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「オリンパス・ペンE-P1」の女性エンジニアに訊く

〜若手設計者の起用で新しいカメラ作りに挑戦
Reported by 本誌:武石修

 「オリンパス・E-P1」の販売が好調だ。7月3日の発売以来、「予想を超える受注を頂いています」(広報部)というほど。このE-P1では、若い世代の女性社員を積極的に開発メンバーに加えるなど新しい取り組みで、よりよい製品作りを目指したという。

 今回は、E-P1のメカニズム設計、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)デザイン、アクセサリー企画を担当した商品開発部の女性3名にお話を伺った。

オリンパスイメージング開発本部 商品開発部 商品開発3グループの片岡摂哉グループリーダー(中央)、同開発本部 商品開発部 商品開発3グループの岩久恭子氏(左)、事業本部デザインセンター プロフェッショナルグループ課長代理の加瀬賀子氏(右) オリンパスイメージング イメージング事業本部SB推進部 市場開拓グループの小松聰子プロダクトリーダー

カメラからにじみ出る女性らしさを

 「国内の供給は落ち着いてきましたが、海外ではまだバックオーダーを抱えている状態です」と話すのは、E-P1の開発リーダーを務めたオリンパスイメージング開発本部 商品開発部 商品開発3グループの片岡摂哉グループリーダーだ。

 E-P1は、デジタル一眼レフカメラのサブカメラとしてはもとより、デジタル一眼レフカメラに興味があったが躊躇していた層にも大いに売れたという。また、女性にも人気が高いとのことだ。

E-P1(シルバー)。装着レンズは、M.ZUIKO DIGITAL 17mm F2.8(パンケーキレンズ) お話を伺った「オリンパス技術開発センター石川」(東京都八王子市)。カメラ、顕微鏡、情報機器に加えて、生産技術の開発も行なっている。なお、小松氏のみ新宿モノリスビル(本社)でお話を伺った

 「開発の現場では女性も男性も別なく仕事をしています。とはいえ、今回のE-P1には、スタッフに加わった彼女たちならではの、きめ細やかな心遣いが加味されたと思います。E-P1は比較的高価なカメラといえますが、そうした配慮も女性ユーザーの共感を呼んだのではないでしょうか」(片岡氏)と話す。

片岡摂哉氏。「E-P1は標準ズームキットよりも、趣味性の高いパンケーキレンズを含むキットの方が売れています」

 片岡氏は、開発をスタートさせるに当たって若いメインバーでチームを構成したいという希望を出した。「今までの一眼レフカメラとは違うのもということで、カメラというものをもう一度リセットして見直したかったんです。どうしても、カメラ設計のプロだとカメラ作りのルールに縛られてしまいます。ここはこうなっていなければならないんだという……。今回はそういう色の付いていない人も入れて構成したいということがありました」(片岡氏)。

 中でも、女性メンバーを加えることは片岡氏が強く希望した部分だ。「うまく言えませんが、女性が設計をしていくと、最後に女性的なところが少し入るんじゃないかというイメージがありました」(片岡氏)。とはいえ、“女性らしさ”を積極的に込めることはしていない。女性に受けるように作ることで、かえってあざとくなってしまうという懸念があったからだ。事実片岡氏は、“女性ユーザーを意識して作れ”と言う指示は出していなかった。

触っていて心地よい上質な操作感を

 オリンパスイメージング開発本部 商品開発部 商品開発3グループの岩久恭子氏は、外装チームの1人として主に後カバーのメカニズム設計を行なった。理工学部機械工学科から新卒で入社し3年目になる。

岩久恭子氏。「E-P1は持つ喜びのあるカメラだと思います。持ち歩くだけでも楽しいですね」 E-P1の後カバーユニット
E-30

 大学の研究室では、「トライボロジー」と呼ばれるベアリングの動きなどに関する研究をしていたそうだが、機械工学科といえば女性は比較的少ない学科だの1つだ。「もともと動くものに興味があり、特にロボットのようなものをいつか自分で作れるようになりたいという希望があって、一番近いのが機械工学科でした」と話す。その後、多くの人が使うコンシューマー製品に携わってみたいという思いと、写真が趣味だったのでカメラに関わりたいとカメラ会社への入社を決めた。

 オリンパスを選んだのは、会社説明会で自分が広い部分を担当できるという印象があったからだ。入社後は、「E-30」のダイヤル部やボタンなど操作系の設計を手がけてきた。E-P1の後カバー設計では、品位のある操作感にこだわった。


