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オリンパスとソニー、共同コラボの衝撃
AIR×MESH 仕掛け人によるパネルディスカッションをレポート
Reported by 伊藤浩一(2016/3/11 12:28)
デジタルの世界で、徐々にオープンソースが浸透しつつある。特に異業種とのコラボ企画により、オープンソースを利用して、様々なサービスや製品がローンチしている。その中でも、異色のコラボ企画が発表された。オリンパスのOLYMPUS AIR A01とソニーのMESHのコラボだ。
オリンパスのOLYMPUS AIR A01は、マイクロフォーサーズセンサーを搭載したレンズ交換式のファインダーレス・スマートフォン連動カメラ。オープンプラットフォームカメラということもあり、ユーザーやデベロッパーが開発などに参加できるユニークなカメラだ。
ソニーがリリースしているMESHは、無線でつながる小さなブロック形状の電子タグを組み合わせる製品となっている。ソニーの新規事業プロジェクトからクラウドファンディングにより実現できた製品だ。こちらもオープンソースとして、仕様やソースを公開する製品となっている。
この2つのオープンなプロダクト同士で、共同のコラボ企画「MESH×OLYMPUS AIR」を実施することになった。レンズ型カメラという場所を選ばずにフリースタイルで撮影できるOLYMPUS AIR A01と、小型ブロック形状の電子タグMESHが組み合わされることで、面白い利用方法を生み出せるだろう。
基本的な活用方法としてはMESHの電子タグを制御するiOSアプリ上に、OLYMPUS AIR A01のシャッターと連携するアイテムが追加されているので、MESHの電子タグの操作で、OLYMPUS AIR A01のシャッターを制御することが可能になる。様々な電子タグ(ボタンを押す、明るさを感知、LEDライトを発光、など)により、OLYMPUS Air A01のシャッターを押す動作を実現できる。
しかしながら、このニュースの一報を聞いた際に、オリンパスとソニーという、カメラ事業部を持つ両社でコラボ企画が可能なのか、と驚きが隠せなかった。
MESHは、ソニーの新規事業創出プログラムから生まれたとは言え、開発元のソニーはαシリーズやCyber-shot(サイバーショット)などのカメラをリリースしており、オリンパスもマイクロフォーサーズ規格のOM-DシリーズやPENシリーズなどを意欲的に展開している。
そのような2社が、共同のプロジェクトをスタートしたことは大ニュースだろう。
企画担当者によるパネルディスカッション
この共同コラボ企画の発表イベント「MESH×OLYMPUS AIR コラボレーション発表イベント オープンイノベーションのはじめ方とつながりのデザイン」が3月9日、都内のFabCafe MTRLで行われた。
イベントでは、MESHとOLYMPUS AIR A01についての製品およびプロジェクト紹介の後に、コラボレーションに至る点までを言及するパネルディスカッションが行われた。
登壇者は、ソニー株式会社 新規事業創出部 MESH projectリーダー 萩原丈博さん、オリンパス株式会社 技術開発部門 モバイルシステム開発本部 画像技術部 研究1グループ 石井謙介さん、株式会社ロフトワーク プロデューサー 松井創さんの3名。司会をつとめたのはローフトワークの石川真弓さん。
司会:MESHとOLYMPUS AIR A01の最初の出会いはいつだったのでしょうか?
荻原:最初の出会いは、ロフトワークのイベントで実現しました。
筆者注:ロフトワークとは、オープンコラボレーションを通して、Web・コンテンツ・サービス・コミュニケーション・空間などをデザインするクリエイティブエージェンシー。クリエーター、デザイナー、企業の多くが参加して、様々なプロジェクト、製品を生み出す場を創出している。
荻原:OLYMPUS AIR A01の「OPC Hack & Make Project」の初期の活動段階でした。MESHも、クラウドファンディングを実施している時期で、このMESHとOLYMPUS AIR A01が繋がると面白いと思いました。
筆者注:「OPC Hack & Make Project」とは、OLYMPUS AIR A01の発売前、発売後に行ったデベロッパーやユーザー向けのイベント。オープンプラットフォームでの開発を促す活動)。
石井:荻原さんと出会い、2015年の秋に飲み会で打ち合わせを行いました。その際に、2015年末に出せる手ごたえを感じました。
松井:両社が出会ったのは、ロフトワークが行っているオープンコラボレーションサロン(企業同士の繋がりを検討する会)です。その際に、MESHとOLYMPUS AIR A01の背景として、商品の目指すメッセージ、つまり、オープン志向である点が同じでした。技術的な問題は別にして、MESHとOLYMPUS AIR A01が繋がる予感がしました。
司会:ソニーとオリンパスの両者で、最初の出会いで繋がる予感があったとのことですが、企業として、共同コラボ企画を行うことに、障害はなかったでしょうか?
