RING CUBE写真展「Secret~心で感じる写真展~」参加写真家・白井綾氏に聞く
リコーは、写真展「Secret~心で感じる写真展~」を東京・銀座のRING CUBEで23日より開催する。
39名の作家が名を伏せて出品する写真展で、あらかじめ参加作家名は明示するが、誰がどの作品の作者かは伏せておく趣向だ。作家一人につき一点の作品を展示し、展示作品を一律1万5,000円で販売するチャリティーでもある。作品の全売上はNPO法人「やんばる森のトラスト」が実施する森林生態系保護プロジェクト活動に寄付される。
写真展の概要は下記の通り。
- 期間:12月23日~12月28日
- 会場:RING CUBEギャラリーゾーン
- 東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター8・9階(受付9階)
- 時間:11時~20時(最終日15時まで)
- 休館:火曜日
- 入場:無料
また、参加作家は次の通り(50音順、敬称略)。浅田政志、アラキミキ、Imai Taichi、今村拓馬、薄井一議、海野和男、大村克己、織作峰子、加瀬健太郎、喜多村みか、木村篤史、木村惠一、曲藝、桑嶋維、GENKI、河野鉄平、Kobo Ryo、小澤太一、塩澤一洋、白井綾、菅原一剛、鈴木光雄、丹地保堯、テラウチマサト、長坂フミ、布川秀男、ハービー・山口、広田泉、広田尚敬、前川貴行、前田司郎、丸谷裕一、三浦誠、南しずか、桃井一至、森山大道、山崎泰治、横木安良夫、Ryu Itsuki。
■写真を始めたのは大学時代
今回は参加写真家のうち、白井綾氏にお話を伺う機会を得た。白井氏は、東京芸術大学美術学部卒業後、エディトリアルデザインやコマーシャルの分野で活躍するかたわら、写真展の開催や写真集の発行なども行なっている。2005年には写真集「open field」(WK&CO)を、2007年に長崎県の世界遺産候補の教会群を撮影した「COLORS」(長崎県)を刊行した。
白井綾氏 | 愛用のGR DIGITAL |
――写真をはじめたきっかけはなんでしょうか。
「本格的に写真を始めたのは大学に入ってからですね。油絵や彫刻など、美術の実技をまんべんなく行なうという講義がありまして、その中に写真の授業があったのです。モノクロのフイルムを使って、撮影、現像、プリントといった、写真の基礎を学ぶという内容でしたが、そこからはまっていったのだと思います」
「学生の頃は、ピンホールカメラを使った撮影をしていました。段ボール箱に穴を開けて、手作りでカメラを作るという授業をやっていて、私はシノゴのカラーネガフイルムを使った作品づくりをしました。その頃は将来的に仕事にしようという気もなく、純粋に興味を持って写真に取り組んでいましたね」
――それまで、写真に関しての意識はどのようなものだったのですか。
「大学では美術史を学ぶ学科だったので、アートのひとつという捉え方はしていました。本格的に写真を始める以前でも、作品を見るのは好きでしたし、作品づくりとまではいかないまでも、写真自体は自分でも撮っていました。写真にはまったのは、撮って、現像して、プリントをするという暗室作業が楽しかったからですね。いまでも、モノクロ現像で画像が浮き出てくる瞬間は写真の醍醐味だと思っています。大学で写真を始めてからは、明確に『作品をつくる』と意識するようになりました」
写真集「COLORS」(発行:長崎県)より (c)白井綾/長崎県 |
――写真を仕事にしたきっかけはなんでしょうか。
「卒業してからは、大学の写真関連の研究室に勤めながら、作品を制作していました。ある日、作品を見た広告のカメラマンの方から、カメラマンのマネジメント事務所を紹介されたのがきっかけですね。それまでは、自分のやり方で仕事ができるのか分からなかった部分もあるのですが、事務所の方の話を聞いていると、作品をつくりながら仕事をしている人を探しているということで、また新しいやり方で仕事ができるのではないかと思い、マネジメントをお願いすることに決めました」
「学生時代、機材についての知識をつけられるということもあって、アルバイトでプロカメラマンのアシスタントをしていた時期がありました。そこで私は『カメラマンには向いてないな』と思ったのです。というのも、一人で作品をつくっているのと違って、職業としてのカメラマンは、出版社や広告主に求められる写真を撮るのが仕事です。私にとってそれは、『作品』とは正反対のものだと思っていました」
■人間のいる空間をとらえたい
――作品のテーマや世界観をお聞かせください。
「ライフワークとして教会を撮っています。そういう意味で人の写り込む余地はないのかもしれないのですが、いわゆる建築写真ではなくて、『人間のいる空間』をとらえたいと思っています。自然の風景も好きですが、それだけでは写真に撮ろうという気にはならなくて、人間の作り上げた景観に興味を持って撮っています」