背面のダイヤルは2つとも岩久氏が設計した 後カバーの裏側

 岩久氏は、E-30の開発プロジェクトが終わらないうちにE-P1のチームに入った。「急に異動になり驚きました。私がE-P1のプロジェクトに入ったときに、ミラーレスで凄く小さくするというカメラのコンセプトを知らされて、まず欲しいなと思ったんです。外観のイメージも凄く格好良かった。このカメラをいい製品にしようと、かなり高くモチベーションを持てました」(岩久氏)。

 E-P1のコンセプトに従って、触っていて心地よく、かつ操作が楽しくなるような操作系を目指していたという。部材の動きは自分の理想とするイメージを実現するために、先輩設計者や過去の製品からアイデアをもらうこともあった。当時は入社2年目でわからないことだらけだったと振り返るが、単に既存の機構を引用するのではなく、新しい製品に適したものになるよう心がけた。「従来より小型になっているので、今までの一眼レフカメラの上質感を崩さないように小型のボディに操作系を入れ込むことが難しかったです」(岩久氏)。カメラのコンセプトがしっかりしていたことが、設計の上で役立った。

開閉の感触にこだわったという端子カバー 開けたところ
岩久氏はモードダイヤルの組み込みも担当した

 ダイヤルのクリック感がよりなめらかになるようにしたほか、端子カバーの開閉もなめらかさを追求してカムの形状などを工夫した。また背面のボタンもゴム部材を入れるなどして、押した際に安っぽさが出ないようにした。「E-P1のユーザーには、毎日肌身離さず持ち歩いてずっと手元に置いて欲しいです。どうやったら愛着を持ってもらえるかと考えて設計したので、それが伝われば嬉しいです」と岩久氏。

 一方で、多くのユーザーが使うからこそ、自分が気に入らなかった部分は恥ずかしいという。「本当はダイヤルがもう少し滑らかに回るようにしたかったんですが……。今後の課題ですね。でもそれ以外の部分はほぼイメージ通りに仕上げることができました。今後は、外装以外の部分も設計してみたいですね」(岩久氏)。


・そのほかの外装部品の一部

トップカバー 同裏側
ボトムカバーの裏側
側面カバー 同裏側

 写真を撮るのはずっと趣味だったという岩久氏。近所の公園に出かけては、景色や花などを撮影しているという。自身はシルバーのE-P1を選んだ。「特にヘアラインの金属感が好きです。どちらかというとメタリック調なものに惹かれます」(岩久氏)。レンズ交換式のカメラを使ったのはE-P1が初めてで、これまではトイカメラのロモ「スメナ8M」などを愛用していた。それだけに、E-P1でもアートフィルターはかなり活用しているとのこと。トイフォトとポップアートがお気に入りだそうだ。

 「散歩やピクニックなど自然の中で遊ぶのが好きなのですが、写真を手軽に残せるのがE-P1のいいところですね。旅行なども荷物が多いと『今回はコンパクトデジタルカメラでいいか……』となりがちだったのですが、E-P1を手にしてからはどこにでも持って行きたいと思うようになり、写真を撮る機会が増えました。実際に自分がカメラを使う幅が広がることで、設計にフィードバックできる部分もあるのではないかと思います」(岩久氏)。

ペンF ペン

 ちなみに、銀塩カメラの「ペン」シリーズは使ったことが無かったとのこと。印象を訊ねると、「ペンFは、外観が格好いいと思いました。当時としては斬新なデザインだったのかなと思います。スタイリッシュで男性に受けそうなイメージです。ペンは、かわいらしく、女性にも人気が出たのがわかります」(岩久氏)。

“カメラの操作を楽しめる”新ユーザーインターフェース

E-P1から搭載した新操作系「ライブコントロール」。2つのダイヤルが、縦と横のバーと連動して項目を選択できる

 さてE-P1といえば、背面の2つのダイヤルでホワイトバランス、ISO感度、アスペクト比などを変更する新操作系「ライブコントロール」の搭載もトピックだ。ライブコントロールは、縦横2軸のバーに表示されるアイコンで項目を選ぶ方式で、素早くパラメーターの設定ができる。

 オリンパスのデジタル一眼レフカメラはこれまで、液晶モニターに表示されたパラメーターの一覧からダイレクトに項目を変更できるスーパーコントロールパネル(スーパーコンパネ)を搭載していた。片岡氏によれば、スーパーコンパネは一定の評価を受けていたとのことだが、E-P1では“ライブビューを活かした操作感を出したい”との考えから操作系を見直すことにしたという。


