写真展

2015東京国際写真祭レポート

著名写真家13名が出品する「私たちの世界の領域」 18日(日)まで

背景は西野壮平「CITIES TOKYO(collaboration with GOLIGA)」。会場ではプリント720枚の巨大集合体として展示されている。

東京で国内外の写真家が集い、作品を発表する場を作る。2013年に日米のコンペティションを立ち上げ、その翌年は欧州を加え、今年、本格的な国際写真祭「東京インターナショナル フォトグラフィー フェスティバル」として開催されるに至った。

「私たちの世界の領域」をテーマに、国内外から13名の写真家の作品を選んだ。またワールドワイドで公募した東京国際写真コンペティションの受賞者展も行なう。初日に開かれたレセプションには、出展作家をはじめ海外からの参加者も多く、インターナショナルの名に相応しい雰囲気を醸し出していた。

写真は現実の風景を使って、今の社会とどう向き合っているかを表すメディアだ。そこで人々は違いとともに、新たな共感を見い出す。そんないくつもの体験が、この会場には潜んでいるはずだ。

  • ・会場:ART FACTORY城南島
  • ・住所:東京都大田区城南島2-4-10(東京モノレール「流通センター」駅よりシャトルバスが運行)
  • ・会期:2015年10月9日金曜日〜18日日曜日
  • ・入館料:無料
  • ・時間:平日9時30分〜21時30分/土日祝日9時〜19時

情報・通信網、移動・交通手段が発展し、世界はより身近に、ボーダレスになりつつある。その境界が見えにくくなっているが故に、それがより世界を隔てる要因にもなっている。今回のメインテーマである「私たちの世界の領域 What makes us “us”」は、さまざまな境目を明らかにし、目を向けることを促す試みだ。

都市と自然、民族、境界、コミュニティーとカルチャーの4つの章に分け、作品をセレクトした。ただし、その章は全てが関連していることから、展示は敢えて区切りをつけず、鑑賞者が自由に回遊しながら見られるようにしている。

都市の章で展示された一つに、ホンマタカシの「都市へ - Camera Obscura Study」がある。東京・新宿にある一室をカメラに仕立て、外に広がる光景をフィルムに焼き付けた。窓に一点、穴を開けて、遮光した部屋をカメラオブスキュラにしたわけだ。

作者はこの作品について、「都市から都市を考察する」と評する。長時間露光で、普段見ていない視点で街を写し出す。本展で初めてお披露目する写真だ。

またアレハンドロ・チャスキエルベルグ(ブエノスアイレス)の「大槌未来の記憶」は、東日本大震災後、作者は偶然、この村を訪れた。津波で流された見知らぬ家族のアルバムを目にしたことで、この作品は生まれた。

作者は夜間、長時間露光で撮影した作品を制作しており、ここでもその手法を使った。露光する間、長い沈黙が続くが、「無音のうちに被写体と対話をしている感じを受ける」と作者は話す。

モノクロフィルムで撮影し、スキャンしたデータに画像処理で彩色する。その色は、流されたアルバムから抽出したものだという。

民族の章で、日本からは石川直樹の「まれびと」を選んだ。まれびと(異人)とは海を越えてくる来訪神、畏怖される異形の神を指し、それらの神を迎える儀式が日本各地にはある。

恵みとともに、時に災いももたらす存在を、先人たちは受け入れてきた。独特な様相とともに、日本の中の未知なる部分に出会う。

スイス人とギニア人のハーフであるナムサ・レウバは、ギニアの宗教儀式や風習をテーマに「Ya Kala Ben」を制作した。作者が写真に収めた光景は一見何かの儀式に見えるが、身の回りのものを使い、儀式風に設えたポートレートだ。ユーモラスにも、シニカルにも、いかようにも取れる作品になっている。

境界の章では、リウ・ボーリン(中国)の「Hiding in the City」が目を惹く。漫然と眺めると、ただの風景に見過ごしてしまいかねないが、そこには作者が潜んでいる。合成ではなく、全身に背景と同じペインティングを施し、実際に撮影したものだ。

急激な変化を遂げる社会を捉えたアイロニーでもあり、実態が見えにくい中国の姿を現しているようでもある。

特別展示では、コラージュで都市を再構築する西野壮平の「CITIES TOKYO(collaboration with GOLIGA)」を出品。作品を構成する1点ずつの写真は、作者が実際に都市を歩き、撮影したものだ。スナップショット、ビルの屋上などからの俯瞰写真などを制作し、地図上に嵌め込んでいく。本作品の撮影は2014年秋から約2ヵ月半かけて行なった。

東京国際写真コンペティション受賞者展には7名の作品が並ぶ。一つ一つの写真の密度が高く、そこに世界の基準を知る。また個人的な内面よりも、社会に目を向けた作品が占めている。

空に浮かぶ家を映像に定着させたローレント・シェエーレ(フランス)の「Get Close」、ローレンス・ラスティ(イラン)はアイデンティティとジェンダーと国家の関係を問う。

境界が明確になることで、遠くにあった国が身近に感じられる。また、これまで持っていた自らの写真の視座に、新しい視点が加わる。そんな体験が期待できる空間だ。

イベントなど最新の詳細やシャトルバスの時刻は公式ページで確認できる。

(市井康延)