キヤノン、2009年「写真新世紀」グランプリを決定


 キヤノンは20日、2009年の「写真新世紀」グランプリ選出公開審査会を東京都写真美術館で行なった。同美術館で29日まで開催中の「写真新世紀 東京展2009」のグランプリを選出する審査会で、会場には事前申し込みをした150名が観覧に訪れた。

 写真新世紀は、写真表現の新たな可能性に挑戦する新人写真家の発掘・育成・支援を目的とした公募コンテスト。キヤノンが1991年より主催している。今回は4月14日から6月11日まで応募を受け付けていた。

作品展示を行なう地下1階展示の様子

 審査会は、優秀賞受賞者5名が15分ずつ作品のプレゼンテーションを行ない、質疑応答ののち、審査員が別室でグランプリを選出する。審査員は、写真家の荒木経惟氏、写真評論家の飯沢耕太郎氏、森美術館館長の南條史生氏に加え、ゲスト審査員としてアートディレクターの榎本了壱氏とフォトグラファーの蜷川実花氏を迎えた5名。優秀賞は5名の審査員が1名ずつ選出した。

 写真家の篠山紀信氏の事務所にいたという杉山正直氏は、中南米12カ国を旅しながら撮影し、「オレハ・オララ」と名づけた作品で優秀賞を受賞。「背景が変わってもずっとそこにいる自分」がコンセプト。「僕は僕の作品の一部」をテーマに、腕を伸ばした自分撮りの姿勢で全ての写真を撮影した。写真の中で必ず横を向く理由を「自分の後ろに薄い壁ができてしまう気がするから」と語った。

杉山正直氏。このとき撮影した写真を次回作の1枚目にするという杉山氏を選出した榎本了壱氏

 作品についてニュース仕立てのプレゼンテーションを行なった安森信氏は、地元山口県長門市の現役で働く60歳以上の女性30人を撮影した作品「女性賛歌」を制作。母の働く姿を写真に収めてこなかったことに対する後悔がきっかけだった。30人の撮影は、撮影したモデルに次のモデルを紹介してもらうという形式で進めた。アポイントの当日に撮影へ向かうと、皆おしゃれをして待っていたという。

 安森氏は過去数回にわたり、様々な表現に取り組みつつ写真新世紀に応募していたが、優秀賞に選ばれたことはなかった。安森氏を選出した荒木経惟氏は、真正面から被写体を撮影した今回の作風に対し「こういう写真は被写体が表現してるから表現はいらない」とコメント。試行錯誤の末に「原点に立ち返った」という安森氏の姿勢も評価していた。

ニュース風のプレゼンテーションを行なった安森信氏荒木経惟氏

 作品「コロニー ※colony=繁殖のための群れ」で飯沢耕太郎氏が優秀賞に選出した高橋ひとみ氏は、ホームビデオに映った過去の自分などをスチルカメラで撮影。編集中の心情を「自分が逆成長するよう」と語った。写真に撮って映像を静止させることにより、その対象がより見えてくるのだという。榎本了壱氏は、ホームビデオの映像を写真に撮る手法を「トランスレーション」と表現し、その面白さを評価した。

高橋ひとみ氏飯沢耕太郎氏

 クロダミサト氏の作品「He is ….」は、自身が交際していた男性と過ごした時間がテーマ。愛する人と過ごした時を、写真という手法で止めたかったという。クロダ氏が大学1年生の頃から写真を見ていた飯沢耕太郎氏は、ポートフォリオなどの作品作りにおいて「時間の掛け方や組み方が丁寧」と印象を語った。

クロダミサト氏クロダ氏を選出した蜷川実花氏

 自分の身近な人々の顔写真にブラシで作った絵を合成した作品「1/2」(ハーフ)で優秀賞を獲得したアダム・ホスマー氏は、「写真は一瞬しか見えないが、後から絵を乗せることで想像の世界に入ることができる」と作品の着想を語った。身近な人間の顔にスクラッチのような絵を乗せることに対して審査員ごとに様々な意見が出たが、榎本了壱氏はこれもアートの行為であるとまとめた。

アダム・ホスマー氏ホスマー氏を選出した南條史生氏

 審査の結果、グランプリはクロダミサト氏の「He is ….」に決定。賞金100万円と副賞の「EOS 5D Mark II、EF 24-105 L IS U レンズキット」を進呈した。蜷川実花氏は、もちろんグランプリがより好ましいけれど、優秀賞に選ばれた時点でみな素晴らしいとコメント。南條史生氏は、「写真の定義を変えさせるようなものを見たい」と今後の写真新世紀への期待を語った。グランプリを受賞したクロダミサト氏は、来年度の写真新世紀において個展を開催する。

優秀賞を受賞した5名。左から安森信氏、高橋ひとみ氏、杉山正直氏、クロダミサト氏、アダム・ホスマー氏


(本誌:鈴木誠)

2009/11/24 13:58