加瀬賀子氏。「E-P1はボディの質感にこだわったカメラなので、GUIの形1つ、アニメーションの動き1つに至るまで気を遣ってデザインしました」

 このライブコントロールにおけるGUIをデザインしたのは、オリンパスイメージング事業本部デザインセンター プロフェッショナルグループ課長代理の加瀬賀子氏だ。加瀬氏は工学部の工業意匠科でデザインシステム論を専攻。デザイナーがデザインを発想するメカニズムや、そうした発想を手助けするツールについて研究していた。卒業後はシステム開発会社でWebディレクターとして働くが、「もっとユーザーに近い場所で、自分の意志を持って物作りに携わりたい」という想いから6年前にオリンパスへ転職した。

 大学時代はフィルムのAF一眼レフカメラを使用しており、サークルの記録係を務めるなど加瀬氏にとってカメラは身近な存在だった。会社を移ることになる2003年に、オリンパスはフォーサーズ規格の第1号機となる「E-1」を送り出した。「E-1の登場で一眼レフカメラがデジタルに移行し始めた年でした。それまでカメラというと、ユーザーインターフェースよりも外装のデザインや性能が重視されていました。これからは、システム的な使い勝手をカメラの中に取り入れる時代が来ると思ったんです。だったら、自分もそれに関わってみたいとオリンパスを選びました」(加瀬氏)。


E-1

 オリンパスに入社後はデザインセンターに身を置き、一貫してカメラのGUIデザインを担当してきた。最初にGUIを手がけたのはコンパクトデジタルカメラの「μ-mini DIGITAL」(2004年発売)。その後しばらくコンパクトデジタルカメラのGUIデザインを行ないつつ、「E-500」で、初めてデジタル一眼レフカメラのGUIをデザインした。それ以来、ほぼすべてのEシステム(レンズ交換式デジタルカメラ)のGUIをデザインしてきた。

 「当時E-300を持っていたのですが、E-300のスーパーコンパネは対応する各キーを押さなければ値を変更できず、すごく不便に思っていました。ですからE-500のGUIデザインは、どうしてもこれを解決したいと開発への参加をお願いしたのです。変えたい場所の値をすぐに変えられる……マウスを使うPC画面のように、ダイレクトな操作性をイメージしていました」(加瀬氏)。

 その結果E-500からは、スーパーコンパネ上でカーソルが動き、従来より簡単に値を変更可能になった。そのほかにも、E-300では一眼レフカメラに合わせたダークトーンの色調だったGUIをE-500ではできるだけで輝度を上げたコントラストの高い配色にした。当時の液晶モニターでは、明るい屋外での視認性が悪かったためだ。しかしながら、一眼レフカメラらしい落ち着きも必要なためノウハウを重ねて落とし込んだものを「E-30」などで採用している。


E-300 E-300のスーパーコンパネ
E-500 E-500のスーパーコンパネ

 加瀬氏がE-P1のプロジェクトに参加したのは、カメラの形ができあがりつつある頃だった。「産休が明けてすぐにE-P1のGUIデザインに取り組みました。E-P1のコンセプトを聞いて、このカメラを担当できるのは正直ラッキーだと思いましたね。これまでとは全く違ったコンセプトのE-P1を見て、これだったらスーパーコンパネを作ったときのように新しいことができるのではないかと感じました」(加瀬氏)。

 スーパーコンパネは液晶モニター全面に表示するため、大きくて視認性は良かったがライブビュー表示を隠してしまう問題があった。ライブビュー表示を遮ることなく、設定値を変更することでどんな描写の変化が起こるのかしっかりと見えるGUIが必要だった。初期のデザイン案では、ダイヤルを模したグラフィックやバーを2段に重ねるアイデアを出した。「ただ、操作部材を目立たせることよりも写真をスッと撮れるUIこそ、このカメラに相応しいということになり最終的に直線的なデザインを採用しました。あまり奇をてらったデザインにするよりも良かったのではないかと思います」(加瀬氏)。ライブコントロールのような操作系を取り入れたいという声は、以前からさまざまな関係部署から上がっていたという。そうした意見が良い形でまとまったのがE-P1だったと加瀬氏は話す。

