写真展

萩原義弘写真展「SNOWYⅡ the frosty hour」

(ギャラリー冬青)

©Yoshihiro Hagiwara

 もう20年以上前の事だが、今でも昨日のことのように思い出す事がある。厳冬の下北半島を旅しながら撮影していて、突然の地吹雪に遭った。東京暮らしの私には歩くのも困難で、咄嗟に目前にあった廃工場に逃げ込んだ。廃工場は長く使われていない様子で、窓ガラスはなくなり壁はコンクリートがむき出しの状態だった。壁の上の方まで雪がこびりつき、建物内は外と変わらないくらい寒く、まるで巨大な冷凍庫の中にいるような感じだった。建物内を見回すと、ひび割れた床の僅かな土から若木が生えていた。何年もかけやっと成長したのだろう若木は雪に覆われ、時々風で揺れていた。また、機材搬入用だろうか、額縁のように見える大きな入口から、吹雪の中に立つ樹形の良い木が見えた。それらの光景はとても美しく、私は寒さを忘れて夢中でシャッターを切っていた。東京に帰り調べてみると、そこは戦時中に砂鉄を製錬していた工場だった。

 この時の体験が、忘れかけていた冬の夕張での撮影のことを思い出させた。炭鉱マンの黒い顔と対照的だった白い雪に覆われた炭鉱の風景。そんな炭鉱のイメージが再び現れた。そして、その冬から「SNOWY」の撮影が始まった。

 かつて人々で賑わった炭鉱や鉱山跡は、閉山し年月が経つと、草木が生え自然に還っていく。冬場、スノーシューを履いて、美しい白銀の世界をひたすら歩き、撮影場所に辿り着く。そこで思いがけない雪の光景が私を出迎えてくれる。自然と時間が作りだす造形は、時には美味しそうな砂糖菓子の様であったり、また得体の知れない生き物の様に見えたりする。そんな不思議な造形に、感動したり驚かされたりして、しばらく写真を撮るのを忘れてしまうこともある。

 冬場の天気は変わりやすい。夜、月明りで撮影していると、急に曇ったり、雪が降ってきたりする。長時間露光の間に目まぐるしく変わる気象条件も加わり、それが1枚の作品となる。遠くからシカやフクロウの鳴き声が聞こえ、時にはキツネやタヌキが近くを歩いているのに気が付く。そして、自分自身の存在自体が自然と一体化していくように感じられる。

 被写体と対峙していると施設の跡や主のいない炭鉱住宅が賑やかだった頃が脳裏に浮かんでは消えていく。私は、炭鉱や鉱山跡を廃墟だとは思っていない。人々が去り、たとえ朽ち果てようとしていても、そこには人々の存在が残っていると思う。人の記憶は次第に薄れ、やがてなくなってしまうだろう。しかし、撮影し作品化することで、少しでもその記憶や存在を留めることができるのではないだろうか。そして、日本の近代化や戦後復興に貢献してきた産業の証として後世に伝えることができると思う。

 春の訪れと共に消え去る一冬限りの風変わりな光景。私が撮影しなければ、もう二度と見ることができない風景でもある。

(写真展情報より)

  • ・会場:ギャラリー冬青
  • ・住所:東京都中野区中央5-18-20
  • ・会期:2014年10月3日金曜日~2014年10月25日土曜日
  • ・時間:11時~19時
  • ・休館:日曜日・月曜日・祝日

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