石井:オリンパスには、MESHのようなデバイスがありませんでした。OLYMPUS AIR A01のコンセプトであるOPC(オープンプラットフォームカメラ)は、デベロッパーや個人だけでなく、企業間でもオープンにすることが重要で、平等にオープンであるべきと考えています。オープンな状況で、製品同士が繋がるのであれば、それをユーザー任せにするのではなく、まず、企業がやるべきと考えました。熱意でオリンパス社内を説得しました。
荻原:MESHとOLYMPUS AIR A01とをコラボする企画について社内で説明を行いました。ソニーにもデジカメがありますが、MESHは新規事業としてやっているので誰でも使えるプラットフォームにするという方向性がありました。つまり、コンセプトに共感する企業やユーザーと一緒に世界を作っていきたいと考えています。コンセプトと目指す点が近いOLYMPUS AIR A01と組むことを社内説明を行いました。社内の説得としては、MESHはソニーの新規事業活動として会社がサポートしているので、他社のカメラデバイスとの連携に関して了解を得ることができました。
司会:MESHとソニーのカメラが連携することも可能だと思いますが、そのような選択肢はなかったのでしょうか?
荻原:MESHとソニーカメラの連携も可能ですが、OLYMPUS AIR A01がオープンで活動しているので、オープンソースであるMESHと相性が良くなっています。MESHとOLYMPUS AIR A01の距離感が一番近く感じました。
司会:MESHもOLYMPUS AIR A01もオープンにすることのメリットとデメリットがあると思いますが、いかがでしょうか?
石井:技術情報としてパテントが必要な部分は主張していますが、それ以外で共有できる部分はオープンにするコンセプトになっています。オープンにすることで、様々な業種やユーザーが参加でき、企業だけでは開発できない新しい取り組みが可能になっています。
荻原:MESHでやりたい世界というのは、文房具、家具、身の回りにあるもので自由に新しいものを作るという世界です。従来の製品は、紙や木や金属や道具などで制作はできますが、デジタルで何かを作ろうとすると難しいのが現状です。技術が人に歩み寄れば、デジタルで新しいものを作る世界の実現が可能です。しかし、この世界を実現するためには、一社だけではできません。他の会社やコミュニティーが必要となります。つまり、オープンな活動になっていきます。
松井:今後は、オープンイノベーションに語る場が増えていくと思います。まだ始まったばかりです。参加者の多様性を増やす必要があります。このようなオープンイノベーションに企業が参加することへのネガティブな要素はありません。企業と企業が繋がるのは良いと思います。
司会:今後の展望としてはいかがでしょうか?
石井:OLYMPUS AIR A01というオープンプラットフォームカメラを世の中に出して、オープンであることを実現できました。多様なデベロッパーやユーザーが参加しています。しかし、プラットフォームをオープンにするだけで終わりではなく、会社に利益を出したいと考えています。
萩原:MESHはいろいろな使い方ができますが、何に使えるか難しい製品です。そこで、今後は、MESHの活用事例を集めたレシピを共有していきます。例えば、会議室の空き状況など、会議室にMESHを配置することで活用ができます。生活、仕事、社会に活用していきたいと思っています。
萩原:オープンソースは、どの会社でもできることだと考えます。どの会社にも社内に良いリソース、人材があります。MESHとOLYMPUS AIR A01の共同コラボは、オリンパス石井さんと共感して実施していきます。
AIR×MESH 未来を感じさせる利用例
パネルディスカッションの後は、会場にて、OLYMPUS AIR A01とMESHの連携活用例のタッチ&トライが行われた。MESHの使いやすいUIにより、MESHとOLYMPUS AIR A01が連携して、普段撮影できないようなシーンを実現してしまう様子に、未来を感じることができた。
それぞれの製品でオープン志向を推進したい両社が同時期に出会ったのは、幸運だろう。出会いの場として、オープンイノベーションの場を企画したロフトワークの存在も欠かせない。また、それぞれの担当者が明確なビジョンを持ち、オープン志向を目指すことで、新しい未来を構築しようとしている方向性に互いに共感したことも、共同コラボ企画を実現できた原動力といえる。
一企業内では実現できない新しい世界を、同じビジョンを持つ同士、持つ企業同士により実現する、というのは、新しいプロダクトやサービスを実現する方法として、今後重要になっていくことを実感できたイベントだった。