「人が写ってなくても、そこにいる『人』を見つけてほしい。その人がどういう気持ちでその場にいるのか、あるいはいたのか、それらの痕跡を感じ取ってほしいと思っています」
「教会を撮ろうと思ったのは、以前に長崎の五島列島にある教会を見たことがすごく印象的で、それがきっかけになって、ほかの教会も見てみようと思うようになりました」
(c)白井綾 |
――写真を撮る中で、心掛けていることやこだわりはありますか。
「建物を撮るにしても、被写体に対して感謝するようにしていますね。それと道具に関して、『持っていて気持ちのいいもの』を選ぶのが大事だと思っています。カメラは使いようなので、仕事によって使い分けたり、自分に合ったものを使えばいいと思うので、『絶対これじゃないとダメ』というのはありません。やはり機材は写真を撮るときの気分にかかわるものですから、自分にとって愛着のあるものを買うし、手元に置いておきたいと思います」
「たとえば私より年上のハッセルブラッドを仕事で使っていたりもするし、リコーのGRはフイルムの頃から使っています。道具は使わないと意味がないので、道具をむやみに増やすということはしません。写真を撮るときの方法論に関しては、仕事や作品に合わせて変えていけばいいので、作品を方法論に合わせるということはしないという意味で、こだわりはありません」
■動画をスチルカメラで撮影できると、違う感覚で撮影できる気がする
――今後、表現したいことや挑戦したいことはありますか。
「これからも、今までと同じように仕事や作品づくりをしたいと思っています。挑戦したいこととしては、動画の撮影をやってみたいですね。以前、テレビCMのカメラマンとして仕事を何本かやらせていただいたことがあったのですが、個人で持てる範囲で動画の仕事もできるレベルのスチルカメラが出てきているので、気になっています。具体的に何を撮るかまでは決まっていませんが、今までとは別のものを撮りたいと思っています」
「これまで私は、ムービーでの作品づくりには興味がありませんでした。1枚の写真は瞬間だし、こちらが設定している時間とは別に、見る人が感じる時間もある。作品を見る人には『その人の時間』で見てほしかった。ムービーの場合は、撮る側も見る側も同じ時間なので、実際の時間をともなう表現をどう処理していいかわからなかったのです。でも最近は動画を撮影できるスチルカメラが出てきたので、動画をスチルカメラで撮影できると、違う感覚で撮影できる気がするのです」
「とはいえ、本当に動画を撮るかどうかはオプションくらいの位置付けで、軸はあくまでもスチルです。今までやったことのない仕事を依頼されることがありますが、それも楽しいし、勉強になる。私はスチルが好きなんですね。作品づくりでも、引き続き教会を撮っていきたいと思います」
(c)白井綾 |
「あとは、自分の知識の幅を拡げていきたいですね。昨年、エチオピアに教会の撮影に出かけたのですが、エチオピアがキリスト教国だということを知ったのは、その前年のエジプト旅行でキリスト教の史跡や修道院を訪ねたのがきっかけです。今はものすごく辺境の情報も簡単に手に入りますが、やはり行かないと実感できないことは多いので、実際に行ってみることは大切だと思います」
■写真は無料ではない
――「Secret」展の試みについて、どう思われますか。
「作品のタイトルと作家の名前だけを見て、作品を見た気になるということはよくあるのではないでしょうか。参加人数が多い中、作者名が伏せられていると、作品1枚1枚をじっくり見ていただけそうで、すごくいい試みだと思います。でも、その作家さんの作品をよく見ている方なら、なんとなくは誰の作品かわかってしまうのではないかと思いますが(笑)」
――プリントの売買については、どう思いますか。
「写真展に展示されている作品も、気に入ったものがあれば購入して、ご自宅で楽しんでいただけるものという認識を広めるという意味で、どんどんやるべきと考えています。海外ではもう少し気軽なものだと思うのですが、日本ではまず写真に値段がつくことを認識していただくところから始める必要があると思います」
「日本では一般的に『写真は複製できるもの』という考えがあって、自分が撮ったものも無料だし、他人が撮ったものも無料。写真=無料というイメージを持っている方がまだまだたくさんいらっしゃいます。写真一枚にしても、作り手の表現意図のもと、撮影をして、データを作ったり、ネガから色の指定をして焼いたり、手間も感材費もかかっています。写真に商品として値段をつけるというのは、『どうして値段がつくのか』ということを考えていただく良い機会だと思っています」
(c)白井綾 |
2009/12/22 16:35