E-P1のスーパーコンパネ。一覧性は高いが、ライブビューを覆ってしまうのが難点

 片岡氏も、「スーパーコンパネの登場で、カメラの設定はより簡単になりました。ただし、設定を変更したときの仕上りをイメージできるのは、一部の写真に慣れている人です。写真の上手下手は、その設定が何を行なっているのかわかっているかどうかで差が付いてしまう部分もあったと思うんです。カメラに慣れていないユーザーは、設定を結局触らないで撮影してしまうことになります。ライブコントロールでは、操作と結果を結びつけたことで、従来カメラに詳しい人だけができた操作を、画面で試しながら簡単に撮影できるようになりました」と自負する。

 「写真を撮るという行為に対して、いままでは撮影することと設定することの間に凄く距離がありました。今回のライブコントロールで、もっと気軽に設定をしてもらえるようになったと思います」(加瀬氏)。

 さて、ライブコントロールのバー部分をよく見ると、グレーの背景にうっすらとグラデーションが掛かっているのがわかる。これは、真っ黒な被写体や真っ白な被写体であってもライブビューとの境界線を見やすくするための工夫だ。研究の結果、被写体の明るさや色がさまざまで合っても視認性が良くなることが判明した。

 「背景はグレー単色の方が設計やプログラミングの面では簡単です。しかしそれでは見た目がもったりしてしまいます。実際の撮影でグラデーションはほとんど感じることは無いかもしれませんが、それくらい自然に使ってもらえるGUIに仕上がったと思います」と加瀬氏。実は、もう1つこだわった部分がある、HDMI接続でテレビに出力した際のフォントだ。「これは凄く綺麗ですから是非見て欲しいです」(加瀬氏)。


ライブコントロール。ライブビューを見ながら設定ができる。よく見るとバーの背景がグラデーションになっている

 メニュー画面を始め、ほかにもチャレンジしたい部分は多かったという加瀬氏。しかし、「いろいろな部分に少しずつ食い込むよりも、ライブビューに特化しよう」という片岡氏の一声で、E-P1ではライブコントロールに集中することにした。この辺りは次期モデルでの進化を楽しみに待ちたい。

 「ペンは、今後シリーズとして展開していきます。E-P1のさまざまな部分をさらに進化させていかなければなりません。彼女たちも次の機種というのは常に意識しています。今回できたところ、できなかったところを次の機種に昇華させた形でつなげたいと思います。新機種の開発は順調ですので、是非期待していてください」(片岡氏)。

 デザインする上で参考にしているものは? の問いには、「まずインターネットと携帯電話ですね。それから、PCのソフトウェアも良くチェックしています。GUI以外では、街中のサインや公共施設の案内板などピクトグラムをよく観察しています」(加瀬氏)。特にiPhoneはくまなく使い込んでいるという。今後は、カメラをよく知るためにも、UIデザイン以外の仕事もしてみたいそうだ。また、カメラ以外の製品も手がけてみたいとのことだ。

 「E-P1は、愛着を持って長く道具として使っていただけるカメラに仕上がったのではないかと思います。ご自身だけではなく、次の世代にも自慢して渡せるようなカメラになれば嬉しいです。気に入ってる部分ですか? ありすぎて困ります(笑)。なかでも、アートフィルターのクォリティは手前味噌ながら凄く高いと思っていて一押しです」(加瀬氏)。アートフィルターは、ライトトーンとデイドリームをよく使うという。また、ドラマチックに撮りたいときはラフモノクロームを選ぶそうだ。「個人的には、広角系の単焦点レンズがあればモノクロを撮るときにいいかなと思っているんです」と楽しそうだ。


μ-mini DIGITAL

 E-P1の反響は大きいが、岩久氏同様に嬉しい反面怖いという。「μ-mini DIGITALのときは、自分の分身が世の中に出ていっていじめられるんじゃないかとドキドキしていました。以来慣れては来ましたが、それでも今回は怖かった。それだけに、使いやすいという声を頂くと泣きたくなるくらい嬉しいです」(加瀬氏)。

 ところで加瀬氏は、旦那様との購入協議の真っ最中でまだマイE-P1を手にしていないとのこと。一眼レフカメラはE-300とE-510を使っており普段はμ-mini DIGITALを愛用している。「以前は料理や風景なんかを撮ることが多かったんですが、今はダントツで子どもですね(笑)」(加瀬氏)。E-P1のカラーはシルバーが欲しいとのことだ。岩久氏もシルバーを気に入っていたが、色別の売れ行きはどうなのだろう?

