写真展

奥山淳志写真展「あたらしい糸に」

(ニコンサロン)

いまから10年ほど前、作者が岩手県の雫石町に移住してから数年たった頃のことだ。「東北」という土地が内包する世界を見たいという思いで、各地の祭礼行事を訪ねることになった。

その頃の作者は、東北の祭礼に興味を抱く多くの人たちと同じように、目の前で繰り広げられる祭礼の営みのなかに「まだ見ぬ遠い世界」や「憧れ」を見つけようとした。それはたとえば「縄文」であったり、「連綿と続く共同体の神話」であったりした。そして、そこには確かにその類の匂いもあり、甘美でもあった。もし、東北で生きることを決心していなかったならば、そこで見つけた「遠い世界」に身を委ね、心地良くシャッターを切ることができただろう。

しかし、作者は東北の同時代を生きる者として、見るべきことはもっと別なところにあるような気がした。それは、いま、祭礼はどういうものなのかという現実的な問題だった。いうまでもなく多くの祭礼は形骸化している。遠い時代から信じられてきた大いなる物語は、すでに消えてしまっているのだ。簡単に言えば、祭礼は役目を終えた。そういう風に作者には思えた。実際、行われなくなった祭礼も数多くあった。しかし、その一方で、何とか頭数を集めながら変わらぬかたちで祭礼を続ける人たちの姿も多くあった。そんな人たちの姿は、作者に根本的な疑問をもたらした。

“物語を失った祭礼をなぜ続けるのだろうか?”その日から作者は、この問いの答えを探すべく、祭礼を訪ね歩いた。

そして、今、作者はひとつの仮説に近い答えをつかんだような気がしている。大いなる物語の代わりにこの地に暮らす人が探し出そうとしているものは、今の時代を生きる自分たちが、これからもこの土地で生きていくための新たな世界観ではないだろうか。彼らは、新たな糸をつむぐように、新しい世界観を仲間とともに見出し、物語を失い、空になった祭礼という器に満たそうとしているのではないだろうか。

あたらしい糸。紡ぎ出されたその先を作者は見続けていきたいと思っている。

カラー約40点。

(写真展情報より)

会場・スケジュールなど

  • ・会場:銀座ニコンサロン
  • ・住所:東京都中央区銀座7-10-1STRATA GINZA(ストラータ ギンザ)1・2階
  • ・会期:2015年8月26日水曜日~2015年9月8日火曜日
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

作者プロフィール

1972年大阪府生まれ。京都外国語大学卒業。95年から98年まで東京で出版社に勤務した後、98年に岩手県の雫石町に移住し、写真家として活動を開始。以後、雑誌媒体を中心に北東北の風土や文化をテーマとした作品を発表するほか、近年は、フォトドキュメンタリー作品の制作を積極的に行っている。

写真展(個展・グループ展)に、2005年「旅するクロイヌ」(up cafe/岩手)、06年「Country Songs ここで生きている」(ガーディアン・ガーデン/東京、GALLERYヒラキン/岩手) 、08年「明日を作る人」(新宿ニコンサ口ン)、09年「今、そこにある旅(東京写真月間)」(コニカミノルタプラザ/東京)、10年「Drawing 明日をつくる人 vol.2」(TOTEM POLE PHOTO GALLERY/東京)、12年「彼の生活 Country Songsより」(銀座ニコンサロン、大阪ニコンサロン) がある。

著作に、03年『岩手旅街道』(岩手日報社)、04年『手のひらの仕事』(岩手日報社)、06年『フォト・ドキュメンタリー「NIPPON」』(ガーディアン・ガーデン)、12年『とうほく旅街道』(河北新報出版センター)がある。

このほか、「季刊銀花」(文化出版局)、「アサヒカメラ」(朝日新聞社)、「ソトコト」 (木楽舎)、「家庭画報」(世界文化社)、「風の旅人」(ユーラシア旅行社)、「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)、「Ways」(JAFMATE社)、「北東北エリアマガジンrakra」(あえるクリエイティブ)、「トランヴェール」(JR東日本) などで作品を発表。JRフルムーンポスターを手がける。

また、06年に写真展「フォト・ドキュメンタリー「NIPPON」2006」(ガーディアン・ガーデン)の写真家に選出された。

(本誌:河野知佳)