておくと、編集の際に時刻順にデータを並べることができます。なおタイムコード記録は、ドロップフレームとノンドロップフレームの両方に対応しています。

タイムコードのカウント方式は、レックランとフリーランの両方に対応した
タイムコードのスタート時間も任意に設定可能
ドロップフレームとノンドロップフレームの両方に対応

――録画中にHDMI端子からフルHD映像を出力できますか?

大嶋:EOS-1D Mark IVと同じく可能になっています。

――撮像素子のローリングひずみは従来から改善していますか?

大嶋:詳細はいえないのですが、多少改善しています。

――動画撮影時にファイルが4GBに達すると分割する機能がつきました。

大嶋:4GBで動画記録が停止すると、ALL-Iの撮影では5〜6分しか連続撮影できません。ファイルの自動分割機能が付いたことでこの制限が無くなり、最長29分59秒の連続撮影が可能になりました。

――コントラストAFの速度は従来機よりも速くなっていますか?

大嶋:従来モデルと同じです。コントラストピークを少しずつ検出するコントラストAFの特性や、膨大な数のEFレンズの特性に最適化したAF制御など高速化を阻む技術的要因は多々あります。詳細は申し上げられませんが快速、快適なAFができるように将来に向けた研究開発は行なっています。

ミラーレス機の投入は“ノーコメント”

――キヤノンとしてミラーレスカメラをどう考えていますか?

吉開:ミラーレス機の市場に関しては、常にウォッチしています。当然、日本市場やアジアでもミラーレス機の比率が上がっているという事実はカメラ事業をやっているキヤノンとして認識しています。ただし今後どうするかという部分について、きょうの時点でお伝えできることは何もありません。

 ミラーレスカメラというのは新しい提案として市場を活性化するものと言う意味では、とても有意義な提案だと思っていますし、カメラというものは必要十分な形で小型軽量化されるべきだと考えています。

 もちろんEOS-1D系のカメラがあまりにも小さいと信頼性や操作性に問題が出てきますが、ただエントリークラスのカメラにとっては、小さいことがありがたいという意味合いは強いと思います。小型軽量化というのは、どのメーカーも持っている共通の課題であって、ミラーレス機はそのうちの1つの解だと思っています。

インタビューはキヤノン本社(東京都大田区下丸子)で行なった



(本誌:武石修)

2011/11/21 00:00