 カラー別の男女比までは調査し切れていないとのことだが、出荷全体の3割をホワイトが占めるという。当初、ホワイトの割合は2割弱程度と予想してたそうだ。「男性はシルバーで、女性はホワイトというイメージもあったのですが、男性の方で白を買われる方や、女性でシルバーがいいという方が、我々が思っていたより多かったようです」(片岡氏)。

アクセサリーは今後さらなる充実を目指す

小松聰子氏。「E-P1のアクセサリーはこれからどんどん増やしていきます」

 最後にお話を伺ったのは、E-P1のボディジャケットやストラップなどアクセサリーを企画したイメージング事業本部SB推進部 市場開拓グループの小松聰子プロダクトリーダーだ。

 小松氏はオリンパスに入社してまだ1年余り。もともと商品企画という仕事に興味があり、“誰かが欲しいと思っているものを、きちんとした形にして世に出したい”という想いから生活雑貨の商品企画をしていたという。その後、カメラケースの企画に携わりたいと希望してオリンパスに入った。入社して最初に深く関わったのはE-620用の斜めがけロングストラップだ。ケースやストラップに関しては、E-P1の時点ではほぼ1人で担当していたが、現在では複数のメンバーが担当している。

 本革カメラジャケット「CS-10B」と本革ショルダーストラップ「CSS-S109LL」は、E-P1と同時に発売したが、まもなく想定を数倍も上回る受注が入った。8月の中頃から供給が追いつかなくなり、9月始めには品不足の告知をするに至ってしまった。

 「ボディジャケットとストラップを合わせると8千円強します。当初、このような価格のアクセサリーは多くは売れないというのが社内の声でした。ところが蓋を開けてみると、思っていた以上の注文があったんです。品薄なのが大変申し訳なく、今のところ自分のE-P1には別のストラップを付けています。現在は、供給が徐々に追いつきつつあります」(小松氏)。カメラ本体の売れ行きが良かったのもあるが、E-P1ユーザーのアクセサリー購入率がかなり高かったことも要因だった。同社のレンズ交換式デジタルカメラの中では最も高いそうだ。


本革ボディージャケットと本革ショルダーストラップ(ホワイト) 同ブラウン

 E-P1用のボディジャケットとストラップの開発が始まったのは2008年の暮れから。カメラの大きさや機能がほぼ決まり、発売予定時期の見通しが立った頃だ。カメラのコンセプトに基づき、ケースやストラップはどうあるべきか話を進めていった。

 年が明けるとプロジェクトを結成して本格的に開発が始まった。まず、社内のデザイナー十数人にE-P1というカメラの世界観を説明して自由にアクセサリーを発想してもらった。その際は、“小型のフォルムを活かすデザイン”という部分を強調したという。製品化には結びつかなかったが、「伸び縮みするバッグ」といったアイデアも出てきたとのこと。そうした中から、E-P1に相応しいものをピックアップし、製品化に向けた検討を行なった。

「ボディジャケットは革で覆おう部分が少なく、フォルムをきちんと作る技術的な部分で苦労しました」(小松氏)

 「カメラを使う人の日常にどれだけ入り込ませることができるかが、E-P1向けアクセサーの役目だと思います。とにかくE-P1を大切にしてもらえて、使う楽しみを加速させるためにどうすればいいか考えています。アクセサリーを付けることで、カメラを持ち歩く回数が増えたら嬉しいですし、友達に自慢してくれたらもっといいですよね(笑)」(小松氏)。

 このプロジェクトは実際に発売するアクセサリーを作るためのものだが、もう1つE-P1の新しい世界観を探すためのプロジェクトでもあった。そのため、製品化を見送ったアクセサリーも実際に形にしている。こちらは、強度などを考慮することなく、できるだけデザイナーの案に忠実に作った。「実際に製品化できるのは、皆さんが素敵だなと思う最大公約数でなければなりません。ですから、それ以外であっても、デザインとしておもしろいものは形にしました。イベントなどで関係者にお見せしています」(小松氏)。こうした試作品は好評だったとのことだが、実際に売れるコストで提供するのが困難であったり、また強度など安全性のクリアが難しいことから製品化の予定は無いとのこと。


試作品として製作したアクセサリー。今のところ製品化の予定はない
デザイナーによるボディジャケットの最終案。製品化の際に変更した部分があることがわかる

 一方の製品化したボディジャケットとストラップだが、デザイナーの最終案とはやや異なった仕上りになっている。安全性を考慮して金具を変更したり、製造行程の関係から本来一続きの部材を分割した部分などだ。「デザイナーの案を100%活かすのが理想ですが、やはりそれは難しくジレンマがありました。デザイナーのデザインを極力活かしながら、安全性などの基準をクリアしなければなりません。製品化の苦労といえますが、そこをくぐり抜けていくのも仕事のおもしろさですね」と小松氏は話す。

