サンディスクの改竄防止メディア「SD WORM」が警察庁に採用

~100年間の長期データ保存が可能

 サンディスクは23日、改竄防止機能と100年間のデータ保存が可能なSDメモリーカード「SD WORM(ワーム)カード」について、警察庁から大量の採用があったと発表した。

SD WORMカード同背面

 SD WORMカードは、改竄防止と100年のデータ保存を特徴とする特定業務向けSDメモリーカード。すでに1月から出荷しており、警察庁をはじめワールドワイドで2010年第1四半期に80万枚を出荷した。同社のOEM事業として展開している。

 特殊用途のため、一般のユーザーは購入できない。SD WORMカードの大量採用は日本が初めてとなる。この実績を踏まえ、サンディスクは今後SD WORMを世界展開する。

 “WORM”とは「Write Once Read Many」の略。書き込みは1度だけでき、読み込みは何度でもできる。対応するデジタルカメラでのみ書き込みが可能となっているが、読み込み時は一般のSDメモリーカード対応機器で可能。容量は1GBで、1モデルのみのラインナップ。価格は非公開だが、同容量の一般向けSDメモリーカードの3倍程度になるとしている。

 SD WORMカードを使用して撮影すると、記録画像には瞬時にロックが掛る、カメラやPCなどの手段を問わず一切の削除、改変、上書き、名前の変更、画像情報の変更などができなくなる。カードの初期化も不可能。SD WORMカードに書き込めるのは対応ホスト機器だけのため、高い画像真正性(そのカメラで間違いなく撮影し、改変が無い事実)が要求される科学捜査、法医学などの証拠写真記録として使用可能。従来、真正性を保つ理由から警察関係などでは写真撮影にフィルムを使用していたが、SD WORMカードによりデジタルカメラに移行できるとする。同社によると、こうした特徴を備えたフラッシュメディアはSD WORMカードが唯一という。

サンディスクOEM製品マーケティングディレクターのクリストファー・ムーア氏

 日本の法廷では従来、写真を証拠にする場合はプリントとフィルムの双方を提出しなければならなかった。サンディスクによると、SD WORMカードは裁判においてフィルムと同等の証拠能力を発揮するとしている。同社によると、フィルムカメラやフィルムは入手製が悪くなっているほか、現像までに時間が掛る、長期保存で退色が発生する、カメラの取り扱いが比較的難しいといった欠点があるという。デジタルカメラを使用することで、大幅な時間とコストの節約ができるとアピールする。

 同日都内で開催した発表会には、サンディスクOEM製品マーケティングディレクターのクリストファー・ムーア氏が来日。SD WORMカードの概要を説明した。

 SD WORMカードはサンディスクが2年前に開発を発表した記録メディア。当初は容量128MBで、コンセプトの証明といった目的だったが、その後パートナーやユーザーとともに開発および検証を推進。今回の大量採用に繋がったという。


「改竄不可」と「100年保存」が特徴基本構造。コントローラーとメモリーチップのコンビネーションで左記の特徴を実現したとする
東海大学医学部付属病院 診療協力部臨床法医学科 臨床検査技師の坪井秋男氏の評価

 サンディスクでは、メモリーコントローラーとメモリーチップのコンビネーションとなるシステムに独自技術を盛り込むことで改竄防止機能と100年に及ぶ記録が可能になったという。「メモリーチップ、コントローラーの開発、製造から最終組み立てまでを一貫して行なえるサンディスクの強みが活きている」(ムーア氏)。

 長期保存に関しては、「半導体をどのように管理すればよいか研究した結果」(ムーア氏)としている。なお、SD WORMカードは常温で保管することで100年間の記録が可能。カード自体の使用温度範囲や耐湿性などは一般向け製品と変わらない。なお同社の一般向けSDメモリーカードは、少なくとも100年も持つことはないとのこと。

 デジタルカメラの一部には、画像そのものに対してPCから真正性を検証できる機能を持つ機種もある。SD WORMカードがそれらのシステムと異なるのは、SD WORMカード内に唯一となるオリジナルデータを記録できる点。画像自体に真正性検証データを付加してしまうとリサイズなどもできなくなるが、SD WORMカードで撮影していれば用途に合わせて拡大縮小を行なったとしても、SD WORMカードがあたかも“フィルム原板”のように残るため、後からSD WORMカードを提出して真正性を担保できる。また、SD WORMそのものをアーカイブとして保存できることや誤って画像を削除してしまうことが無いのもSD WORMカードの利点となる。

 東海大学医学部付属病院 診療協力部臨床法医学科 臨床検査技師の坪井秋男氏は、「SD WORMを使用することで日常業務が効率的になり、トータルのコストが80%削減できた」とのコメントを寄せた。また坪井氏は、フィルムやプリントを保管するスペースも減らせることなどもメリットとして挙げている。「カード単体では一般品に比べて高価だが、そのコスト削減効果を考えて欲しい。数値化は難しいが、警察官がより捜査そのものに注力できるという効果もある」(ムーア氏)。


一般向け製品の「Extremeシリーズ」(左)との比較。表は3段のメモ欄がある。一見、通常品と変わらないが、よく見ると書き込み禁止スイッチが書き込み可能側に固定されている。ただし、対応ホスト機器でないと記録は一切できない

デジタルカメラ4機種がSD WORMカードに対応

 現在利用できるSD WORMカード対応ホスト機器は、ニコン「D90 WORM」、富士フイルム「FinePix F200EXR-K」、ペンタックス「K20D-W」、同「Optio W80-P」。いずれも静止画のみ記録可能で、SD WORMカード使用時は動画や音声のみの記録はできない(Optio W80-Pは音声記録も可能)。なお、一般的なSDメモリーカードを挿入すれば、通常モデルと同様のカメラとして使える。これらのカメラも特定ユーザー向けに供給されているため、一般ユーザーは購入できない。

