写真展レポート

上野公園一帯で繰り広げられるフォトイベント「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」レポート

米田知子さん、鈴木理策さんらが屋外で作品を展示

ベネッセアートサイト直島をはじめ、自然や日常の中でアートを体験する場が徐々に広がっている。2013年から京都で始まったKYOTOGRAPHIEもその一つだ。

5月19日からは東京・上野公園一帯で、T3 PHOTO FESTIVAL TOKYOが開幕した。公園内の各所、さらに隣接する上野桜木にある古民家、ギャラリーで作品展示を行なう。また会期中には写真家、写真集出版社によるイベントも予定されている。まずは公式サイトで会場マップを入手しておこう。

さて、さまざまな歴史の舞台になった上野の地でどんな鑑賞体験ができるのだろうか。

会期:2017年5月19日金曜日〜5月28日日曜日
入場料:無料
時間:10時〜18時

ギャラリーで鑑賞者は作品と一対一で対話することになるが、屋外に場を移すと、そこには否応なく周囲の環境、その場の持つ力が入り込んでくる。それが作品の見方に新たな視点をもたらすとともに、今ある日常にも波紋をもたらす。

今回の展示テーマに設定したのは「Invisible Stratum –見えない地層–」だ。

「見過ごしてしまう風景に敢えて気づいてもらう。場所が持つ記憶みたいなものも、作品や展示そのものによって掘り起こされるかもしれない」と、このイベントのコファウンダー・速水惟広さんはいう。

この展示のキュレーションは小高美穂さんとフェデリカ・チオチェッティさん(イタリア)の共同で行ない、一級建築士の平井政俊さんが展示設計・デザインを担当した。作家が作品に込めた意図を読み解きながら、その声がより響く場所を探して落とし込んでいく。

JR上野駅の公園口を出た場所に宇佐美雅浩さんの作品が展示されている。1枚の写真に歴史の重層を取り込んだ「Manda-la」シリーズから、広島を捉えた作品を選んだ。原爆ドームを前で、被曝者とその二世、三世に集まってもらい、ワンショットで撮影した。被写体は総勢500名以上だ。

「まず、どこに展示するかを考えた」と平井さん。

日々、多くの人が足を運ぶ観光地だが、かつて一帯は寛永寺の境内が広がっていた。幕末、戊辰戦争の戦場となり、伽藍の大部分は焼失した。

忘却されていく歴史を捉えた1枚を、最も多くの人が行き交う場所の、大きな木の下に置いた。

鑑賞者は展示に誘われるように、園内を散策することになる。ほんの身近な場所にありながら、こうした機会がなければ足を踏み入れることのなかった場所にたどり着く。

展示の構造体には竹を使用した。軽くしなやかな素材であると同時に、かつてこの地には竹林があったことにも由来している。

サルバトーレ・ヴィターレ「How to secure a country」。スイスは巨大な軍事力を持つ永世中立国だ。このシリーズでは軍事機密である国境検問所を撮影した。展示した10点はアーチ状の竹でつながり、何かで1枚が揺らぐとその力は全てに伝わる。

米田知子「見えるものと見えないもののあいだ」。遠くからも目につくように4mの高さの竹を組んだ。鑑賞者の目を室内の展示では向かないであろう、上へと向かせる企みもある。

鈴木理策「水鏡」。水面を見つめることはどこを見ていることなのか。池の中の生き物か、水面の揺らぎ、きらめく光か。見ることを体感する提案でもある。

山本渉「光の葉」。園内に落ちていた楠の葉を採取し、フィルム上で高電圧をかけてその発光を撮影した。いわゆるキルリアン写真だ。外部からは見えない、葉脈内の水分が画像を生成する。

武田慎平「Trace(痕)」。福島第一原発で汚染された土壌を集め、フィルム上に置く。放射性物質が感光材に画像を浮き上がらせる。会場の市田邸は築100年を超す民家。「完成された庭園に、写真を展示するのは違和感があったので、桐箱に収めた。作品は見ても見なくても良い(笑)」と武田さん。ちなみに撮影もこうした箱の中で行われた。

会場の一つ、「上野桜木あたり」は1938(昭和13)年建築の三軒家。

宇佐美雅浩「Manda-la」。日本全国で歴史的、文化的に重要な場所を選び、撮影してきた。実際の撮影までに長い時間と労力がかかり、秋葉原で撮影したこの1枚もそうだ。作品は室内に少し斜めに置かれているが、写真の先には実際の撮影地がある。現実とリンクすることで、アートは鑑賞から体験へと深まる。

本展は2015年にART FACTORY城南島で開かれた東京国際写真祭の新たな展開となる。来年以降もこのエリアを舞台に、継続して開催していく計画だ。

企画展示のほか、東京国際写真コンペティション受賞者展「ORIGIN」が不忍池の下町風俗資料館前で行われているほか、5月26日17時半からはT3PHOTO PaS NIGHT(フォトパスナイト)!―写真集出版社によるプレゼンテーション&販売会―、28日には石川直樹さん、林典子さんらによるBe a Photographer 連続トークショー「写真のチカラ、写真家のチカラ。」などが開催される。

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。