 「ボディジャケットとストラップの出来に関しては、小川(オリンパスイメージング イメージング事業本部の小川治男副本部長)からプラスの評価を貰っています。しかし、アクセサリーのアイテム数が少なかった点については『こんなもんじゃない。どんどん出していけ』ということになりました。アクセサリーを充実させるという当初の目標からはほど遠いというのが現状です。ここは大いに反省しています」(小松氏)。今後は、さまざまなユーザーに向けていろいろなシーンを提供できるようグッズのバリエーションを増やしていきたいという。「みなさんが、あっと驚くものは必ず出したいと思います」(小松氏)。今後のアクセサリー展開にも注目していきたい。


本革ショルダーストラップは、いわゆる「プロ結び」に対応しているとのこと(小松氏) ボディージャケットとストラップの色につてもさまざまな検討を行なった
小松氏が“弁当箱型カメラケース”と呼ぶ「CS-11」。オンライン限定で発売したところ1カ月半で完売した。「社内では、『こんなケースにカメラを入れる人はいないよ』と言われたのですが、強引に商品化したところ健闘しました(笑)」(小松氏)

 今回、アクセサリーの開発には別の苦労もあった。E-P1は新コンセプトのカメラとあって、社内でも情報管理が特に厳しかったそうだ。協力工場にボディジャケット依頼するときも、これまでは製品版に近い実機(プリプロダクト品)を渡してサイズを合わせてもらっていたが、E-P1に関しては形だけのクレイモデルだけで製作を依頼した。

 「プリプロダクト品を渡すことができれば、さらに精度の高いものができたのかもしれないという思いは少しありますね。E-P1は社内であっても、ほかの社員の目に触れないように移動したりと気を遣いました。機種名が決定してからも、今回は発表までコードネームで呼んでいたほどでした」(小松氏)。

 さて小松氏はアクセサリーの担当者とあって、普段から街往く人のカメラは日々チェックしているそうだ。「特にどんなカメラにどんなストラップを付けているのかは、相当観察しています。東急線沿線にはおもしろいカメラアクセサリーをした人が多いですね。ファッションとの関係もよく見ています」とのこと。自身はホワイトのE-P1を愛用中だ。

 「もともと写真が趣味だったわけではありませんが、前職がカタログ通販に関する仕事だったので写真が命でした。ですので、写真というものが単に風景を切り取ったものではないということは自覚していました。本格的に写真を撮り始めたのはE-P1を買った3カ月前からです。いろいろな“モノ”を撮影することが多いですが、なかなか写真が上達しないのが悩みですね。お台場のガンダムも撮りに行きました」(小松氏)。E-P1はツインレンズキットを買ったそうだが、ほとんどパンケーキレンズで使用しているという。


プロジェクトに参加したデザイナーからのイメージ提案の1つ。バッグの下部にカメラを隠せる構造とのこと

 小松氏は現在、仕事の傍らMBA(Master of Business Administration:経営学修士)の夜間コースに学んでいる。平日のほかに土曜日も授業があり、なかなかハードなのだそうだ。仕事をしていく中で、なぜこういうことをしないとビジネスが成り立たないのかを知りたくなったのが入学の理由という。

 「社会人になってから学ぶことで得られるのは、考えたことをアウトプットして形にするという訓練という部分が一番大きいです。そういう意味では、仕事の上で役立っていると思います。受講生の年代は30〜40代が中心ですが、多岐にわたる業界の人が集まります。例えば、前の会社では日本限定で仕事をしていましたが、オリンパスではワールドワイドで仕事をしなければなりません。そうしたときに、同じようにワールドワイドな視点で仕事をしている別の会社の同級生を見て、考え方のヒントを得ることもできます。また、自分より少し年上の受講生のキャリアを見ることで、こうやって進めばいいんだという参考にもなります」(小松氏)。

 全く違う業界の友人から受ける刺激も大いにあるという。「そのひとのバックグラウンドによって、ものの捉え方や考え方が全く違うということを身をもって知ることができます。ものすごく高額な異業種交流会に2年間通うような感じですね(笑)」(小松氏)。

 ところで、小松氏の現在の趣味はピアノとマンガとのこと。「インドアの趣味ばかりなので、アウトドア派の人がどんな気持ちで写真を撮っているのか知るためにも、アウトドアの趣味を作るのが今後の課題です(笑)」。




本誌:武石修

2009/10/30 13:25


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