ニコン「D90」ベースの「D90 WORM」のカタログ
富士フイルム「FinPix F200EXR」ベースの「FinPix F200EXR-K」FinPix F200EXR-Kのカタログ
ペンタックス「K20D」ベースの「K20D-W」
ペンタックス「Optio W80」ベースの「Optio W80-P」Optio W80-Pのカタログ

 なお、発表会場にはSD WORMカード対応のオリンパス製ICレコーダー「LSシリーズ」(型番未定)が参考出品されていた。裁判での証拠を前提とする証言録り、調書録りのほか、法廷記録、遺言記録などの用途に向ける。企業、官公庁、マスコミなど法的証拠能力が必要な音声記録分野も想定している。今後は、医療記録、建設関係、保険関係、経理関係、司法書類記録、不動産記録、在庫記録、電子投票などの分野も見込んでいる。

オリンパス製のICレコーダー「LSシリーズ」(参考出品)LSシリーズのカタログ

 上記以外のパートナーとも協業を進めているとしており、今後対応機器が増える予定という。SDカードを選んだ理由をムーア氏は、「世界で最もボリュームが出ているフラッシュメディアだからだ。CFなどほかのメディアも検討はしているが、今回は第1弾としてSDメモリーカードでリリースした」とする。

 SD WORMカードに電源が供給されると、まずリードオンリーの状態で起動する。対応ホスト機器がSD WORM内部のレジスターを読むことで、カメラ側がSD WORMカードを認識する。SD WORMカードだと確認ができるとロックが解除されて書き込みが可能になる仕組みだ。そのため、PCにSD WORMカードを接続するとROMメディアのように認識される。

SD WORMカードをUSBカードリーダーを介してPCに接続したところ。一般的なメモリーカードと同様に表示される画像を消去しようとすると警告が出て消すことはできない

 すべてのSD WORMカードには一意のIDが付与されている。そのため、ホストはタイムスタンプなどによりカードのIDと写真をリンクできる。これにより、オリジナル画像がどのカードに記録されているかを容易に探すことができる。

 SD WORMカードは、SDアソシエーションの「ワンタイムプログラムタスクフォース」のスペックに準拠しているという。まだSDアソシエーションとして批准したわけではないとのことだが、サンディスクとしては批准を希望しているとのこと。「SD WORMカードのスタンダードな使い方を構築したいと考えている」(ムーア氏)。

 なおSD WORMカードとホスト機器との通信プロトコルはSDアソシエーションが規定しているという。ただムーア氏は、競合メーカーがSD WORM同様のメモリーカードを開発することは、サンディスクが持つ知的所有権からみて難しいのではないかとする。改竄防止と100年保存を実現するキーテクノロジーは、通信プロトコルとは別な場所にあるからだ。ムーア氏は、「SD WORMカードの“ような”製品が他社から出ても、政府機関が採用したいと思うクォリティにはならないのではないか」と自信を見せる。

米国の警察機関によるレポート映像も上映した

 なお、一般向けライトワンスフラッシュメモリーの投入については、「今はSD WORMカードがエキサイティングと捉えており、こちらに注力していく」としており、具体的な計画は無いとする。また、無線LAN機能搭載のメモリーカードについても現時点での計画は無いとしている。

 Write Once Read Many(WORM)は、特に米国などではテープメディアなどで一般的な概念。ムーア氏によると、今回WORMメディアが半導体の世界に入ったのは初めてという。「アナログフィルムの安全性とデジタルの簡便性を備えている」(ムーア氏)。

 事件後に犯行現場などを撮影する鑑識用途としては、デジタル一眼レフカメラが使われているという。一方で、「SD WORM対応のコンパクトデジタルカメラは、警察官が犯行が行なわれたときにその場所で撮影する、という使い方もできるだろう。ざまざまな応用の可能性がある」(ムーア氏)とする。

 またムーア氏は、「昨今ラテンアメリカや東ヨーロッパでは、店舗が電子的なレシートを残さなければならないという法律ができています。このレシートは改竄があってはいけないし、税当局の監査があるので長期間保存しなければならない。こうしたマーケットも有望」と海外の状況を説明。

 そのほかムーア氏によれば、医療分野で米国の企業と協業を進めているとする。医療画像をSD WORMカードに収めるという計画で、患者1人1人が自分の医療記録を収めたSD WORMを持つというものだ。医療画像を改竄されることなく保存できるので、医者、患者双方が安心して使うことができるとのこと。

 現段階では対応していない動画記録については、今後検討していくという。監視カメラ(CCTV)の映像記録などは可能性のある分野とする。

 「SD WORMカードの究極の使い方はまだ見つかっていません。我々も気付いていない使い方が、今後ユーザー側から挙がってくるのではないでしょうか。それは楽しみなことです」(ムーア氏)。

サンディスクの革新性の表れ

サンディスク日本法人社長の小池淳義氏

 サンディスク日本法人社長の小池淳義氏は発表会の席で、「SD WORMは2008年の初出荷からユーザーに検証して貰った結果、評価していただけた。今後各方面に広がっていくことを願う。SD WORMはサンディスクの革新性を表す好例でもある」と述べた。

 なお、2009年の売上比率はリテールと法人が半々だったという。法人向けビジネスのうち、イメージングおよびゲーム向けのフラッシュメモリーは全体の12%を占めている。


SD WORMカードに限らず、サンディスクはメモリーカードを一貫生産している
法人向けビジネスの内訳フラッシュメモリ市場の成長予測。今後3年で5倍になるとする



(本誌:武石修)

2010/6/24 13:08